咲とその夫

 定年退職後、「咲」と共に第二の人生を謳歌しながら、趣味のグラウンド・ゴルフに没頭。
 週末にちょこっと競馬も。
 

隠し剣 孤影抄・・・短編8編

2012-10-03 23:00:23 | レビュー
 先日、部屋を片付けていたところ、藤沢周平原作の小説「隠し剣 孤影抄」(文春文庫)が出てきた。当方が買った覚えのない本であり、歌舞伎や時代物の大好きな娘が読み終えた物を我が家に置いていたものと思われる。

 巻末を見ると「2006年10月15日 第9刷」とあったから、5、6年前から本棚の隅にあったものらしい。当方は、池波正太郎小説ファンであるが、故郷の庄内地方の架空の藩、海坂藩を舞台にした時代小説を多数発表している藤沢周平氏。

 これらにも、いずれ触れてみたいと思っていたもので、暇を見つけてはこの本を読んでいる・・・年金生活者であるが、毎日があっと言う間に終わってしまうほど、結構忙しくしており、ゆっくり小説も読みたいところ。

 この小説は8編の短編で組み立てられており、既に映画化された「必死剣鳥刺し」と「隠し剣鬼の爪」の2編も納められている。当然のことながら、原作はあくまでも原作であって、映画化されるとそこには脚本家や監督の意向が働き、物語の展開や人物設定なども微妙に替わってくることも多い。

 ただ、原作にある曲げてはならない基幹部分については、踏襲されており原作がいいのか映像化されたものがいいのか・・・と、言うことが感想などに表れるものであろう。小説の中にある微妙な言い回しに触れて、読む人がそれぞれ空想し、自らの頭の中に情景を描く。その情景と映像化された情景が似て非なる場合には幻滅するが、思っていたように映像化されていると感動するものである。

 それこそは、映画監督とカメラマンの腕となって表れるところであろう。あるいは、原作とはかけ離れたものとなって、映像美で見せられるその時代が観客の心を打つ場合も当然ある・・・。

 当方は、「必死剣鳥刺し」と「隠し剣鬼の爪」の秘剣について、小説でどのように書き込まれていたのか知らないうちに映画を観ている。そして、このたび初めてその2編の原作を読み終えた・・・。すると、不思議なことにあの秘剣についての描写と映像化がいかにうまくかみ合っていたものか、改めて「さすがだね」と思わせられた。この原作を読み終えて、二つの映像作品のあらすじを読み返し・・・なるほど、なるほど。

 勿論、映画化にあたっての脚本・監督・撮影・編集、そしてそれぞれの役割を演じきった役者の皆さんの活きいきとした演技があったればこそ・・・である。

 ところで、これらの8編の短編小説の舞台は、庄内平野の小藩・海坂藩の城下が舞台となっており、作者である藤沢周平氏の故郷への思い入れが情景の中で生かされている場面も多い。また、部屋住みの武士、下級武士と上司、男と女の情念、止むにやまれない日常の出来事から、追うものと追われるものとなった悲哀、陰謀と謀略が渦巻いている。そして、そこに全篇のタイトルとなっている秘剣の「隠し剣」などが最後の手段として使われる。

 それぞれの秘剣とは、作者が創作したものと思われるがこれがなかなかに面白く、なるほどと思わせられる詳細な描写が想像力をかき立てる。また、秘剣を使った者の末路も・・・もっとも、死ぬこともなく将来に夢をつなぐ武士もいるが。

 物語の全般を通して、やや暗い印象を与えられる小説であったように思われるが、これはこれでとても印象深い小説群であった・・・これを機にこれからも読んでみるかな。

 一方、

 「人間は死ぬところに向かって生まれた日から進んでいる、それしか分かっていない。あとのことは全部わからない。・・・・・そのことをよくよくのみ込まないといけない、若いうちから」

 「物を食べる、眠る、男と女の営みをする、これが人間の基本ですからね」

 これらが、基本線となっている池波小説は、さらにいいけどね。(夫)



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コメント
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