孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エボラ出血熱  感染拡大の勢いが鈍化 交わることのない社会が負う責務

2014-12-21 21:08:02 | 疾病・保健衛生

(シエラレオネ 搬送されるのを待つエボラ出血熱に感染したと疑われる夫とその妻 “flickr”より By Q8India https://www.flickr.com/photos/66206215@N07/15879297929/in/photolist-qrdVsG-qaLGvc-qaoHXp-qaJMq8-qaK5B2-qccy3M-qcrnxF-qs8z3y-qaC4qY-q9PWgv-puvCnn-pvqUGv-qaD49L-qqwmv5-pvb8BE-qrZv5D-qaBDqL-qaKsyg-qsasQn-qrZvhH-qaBDEd-qaBDBh-pvb8Hm-qaKszZ-pvpA7X-pvb8zA-qaKsB2-q9tJmg-puCftE-qsczS4-qrybCx-putqjj-qqSDD3-qqf3oW-pt57GC-ptiAjK-q9C8x1-qpsGq2-qpsGk2-qnbzaf-pucy3s-qqQh5V-qqxfNS-q9trcC-qakQWT-qsuYp1-qbbcpt-qoYt51-qakR1v-q8vPQz)

【“落ち度”に目をつぶっても、許すことができないのが愛犬の命を奪った当局の判断
西アフリカのエボラ出血熱は、ようやく感染拡大の勢いに陰りが見えてきましたが、未だ感染拡大は続いており、公式集計でも、すでに7000人を超える死者を出しています。

なお、死者や感染者の数は、発表後に大きく訂正されることもあり、実態を正確に反映していない可能性も指摘されています。

****エボラ熱の死者、7000人超す=西アフリカ3カ国-WHO****
世界保健機関(WHO)の19日付の統計によると、エボラ出血熱による死者(疑い例含む)が西アフリカのシエラレオネ、リベリア、ギニアの3カ国で7373人となった。感染者は1万9031人に上っている。

17日付の統計では死者が6900人で、その後、473人増加した。このうち大半がシエラレオネで確認された。国連は全体としては感染の勢いが鈍化してきたとみているが、シエラレオネを中心に強い警戒を維持している。【12月20日 時事】
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一方、アメリカやスペインでの2次感染騒動もおさまり、日本や欧米社会のエボラ出血熱への関心はうすれてきた感もあります。

そうしたなかで、エボラ関連で最近話題になったのは、スペインで2次感染したのちに無事治癒した看護師の飼っていた犬の処置をめぐる話題です。

****愛犬「エクスカリバー」奪われ悲しむ女性 エボラ恐れ殺処分…怒りの提訴へ****
スペイン・マドリードの勤務先の病院でエボラ出血熱に感染し、その後完治した女性看護師が、一緒に暮らしていた飼い犬を殺処分した保健当局の対応は不当だったとして15万ユーロ(約2197万円)の損害賠償を求め、州政府を提訴する意向であることが19日、米CNNなどの報道で分かった。

犬はウイルス感染しているかどうかの判定を行わずに処分されており、看護師側は「隔離して経過を監視できたはずだ」としている。

この問題ではインターネット上で殺処分に反対する署名が最終的に約40万人に達していた。

提訴を検討しているのは、女性看護師のテレサ・ロメロ・ラモスさん。西アフリカでエボラ熱を発症し、帰国後に死亡したスペイン人宣教師2人をマドリードの病院で看護していて二次感染した。10月6日に感染が確認され、21日に治癒。11月6日に市内の病院を退院した。

しかし、彼女が愛犬エクスカリバーの訃報を知らされたのは、エボラ熱を克服して血液検査で陰性反応が出た10月19日のことだった。

夫のハビエル・リモンさんから電話で愛犬の死を告げられたといい、「夫はあまりに悲しい知らせだったので時を待とうと考えていたようだ。(愛犬の死は)完全に予想外で、何も言葉が出なかった」と振り返る。

この間、リモンさんらが何もしなかったわけではない。10月7日に殺処分方針が決まると、「もし承認しなければ、自宅に踏み込んで犬を殺すための裁判所命令を取り付けると保健当局の責任者に通告された」とこれを非難。

このことがネット上で大きく取り上げられ、オンライン署名募集サイトに立ち上げられたエクスカリバーの助命嘆願には、8日までに37万4000人の署名が集まった。

嘆願書は「エクスカリバーは(子供のいない)ロメロ夫妻にとってはただの犬ではなく、家族の一員だ」と訴え、殺処分ではなく隔離を行うよう要求。動物保護団体もエボラウイルスが犬から人に感染する証拠はないと主張し、救済運動を展開した。

しかし、保健当局側は殺処分を譲らず、エボラ熱の症状がなくても、ウイルスを媒介する恐れや、体液とともに外部にウイルスを排出する可能性があるとして安楽死させるよう求める裁判所命令を取り、反対派が抵抗する中、8日に自宅アパートからエクスカリバーを連行。その40分後、「エクスカリバーは苦しむことなく眠るように死んだ」とする声明を発表した。

ロメロさんは「私はエクスカリバーの死以外の全てのことは忘れるつもり。でも、あの子はなぜ、感染していたかも分からないまま殺されなければならなかったの? 私には、犬の命を犠牲にするよりも隔離して監視する方が賢かったと思えてならない」と悔しがる。

実際、米テキサス州の病院でエボラ熱患者の治療中に二次感染した女性看護師、ニーナ・ファムさんの場合、愛犬のベントレーは隔離され、検査で陰性反応が出たことを確認した後にファムさんに引き渡されている。

ロメロさんは、勤務先の病院では決められた対応マニュアルに従ってエボラ熱患者の看護に当たっていたと説明。それでも感染したのは保健当局のマニュアルに不備があったせいだと憤る。

これらの“落ち度”に目をつぶっても、許すことができないのが愛犬エクスカリバーの命を奪った当局の判断だ。

「犬が殺されると分かっていれば、(エボラ熱患者の看護に)自主的に応じたりはしなかった」。ロメロさんはCNNの取材に、こう言い切った。【12月20日 SabkeiBiz】
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母親の遺体と共に自宅に閉じ込められ、飢えと渇きに泣き叫びながら死を迎えた少女
この女性看護師はエボラ患者治療に自主的に参加し、不幸にして(あるいは保健当局の“落ち度”のために)感染し、命を落としかけた方であり、その行動は賞賛されこそすれ、問題視されるものはありません。

また、私も猫を飼っていますので、ペットを思う気持ちも多少はわかります。

ただ、この記事を読んで、なぜかすっきりしないもの、違和感を感じたのも事実です。
エボラの感染拡大という社会全体が負うリスクに対して、1匹の犬の命をどのように考えるかという問題の他にも、また別の感情もありました。

そのとき思い出していたのは、シエラレオネで母親の遺体と共に自宅に閉じ込められ、飢えと渇きに泣き叫びながら死を迎えた少女の話を伝えた記事でした。

****見捨てられた一家の死、恐怖が生む差別 エボラの悲劇 リベリア****
見捨てられたリベリアの村で唯一響き渡っていたのは、母親の遺体と共に自宅に閉じ込められ、飢えと渇きに耐えながら死を待つ少女の叫び声だった。

やがてこの少女、ファトゥ・シェリフさん(12)もまた、同国を含む西アフリカ諸国で1000人以上の犠牲者を出しているエボラウイルスに命を奪われ、その声を止めた。

AFP記者は10日、ファトゥさん一家が暮らしていたバラジャ村を訪れた。すでに大半の住民がエボラ出血熱を恐れて森に逃げた後で、ファトゥさんは母親の遺体と共に1週間にわたり自宅に閉じ込められていた。

村のあちこちに住民たちの持ち物が散らばり、慌てて逃げたのか、ドアが開いたままになっている家もあった。

村にとどまったごく少数の住民のうちの一人、地元指導者の70代の男性が、ファトゥさんの身に起きた恐ろしい出来事を記者に語った。

リベリアの首都モンロビアから約150キロ離れたバラジャ村は、同国でエボラ出血熱の拡大を防ぐために設定された隔離地域のうちの一つの中心部に位置している。

地元指導者によると、ファトゥさん一家で最初にエボラ感染が確認されたのは先月20日、父親(51)が病に倒れた時だった。

村の500人ほどの住民たちは診断結果を知ってパニックになった。通報を受けた保健当局が派遣したチームが到着した時には、父親は死後5日が経過していた。

助けを乞い続けた少女
ファトゥさんと母親(43)は既にエボラを発症していたが、兄のバーニーさん(15)だけは陰性の検査結果が出ていた。

地元指導者によると、父親の遺体を収容した保健当局は、村人たちにファトゥさんとその母親には近づかないよう警告。「2人は朝から晩まで隣人に食べ物を求める叫び声を上げていたが、皆が怖がっていた」という。

母親は今月10日に死亡したが、ファトゥさんの叫び声は聞こえ続けた。一家の自宅のドアや窓はふさがれ、中の様子をうかがい知ることはできなかった。

12日に再びAFPの取材に応じた地元指導者は、ファトゥさんが前夜に水も食料もないまま孤独な死を迎えたと語った。

AFP記者は10日、見捨てられた家屋の一軒にいた兄のバーニーさんを発見。やつれて、汚れたTシャツとすり切れたサンダルを身に着けたバーニーさんは、涙ながらにこう語った。

「誰も僕に近づこうとしない。僕がエボラに感染していないことを知っているのに。お腹がすいたら外で草を探す。それが神のおっしゃることだから、受け入れている」

地元指導者によると、一家を見捨てて村を去った住民らは、エボラ拡大を懸念する近隣の町の住民から嫌がられているという。

リベリアの保健当局は、この村で起きた出来事についてコメントを拒否した。【8月13日 AFP】
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同じエボラ出血熱に起因する話であっても、犬の処分に37万人以上の助命嘆願があつまり、2000万円以上の損害賠償請求がなされる社会と、母親の遺体と共に自宅に閉じ込められ、飢えと渇きに泣き叫びながら死を迎えた少女の生きた社会・・・・全く異なる社会です。

“今”という同じ時間に、交わることのない全く異なる社会が併存している現実をうまく飲み下すことができない違和感を感じたのでした。

エボラのことだけでなく、例えば、イスラム過激派に見られるようなイスラム世界の欧米への憎悪、命の保証がないことを承知で海を渡る難民船の事故、温暖化対策をめぐる果てることのない議論・・・・いろんなところで、この交わることのない全く異なる社会が生み出す問題・軋轢が存在しているようにも思えます。

西アフリカの3か国で100万人が食糧不足に直面
エボラの感染拡大が鈍化したとしても、十分な治療を受けることなく死んでいく多数の患者がまだ存在しています。

たとえ、感染していなくても、感染地域に隔離状態で暮らす人々の生活をどのように支えるのかという問題もあります。

感染の混乱で経済活動、特に農業生産は深刻なダメージを受けています。

****エボラ熱長期化で食糧不足深刻に****
エボラ出血熱の患者が依然として増え続けているシエラレオネなど西アフリカの3か国では、感染の長期化に伴って食糧不足が深刻化していて、国連は、このままでは来年3月に100万人が食糧不足に直面するおそれがあると警告しています。(中略)

WFP=国連世界食糧計画とFAO=国連食糧農業機関は17日、共同で声明を発表し、感染の長期化に伴って、現地では、農家の人たちが隔離されているため農地を放棄せざるをえず、移動制限によって市場に品物が供給されなくなって、人々の食糧の確保にも深刻な影響が出ていると指摘しました。

そのうえで、現在の状況が続けば、来年3月には西アフリカの3か国で100万人が食糧不足に直面するおそれがあると警告し、農業生産の立て直しなどのために一層の支援が必要だと訴えました。

国連事務総長が視察へ
国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長は、18日からエボラ出血熱の患者が増え続けている西アフリカの各国を訪れ、初めて現地の状況を視察するとともに、国際社会に改めて支援を呼びかけることにしています。(中略)

パン事務総長は、18日から3日間にわたって、西アフリカのリベリアやシエラレオネ、それにギニアやマリの4か国の首都を訪れ、各国の首脳や医療従事者らと会談するほか、国連のエボラ緊急対応ミッションの本部が置かれているガーナの首都アクラも訪れ、国連関係者を激励することにしています。

エボラ出血熱の感染が広がって以来、パン事務総長が現地を視察するのは初めてで、パン事務総長は、「感染の勢いはやや弱まっているものの、最後の1人の患者が治療を受けられるまで、気を緩めることはできない。私はそれを訴えるために現地を訪問する」と述べ、現地から国際社会に改めて支援を呼びかける姿勢を強調しました。【12月18日 NHK】
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交わることのない社会ではありますが、それでも富める社会ができること、犬の助命嘆願より先にやらなければならないことはたくさんあります。

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