孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海  3週間続く中国・フィリピン艦船のにらみ合い 解決を難しくする国内“弱腰”批判

2012-05-01 22:49:18 | 南シナ海

(アメリカ・フィリピン両国の合同軍事演習 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6947518486/

【「中国にどんなに刃向おうとも、それは卵が石に体当たりするようなものだ」】
南シナ海のスカボロー礁(中国語名黄岩島)で4月10日に始まった、中国漁船操業取り締まりに端を発するフィリピン沿岸警備隊の巡視船と中国の海洋監視船のにらみ合いは、3週間を経過した今も続いています。

4月23日に中国の駐フィリピン大使館がスカボロー礁(黄岩島)周辺で活動していた監視船2隻を引き揚げさせることを明らかにしたとも報じられましたが、「実際は監視船を含む7隻の船舶がスカボロー礁周辺に居座り続けている」(フィリピン北ルソン軍区のアルカンタラ司令官)とのことで、問題解決には至っていないようです。

この問題については、にらみあいの始まった頃の、4月11日ブログ「南シナ海  緊張高める中国の強硬姿勢と“スイカ泥棒”の言い分」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120411)でも取り上げたところです。
同ブログでは、中国軍事科学研究会副秘書長の羅援(ルオ・ユエン)少将の寄稿記事など、主に中国側の強気の姿勢と言うか、恫喝的姿勢を取り上げました。

羅援(ルオ・ユエン)少将の主張は以下のような内容です。

****フィリピンに告ぐ、中国は「平和」に最後のチャンスを与えているだけだ―中国紙****
・・・・だが、残念ながらフィリピンは大きく勘違いしている。米国が世界第2の経済大国である中国といざこざを起こす勇気があると思っているのか。フィリピンにとっても中国は米国、日本に次ぐ第3の貿易相手国だ。アキノ3世の支持率も低下していると日本メディアが報じている。経済政策に対する不満が高じているようだが、中国を敵に回せば、その経済的損失は計り知れない。国民に豊かな生活を提供できなければ、どうなるのかは分かっているはずだ。

フィリピンは、中国が最大の我慢と誠意で今の平和な状態に最後のチャンスを与えていることに気付いていない。中国の善意を単なる「弱腰」だと勘違いしている。フィリピンの政治家たちは分かっているはずだ。国力でも軍事力でもフィリピンは中国の足元にも及ばない。中国にどんなに刃向おうとも、それは卵が石に体当たりするようなものだ。

良いことをしても、悪いことをしても、必ずその報いがある。今すぐでなくとも、時期が来れば必ず相応の報いを受けることになるのだ。フィリピンもそのことを肝に銘じておいた方がよい。【4月11日 Record China】
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なお、この羅少将は、“習近平国家副主席と同じく、元高級子弟で構成する太子党に属しており、良好な関係あるとされる。今秋以降に発足する習政権で安全保障分野で羅氏の影響力が高まるとみられる”【4月30日 産経】といった人物とのことです。

強気の構えを崩さないフィリピン側
一方の、フィリピンも後にひかない姿勢です。
****南シナ海めぐる対立先鋭化=中国に強気―フィリピン****
南シナ海の領有権を争うフィリピンと中国の対立が先鋭化している。南シナ海のスカボロー礁では中国漁船の取り締まりをめぐり、10日から両国の船がにらみ合う状態が続く。アジア太平洋地域への関与を強める米国を後ろ盾とするフィリピンは、米国との合同軍事演習で同盟関係を誇示し、中国に対して強気の構えを見せている。

フィリピンのデルロサリオ外相によれば、スカボロー礁近くではフィリピン沿岸警備隊の巡視船など2隻と中国海洋監視船2隻の対峙(たいじ)が続いている。中国漁船も同海域から動かない。フィリピンは当初、海軍最大のフリゲート艦を同海域に派遣したが、さすがに引き揚げた。

フィリピン外務省は25日、駐フィリピン中国大使を呼んだ。外交交渉が続く中で、中国が先週、監視船を一時増派したことに不満を表明している。
また、16~27日にフィリピン各地で行われた米国とフィリピンの定期合同軍事演習では、25日に南シナ海に面するパラワン島で両国海兵隊がゴムボートを使った上陸訓練を実施するなど、中国をけん制した。【4月27日 時事】 
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上記記事にもあるように、フィリピンはアメリカとの定期合同軍事演習で、中国側を牽制する動きを見せています。
また、30日にはワシントンで外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を開き、フィリピンの防衛力強化策の検討や違法操業漁船の取り締まり能力の強化などにアメリカが協力すると明記した共同声明を出しています。

****暗に中国けん制…米比が軍事協力拡大の共同声明****
米国とフィリピンは30日、ワシントンで、安全保障について話し合う初の外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を開き、両国間の相互防衛条約にのっとり「国防・安全保障面で同盟関係を強化する」ことを柱とする共同声明を発表した。
南シナ海での中国の領有権主張やオバマ政権のアジア重視の国防戦略を受け、米比が軍事協力を拡大する方針を明確にしたものだ。

共同声明は、フィリピンの防衛力強化策の検討や違法操業漁船の取り締まり能力の強化などに米国が協力すると明記。また、「航行の自由の確保に共通の利益を確認」した。
海洋の領有権については「国際法の枠組みで、平和的、多国間的に解決されるべきだ」とし、フィリピンと南シナ海で領有権を争う中国を暗にけん制した。【5月1日 読売】
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更に、南シナ海での資源開発に関する国際入札、南沙(英語名スプラトリー)諸島のパグアサ島に6月に小学校を開設されるなどの、明らかに中国を刺激すると思われる施策を打ち出しています。

****フィリピン、南シナ海の資源巡り入札へ 中国の反発必至****
フィリピンのアルメンドラス・エネルギー相は19日、南シナ海などでの石油・天然ガスの探査開発を民間企業に委託するための国際入札を27日に行うと明らかにした。南シナ海に主権を主張し、入札の中止を求めていた中国が激しく反発するのは確実だ。

入札の対象には比パラワン島から約65キロ離れた海域など、南シナ海の4区画が含まれる。膨大な石油、ガス資源が眠るとされ、昨年、比の資源探査船の活動が中国海軍の艦船に妨害されたリード礁に近い海域とみられる。7月には、さらに南シナ海の3区画の入札を予定しているという。

アルメンドラス氏は「比の領海であり、軍も十分、防備を固める」と入札参加を呼びかけるが、中国は「中国の領海での無許可の開発は違法だ」と中止を要求している。【4月20日 朝日】
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****南沙諸島に小学校開設へ=フィリピンが計画、中国反発も****
中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のパグアサ島に、フィリピンが6月に小学校を開設することが25日、分かった。パグアサ島はフィリピンが実効支配しており、同島などを管轄するカラヤン町のビトオノン町長が明らかにした。中国は反発するとみられる。

ビトオノン町長は電話取材に対し、「5月から資材を運び入れ、建設を開始する。教師は2人で、児童数は30人強になる予定だ」と説明。「地方自治体は教育に関する責任があり、児童らのために学校を開設する必要がある」と強調した。

町長はまた、パグアサ島への観光客誘致も検討していることを明らかにし、マニラから小型飛行機で1時間40分程度で島に到着すると指摘。「多くの人々がパグアサ島に関心を示している。手付かずの自然がある素晴らしい場所だ」と述べた。【4月25日 時事】
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政府の“弱腰”を批判する国内世論
こうした事態に、中国国内のネット世論では「フィリピンごときに負けるな」、あるいは「フィリピンをやっつけないと日本になめられる」といった類の“主戦論”が高まっているそうです。

****フィリピンごときに負けるな」南シナ海問題であふれる主戦論****
中国とフィリピンの公船が、双方とも領有権を主張する南シナ海のスカボロー礁(中国語名黄岩島)で4月10日から対峙を始めて、すでに約3週間が経過した。中国当局の漁業監視船を増派して巡航を行うなど強硬な姿勢を崩していないが、インターネットでは「なぜ発砲しないのか」「フィリピンごときに負けるな」と言った過激な書き込みが溢れ、主戦論が圧倒的な多数を占めている。(中略)

対峙開始後、中国外務省の劉為民報道官は、中国の立場を繰り返し強調し、口頭でフィリピン側に即刻の撤退を求めた。しかし、劉報道官の姿勢はインターネットで「弱腰」とやり玉に挙げられ、猛烈な批判を浴びている。共産党機関紙「人民日報」が運営しているサイト「強国論壇」では「口調が優しすぎて国民の怒りが伝わらない」「まるでかつての弱い清朝の政府をみているようだ」と言った書き込みが寄せられた。

中国軍に対しても批判が寄せられた。「予算要求の時だけ元気で、今は逃げ腰か」「中国の軍は災害救援だけを担当する消防団になってしまった」と言った厳しい声が集まった。中国とフィリピン双方の海軍が持つ艦船の戦力を比較して、「衝突が起きれば中国軍の圧勝に終わる」との結論を出した軍事マニアもいた。

4月17日ごろ、石原慎太郎都知事が米ワシントンでの講演で、東京都による尖閣諸島購入計画を発表したニュースが中国国内に伝わると、世論はますます過激化し「弱腰の付けが回ってきた」「フィリピンをやっつけないと日本になめられる」といった意見が多くよせられた。中国外務省の日本に対する抗議も「弱すぎる」とされ「東京都に対する経済制裁を」「弱腰外相を更迭せよ」といった意見もみられた。(後略)【4月30日 産経】
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事情はフィリピン側でも似たようなものでしょう。
かつてのアルゼンチンとイギリスの間のフォークランド紛争がそうであったように、激高する国内世論とこれをリードする一部勢力が刺激しあい、政権指導部も次第にひくに引けない状況に陥り、遂には武力衝突に至るというのは、戦争が起きるひとつのパターンです。

もちろん、今回の場合、アメリカを後ろ盾とするフィリピンと中国が武力衝突に至ることは考えられませんが、強硬な国内世論の存在が問題の解決を難しくしているのは同じです。
およそ外交というものは、互いに何らかの譲歩を行うことで解決策を探るものであり、現代のような、そのうち政府の“弱腰”批判に走りやすいメディアやネットの存在という“衆人環視”のもとではなかなかうまく機能しないもののようにも思えます。
独裁者の一存で決定できる、あるいは、詳細は国民には知らされない・・・といった体制の方が、譲歩も問題解決も容易です。

両国が同時に艦船を引きあげればよさそうなものですが、今後同じような操業があったときどうするのか、そもそもこの海域はどちらなの領有なのか・・・ということをはっきりさせないとそれもできないのでしょう。ただ、それを言い出すと永遠に主張は平行線です。
そのうちこの海域で台風でも発生すれば、気象条件悪化を理由に、領有権問題に触れずに両国が同時に艦船を引くということもできるのでは・・・。それまで、にらみ合いを続けますか・・・。

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