孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  薬物乱用者だったドゥテルテ大統領が麻薬犯罪関係者の処刑を煽る“不思議”

2016-12-28 23:11:08 | 東南アジア

(7月に話題となった、オートバイに乗った見知らぬ者たちによって麻薬密売人の容疑で射殺された夫を抱きかかえる妻の画像 妻は、夫がドラッグを使用していたことは認めていますが、売人では絶対にあり得ないと語っています。なぜなら、あまりに貧しく、次の食事を賄うことさえほとんどできなかったからです。

ドゥテルテ大統領は写真を「メロドラマ」と評し、メディアがそれを、聖母マリアが十字架から降ろされたキリストを抱きかかえるミケランジェロのピエタ像のように扱おうとしたと語っています。【12月28日 ロイター】)

【「フェンタニルを乱用」していたドゥテルテ大統領
フィリピン・ドゥテルテ大統領が7月1日に就任して以来、警察の報告によれば、警察は麻薬犯罪容疑者として2000人以上を殺害。このほかにも約3000人が正体不明の武装集団らに射殺されたとのことです。

警察による捜査過程での射殺とされる案件にも疑問が多く、謎の“処刑団”による殺害を含め、麻薬を名目にした別目的の殺人が多発していることも報じられています。

麻薬中毒者300万人を「喜んで虐殺する」と発言するなど、こうした司法によらない超法規的“大量処刑”を推し進めるドゥテルテ大統領の手法は、たとえ深刻な麻薬問題対策であるにしても容認できない・・・という個人的立場については、これまでも再三取り上げてきました。

麻薬にはいろいろな種類・タイプがありますが、アメリカでは「フェンタニル型」と呼ばれる新手の合成薬物による死者数が急増しているそうです。

****新興合成薬物「フェンタニル型」、米国で死者数急増 中国から流入との指摘も****
米国で「フェンタニル型」と呼ばれる新手の合成薬物による死者数が急増している。2015年の合成薬物による死者数は前年より7割も多い約9600人で、その大半がフェンタニル型。

中国で製造され、ネット通販などで米国に流入しているとの指摘もある。米国は薬物の過剰摂取による死者数が自動車事故の死者数を大きく上回り、トランプ次期大統領の重要課題の一つにも挙げられている。

「モルヒネの50〜100倍も強力な違法フェンタニルは、今や洪水のように米国に流れ込んできている」
米疾病対策センター(CDC)のフリーデン所長は17日、米FOXニュース(電子版)への寄稿で新興の合成薬物の猛威に警鐘を鳴らした。
 
フェンタニルは本来、がん患者の痛みの軽減などに使われる合法的な鎮痛剤だが、米国では違法に製造されたフェンタニルの類似品が氾濫。(中略)ヘロインによる死者数(約1万3千人)よりは少ないが、あまりに急激に死者数が増えていることにCDCは危機感を強める。
 
AP通信によると、フェンタニル型は中国企業が製造し、韓国の企業向けのインターネット通信販売サイトを通じて売られていたことも確認されている。中国政府は問題がある合成薬物の製造や販売を禁止しているが、わずかに成分を変えた新たな薬物が次々と合成される「イタチごっこ」が続いているという。(後略)【12月27日 産経】
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フェンタニルについては、ドゥテルテ大統領に関してもその名前があがっています。大統領自身が“処方された量を超えて「フェンタニルを乱用」していると知った医師に、同剤の使用を止められた”とのことです。
現在、どのような鎮痛剤・麻薬を使用しているのかは定かではありません。

****ドゥテルテ比大統領、強力鎮痛剤の使用認める 健康に懸念も****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が強力な鎮痛剤のフェンタニルを使用していたこと認めたことから、ドゥテルテ氏の健康に関する懸念が強まっている。議員らは18日、大統領に健康診断を受けてその結果を公表するよう促した。

ドゥテルテ大統領は12日、過去にオートバイの事故で脊髄を痛めたために、がんや慢性疾患の患者に処方されることが多いフェンタニルの貼り薬をよく使用していたと公表した。しかしドゥテルテ氏が処方された量を超えて「フェンタニルを乱用」していると知った医師に、同剤の使用を止められたという。

扇動的な言動で知られるドゥテルテ大統領は、これまで数千人が殺害されている同大統領が進める麻薬撲滅戦争や、米国や国連に対する過激な発言などで物議を醸している。
 
フィリピンの議員らは、ドゥテルテ大統領がフェンタニルの使用を認めたことで、同大統領の健康状態に関する憶測が再燃したと主張している。ドゥテルテ氏に関しては大統領選の選挙運動中、がんを患っているとの噂が広まっていた。ドゥテルテ氏は繰り返し噂を否定している。
 
ドゥテルテ大統領に近いカルロス・ザラテ議員はAFPの取材に「このような憶測を止めるには、苦しんでいる痛みに大統領がどのように対処しているかを主治医から説明してもらった方がいいかもしれない」と語った。(後略)【12月18日 AFP】
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“強力鎮痛剤”とありますが、要するに“麻薬”です。
フェンタニルは日本の医療現場でも注射薬や貼り薬として使用されていますが、麻薬として厳しく使用・保存が管理されています。当然、依存性もあります。

医師の処方によって使うことに関してはなんら問題ありませんが、それを超えて“乱用する”のは、麻薬中毒者と同じ行動です。

フェンタニルを“乱用していた”(多分、過去形なのでしょう・・・)大統領が、麻薬犯罪が疑われる者を超法規的に処刑しまくる・・・実に奇妙な話です。もし、処刑者リストのようなものがあるのなら、そこにドゥテルテ大統領の名前が追記されてもおかしくありません。

なお、こうした健康問題もあってか、“新華社によると、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は13日、「自分はもういい年齢だ。任期を満了するかはわからない」と任期を満了しない可能性を述べ、「この年齢なら、もう大統領としての虚名は必要ない」との認識を示した。”【12月16日 Record China】とのことです。
たたし、“しかし、すべき仕事があるとも話した”とも。

麻薬供給国の中国を擁護する大統領
アメリカの「フェンタニル型」の供給源は中国ですが、フィリピンで蔓延する麻薬の供給元もやはり中国です。
国内で大量処刑を進めるほど厳しく麻薬対策にあたっているドゥテルテ大統領ですから、当然に供給減の中国には取締りを強硬に求めている・・・はずですが、違うようです。

****中国は違法薬物の最大供給源、ドゥテルテ比大統領は否定****
2016年12月19日、フィリピンのドゥテルテ大統領はこのほど、同国内で流通している違法薬物の多くが中国から輸出されたものだとする指摘を否定した。環球網が伝えた。

フィリピン華字紙のフィリピン商報によると、ドゥテルテ氏は、中国は違法薬物の最大供給源であり、薬物関連犯罪で逮捕された人の多くが中国国民であったとの指摘が出ていることについて、「中国はフィリピンと同様の問題を抱えている。これは輸出の問題ではない。中国の麻薬密売人が海に投棄したものを、フィリピンの密売業者が回収し国内で流通させている」と述べた。【12月20日 Record China】
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輸出であろうがなかろうが、中国から供給され、その結果自国民を大量に殺害しなくてはならないような状況になっていることについて、中国側にその責任を厳しく問うのが“常識的”ですが、そうではないようです。

****フィリピン大統領、麻薬問題で中国非難は不公平と擁護****
フィリピンのドゥテルテ大統領の報道官室は19日、麻薬供給国として中国が大きな役割を果たしているとのロイターの報道に対し、フィリピンの麻薬問題の責任を中国に問うのは不公平だと中国を擁護した。

ロイターは16日、中国が強い中毒性を持つ薬物メタンフェタミン(覚せい剤の1種)の主要な供給源であり、メタンフェタミンから、フィリピンに密輸される合成麻薬が作られていると報じた。

報道官室は声明で、「麻薬取引を行っているのは、中国の犯罪組織であり、政府当局者ではない」と擁護。「中国には厳格な麻薬取締法があり、刑罰には死刑も含まれている」と説明した。

フィリピンの麻薬取締庁によると、2015年1月から2016年8月中旬に麻薬関連で逮捕された外国人77人のうち、ほぼ3分の2が中国人だった。また、過去20年に警察に摘発されたほぼ全ての麻薬製造工場の運営などに中国人が関与していたという。【12月20日 ロイター】
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外交的にドゥテルテ大統領と中国が急接近していることは周知のところです。
中比関係に関する最近の記事には以下のようなものもがあります。(今回は、内容には立ち入りません)

フィリピン大統領、米軍駐留認める協定撤回の可能性示唆【12月17日 ロイター】
比大統領「中国が金くれる、アメリカよさらば」【12月17日 読売】
中国、フィリピンに16億円規模の武器供与申し出 「麻薬戦争」支援で【12月20日 AFP】
南シナ海の石油を中国と共有したい、比ドゥテルテ大統領が発言【12月22日 Record China】
中国にはいかなる要求もしない=ドゥテルテ大統領の発言を中国は称賛【12月20日 Record China】

上記の“中国にはいかなる要求もしない”というのは、中国の主張を退けた仲裁裁判所の判決を理由に中国にプレッシャーをかけることはしないとの話です。

傲慢で、上から目線のアメリカと手を切って、優しく、カネも出してくれる中国と接近する・・・というのは、賢明かどうかは別にして、フィリピンの選択です。

しかし、こと麻薬問題に関しては、関係改善の外交姿勢にかかわらず、供給源である中国へ厳しい要求があってしかるべきでしょう。
供給元に手をつけずに、自国民の殺害だけを続けるのは理解できません。

国民は麻薬作戦には満足しながら、自身や知人が超法規的殺人の犠牲になるかもしれないと懸念
超法規的処刑批判といった“きれいごと”ではフィリピンの麻薬汚染の現状は改善できない、国民は大統領の強力な施策を支持していると言われます。

確かに国民の多くは、大統領の強力な麻薬対策を支持していますが、同時に、超法規的処刑への不安も感じています。

****比国民の8割が超法規的殺人に懸念 麻薬作戦には満足=世論調査****
フィリピン国民の10人中8人が、自身や知人が超法規的殺人の犠牲になるかもしれないと懸念している。民間調査会社ソーシャル・ウェザー・ステーションズが19日、世論調査結果を公表した。

調査は12月3─6日、フィリピン全土の1500人を対象に実施された。超法規的殺人の犠牲になる可能性について「非常に心配」もしくは「心配」していると答えた回答者は78%に上った。

一方、麻薬取り締まり作戦に関しては、85%が「満足」と回答し、「不満足」の8%を大きく上回った。

また、自分の住む地域で麻薬問題が減少したと考える回答者は88%だった。(後略)【12月19日 ロイター】
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自分と関係ないスラムの麻薬売人がいくら殺されようがかまわないが、自身や知人がその犠牲になるのは困る・・・・ということです。

しかしながら、自分と関係ない者への暴力的手法は、やがては自分たちにも向けられる、政権に都合の悪い人物に向けられるというのは“当然の帰結”ですから、上記の国民世論というのは、いささか“ないものねだり”です。

殺人自白者が告訴されず、批判者が告訴される不思議
最近、改めて注目されたのは、12日にマニラで開かれた会合で「(南部の)ダバオ市長だったころ、警察官に手本を示すため犯罪者を殺したものだ」と、自らの殺人行為を認めた発言です。英BBCの取材に対しても「(麻薬犯罪者を)3人くらい銃で殺した」と語っています。

ドゥテルテ大統領が“嫌う”国連のゼイド人権高等弁務官は、ドゥテルテ大統領の「自白」は「明らかに殺人(罪)を構成する」と指摘し、フィリピン司法当局に殺人事件として捜査に乗り出すよう求めています。

ただ、実際にフィリピン司法当局が動くことはないのでしょう。

一方、大統領支持派は、大統領の超法規的殺人を批判するレイラ・デリマ上院議員を告訴しています。

****フィリピン政府、ドゥテルテ大統領非難の前法相を告訴****
フィリピン政府は21日、ドゥテルテ大統領を批判するレイラ・デリマ上院議員について、自身の薬物取引疑惑を巡る議会調査を妨害しようとした容疑で告訴した。

前法相のデリマ氏は、ドゥテルテ氏の麻薬取り締まり作戦に批判的な立場をとる著名政治家。法務省は告訴で、デリマ氏が議会の調査を意図的に無視し、議会の召還を逃れるため元運転手などに身を隠すよう指示したと主張している。

デリマ氏はかつて、ドゥテルテ氏の麻薬取り締まり作戦による超法規的殺人を調査する上院委員会を率いていたが、その後解任されていた。【12月21日 ロイター】
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殺人を「自白」する者が告訴されず、それを批判する者が告訴される・・・実に奇妙です。

【「彼ら(殺された人たち)は動物ではない。人間なんです」】
一番奇妙で危険に思われるのは、人権・民主主義に一定の理解があると思っていた日本社会にあっても、ドゥテルテ大統領の手法を容認する人々が多いことです。

****フィリピンの麻薬撲滅戦争、「最前線」で心痛める葬儀業者****
フィリピンでロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領に就任してからの5か月というもの、首都マニラの葬儀場で働くアレハンドロ・オルメネタさん(47)は苛烈(かれつ)な麻薬撲滅戦争を最前線で目の当たりにし、かつてないほど多忙を極めている。そんなオルメネタさんだが、殺人は終わりにしてほしいと痛切に願っている。

オルメネタさんと同僚たちは毎晩のように平均5人の遺体を収容している。その多くがスラム街からだ。

この背筋が寒くなるような仕事が日常化して以来、ドゥテルテ大統領が推進する犯罪撲滅運動の下で警察部隊らが野放図に残虐行為に走っていることにオルメネタさんは疑問を感じるようになった。
「こんなことがあってはならない。彼ら(殺された人たち)は動物ではない。人間なんです」(中略)

警察はAFPに、殺害されたダニロ・ボランテさん(47)は「シャブ」と呼ばれる安価な覚醒剤「クリスタル・メス」の売人だったと語った。ドゥテルテ大統領は社会を荒廃させる元凶だとしてシャブの根絶を宣言している。
 
だがボランテさんの姉、コナ・バリーナさんはボランテさんは薬物と手を切っていたと主張する。しかも、ドゥテルテ大統領が主導する麻薬撲滅作戦の一環で麻薬密売人や常用者に出頭を促す試み、通称「トックハン(Tokhang)」の影響でボランテさんは警察に自首していたという。

「すでに更正しようとしている人間がこんな仕打ちを受けるなら、トックハンに何の意味があるの?」とバリーナさんは嘆いた。(中略)

オルメネタさんは(まだ生きているときに)頭蓋骨にくぎを打ち込まれて殺害された男性のことをよく思い返し、小物の麻薬密売人までもが殺されるのはおかしいと考えるようになった。

「彼らは麻薬の犠牲者です。飢えをしのぐため、もしかしたら子どものために麻薬に手を出す必要があったのかもしれない。彼らには更正するチャンスが与えられるべきだったんです」
 
そしてカトリック教徒のオルメネタさんはこう付け加えた。「聖書にも書かれているでしょう? 汝(なんじ)殺すなかれって」【12月16日 AFP】
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