孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  モスル奪還作戦開始 ISの軍事的排除よりも難しい問題が山積 解放後は平和か混乱か

2016-10-18 22:55:47 | 中東情勢

(ISの車による自爆攻撃 【10月18日 ANN】)

突入作戦が始まれば、民間人の被害が一気に拡大する恐れも
周知のように、イラクのアバディ首相は17日、国営テレビで演説し、過激派組織「イスラム国」(IS)の最大拠点である北部モスルの奪還作戦を始めたと発表しました。

モスルはISにとって、石油収入や住民への徴税という財政面でISを支えてきた都市であり、戦闘員のリクルートの場でもありました。

イラク政府軍は、昨年12月には西部の拠点都市ラマディを、今年6月にはISの牙城だった中部ファルージャを奪還してしており、IS支配下の最大都市モスル攻防戦は、イラクでのIS掃討作戦の最大にして最後の山場となると見られています。

モスル市内には4000─8000人【10月18日 ロイター】のIS戦闘員がいるとされており、自爆攻撃による抵抗の様子もTVニュースで流れています。

一方、攻撃軍は“実際のモスル突入作戦の先陣を切るのは、米軍が訓練した1万人のイラクの対テロ治安部隊だ。これにカイヤラ空軍基地の旅団やイラン訓練のシーア派民兵軍団、スンニ派部族勢力も加わり、総勢約8万人に上る見通し。クルド人のペシュメルガは北部、東部からモスルに迫る計画だ。イラクに常駐する約6000人の米軍顧問団や特殊部隊も側面支援する。”【10月18日 WEDGE】と、かなりの戦力差があります。

ただ、“IS側は深い塹壕を掘ってそこに油を注入、イラク軍の進撃時には火を放つものと見られている。市全体には即席爆弾をみっしりと仕掛け、地下には長く広大なトンネル網を張り巡らしている。トンネルは防空壕として、また神出鬼没のゲリラ戦に活用するためのものだ。”【同上】と徹底抗戦の構えをとっており、更に自爆攻撃、ドローンによる爆弾攻撃も繰り出す構えです。

今後、圧倒的な攻撃軍を前にISがモスルを放棄する形で比較的簡単に撤退するのか、徹底抗戦の市街戦になるのかは定かではありませんが、市街戦になった場合の一番の問題は、市内には100~150万人の住民がいるとされる点で、IS側は住民を“人間の盾”として使うことが予想され、住民被害をできる限り抑えるためには慎重な戦闘が要求されます。

このため、奪還作戦の支援にあたるアメリカも17日、「困難な作戦であり、ある程度時間がかかる」(米国防総省のクック報道官)との認識を示しています。

住民には50万人ほどの子供が含まれているとのことで、“ユニセフ=国連児童基金は17日、「モスルに住む50万人以上の子どもが、今後数週間にわたって、家族とともに極めて重大な危険にさらされる」として、警鐘を鳴らす声明を発表しました。声明では、多くの子どもたちが強制的に移住させられたり、戦線の間で身動きがとれなくなったりして、激しい戦闘に巻き込まれる可能性があると指摘しています。”【10月18日 NHK】と懸念されています。

ISは住民がモスルから脱出することを阻止しているとも報じられています。

****砲火、狙撃手、仕掛け爆弾=150万人に危機迫る―モスル奪還作戦****
・・・ISは市民の移動を厳しく制限する措置を取り、監視の目を光らせている。脱出を図ったIS関係者を処刑したと伝える情報もある。

一方で、イラク部隊の突入による市街戦に備え、モスルの各地に爆発物を仕掛けたり、狙撃手を配置する準備を進めたりしているとされる。
 
こうした状況から、イラク部隊の突入前に脱出できる市民は一部に限られる見通し。突入作戦が始まれば、民間人の被害が一気に拡大する恐れもある。(後略)【10月18日 時事】
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こうした事情を受けて、イラク政府軍はモスル住民へISの戦闘員が集まる場所から離れるよう、また、ISへの協力を行わないよう呼びかけるなどのビラを散布しています。

****イラク軍 モスル住民にISへの協力中止促すビラ****
・・・・また、イラク政府は17日夜、モスルと周辺のISの支配地域の住民に、作戦への協力を呼びかけるビラ1700万部を上空から投下しました。

支配地域では、ISに脅されて強制的に戦闘員にされたり、協力を強いられたりしている住民が少なくないと見られ、ビラでは「ISに終わりのときがきた」として、協力をやめ、イラク軍が市街地に入った際にはISの戦闘員を捕まえて引き渡すよう求めています。

また、一般住民に向けたビラでは、空爆に巻き込まれるのを避けるため、ISの戦闘員が集まる場所から離れるよう呼びかけるなど、市街地への攻撃に向けた準備を進めています。

一方、IS系のメディアは、イラク軍の戦車を自爆攻撃で破壊したとする映像を公開したほか、18日には待ち伏せ攻撃でイラク軍兵士を殺害したと伝えるなど、徹底抗戦を強調していて、イラク軍などが一気にモスルを制圧するのは容易ではないと見られます。【10月18日 NHK】
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“空爆に巻き込まれるのを避けるため”とは言いつつも、現実問題としては空爆が激しくなると住民は逃げ場がありません。

【「IS後」も宗派対立の危険も
住民にとっては、奪還作戦における空爆等の戦闘行為による犠牲に加えて、宗派対立に根差した解放後の“報復”への不安もあります。

モスルを始めとして、IS支配地域住民はスンニ派ですが、これまでも奪還作戦にシーア派民兵が大きな役割をはたし、解放後、スンニ派住民をIS協力者として暴行・殺害するなどの問題が生じていました。

また、モスル奪還作戦には支配地域拡大を目論むクルド人勢力も参加します。

こうした点を踏まえて、アバディ首相は「モスルの市街地に入るのは国軍と(中央政府の)警察だけだ」と強調しています。

****モスル奪還へ政治・宗派対立はらむ進軍 イラク首相、反シーア派感情配慮****
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が拠点とするイラク北部モスルの奪還作戦をめぐり、同国のアバディ首相は17日の演説で、「モスルの市街地に入るのは国軍と(中央政府の)警察だけだ」と強調した。

この発言には、モスルに近い北部のクルド自治政府への牽制(けんせい)や、モスル住民に根深い反シーア派感情への配慮といった意味合いがあり、奪還作戦がイラク国内の政治・宗派対立をはらみながらのものであることを示している。
 
イラク北部に自治政府を持つ少数民族クルド人勢力は、2014年にISがモスルを制圧して以降、その周辺地域でペシュメルガ(クルド兵)部隊を展開してきた。
 
アバディ氏が、モスル市内での軍事作戦を国軍と警察に限定するとしたのは、クルド側の進入を許せば、治安維持などを名目にモスルの実効支配を進めるとの懸念があるためだ。
 
クルド側は、もともとクルド人が多く住むモスル一帯を「歴史的クルディスタン(クルドの国)」の一部だとみなしていることから、実際にアバディ政権がモスルからクルド側の“締め出し”を図った場合はもちろん、モスルへの進駐が実現した場合でも両者の対立が深まる可能性は高い。
 
一方、アバディ氏の発言には、イラク軍をモスルにとっての「解放者」と印象付けたい狙いもある。
 
イラクでの対IS作戦ではこれまで、国軍と連携するシーア派民兵が大きな役割を果たす半面、民兵によるスンニ派住民への略奪や暴行、殺害なども頻発してきた。

スンニ派にはシーア派主導の中央政府への不信感も強いことから、モスル奪還でシーア派民兵が前面に出る事態となれば、民心の離反を招く恐れもある。
 
ISは、スンニ派住民のそうした恐怖心をあおることで軍事作戦への抵抗を図るものとみられる。
 
また、ISがゲリラ戦を展開して市民の犠牲が増えれば、住民がISのみならず政府への反感を募らせることも考えられ、その後の治安維持が困難となる可能性もある。【10月17日 産経】
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【「IS後」を睨んで影響力拡大を目指す各勢力・周辺国
まずは、奪還作戦ができるだけ少ない住民犠牲者で完了することが肝要ですが、解放後のスンニ派住民とシーア派民兵の対立、クルド自治政府との支配地域に関する線引きなど、極めて厄介な解放後の問題が控えています。

****IS掃討後」にらむ モスル奪還作戦**** 
イラク政府が17日、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の仕上げとなる北部モスルの奪還作戦に着手した。

政府軍にイスラム教シーア派やスンニ派の民兵、少数民族クルド人部隊が加わり、「挙国一致」を演出するが、各勢力には、IS掃討後に中核都市であるモスル周辺での主導権を握りたいとの思惑がある。民間人の犠牲者や国内避難民の増大も懸念され、奪還作戦はリスクをはらんでいる。
 
「国家の一体性を回復し、国民を一致団結させるための戦いだ」。アバディ首相は17日の演説で、宗派・民族の垣根を越えた結束の重要性を訴えた。
 
だが、イラクではシーア派が約6割、スンニ派が約2割、クルド人が約2割を占めており、宗派・民族間での不信感は根強い。
 
モスルではスンニ派住民が多数派で、スンニ派民兵は自らの部隊を市内に進駐させるよう主張。だが、シーア派民兵も進駐に意欲を示している。

さらに、イランがシーア派民兵、トルコがスンニ派民兵を支援しており、周辺国もIS掃討後の影響力確保をにらんで、介入を強めている。
 
またクルド人部隊は今回、従来の自治区の境界を越えて派兵している。奪還作戦参加への対価として、今後、自治区の拡大などを要求する可能性もある。
 
アバディ首相は「モスル市内に入るのは政府軍と警察だけだ」と述べ、中央政府主導でIS掃討や戦後統治を進める考えだが、こうした姿勢は各勢力の不満を招く恐れがある。(後略)【10月17日 毎日】

上記記事にも出てくるように、スンニ派民兵を支援するトルコも参戦を要求しており、イラク政府の要請がなくとも独自に参戦する構えを示しています。

トルコ軍は以前からイラク領内に駐留し、これに反発するイラク政府と揉めていました。イラク側はトルコ軍部隊が駐留を続ければ「地域の戦争に発展する可能性がある」(アバディ首相)と警告しています。

****モスル奪還作戦へ参加表明=訓練兵3000人が戦闘―トルコ****
トルコのメディアによると、エルドアン大統領は17日、過激派組織「イスラム国」(IS)のイラクでの最大拠点、北部モスルの奪還作戦について、「われわれは作戦もその後の協議にも参加する。締め出されたままではいられない」と述べ、イラク政府に認められなくてもトルコ軍も作戦に参加する意向を示した。
 
大統領は「トルコは(イラクと)350キロの国境を接している」と作戦に参加する正当性を訴えた。トルコ政府とイラク政府は、モスル近郊のバシカ訓練基地におけるトルコ軍の駐留をめぐり対立が続いていた。
 
一方、トルコのクルトゥルムシュ副首相は今回の作戦に関し、トルコ軍がバシカ基地で訓練した地元兵士約3000人が参加していると明かした。【10月17日 時事】
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作戦が長引けば、シーア派民兵を支援するイラン革命防衛隊も、「イラク政府軍には任せられない」とばかりに、その存在を強めてくるかも。

そうなると、クルド人勢力、トルコ、イランと「IS後」を睨んだ主役を目指す役者の総出演ともなって、イラク政府のコントロールが効かない状態となる懸念もあります。イラク政府にとっては、ISよりも厄介な相手です。

かねてより、シーア派・スンニ派・クルド人の三者による「イラク分割統治」(現実的に統一国家の枠組みでは共存は無理で、混乱を避けるためには分割したほうがいい)の考え方がありますが、イラク中央政府が反対するのは当然として、アメリカも更なる混乱防止のため、イラクの国家枠組みは崩さない立場でしょう。
それですむかどうかの保証はありませんが。

なお、(イラクの泥沼から抜け出した)アメリカは、“米国は有志連合を主導し、IS拠点への空爆、イラク治安部隊やクルド人治安部隊「ペシュメルガ」への助言や情報提供、訓練などの後方支援を行ってきた。モスル奪還に向け、9月下旬には今年3度目となる約600人のイラク増派を発表し、駐留米兵は5200人規模に膨らんだ。”と関与を深めています。

100万人の難民予測に対し、提供できる支援は6万人分
今後の問題は多々ありますが、まずは今回の奪還作戦で生じる膨大な難民をどうするのか・・・という難民対策が喫緊の課題となっています。

国連のオブライエン事務次長(人道問題担当)は、激戦になれば「最悪の場合、100万人が避難を余儀なくされる可能性がある」と懸念しており、国連はモスルからの避難民向けのキャンプ設営を急いでいるとされていますが、とても追いつかないのでは・・・・。

****モスル奪回作戦で再び人道危機に****
ISIS最大の拠点への軍事攻勢は100万人以上の難民を生み出しかねない

・・・・奪還作戦の準備と対照的に、支援団体の対応は遅れが目立つ。
イラク北部の気温が大きく下がるまで、あと2ヵ月しかない。

「約100万人が脱出を迫られるだろう。そのうち70万人は人道援助が必要な人々だ」と、国際救済委員会(IRC)のイラク担当責任者アレクサンダー・ミルテイノビッチは話す。
IRCが現時点で提供できる支援は6万人分にすぎないという。
 
「冬が来れば、医療部門がパンクする。呼吸器系の病気を抱えた人々が医療施設に殺到するからだ。寒くなれば、子供たちを中心に呼吸器系疾患が流行する。医師と薬がもっと必要だ」
 
イラク政府軍は米軍の航空戦力とクルド人勢力などの民兵組織の支援を受けて進撃するとみられる。既にISISの拠点だった周辺の村や町を次々に奪回、着々とモスルに追っている。それに伴い、多数の人々が家を捨てた。

支援団体の推定によれば、サラハディンとティクリート、モスルをつなぐ回廊地帯では既に12万6000人が国内避難民と化している 

ISISがイラク北部で電撃的攻勢に出た14年6月には、100万人以上がクルド人自治区などの周辺地域に脱出した。モスル奪還作戦でも、同程度の人道危機が発生すると予想される。

イラク軍が中部の都市ファルージャを奪還した際には、水を求める難民同士が殺し合った。
 
支援団体は冬の到来を前に、男性より女性と子供を優先して救うことを余儀なくされるかもしれないと危惧している。そうなれば、家族が散り散りになりかねない。
 
「家族全員を助けたいが、緊急性が高いケースでは、女性と子供を優先するしかない」と、ミルティノビッチは言う。「人道支援に関わる者にとって、これ以上ないほどの悪夢だ」【10月18日号 Newsweek日本版】
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100万人の予測に対し、提供できる支援は6万人分というのでは・・・
軍事的な奪還作戦という避けて通れない道ではありますが、厳しい現実が待ち構えています。
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