孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  スー・チー氏、「国家顧問」として新政権を牽引 難しい軍部との関係

2016-04-09 23:02:30 | ミャンマー

(政権移譲式典で軍幹部らと談笑するアウン・サン・スー・チー氏(中央、2016年3月30日撮影)【3月31日 AFP】 ただ、今後は笑ってばかりはいられません。)

スー・チー氏 軍部反対を押し切って「国家顧問」就任
ミャンマー・スー・チー政権の発足については、3月29日ブログ「ミャンマー スー・チー氏4閣僚兼任でスタート 課題への姿勢 国軍との関係 求められる透明性」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160329で取り上げたところです。

その後、スー・チー氏は兼任していた4閣僚ポストのうち、教育相、電力エネルギー相を別の者に委ねる一方で、新設の「国家顧問」ポストに就くことで「大統領の上に立つ」存在として政権運営を実質的に牽引していくとことを明らかにしています。

****<ミャンマー>教育、エネ相移譲 スーチー氏国家顧問就任へ*****
ミャンマーのティンチョー大統領は4日、アウンサンスーチー氏が兼務する4閣僚のうち教育相、電力エネルギー相を別の人物に移譲する人事案を国会に提出した。

スーチー氏は外相、大統領府相の2閣僚のほか、新設の「国家顧問」にも就任する見通し。実質的な「スーチー政権」であることに変わりはないが、閣僚兼務を減らしスーチー氏の負担を少なくする狙いがありそうだ。

教育相、電力エネルギー相に選ばれたのはいずれも高官経験者。人事案は5日にも承認される。スーチー氏の4閣僚兼務には「負担が大きすぎる」との意見があり、政権幹部も「暫定的な措置に過ぎない」と語っていた。

一方、スーチー氏の国家顧問就任を巡っては、軍人議員から「憲法がうたう三権分立の原則を脅かしかねない」などと、反発の声が上がっている。国家顧問についての法案は1日に上院を通過し、4日に下院に提出された。早ければ5日にも成立する見込みだが、ずれ込む可能性もある。

スーチー氏は旧軍政下で制定された憲法で大統領就任を阻まれている。国家顧問は「大統領の上に立つ」と公言するスーチー氏による実質的な政権運営に法的な根拠を与える狙いがある。【4月5日 毎日】
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新設された「国家顧問」は正副大統領や閣僚、各省庁などに助言する権限を有し、“さまざまな政府機関や個人と連携して国の平和と発展などのために助言し、実行に当たることができると規定されていて、スー・チー氏は議会と政府にまたがる強い権限を手にして、事実上、政治の実権を握ることになりました。”【4月6日 NHK】とのこと。

教育相、電力エネルギー相退任については、当初から経過的な人事とも言われていましたが、「国家顧問」に就任するにあたり、スー・チー氏の負担を減らすねらい、及びスー・チー氏への権限集中に対する批判をかわすねらいがあるものと思われます。

ただ、スー・チー氏の「国家顧問」就任については、軍は「三権分立の原則に反する。国の将来にとってよいこととは思えない」などと強く反発しており、今後、新政権にとって最大の制約事項でもある軍との関係が悪化することも懸念されています。

****スーチー氏与党に軍反発 「国家顧問」新設の採決強行 副大統領より「上位」、懸念か****
ミャンマーの与党・国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首は6日、強い権限を持つ新設の「国家顧問」に就任した。

名実共に新政権を率いる形が整ったが、国家顧問を新設する法案をめぐるNLDの国会運営は軍の反発を招いた。政権発足直後の軍との険悪ムードに先行きへの懸念も出ている。

法案は5日に国会で可決。6日にティンチョー大統領が署名して成立した。成立と同時にスーチー氏は国家顧問に就任した。

だが、下院では5日、国会議席の4分の1を占める軍人議員らが一斉に起立し、法案の採決に抗議した。NLD所属のウィンミン議長は採決を強行。賛成多数で可決したが、軍人議員団は全員が票を投じなかった。採決後、同議員団のマウンマウン准将は記者団に「民主主義を虐げる行為だ」と非難した。

法案は、新政権発足翌日の3月31日に上院に提出された。正副大統領や閣僚、各省庁などに助言する権限をスーチー氏に与えるもので、外相と大統領府相を兼ねるスーチー氏が実質的に政権を率いることを法的に裏付ける狙いがある。

上院の軍人議員らは今月1日の審議で、「憲法違反の疑いがある」として修正を要求したが、NLD所属の議長は即座に採決に踏み切った。下院での審議は4日に始まったが、両院で過半数を握るNLDは「数の力」で国会を通過させた。

NLD幹部は「スーチー氏を政権内で少なくとも副大統領より上に位置づける意図がある」と説明する。軍事政権下で定められたいまの憲法は、亡夫や息子が英国籍のスーチー氏の大統領就任を阻むが、スーチー氏を国家指導者にするのはNLDの悲願だ。

これには軍が強く反発する。憲法に基づき最高司令官が政権内に送り込んだミンスエ副大統領や国防、内務、国境の3軍人閣僚よりスーチー氏が上位になり、「助言」という形で指図できるようになることを懸念しているとみられる。

多くがスーチー氏を支持する国民の間では賛成の声が強い。だが、軍との関係悪化は今後の政権運営や、スーチー氏が掲げる憲法改正を困難にする可能性がある。改憲には国会の4分の3超の賛成が必要で、4分の1の議席を有する軍の同意が不可欠だからだ。

政治評論家のチョーリンウー氏は「NLDも軍の声に耳を傾ける姿勢は示すべきだ。国会で軍が無視されたと感じることが続くと、政権内でも対立が起きかねない」と話している。【4月7日 朝日】
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新政権の初の外交として、4月5~6日に行われた中国・王毅外相の早々のミャンマー訪問への対応がありました。

ミャンマーに対する中国の狙い、両国の今後の関係等々については、また別の機会に触れるとして、スー・チー氏が大統領ではなく外相であることから、外国要人との対応においてやはり変則的なものが出てくるような感も。

もしスー・チー氏自身が大統領であったなら、対応は外相レベルに任せて多忙な大統領自身は特に会談は行わないようなケースもあるでしょう。そういうケースは今後どうするのでしょうか?副大臣みたいな者に任せるのでしょうか?しかし相手は外相ですから、それでは外交儀礼に反します。

まあ、「大統領の上に立つ」変則的な権力構造ですから、対応も変則的になるのかも。

【「スーチー氏への依存」の危険性
結局は、スー・チー氏ひとりで実務から最終決定まですべてをこなすという形になってきますが、スー・チー氏への権限集中と裏側として「スーチー氏への依存」という現象も問題となります。
スー・チー氏も決して若くありません。

****<ミャンマー>スーチー氏依存を懸念・・・・民主化指導者****
ミャンマーで与党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー党首(70)が主導する実質的な「スーチー政権」が始動した。半世紀以上続いた軍人支配に風穴があき、人々は政権のリーダーとなった民主化のヒロインに「変革」への希望を託す。

だが、スーチー氏と並ぶミャンマー民主化運動指導者、ミンコーナイン氏(53)は最大都市ヤンゴンで毎日新聞の取材に「スーチー氏への依存」を懸念した。

 ◇「ミャンマー政権、有能なチーム必要」
ミンコーナイン氏は1988年に本格化した民主化学生運動で先頭に立った。その後、政治勢力「88年世代平和と開かれた社会」を結成し、今も国民から強い支持を受ける。

「レディー(スーチー氏の愛称)はもう高齢だ。人々が彼女だけに頼ってしまえば、いずれ問題が起きる」。ミンコーナイン氏はこう語り、スーチー氏の父アウンサン将軍を引き合いに出した。(中略)

「スーチー政権」は軍人優位の憲法改正など「真の民主化」に向け国軍との難しい駆け引きに挑む。そこで懸念されるのが、スーチー氏一人のカリスマと能力に頼った党組織の脆弱(ぜいじゃく)さだ。

NLD議員のほとんどが政治経験に乏しく、スーチー氏自身も「玉石混交」と漏らす。今のところスーチー氏が外相などを兼務しているのも人材不足の裏返しだ。

閣僚人事では新計画・財務相に選ばれたチョーウィン氏に学歴詐称騒動も起きた。ミンコーナイン氏は「軍がほかの勢力に対し組織として力をつけるのを邪魔してきたゆえの問題だ」と述べ、スーチー氏には「信頼できる有能なチームが必要だ」と訴えた。

スーチー氏はトップダウンで党組織の引き締めを図るが、一方で次世代を担うリーダー候補は育っていない。

NLDは昨年11月の総選挙で88世代の有力者コーコージー氏(54)らを候補者リストから除外。「スーチー氏が自分以外が党内で力を持つことを嫌ったのでは」(少数野党幹部)との臆測も流れる。

ミンコーナイン氏は「私は関わっていない」とこの問題への言及を避けつつ「ライバルにならないよう努力することはできる。いま最も大切なのは(軍人支配からの)スムーズな移行だ」と語った。【4月5日 毎日】
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政治の変化を印象付ける政治犯釈放 しかし軍部との関係で、今後の人権状況改善を疑問視する向きも
内政面の取り組みとして、汚職対策も実施されています。

****贈り物」規制、ゴルフ会員権禁止=汚職対策でスー・チー氏―ミャンマー****
ミャンマー大統領府は4日、公務員の「贈り物」受領を規制する指針を公表した。指針はアウン・サン・スー・チー大統領府相の署名入りで、利害関係者から現金や金、貴重品を受け取ることや、無償で食事やゴルフ会員権の提供を受けることを禁じている。

ミャンマーはNGOがまとめた2015年版「汚職番付」で清潔度が147位に低迷するなど、汚職対策が大きな課題。指針は「賄賂や汚職は社会や経済、法の支配に影響を及ぼす恐れがあるため、効果的に取り組む必要がある」と指摘している。

指針によると、公務員は2万5000チャット(約2300円)未満相当の贈り物を受け取ることはできるが、一個人・組織から受け取れる贈り物は年間で総額10万チャット(約9200円)相当までとなる。【4月4日 時事】 
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これは今後のミャンマーの健全な発展にとって非常に重要なことですが、軍部関係者が広範な経済活動を支配し、その利益を独占している構造にメスを入れない限り、汚職・腐敗の一掃は実質的には実現できないでしょう。

軍部の巨大な権益にメスを入れられるか・・・今後の最大の注目事項のひとつです。焦って関係悪化を招くと、社会混乱の鎮静化等を名目にした軍の介入を招くことにもなります。

政権が変わったことを印象づける施策としては、政治犯釈放も。

****ミャンマー、学生活動家69人釈放 スー・チー氏方針表明の翌日****
新政権が発足したミャンマーで8日、国家顧問に就任したアウン・サン・スー・チー氏が約束した政治犯釈放の第一弾として、投獄されていた学生69人が釈放された。

ミャンマー中部タラワディの裁判所は、昨年3月に行われた教育政策をめぐるデモで警官隊と衝突し身柄を拘束されていた学生活動家らに対し、訴追手続きを中止し釈放すると宣言。法廷は歓喜に包まれた。今後、さらに数十人が釈放される見通しだ。

ミャンマーでは半世紀に及んだ軍政の抑圧的な体制の下で多くの活動家が拘束され、現在も政治犯として公判を待っている。スー・チー氏や与党・国民民主連盟(NLD)の国会議員らも、かつて軍政下で民主化活動を理由に政治犯として拘束された経験をもつ。

スー・チー氏は7日、新政権の優先課題として、こうした活動家らを釈放する方針を表明していた。【4月9日 AFP】
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“人権団体によると、ミャンマーではテイン・セイン前政権時代に1100人以上の政治犯が恩赦で釈放された。しかし、現在も収監中の政治犯が約100人、裁判待ちの学生活動家らは400人以上いるという。”【4月7日 時事】という状況にあって、スー・チー氏は8日の声明で、残る政治犯の釈放はミャンマーの新年休暇明けの今月下旬以降になるとの見通しを示しています。

ただ、この政治犯釈放、より広く言えば人権尊重については、軍部と関係で、どこまでスー・チー新政権が現実のものとできるか懐疑的な見方もあります。

****ミャンマー新政権も、「人権」は期待薄****
ー定の民主化は進んだが、半世紀ぶりに誕生した文民政権に軍部を抑える権限は極めて限られている

ミャンマー(ビルマ)が民主化に動き始めたばかりの12年11月、ヤンゴン大学のホールは大勢の聴衆で埋め尽くされていた。彼らが待っていたのはバラク・オバマ米大統領。

僧侶のガンビラは最前列で、オバマの歴史的な演説に耳を傾けた。
それはミャンマーにもガンビラにも、大きな意義のある瞬間だった。

ガンビラはその5年前、軍政に反対する「サフラン革命」と呼ばれる全国的な抗議運動を率いていた。当局の取り締まりによって、彼をはじめ多くの反軍政派指導者が収監され、ひどい拷問を受けた。

だから、ガンビラが恩赦により釈放されて問もなくオバマの演説を聴くことを許されたのは、大変な出来事だった。ミャンマーに重大な変化が訪れる予兆に見えた。米外交当局者が好んで言い立てる外交のサクセスストーリーかもしれなかった。(中略)

ガンビラはその夜、オバマと記念撮影をした。そして数週間後、再び身柄を拘束された。(中略)ガンビラの場合は、拘束と釈放を繰り返している。(中略)

ガンビラが刑務所に再び送られたことからも分かるように、ミャンマーでは民主化が始まって以降、人権をめぐる状況は迷走し、ともすれば後退してきた。

一部に実質的な進展が見られた一方で、軍とその配下の機関によるひどい権利の侵害が続いているのだ。

そんな危機がかすむような出来事もあった。アウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)の総選挙での勝利と、彼女の側近だったテイン・チョーの大統領就任だ。一連の動きにより、ミヤンマーは民主化に向けてさらに前進しているという見方が出てきた。

期待が高まる一方で、改革の先行きには限界もある。例えば、新政権には軍の権力乱用を阻止する権限がほとんどない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの報告によれば、新政権は不当に拘束された政治犯の一部に恩赦を与えることはできるかもしれないが、政治犯が釈放されては再逮捕されるという状況に歯止めをかけられない可能性がある。

政治犯の再逮捕を阻止する上で、NLDが直面する大きな関門が憲法の規定だ。前軍事政権が作成し、08年の国民投票(不正操作があった)で承認された憲法は、内務省が管轄している警察などの主要機関について、軍の支配権をはっきりと認めている。

そのためNLD政権は、どの抗議行動を当局が「承認」するかという点に発言権を持っていない。警察が「望ましくない」と見なす抗議行動に携わった者は誰であれ、政府が反対したとしても国家当局に逮捕される可能性がある。

さらに、治安当局が「安全上の脅威」と見なせば、一部の政治犯の釈放が阻止される可能性もある。

アムネスティ・インターナショナルのローラ・ヘイグは、ミヤンマーの内務省とその支配下にある治安当局について「軍が最終的な支配権を握っているという状況は、極めて懸念される」と語った。「政治的な逮捕と収監を終わらせるために、新政権がどこまでやれるのかも不透明だ」

軍に切り札が多過ぎる
NLDは活動家の弾圧に利用されている一部の法律について、変更や修正を試みることはできるだろう。しかし、そうすれば政治的対立を引き起こし、軍の術中にはまる危険がある。国家的な危機が起きた場合、軍は国家安全保障会議を通じて一時的に民主的統治を中断できるという規定があるからだ。

軍がこれほど多くの切り札を持ち、議会が対抗できない構造が続く限り、政治犯の逮捕は今後も続く可能性が高い。法改正を試みたり、軍による権力乱用を阻止しようとするNLDの取り組みは、外部の強い支援がなければ成功しないだろう。

こうした状況を受けて人権団体は、諸外国がミャンマーの人権状況の悪化を認識し、圧力を強めるべきだと主張している。

「国際社会はミャンマーの人権状況を『サクセスストー』と持ち上げるのをやめるべきだ。実際にはここ数年で、弾圧は著しく増えている」と、ヘイグは指摘する。(中略)

新政権の権限が限られていることを考えると、改革が停滞したなら、それは同盟諸国による無視が大きな要因となるだろう。改革が停滞すれば、新たな「ガンビラ世代」が生まれる。彼らも同様に非人道的な扱いを受け、その後は国際社会に無視されることになる。

これはあり得ないシナリオではない。国際社会の自己満足の果てに、民主化促進の取り組みが頓挫した国は数多い。ミャンマーがそのリストに加わる可能性も決して小さくない。

欧米諸国は戦略的な理由から、軍の権力乱用に気付かないふりをするかもしれない。歴史をたどれば、そんな前例はたくさんある。【4月12日号 Newsweek日本版】
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国際社会がミャンマーの人権状況の推移に関心を持ち続けることは重要ですが、それが新政権と軍部との性急な対立を導いたり、あるいは逆に、新政権が軍部との“取り引き”“妥協”を行うことへの批判となって新政権の手足を縛るようなことになっても困ります。難しいところです。

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