南無煩悩大菩薩

今日是好日也

72年前の、ある一枚の写真

2017-08-13 | 古今北東西南の切抜
(photo/Joe O’Donnell)

-焼き場にて-少年は気を付けの姿勢で、じっと前を見続けた。

・・佐世保から長崎に入った私は、小高い丘の上から下を眺めていました。すると白いマスクをかけた男達が目に入りました。男達は60センチ程の深さにえぐった穴のそばで作業をしていました。荷車に山積みにした死体を石灰の燃える穴の中に次々と入れていたのです。

10歳ぐらいの少年が歩いてくるのが目に留まりました。おんぶひもをたすきにかけて、幼子を背中に背負っています。弟や妹をおんぶしたまま、広っぱで遊んでいる子供の姿は当時の日本でよく目にする光景でした。しかし、この少年の様子ははっきりと違っています。重大な目的を持ってこの焼き場にやってきたという強い意志が感じられました。しかも裸足です。少年は焼き場のふちまで来ると、硬い表情で目を凝らして立ち尽くしています。背中の赤ん坊はぐっすり眠っているのか、首を後ろにのけぞらせたままです。

少年は焼き場のふちに、5分か10分も立っていたでしょうか。白いマスクの男達がおもむろに近づき、ゆっくりとおんぶひもを解き始めました。この時私は、背中の幼子が既に死んで いる事に初めて気付いたのです。男達は幼子の手と足を持つとゆっくりと葬るように、焼き場の熱い灰の上に横たえました。

まず幼い肉体が火に溶けるジューという音がしました。それからまばゆい程の炎がさっと舞い立ちました。真っ赤な夕日のような炎は、直立不動の少年のまだあどけない頬を 赤く照らしました。その時です、炎を食い入るように見つめる少年の唇に血がにじんでいるのに気が付いたのは。少年があまりきつく噛み締めている為、唇の血は流れる事もなく、ただ少年の下唇に赤くにじんでいました。夕日のような炎が静まると、少年はくるりときびすを返し、沈黙のまま焼き場を去っていきました。 -Joe O’Donnell「トランクの中の日本」より/切抜-


少年よ
「立派な日本男児になれ」と
きみの父は出兵していったのか
「弟を頼む」と
きみの母は息をひきとったのか
きみはけなげにその言葉を守って
弟の遺体を背負ってここまで
歩いてきたというのか

少年よ
歯を食いしばって何をみているのか
戦争の悲惨さか
人間の愚かさか
それとも
あの青い空なのか

少年よ
それにしても
きみの直立不動の姿勢は
痛々しすぎる
あれから72年
今年も蝉が鳴いている
-文/切抜「新門日記」より-
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2 コメント

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煩悩先生へ (sugiura)
2017-08-14 10:08:07
今年、初めて広島と長崎の投下された地域の違いを知りました。いまだ宙ぶらりんのままの生活ですが悔いのない生き方をしたい。
sugiura様 (煩悩)
2017-08-14 22:40:28
「八月十四日正午、歴史は涙によって新たに書きはじめられていった。日中戦争開始よりこの日まで戦死者は陸軍百四十八万二千、海軍四十五万八千。一般国民の死者百万」 -半藤 一利 「日本のいちばん長い日」より-

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