孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエルのユダヤ人入植をアメリカ・オバマ政権が異例の「強く非難」 しかし・・・・

2016-10-09 22:00:12 | パレスチナ

(ペレス前大統領(右)とアラファトPLO議長 【9月30日 Newsweek】)

【「平和の象徴」として最後まで平和促進に専心したペレス前大統領の死去
周知のように、9月28日、“最後まで平和促進に専心した”イスラエルのペレス前大統領が死去しました。

****強硬派から平和の象徴へ=核保有「あいまい政策」貫く―イスラエルのペレス前大統領****
28日に死去したイスラエルのペレス前大統領は、イスラエルの歴史の体現者だった。50年以上に及ぶ政治人生では、パレスチナの国家樹立を認めないタカ派から、中東和平を追求するハト派へと大きく転身。

特に、1994年にノーベル平和賞を受賞して以降は、その知名度と豊富な政治経験を生かして平和推進活動にまい進した。
 
「パレスチナ人が尊厳を持つためには、国家樹立が必要だ」。2015年7月、中部テルアビブにある「ペレス平和センター」で、ペレス氏は日本人記者団に対し、パレスチナ和平実現の重要性を説いた。「パレスチナ人にとってより良いことは、私たちにとってもより良いことだ」と穏やかな声ながらも確信を込めて語った。
 
政治人生の前半は、軍事国家としてのイスラエルの礎を築き、「ミスター・セキュリティー」として名をはせた。ベングリオン初代首相の側近として手腕を発揮したペレス氏は、軍需・航空産業の活性化に尽力。国防相を務めた第1次ラビン政権では、パレスチナ国家樹立に強く反対するとともに、ユダヤ人入植地の建設推進論を声高に唱えた。
 
しかし、初めて首相に就任した80年代ごろから徐々に穏健路線へと転換し、イスラエルとアラブ諸国が共存共栄する「新しい中東」を目指した。第2次ラビン政権では外相として、ノルウェーでのパレスチナ解放機構(PLO)との秘密交渉に参加し、93年、和平交渉の道筋を示したオスロ合意の調印へと導いた。翌年、ラビン元イスラエル首相、アラファト前PLO議長とともにノーベル平和賞を受賞した。
 
一方、イスラエルの「核開発の父」としても知られた。当時のベングリオン首相に核開発プロジェクトの責任者に任命され、フランスと秘密同盟を築き、60年代に南部ネゲブ砂漠のディモナに核施設を完成させた。

63年、当時のケネディ米大統領にこの核施設の目的を問われ、ペレス氏は「イスラエルは中東で最初に核兵器を導入する国にはならない」と回答。それ以降、イスラエル政府はこの発言を踏襲する形で、核保有を否定も肯定もしない「あいまい政策」を堅持している。
 
07年の大統領就任後は、「平和の象徴」として、国内外で中東和平の重要性を訴えた。将来のパレスチナ国家との「2国家共存」への支持を表明しつつも、行動が伴っていないとして、右派ネタニヤフ政権を公然と批判することも少なくなかった。大統領職を離れてからも、最後まで平和促進に専心したが、生存中に和平の達成を見ることはできなかった。【9月28日 時事】 
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止まない入植活動 オバマ大統領「強い懸念」】
“イスラエル建国に携わった世代の一人だったが、晩年は政治的影響力を喪失。かつて主流だった左派路線の担い手だったペレス氏の足跡は、イスラエル政治における左派の退潮やネタニヤフ現政権にみられる右派・強硬路線の隆盛と軌を一にしている。”【9月28日 産経】ということで、イスラエルの現状はペレス氏の思いとは逆方向に向かっています。

“将来のパレスチナ国家との「2国家共存」への支持を表明しつつも、行動が伴っていない”とペレス氏から批判されたネタニヤフ首相ですが、その最たるものがユダヤ人入植活動を停止する意思が見られないことです。

“占領地での入植活動は国際法違反とされ、国際社会は懸念を強めている。ユダヤ人入植者の数は増え続けており、米中央情報局(CIA)によると、ヨルダン川西岸で約37万人、東エルサレムで約21万人。双方のパレスチナ人の人口は計約280万人とされ、その2割超に及ぶ形だ。”【9月23日 朝日】

そのイスラエルを支えるのがアメリカですが、いささか単純化された表現をすれば、保守強硬派のネタニヤフ首相に対し、交渉・協調を重視するアメリカ・オバマ大統領ということで、パレスチナ和平の進め方や、対イラン政策などをめぐって、肌合いが異なる両者はしばしば不仲が報じらています。

中東和平の仲介に失敗したアメリカ・オバマ政権ですが、入植活動を止めないネタニヤフ首相に対し強い不快感を示してもいます。

****オバマ米大統領、ユダヤ人入植に「強い懸念****
オバマ米大統領は21日、ニューヨークでイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、イスラエルが進めるヨルダン川西岸でのユダヤ人入植への懸念を強調した。
 
米国は、10年間で380億ドルという史上最高額の軍事支援をイスラエルに対して行う覚書に調印したばかり。ネタニヤフ氏は、会談の冒頭で「イスラエルの安全を大いに高める」と感謝を伝えた。
 
オバマ氏は「米国とイスラエルの結束は壊れることのないものだ」と述べ、軍事支援がそれを物語るとしたが、一方で「我々は入植活動に強い懸念を持っている」とし、イスラエルが占領地へのユダヤ人入植を進めることに反対する姿勢を強調。さらに、見通しが立っていないパレスチナとイスラエルを共存させる「2国家解決」への今後の道筋を問いただした。
 
オバマ政権とイスラエルは、イランとの核協議などをめぐって関係が悪化。オバマ氏は対イスラエル政策で度々、批判を受けてきたが、軍事支援で関係改善をアピールしてきた。【9月23日 朝日】
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新たな建設計画に、米国務省「強く非難」】
イスラエルのユダヤ人入植活動について、今月5日にはアメリカ国務省は、“友好国”イスラエルを「強く非難する」という異例の声明を出しています。

****米、入植計画「強く非難」=イスラエルに異例の表現****
米国務省のトナー副報道官は5日、声明を発表し、イスラエル政府が承認したヨルダン川西岸でのユダヤ人入植住宅建設計画を「強く非難する」と述べ、友好国のイスラエルを異例の厳しい表現で批判した。

その上で、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による紛争解決に「さらなる打撃を与える」と指摘した。
 
イスラエルのメディアによると、西岸のパレスチナ自治区ラマラ北方に約300戸の入植住宅を建設する計画が9月下旬に承認された。

イスラエルはこれまで新しい入植地建設は控え、既存の入植地での住宅建設を続けてきたが、トナー氏はこの計画について「新たな入植地は建設しないというイスラエル政府の公式声明に反している」と強調した。
 
また、トナー氏は、米国がイスラエルへの380億ドル(約3兆9000億円)の軍事支援を決めた後に計画が承認されたことに不快感を表明。

さらに、オバマ大統領や世界中の指導者が、中東和平を推進したペレス前イスラエル大統領の死を悼んでいる時に計画が進められたことにも「失望している」と述べた。【10月6日 時事】
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これに対し、イスラエルは、問題となったラマラ北方の入植住宅建設計画は「新たな入植地ではない」と反論したうえで、「(中東)和平への本当の障害は入植地ではなく、パレスチナが一貫してユダヤ国家の承認を拒否していることだ」と主張しています。【10月6日 時事より】

アメリカ国務省声明で使用された「強い非難」は、シリアでの化学兵器使用やイラクでのテロに際して出された表現と同じということで、イスラエル側には驚きもあるとか。

****ユダヤ人入植地批判強める=中東和平推進へ「最後の努力」―米大統領****
米国がイスラエルのユダヤ人入植活動への批判を強めている。新たなヨルダン川西岸の入植住宅計画に対して、国務省は「強い非難」という異例の厳しい表現を使った声明を出した。

オバマ大統領は来年1月に任期切れが迫る中、パレスチナとの交渉に消極的なイスラエルに圧力をかけ、中東和平推進を後押しする「最後の努力」を試みるとの観測も浮上している。
 
米国が入植問題にこだわるのは、2014年4月以降、中断している和平交渉の再開に向けた最大の障害の一つとみているためだ。

パレスチナ側は、独立後の領土と見なすヨルダン川西岸を虫食い状態に分断する入植活動の凍結を交渉復帰の条件とするが、イスラエルのネタニヤフ政権は応じていない。
 
米政府は入植活動を「正当性がない」「深刻な懸念」と批判してきたが、そのトーンを強めた形だ。
イスラエル紙エルサレム・ポストは、「強い非難」という声明は、シリアでの化学兵器使用やイラクでのテロに際して出された表現と同じだと指摘。イスラエル側は驚きをもって受け止めている。【10月9日 時事】
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10年間で3.8兆円の軍事支援
「最後の努力」とは言いつつも、オバマ大統領に残された時間を考えると、あまり実効は期待できません。
最後になったので、言いたいことを言っておく・・・ぐらいのところでしょうか。

特に、アメリカは依然としてイスラエルへの大規模な軍事支援を継続していますので、そこに踏み込むぐらいでなければ、なかなか・・・・。

****米、イスラエルに過去最大の軍事支援 年38億ドル****
米国務省は13日、イスラエルに対する2018年から10年間の新たな軍事支援に関する覚書に合意したと発表した。

AP通信によると、支援額は年間38億ドル。同省は、米国による二国間の軍事支援額では史上最高額だとしている。
 
イスラエルは米国にとって中東で最も重要なパートナー。現在行っている毎年31億ドルの支援が失効することに伴い、イスラエル側が増額を要望していた。
 
両国はイランの核開発問題などを巡り、関係が冷え込んでいる。対イスラエル政策で批判を受けるオバマ米大統領が来年1月の任期切れを前に、合意を目指したとみられる。【9月14日 朝日】
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年間38億ドル、約3800億円、10年間で3.8兆円・・・膨大な軍事支援です。
こうした軍事支援を認めておきながら「強い非難」と言っても・・・・その本気度に疑念を感じます。

【「あきらめて和平を追求するのをやめる者は、だまされやすく、国を愛していない」】
故ペレス前大統領は、“ここ20年間は主に儀礼的な役割を担い、国政への実質的な影響力がほとんどなかったが、彼の楽観主義やユーモア、中東はより良い場所になれると粘り強く訴える姿勢は、多くのイスラエル国民にとって最後の望みだった”とのことで、“ペレスがこの世を去った今、彼の友人や政治仲間は、建国の礎であるイスラエルの楽観主義も共に失われたと言う。”とのことです。【9月30日 Newsweek】

2014年11月に中部テルアビブのラビン広場で大観衆を前に行った演説でペレス氏は以下のように訴えています。

「和平を断念した者は幻覚を見ている。あきらめて和平を追求するのをやめる者は、だまされやすく、国を愛していない。現実を直視して幻覚を見ず、だまされないためには、鋭く、明確で、永久に変わらない基本的な真実を認知する必要がある」

「和平を実現しなければ、イスラエルに永遠の安全は訪れない。経済を安定して繁栄させることもできない。貧困や差別のない健全な社会も築けない。ユダヤ人が誇る民主的な特性を守り抜くチャンスもない。もし現状でいいと考えれば、イスラエルはより良い未来をみすみす手放すことになる」【同上】

ペレス氏の死とともに、“イスラエルは和平を実現できるというペレスの楽観主義と不屈の決意”も失われたとすると、これからのパレスチナ和平に暗澹たるものを感じずにはいられません。
ペレス氏の遺志はイスラエルと世界の指導者に引き継がれていると信じたいものです。



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