環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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期待はずれの3冊: 「日本経済の真実」、「絶対こうなる !  日本経済」、「日本の恐ろしい真実」

2010-10-25 06:31:06 | 経済
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今年4月1日、私は2000年に策定した「このまま行けば、2010年は混乱、2050年は大混乱!?」と題する図を「このまま行けば、2010年混乱、2030年大混乱!?」と改めました。つまり、予想される「大混乱」を20年早めたのです。

そこで、今日は「2010年の日本の混乱」を検証するために今年4月以降に出版された著名人による一般向けの本3冊を取り上げてみました。出版社は異なりますが、いずれも表紙も内容も週刊誌的というか、民放テレビの報道番組的なイメージで、読みやすいことはたしかです。著者はテレビや、雑誌、新聞などマスメデイアでお馴染みの方々です。

先ずは、今年4月に出版された辛坊次郎さんと辛坊さんのお兄さんの共著『日本経済の真実』です。表紙に「ある日、この国は破産します」と自信たっぷりに断定しています。表紙の帯には、たちまち18.5万部とあります。

「はじめに」の小見出しを見みますと、辛坊さんの人柄とこの本の内容についてある程度の想像がつくでしょう。

 私は警告する
 メディアには、アホがいっぱい
 これはもう犯罪だ
 救う道はあるのか

次は、今年6月に出版された田原総一朗さんの責任編集による、田原さん、竹中平蔵さんと榊原英資さんの鼎談『絶対こうなる! 日本経済』です。表紙には「この国は破産なんかしない!?」と、辛坊兄弟のメッセージとは正反対のメッセージを掲げ、「小泉改革の最高責任者と民主党の最大ブレーンが本音で激突! 経済の行方が誰でもわかる!!(田原総一朗)」と、こちらも自信たっぷりです。

 榊原英資氏と竹中平蔵氏は、私が最も信頼するエコノミストの二大巨頭だ。榊原氏は竹中氏のことを「無免許でスポーツカーを疾走させている」と批判したことがある。竹中氏は榊原氏のことを「官僚上がりの学者に何がわかるか」とこき下ろしたことがある。そんな大対立をする2人が、大激論の末に初めてまとめたのが本書なのだ。 そして、2人の激しい論争で日本経済の多くの問題がクリアになり、結果として極めてわかりやすい日本経済の入門書になっている。多くの方々に、ぜひとも読んでいただきたい一冊になったと自負している。(田原総一朗)

そして、最後は、今年9月に出版された辛坊次郎さんの『日本の恐ろしい真実』です。

 この本は日本を蔑む本ではない。かつてのように元気で活力に満ち、若者が未来を夢見ることのできる国にもう一度なるために必要なことを示した本だ。(中略)この本を読み進むのは、多くの日本人にとって自らの弱点、欠陥を指摘されるようでつらいことかもしれない。しかし、読んでゆくと必ずその先に希望が見えるはずだ。正しい判断には正しい知識が必要だ。この本が、あなたの知らない本当の日本の姿を見つめ、明日をつかみ取るための力になれば、筆者望外の喜びである。「はじめに」より


試みに、それぞれの本の最終章の「著者による要約」あるいは「見出し」を抜き書きしておきます。それぞれの著者の「日本の経済や社会の大問題」に対する解決策とおぼしき、考えが示されているからです。

辛坊治郎+辛坊正記 著  『日本経済の真実』 

日本を滅ぼす5つの「悪の呪文」(p191~210) 

 ここまで読み進んでこられた皆さんは、日本の長期にわたる停滞の元凶が一体何で、そこから抜け出す為に何が必要かおぼろげに見えてきたと思います。
 日本がこんなになってしまったのには、メディアの責任もあります。ぬくぬくと既得権益のぬるま湯につかりながら、お題目のようにきれいごとを並べる政治家、ニュースキャスター、評論家が日本を破滅に導くのです。
 そんな連中が口癖のように語る言葉がいかに間違っているか、ここで総まとめしておきます。これら、「悪の呪文」から解き離れることこそが、日本再生の原点です。

悪の呪文1 「経済の豊かさより心の豊かさが大切」
悪の呪文2 「大企業優遇はやめろ!」
悪の呪文3 「金持ち優遇は不公平だ!」
悪の呪文4 「外資に日本が乗っ取られる」
悪の呪文5 「金をばらまけば、景気が良くなる」


田原総一朗責任編集 『絶対こうなる日本経済』 田原総一朗 竹中平蔵+榊原英資

第7章 絶対こうなる! 10年後の日本――日本を明るくするために

いまや「アメリカ」を乗り越えるとき?
競争を促進し、ヤル気を出せば報われる社会
極端な議論で現実から目を逸らせるな!
日本を明るくする処方箋はこれだ!
チャレンジ精神をもつ若者が日本を明るくする!
グローバルな人間が育てば10年後の日本は変わる! 


辛坊治郎 著 『日本の恐ろしい真実』

最終章 破綻を免れるヒント(p175~192)
 
豊葦原の瑞穂の国
3年の歳月
悪の王国スウェーデン
あなたは得か損か
議論の封印を解け

しかし、田原さんも、辛坊さんも「スウェーデン」という国が気になるようです。
田原総一朗  ●スウェーデンか、アメリカか     辛坊治郎  ●悪の王国スウェーデン

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これらの本をどう評価するかは、このブログの読者の皆さんがご自身で読んで、決めることです。けれども、私が感じたことをメモしておきましょう。今日取り上げた3冊の一般向けの本は「日本の経済、社会の現状」がいかに大変なものかをそれぞれの著者や編集者の立場で面白おかしく記述していますので、読みやすいことは間違いありません。

上記の3冊は、いずれも「日本の経済・社会の現状分析」に多くの誌面を割いている割には、「これからどうすればよいのかという提案」がほとんどないのが特徴です。議論の基盤は常に“フローな情報”に基づいているようですし、“ストックな情報”への配慮が十分でないことは明らかです。

また、それぞれの本の最後の章が、その前の章までに分析した「日本のとんでもない状況」に対する著者の解決策としての提案らしきものなのですが、著者の知名度と経歴を考慮するとあまりにお粗末としか言いようがありません。

この3冊の本に共通の致命的な欠陥は、他の多くの21世紀論と同様に、 「資源・エネルギー・環境問題」がほとんど(まったくと言ってよいほど)考慮されていない上に、従来型の経済成長が前提になっていることです。21世紀の市場経済を揺るがす最大の問題である「資源・エネルギー・環境問題」を考慮しない経済論などは絵に描いた餅です。田原総一朗責任編集「絶対にこうなる! 日本経済」という本のタイトルは、誰がつけたネーミングかわかりませんが、想像するに“まったく経済の本質がわからない人”がつけたのでしょう。

1987年4月に公表された国連の「環境と開発に関する委員会」(WECD)の報告「われら共有の未来」(通称ブルントラント報告)とそれを受けて
1992年の地球サミット(国連環境開発会議、UNCED)で合意された「持続可能な開発」(Sustainable Development)の概念に基づく「持続可能な社会」Sustainable Society)には3つの側面があります。

①経済的側面  ②社会的側面   ③環境的側面

大変困ったことに、上記の3冊の本が明らかにしたことは、現在の日本が①経済的側面(辛坊さんの「日本経済の真実」および田原さんの「絶対こうなる日本の経済」)でも、②社会的側面(辛坊さんの「日本の恐ろしい真実」)でもひどすぎるということです。さらに加えて、私がこれまでにこのブログや本で言い続けてきた①や②よりもっと重要な③環境的側面でも極めて不十分なこと、つまり、日本は「持続可能な社会」へ転換することが極めて困難な国であることが証明されたことです。

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それでは、日本はまったく絶望的なのでしょうか? 未来が明るいものになるか、絶望となるかはいかに早く方向が転換できるかにかかっています。転換の時期が遅れれば遅れるほど、転換のコストは高くなり、効果は逆に少なくなります。

「生活者」の立場に立って経済政策を立案する際に、政策担当者や経済学者、エコノミストはシュミレーション用のコンピュータに「資源・エネルギー・環境問題」という項目をしっかり入力することが必要です。この操作により、コンピュータ画面はこの項目の入力前に比べて激変するはずです。現実の経済を実際に動かす原動力は、昔も、今も、そして将来も「資源(原材料、エネルギー、水、土地)の供給源であり、同時に廃棄物および廃熱の吸収源であり、人間を含めた生物の生存基盤でもある自然/環境の持続性」だからです。これらの項目は経済学者やエコノミストが信奉する「市場原理」や「生産あるいは経済成長の3要素」(土地、労働、資本あるいは技術)などより優先するからです。

自然/環境の劣化が21世紀の経済成長上の制約条件であり、特に今後20~30年間にはその制約条件が大きくなるという科学的な判断があるにもかかわらずこれまで、日本の経済政策担当者や経済学の専門家、エコノミストの多くが、「経済」と「環境」は別物と認識し(思い込み)、この項目を入力してこなかったのです。 ここに、現実に起きている事象と政策の間にギャップの生ずる理由があります。

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1 コメント

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Unknown (はんぞー)
2010-10-26 15:30:47
イイネ
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