ビター☆チョコ

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ボルベール < 帰郷 >

2007-07-05 | 洋画【は】行

失業した夫の変わりに家計を支え、必死で働くライムンダ(ペネロペ・クロス)。
難しい年頃の一人娘パウラに手を焼きながらも、明るくたくましく生きていた。
そんなライムンダに突然、恐ろしい出来事が。
ライムンダの留守中に、パウラが、関係を迫ってきた義父を刺し殺してしまったのだ。
パウラをかばうために、夫の死体を隠す事に奔走するライムンダ。
そんな時、故郷のラ・マンチャに住む最愛の伯母の死がライムンダに伝えられる。

高らかな音をたてて交わされる、あいさつのキスの音。
生活は楽ではなさそうだけど、生き生きとしてたくましそうな女たちの姿から物語は始まる。
自分が入るお墓を生前から自分できれいに磨く、という風習のある小さな村には、生と死が身近なものとして存在しているようだ。

ライムンダが夫の死体を必死で隠していた頃
伯母の葬儀に参列したライムンダの姉のソーレ(ロラ・ドゥエニャス)は隣人のアグスティナ(ブランカ・ポルティージョ)から不思議な話を聞く。
昔、火事で死んだはずのソーレとライムンダの母が、亡くなった一人暮らしの伯母の世話をしていたのではないかと言うのだ。
半信半疑のまま、マドリッドに帰ってきたソーレの前に死んだはずの母イレネ(カルメン・マウラ)が姿を現す。
果たして母は幽霊なのか。
生きていたとしたら、なぜ、姿を隠していたのか。
そして、姉娘のソーレの前には姿を現したのに、母はライムンダの前に姿を現そうとはしないのだ。

ライムンダには母親と分かり合えないまま、母を火事で失ったという辛いいきさつがある。
なぜ、実の母親を避けるようになったのかは、自分の胸にしまってある。
そして母のイレネにも秘密がある。
その二つの秘密がこの親子に不幸をもたらしたことは、後で明かされることになる。

死んだはずの母が姉の家に居候してることなど全然知らないライムンダは
日々の生活に奔走していた。
鍵を預かってる休業中のレストランを勝手に大繁盛させ、その合間に冷凍保存していた夫の死体を
河原に埋めてしまうという荒業までやってのける。
普通なら、正当防衛とはいえ娘の犯罪を知った時点で半狂乱になるはずなのに、信じられないような強靭な精神力だ。

その強さは、きっと過去の悲惨な経験からきているのだろう。
「娘」として「女」として、とても耐え切れない経験を10代の若い頃にしてしまったライムンダは、
たぶん、どんな悲惨な出来事からをも逃げることをやめたのだと思う。
逃げても悪夢は追いかけてくる、決して消え去りはしない。
それなら、起きてしまったことは受け止めて生きていくしかない、という決意をしたのかもしれない。

強く、たくましく、明るく生きて
それでもふとした瞬間にもろく崩れる感情が
ライムンダの歌う「ボルベール」からあふれ出て、なんだか涙が止まらなくなってしまった。

スペインの強烈な太陽と
乾いた大地に良く似合う、ヴィヴィットな色彩と
どこまでも明るくたくましい女たちが向き合う、辛い現実と悲惨な過去。
それでも
ちゃんと明るく生きていくことが大切で、自分の過去には自分なりの決着をつけなければいけないのだ。
そのとき
そっと手を差し伸べてくれるのが
母であったり、娘であったり、女友達であったりしたら、これほど心強いものはないのかもしれない。

人との係わりを、どちらかというと、できればそっと済ませたい私は
もしかしたら
果汁100%のおいしいジュースを、わざわざ水で薄めて飲もうとしてるのかもしれない。
果物は甘さだけでなく苦さも酸っぱさもあって、おいしいのだ。
泥臭いほど濃い、この女たちの係わりのなかで、水割りジュースは、あまりにも味気なく感じられてしまった。

私としては
今のところ、今年ナンバー1の映画です。
今までそんなに魅力を感じた事のなかったペネロペ・クルスがとても素敵でした。
映画に出てきた全ての女たちの欠点すらも愛おしい、そんな思いです。










 


 


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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは! (由香)
2007-07-06 11:36:42
お邪魔します。
チョコさんの感想を何回も読ませて頂きながら、また映画についてジックリと考えちゃいました。
『起きてしまったことは受け止めて生きていくしかない』
『ふとした瞬間にもろく崩れる感情』
『自分の過去には自分なりの決着をつけなければいけないのだ』
こういう事を実にバランス良くみせてくれましたよね。

鑑賞後、この映画のどこをどう気に入ったのか自分でよく分からなかったのですが、チョコさんの文章でストンと胸に落ちた気がします。
素敵な映画でしたね~
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TBありがとう♪ (チョコ)
2007-07-06 18:26:11
由香さん。

いつもTBありがとう♪

とてもとても楽しみにしていた映画が、とても素晴らしかったので良かったです♪

アルモドバル監督作品は、いつも気になって観るのですが、そういえばスクリーンで観たのは今回が初めてだったかも。
取り上げる題材のショッキングさにいつも頭がくらくらするのですが、
今回はくらくらしながらも、しっかりと笑い、泣かせていただきました。
独特の色彩が、今も目に鮮やかに残ってます。
もう1回観たい、と思ってます。

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私もベストです♪ (tomozo)
2007-07-07 23:33:55
アルモバドル監督作品の中でもベストかも!

私、この映画を見てから、
「ずうずうしくて、あつかましくて、うるさくて、おせっかいなおばさん」
には絶対なりたくなかったのだけど、
それもいいかなって気がしてきた。

その為には強く愛情あふれた女にならないとだけどね。
ただのうるさいだけのおばさんになっちゃう^^;。

あれから、ボルベールの曲がずっと頭の中でリピートしています。
ほんと良い映画だったなぁ。
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愛のあるおせっかいおばさんになろう♪ (チョコ)
2007-07-08 06:14:10
tomozoさん

うん、私もちょっとそう思ってます。
できるだけ、クールにさらっと暮らして行きたい、と思っていたんだけど
この映画の中の女たちの、大地にしっかりと足を踏ん張ってるような生き方に比べたら『クール願望』ははじけ飛んでしまいました。

歌も良かったよね~。
吹き替えと知りつつ、それでもこの歌を歌うペネロペの表情を思い出すと、また泣けてきそうです。



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遅くなりまして(汗) (こべに)
2007-07-08 16:04:41
こんにちわ!チョコさん、元気ですかぁ?
こべにさんはここんと社内のゴタゴタやら家の事やら何やらでもうヘロヘロだったりするんですが・・・
この映画、妻・母・娘、それぞれの立場が分かるからこそ自分と重ね合わせながら感情入りまくりで観ちゃった。
明るくたくましく生きるヒロインの姿を観てると、よし!覚悟を決めるか!と思わずにはいられませんでした。
そそ、ワタシもペネロペって魅力を感じる女性ではなかったんですが、この作品のペネロペはすっごい魅力的でしたよね。
いい映画でした!!
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覚悟 (チョコ)
2007-07-09 07:33:08
こべにさん

こちらこそ、ご無沙汰です。
いつも忙しいそうだなぁ~と思っていました。
それでも、そんな中、試写会だけは行ってるらしい(笑)こべにさんの性格が好ましいです。

この映画、そんな忙しくて時々ボロボロになる私たちを元気にしてくれましたね。
もちろん、死体を埋めたりするような壮絶な人生はごめんですが、多少のことはドンと受け止めるような覚悟だけは持って生きたいですね。

とりあえず。。
今週もなんとか元気に乗り切りましょう♪
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やっと! (ri)
2007-09-24 13:50:51
やっと、劇場で観れました!

予想通り、素敵な作品でした。
女であることを、再確認させられました。

普段は、妻や娘や女の顔より、
どうしても、「母」の顔が多くなってしまいがち。

でも、素敵な「女」であることを忘れちゃいけない。
って思ってしまうほど、作品の中の女たちは生き生きとしていました。

ちょっとばかし、過激でしたけど!(笑)


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TBありがとう♪ (チョコ)
2007-09-24 15:44:57
riさん

ちょっとばかり過激でしたか(笑)?
でも、良かったですねぇ~、この映画。
今のところ
私の中では、今年度ナンバーワンの位置を保ってます。

どっしりと覚悟を決めて生きる女ほど
強くて美しいものはないのかもしれないですね。

そんな女を演じるために、ペネロペに「つけ尻」とは、
監督の目の付けどころにも驚きました(笑)
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こんばんは~♪ (kira)
2008-01-19 22:11:33
チョコさん、とっても久しぶりにお邪魔しました~。
おかげで、素敵な記事を見逃さずにラッキーです♪

>果物は甘さだけでなく苦さも酸っぱさもあって、おいしいのだ
そうですか。
わたしもまた、100%果汁を薄めていたクチかも知れません

この監督の作品は初めてでしたが、ビジュアルへのこだわりに唸らされますね。
ペネロペの付け尻、バストのクローズアップなど、"母性"の強調がかなり成功していました
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薄く生きてる (チョコ)
2008-01-20 15:02:19
kiraさん

こんにちは。
TBありがとうございました。

ヴィヴィットな色彩と女のたくましさが心に残る映画でした。
人と係わるのって、下手をすると傷つくこともあるけど、そうやって得るものもあるはずなんですよね。
つい、面倒を避けちゃう私の生き方が、とっても薄っぺらく感じて、ちょっと反省したりもしたのでした。

強い女は美しいですね♪

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