孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  崖っぷちのマドゥロ大統領 紙幣切り替えで経済混乱

2016-12-16 21:26:43 | ラテンアメリカ

(ベネズエラの首都カラカスで、流通停止になる紙幣を預金しようと銀行の外で列をつくる人々(2016年12月13日撮影)【12月16日 AFP】)

罷免を求める国民投票の先延ばしで、体制延命
南米・ベネズエラの破綻寸前の経済混乱(モノ不足、インフレーション、通貨下落など)、“チャベスなきチャベス路線”で強権支配を続けるマドゥロ大統領の退陣を要求する全国デモなどについては、これまでも取り上げてきたところです。
(9月22日ブログ“ベネズエラ 大統領罷免の国民投票を越年し体制延命を画策 マドゥロ政権から距離を置く国際社会”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160922 など)

野党勢力はマドゥロ大統領の罷免を求める国民投票を要求していますが、憲法の規定で、国民投票が来年1月10日以降になった場合、マドゥロ大統領が罷免されても副大統領が政権を継承する・・・ということで、“首のすげ替え”だけで、体制は維持されます。

野党勢力は年内の実施を強く求めていましたが、マドゥロ大統領は「年内の国民投票はない」としており、国民投票実施を妨害してきました。

****緊迫するベネズエラ危機:手足を縛る鎖との戦い****
独裁に傾く大統領を辞めさせようと大規模なデモが起こるが、政権交代の兆しは見えない。

今回の抗議行動はベネズエラ全土で行われた。西はマラカイボから東はシウダード・グアヤナに至るまで、何十万人もの市民が街頭を埋め尽くし、ニコラス・マドゥロ氏率いる権威主義的な左派政権に退陣を求めた。逮捕者は100人を超え、ミランダ州では警官1人が命を落とした。

「この政権は絶対に、選挙を経て退陣したりしませんよ」。首都カラカスのデモに参加していたマッサージ師のマリア・ジルさんはそう語った。露天商のダビド・ムジカさんも「もう抗議するよりほかに手がない」、投票では「何も変わらない」と同意した。

どちらのデモ参加者も、マドゥロ氏を「独裁者」呼ばわりした。ベネズエラでは、ここ2週間の一連の出来事を経て、この言葉がこれまでよりも大っぴらに口にされるようになっている。

まず、1週間ほど前の出来事から見ていこう。10月21日、有権者は投票所での署名を数日後に控えていた。大統領罷免の是非を問う国民投票を行うことに賛成の意思表示をするためだ。

ところが、その署名手続きが突然中止になった。5つの州の刑事裁判所が、有権者数の少なくとも1%の署名を集めて提出するという国民投票手続きの初期段階で不正があったと断じたからだ。

この指摘はばかげている。野党側は今年4月、最低限集めなければならない筆数の10倍に当たる200万人分の署名を提出しており、名目上は独立の機関だが実際は政権にこびへつらっている選挙評議会でさえ、そのうちの140万人分の署名は有効だと述べていたからだ。これら5つの裁判所は、判断の根拠を説明しなかった。

ベネズエラ史上最悪の景気後退と、食料や医薬品の深刻な不足の責任を取るべき立場にある現政権は、自らの支配下にない機関とも協力して任に当たるという建前すら放棄した。

まず、野党が多数派を占める議会を無視した。議会は今でも、閣僚が議場に来て今後の計画を説明するか情報を提供するよう求めているが、閣僚が姿を見せることはない。【11月2日 The Economist 】
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上記記事は11月初旬のものですが、その後、ベネズエラの政治状況に関する目立った記事は見ていませんので、結局、罷免に関する国民投票は仮に実施されても1月10日以降で、現在の政治体制は維持される流れのようです。

買い物にリュック一杯の現金 お札をメモ帳代わりに
しかし、そうした変化が期待できない政治状況なかで、経済状況は悪化の一途をたどっています。

****ベネズエラ通貨が非公式レートで60%下落、市民生活を圧迫*****
ベネズエラ通貨ボリバルの対ドル相場は、非公式の民間市場における取引で過去1カ月間に60%も下落し、28日には1ドル=3500ボリバルに迫る水準となった。

ウェブサイト「ダラートゥデイ」によると、28日の相場は3480ボリバルで、前週末は2972ボリバル、1カ月前は1417ボリバルだった。

現在の水準では、最も高額である100ボリバル紙幣でも0.03ドルにもならない。このため国民は生活必需品を買う場合でも、リュック一杯の現金を持参しなければならなくなっている。やけくそになってお札をメモ帳などただの紙として使う人も出てきた。

地元メディアによると、強盗でさえ現金を奪っても仕方ないと考え、クレジットカード読み取り機を携帯して被害者に口座へのアクセスを要求する事件が発生している。

マドゥロ政権は、食品や医薬品など重要輸入品の売買には1ドル=10ボリバル、その他の品目には660ボリバルという2本立ての公定レートを採用している。ただ外貨の供給不足は深刻で、多くの国民はずっとドルの価格が高い民間市場を利用せざるを得ない状況だ。【11月29日 ロイター】
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72時間以内に最高額紙幣の100ボリバルを撤廃し、コインに転換
“100ボリバルはここ数年で通貨としての価値をほぼ失いつつある”状況で、マドゥロ政権は100ボリバル紙幣を廃止して、500ボリバルから2万ボリバルまで6種類の新紙幣を今月15日から流通させることを発表しています。

****ベネズエラ、最高額紙幣を72時間以内に撤廃 密輸対策などで****
南米ベネズエラの政府は11日、72時間以内に最高額紙幣の100ボリバルを撤廃し、コインに転換すると発表した。密輸を防止し、食料品など生活必需品の不足に対応するためだという。

ニコラス・マドゥロ大統領は、国境近くで活動する犯罪組織が紙幣を国内に持ち込む前に、紙幣を無効にできると述べた。
経済危機からの脱却を図る政府が、また一つ絶望的な試みをしていると批判する声も出ている。

野党指導者のエンリケ・カプリレス氏はツイッターで、「圧倒的に愚劣だ! 我々がさまざまな問題を抱えているなかで、12月にこんなことをしようなど、いったい誰の発想だ」とコメントした。
市中で流通するすべての100ボリバル紙幣を72時間でコインに替えるのは不可能だ、との指摘もある。

100ボリバルはここ数年で通貨としての価値をほぼ失いつつある。米ドルに換算すると現在の価値は約2セント(2.3円)。
深刻な政治・経済危機に陥っているベネズエラは、世界で最も高いインフレ率に悩む国の一つになっている。
マドゥロ大統領はテレビのインタビューで、密輸に関与する犯罪組織について、「持ち出した紙幣を戻せなくするため、陸海空すべてのルートを断つよう命令した。自分たちの国外での不正行為をどうすることもできなくなる」と語った。

ベネズエラの中央銀行は今月、500ボリバルから2万ボリバルまで6種類の新紙幣を今月15日から流通させると発表している。

政府が最後にインフレ率を発表したのは昨年12月で、年率180%に達していたが、国際通貨基金(IMF)は、2017年の物価上昇率が2000%以上になると予想している。

インドでは先月、高額紙幣の廃止で大きな混乱が起きた。【12月2日 BBC】
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紙幣切り替えと言えば、上記記事にもあるインドの混乱が記憶に新しいところです。

ハイパー・インフレーションへの対応として、一般論としては紙幣切り替えもあるのでしょう。“買い物にリュック一杯の現金 お札をメモ帳代わりに”という現状への対策も必要です。
ただ、周到な準備・統率力がないと難しい施策です(と言うか、そういうものがないから経済が破たん状態になっている・・・と言うべきでしょう)。

殆ど“レームダック”状態のマドゥロ政権がスムーズに行えるようなものではないでしょう。


マドゥロ大統領は、紙幣切り替えに併せて、コロンビア国境も封鎖しました。

****ベネズエラ、対コロンビア国境を封鎖=犯罪組織阻止のため****
ベネズエラのマドゥロ大統領は12日、国民向けのテレビ演説で、隣国コロンビアとの国境を72時間封鎖すると発表した。米国の支援を受けているという犯罪組織がベネズエラで日用品を買い占めるのを防ぐための措置と説明している。
 
マドゥロ大統領は演説で、犯罪組織がコロンビアなどを拠点にベネズエラの日用品を大量に購入していることが同国の深刻な品不足の理由だと非難。国境封鎖は「わが国の経済を守るために避けられない手段だ」と訴えた。
 
ベネズエラは11日、犯罪組織が大量に保有しているためとして、最高額紙幣100ボリバル札の流通停止を発表。新たに2万ボリバル札などの高額紙幣や硬貨の発行を15日に開始すると明らかにした。
 
ただ、実際には、ベネズエラの物資欠乏は外貨不足などが原因とされ、国境封鎖や100ボリバル札の流通停止が問題解決につながるとの見方はほとんどない。逆に、高額紙幣の流通停止が突然決まったことで、大きな混乱が生じる恐れがある。
 
原油価格の下落で経済危機に陥っているベネズエラ政府は、国民の不満をそらすため、これまでもたびたび米国やコロンビアをやり玉に挙げて非難している。昨年も8月から1年間、ベネズエラ軍兵士が襲撃され負傷したとして、対コロンビア国境を封鎖していた。【12月13日 時事】
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“犯罪組織がコロンビアなどを拠点にベネズエラの日用品を大量に購入していることが同国の深刻な品不足の理由”では“ない”ことは、誰の目にも明らかです。

もちろん、原油価格の下落という外部環境が引き金にはなっていますが、基本的には原油収入に依存した“バラマキ政策”、経済無策、市場経済の原則を無視した強権対応など、チャベス時代からのつけが回ってきている状況です。

準備不足で、募る国民の苛立ち
予想されたように、紙幣切り替えで大きな混乱が生じているようです。

****紙幣流通停止のベネズエラ、新札届かず混乱広がる 国境封鎖延長****
南米ベネズエラでは、ニコラス・マドゥロ大統領が100ボリバル札の流通停止を発表したことを受けて、国内に混乱が広がっている。

流通停止期限の15日、銀行には100ボリバル札の交換を求める人々が長蛇の列をつくったが、この日から流通するはずの新札がまだ届かず、国民はいら立ちを募らせている。

ベネズエラは、世界で最悪とも言われるインフレに見舞われている。危機に陥った経済の立て直しに当たるマドゥロ大統領は12日、マフィアが海外に100ボリバル札をため込んでおり、それはベネズエラを不安定化させようとする米国の策略だと非難。

72時間後を期限に100ボリバル札を廃止して、2万ボリバル札などの高額紙幣を新規発行する過去最大のデノミネーション(通貨切り下げ)を発表した。
 
しかし、期限日の15日になっても、現金自動預払機(ATM)で現金を下ろすと流通停止寸前の100ボリバル札で引き出されてしまう事態が相次ぎ、再び長い行列に並び直さなければならない人々からは不満の声が上がっている。
 
同日流通開始予定だった新札は、15日正午の時点で首都カラカス)にさえ届いていない。16日以降、国民が100ボリバル札を交換できるのは中央銀行の本部ビル1か所のみとなる。
 
こうした中、ベネズエラ政府は15日、マフィア対策としてコロンビア・ブラジルと接する国境の封鎖をさらに72時間延長すると発表した。【12月16日 AFP】
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原油価格が低迷するなかで、“頼みの綱”の中国は・・・・
国民経済を破綻寸前に追い込んでいるマドゥロ大統領がどこまで持ちこたえられるかは、原油価格動向にもよります。
急速に価格が回復すれば、国民を意向を強権で押さえつけてしばらく延命・・・という話も、現実問題としてはあるのでしょう。

12月10日、OPECと非OPEC産油国がオーストリアのウィーンで閣僚級会合を実施し、非OPEC産油国が合計約56万バレルの減産に合意したことで、原油価格回復の期待もでましたが、あまり大きな上昇はみられていません。(現在はWTI原油先物で1バレル=50ドル付近)

ベネズエラにとっては、いまや中国が資金的な頼みの綱になっていますが、中国としてもベネズエラ・マドゥロ大統領と心中するつもりはないでしょう。

****ベネズエラが中国に見捨てられる日****
・・・・ベネズエラは過去30年間に海外からの借り入れでデフォルトや返済繰り延べを4回重ねてきた。

PDVSA(ベネズエラの原油生産を担う「ベネズエラ国営石油公社」)は2007年から中国石油天然気集団公司(CNPC)から融資を受けるようになり、その額は既に650億ドル以上になっている。

契約は「借金の返済を原油で支払う」ということになっており、原油価格が1バレル=100ドルの時に中国に支払う原油は日量23万バレルで済んでいた。

しかし原油価格の急落後、PDVSAは日量55万バレルの原油を中国に輸出する羽目になってしまった。2015年は原油輸出量の45%が中国への債務返済に回り、同国の原油収入は激減した。

それを受けてベネズエラ政府は2016年6月に、中国に対して契約の見直しを要求した。その内容は「原油価格が1バレル=50ドルを下回る限り、1年間にわたり借入金の元本返済を猶予し、利子のみの支払いとする」というものだった。これにより、30億ドルのキャッシュフロー改善を実現する目論見だった。

しかし、中国側はこの要求を拒否する。同社の利息と元本の支払が年末に滞ることは確実となった。

そこで、PDVSAは2016年11月に中国側からつなぎ融資(22億ドル)を受けてデフォルトを回避した。だが、その追加融資により、中国への原油供給は日量80万バレルにまで達してしまったとされる。

インフレ率が800%に達し慢性的なドル不足状態にあるベネズエラ政府は、原油生産を続けるのに必要な契約の一部支払いができなくなっている。これにより原油生産量は過去13年で最低水準に落ち込んでおり、中国政府は「融資の返済としての輸入(未返済金額は約200億ドル)が滞るのではないか」と気が気でない。

このような状況を前にして、中国政府はベネズエラとの戦略的パートナーシップという方針を転換しつつある。PDVSAは2017年4月にも多額の債務償還を迎えるが、中国側が再び支援の手を差し伸べるかどうかは不透明である。(後略)【12月16日 藤 和彦氏“歴史的減産合意でも産油国を待ち受ける「茨の道」” JB Press】
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上記記事で藤 和彦氏は、“ベネズエラの「メルトダウン」は原油価格にとって大きな下げ要因になるのではないだろうか”とも予測されています。

当然、ベネズエラ全体がデフォルト状態になれば、世界の金融市場への悪影響も懸念されます。

ベネズエラの政治・経済混乱は、2017年に持ち越す形のようですが、世界全体にとっても注目が必要な混乱要因です。

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