孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オランダ 「自由と寛容」の国での反移民感情の高まり

2017-01-26 22:31:31 | 欧州情勢

(独西部コブレンツの集会で21日、国旗が振られる中、登壇した欧州の右翼政党の党首ら 中央金髪男性がオランダ「自由党」のウィルダース党首 前列左端女性がペトリ「ドイツのための選択肢」党首、その横がフランスのルペン「国民戦線」党首 【1月23日 朝日】)

EU崩壊に向けた「リードシープ(先導羊)」となる可能性
昨年決まったイギリスEU離脱に関する交渉が本格的に始まる今年は、EUにとってはその存在が維持されるのか、あるいは否定され崩壊に向かうのか・・・重要な1年になります。

それは単にEUという組織の問題ではなく、世界の政治動向を決定するものでもあります。
アメリカのトランプ政権誕生に加え、EUが崩壊・機能不全に陥ることになると、「自国第一」のポピュリズム・あるいは極右的排外主義が世界政治の主導権を握り、一方で中国・ロシアもその影響力拡大に手段を選ばない・・・・という、むき出しの自己中心主義・不寛容が世界を覆い、弱肉強食の世界ともなります。

そこにあっては、人権とか民主主義といったものは殆ど顧みられることもありません。
「自国第一」の国家間のせめぎあいは、武力衝突の危険性をも高めます。

そうした「悪夢」に向かう重要な年にあって、特に4月から5月に行われるフランス大統領選挙と、9月のドイツ総選挙が決定的な意味を持つことは再三取り上げてきましたが、それに先立って3月に行われるオランダの総選挙も“オランダが(羊の群れを先導する)鈴付き羊となる可能性”と言う点で非常に重要です。

ドイツのガブリエル経済相は26日、「欧州の敵(ポピュリスト)が再びオランダまたはフランスで成果を上げれば、われわれはEU崩壊の可能性という脅威に直面することになる」と警告しています。【1月26日 ロイターより】

ドイツにとっては、自国選挙の前にオランダ・フランスで流れができてしまうと非常に苦しいものがあります。

フランスでは極右ルペン氏を抑えると思われている保守派フィヨン氏に、夫人の不正給与疑惑が出ています。

オランダでは、ウィルダース氏率いる極右政党が世論調査ではトップに立っており、オランダがEU崩壊に向けた「リードシープ(先導羊)」となる可能性が高まっています。

****オランダ総選挙、欧州極右に吉と出るか****
3月の選挙で欧州各国の先導役になる可能性も

今もネット上で売買される有名な1962年の航空会社のポスターは「慎重で時間厳守のオランダ人」の「信頼性」をうたっている。オランダは落ち着いた寛容さや親ビジネスでも定評があり、調和の取れた合理性というイメージの国だ。
 
しかし不合理さの時代を迎え、それが現実にかき消されつつある。3月15日に行われるオランダ総選挙に向け、世論調査では一貫してヘルト・ウィルダース党首率いる極右政党「自由党」がリードを保っている。
 
人種差別をあおったとして先月有罪判決を受けたウィルダース氏は、反イスラム・反移民・反欧州連合(EU)を掲げ、マリーヌ・ルペン党首率いるフランスの極右「国民戦線」やドイツの新興政党「ドイツのための選択肢(AfD)」とともに欧州極右勢力の一端を担う。両党はそれぞれ5月7日、9月24日の国政選挙でカギを握る存在に浮上している。
 
最多の議席を得ることで必ずしもウィルダース氏が政権の座に就くわけではないが、EU発足以来の加盟国でトップの支持を獲得すれば、他国の極右政党がそれぞれの選挙戦でまともさをアピールしやすくなるだろう。

特に不透明な政治状況の下で再選を目指すアンゲラ・メルケル独首相はぎょっとするはずだ。ウラジーミル・プーチン露大統領は欧米諸国、さらには西側という概念に亀裂を生じさせることへの自信を深め、ドナルド・トランプ米新大統領は欧州が結束しようが解体しようが米国には関係ないという考えを一段と強めるだろう。
 
2017年に欧州で続く重要な選挙を前に、米新大統領は欧州の不安定さに拍車をかけている。米国の状況を「殺戮(さつりく)」と呼ぶトランプ流の誇張表現は、欧州の極右勢力が自国で否定的主張を大げさに訴えるための正当性と推進力を与えるからだ。

「途方もない負の影響」
トランプ氏の就任演説でのアルマゲドン(終末の大決戦)風の論調は、オランダ人のアイデンティティーがイスラム教の重圧を受けて消滅の危機にあるというウィルダース氏の主張を強化することになった。(中略)
 
オランダの新たな不合理さには強力な政治的前例がいくつかある。
直近の例では、昨年行われたEUとウクライナの「連合協定」の是非を問うオランダの国民投票で「反対」票が上回った。(中略)

ウィルダース氏は結果的に自らが訴える基本的テーマの2つを結びつける好機を得た。EUへの懐疑論と、高潔さとはき違えたオランダの寛容さはもうやめるべきだという主張だ。
 
本人たちは隠したがるが、ウィルダース氏とルペン党首にはEU離脱という共通見解を超える大きな違いがある。(中略)
ウィルダース氏の方がより終末論者に近い。21日、AfDの呼びかけでドイツに極右指導者が集結した際、ルペン党首の隣に着席したウィルダース氏は、2017年が「イスラム化を容認する」政治家から欧州を「解放する」年になると予言した。

断崖に向かう欧州の先頭に
先週の世論調査を集計すると、同氏が率いる自由党は2位につける与党・自由民主党(VVD)を2~6議席リードする。これは政権を奪取するのに十分な差ではなく、投票結果をもとに他の政党が連立政権を樹立することも考えられる。(中略)

ルッテ首相は実際、23日に相手の縄張りに踏み込む行為に出た。(中略)
 
しかし今のオランダの有権者はそんなことに目もくれず、政治のルールを守ることは報われない美徳となりつつあるため、オランダが(羊の群れを先導する)鈴付き羊となる可能性はある。
 
身のすくむような断崖に向かう「欧州」という羊の群れの、文字通り「リードシープ(先導羊)」となるのだろうか。【1月25日 WSJ】
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首相が移民批判の意見広告
上記記事で、ルッテ首相が“相手の縄張りに踏み込む行為に出た”と言っているのは、排外的な主張のウィルダース氏に支持者が「流れている」状況で、政権与党自身が移民に対する厳しい姿勢を示すことで、この「流れ」を止めようとするものです。

****<オランダ>首相が主要紙に意見広告 移民批判示唆で波紋****
反移民を旗印に政権批判を繰り広げる極右の自由党への支持が広がるオランダで、ルッテ首相が「普通に振る舞え。さもなければ国を出ろ」と訴える意見広告が主要紙に掲載され、波紋を呼んでいる。

オランダの価値観に従わない移民系住民への批判を示唆する内容で、3月に下院選を控えて極右勢力支持層の取り込みを狙ったものとみられる。
 
意見広告は23日付のアルヘメン・ダフブラット紙などに掲載された。ルッテ氏はこの中で「自由のためだけに我が国に来た人々がそれを乱用して問題を起こしている」と指摘。同性愛者や短いスカートの女性が非難されているとの例を挙げて、「この国を根本的に否定する人は出て行った方がいいという考えはとても理解できる」と述べた。同性愛や女性に抑圧的な一部のイスラム教徒系移民を示唆して批判する内容だ。(中略)
 
自由党のウィルダース党首は意見広告を受けて「国民をだますのはやめろ。我々の自由と安全、文化を奪ったのはあなただ」と反論するビデオをユーチューブに投稿した。【1月24日 毎日】
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選挙結果がどうなるかにかかわらず、移民に対してはすでに厳しい姿勢が強化されつつあります。

対移民感情変化の背景には、“社会参加”を前提する方向への福祉制度の変化、“コミュニケーション能力”を求める産業構造の変化
「自由と寛容」を重んじる国という従来のオランダのイメージと、現在の極右・自由党の台頭、首相の厳しい意見広告といった現実が、結びつきにくいところがあります。

『反転する福祉国家ーオランダモデルの光と影』の著者、水島治郎氏(千葉大学法経学部教授)は、オランダの経済・福祉制度・対移民政策の変遷について、以下のように語っています。

****オランダの光と影:寛容と排除は何によってもたらされたか?****
・・・・ところでオランダモデルにより活況を見たオランダですが、以前は「オランダ病」と言われ、福祉の手厚さが財政負担を生んで、経済は低迷していたそうですね。
(水島)1970年代に整備された福祉制度は非常に手厚くて、たとえば会社員がスキーで骨を折って働けなくなったとしたら、それで2、3年休んでも給料の80%は保証されていました。
ところが1970年代のオイルショックで企業業績が悪化し、失業率が高まりました。(中略)1980年代に入ると、さすがにこれでは支えきれないという事態になりました。

日本だと、激しいバッシングが起きて生活保護給付額を引き下げるような話になりましたが、オランダではどうやって労働市場から出た人にもう一度働いてもらうかというときに、鞭だけではどうにもならないという議論になり、公的事業による職業紹介サービスや職業訓練を保証する施策が行われました。1990年代にそういうことをやったおかげで、経済が上向きになったのです。

失業しても悠々暮らせたときのオランダの産業構造にはどういう特色があったのですか?
(水島)1970年代後半から1980年代前半は製造業からサービス業への転換時期でした。社会福祉に充てられた潤沢な資金は、北海油田という天然ガスのあがりのおかげでした。それがオイルショックでダメージを受け、造船業をはじめとする製造業が打撃を受け、サービス業への転換が起きた際、手厚い福祉給付が重荷になり始めたというわけです。

オランダは小国なので対応が早く、そのため労働組合もパートタイム労働や女性の登用を促進し、企業側もサービス業に対する重点化を行いました。グローバル化を迎えたときは大国より小国のほうが身動きがとりやすいのです。

(中略)オランダは政労使の協議もあって迅速に制度を変えられるし、そのため安楽死や売買春の自由、同性間の婚姻が90年代に合法化されました。それも小国らしい機敏さゆえのことでしょう。

それらも他国では論争を呼ぶ議題ですが、国民的な合意が得られたのでしょうか?
(水島)キリスト教系の信者のコアな人からは批判はありますが、都市が国の中心であるので都市的な文化が強い。そのため個人の自由を重んじる傾向が強いので、賛成が多数を占めていると言えます。

都市的な個人の自由の尊重が国レベルでもあるということでしょうか。その寛容さが以前は移民に対しても同様にあったわけですね?
(水島)はい。ヨーロッパでは少子化は日本より早く訪れ、第二次大戦後の経済発展期にすでに国内労働力は不足していました。日本は農村の余った労働力が都市に流入することで十分足りました。だから大都市の近郊に多数建てられた公団住宅は、まさにそのような労働力の受け皿だったわけです。

ところがヨーロッパでは国内では労働力を確保できず、オランダでは1950年代から旧植民地や地中海地域から大量に労働者を受け入れ、工業労働に従事させました。そのときにはオランダ語が話せるかどうかは問われない。ただ若くて元気があればそれでよかったし、モロッコやトルコのイスラム教徒でも問題なかった。いずれ帰るからそれで問題ないと思っていたのです。

家族を呼び寄せるとか婚姻の相手を招くとか考えていなかった?
(水島)そうですね。トルコやモロッコでは仕事がありませんから、故国に戻るよりもオランダに留まることを選んだのは当然でしょう。労働力が足りていないところに人が移動するのが普通ですから。日本人が戦前、アメリカやブラジルに大量に移民したのと同じです。

移民でも福祉は手厚く保障されたのですか?
(水島)オランダの社会保障は国民であることが要件ではありません。住民として認められていたら社会福祉を受ける権利があります。だから移民たちが1970年代の産業構造の転換で失業したのなら、出身国へ帰るよりもオランダで暮らすことを選ぶし、子供が生まれたら社会保障を受けながら生活をしていくことが合理的な選択でした。

国民であることが要件ではないとしたら、オランダ社会のメンバーシップとはどう考えられているのでしょう?
(水島)1980年代はリベラルな時代でトルコ、モロッコ系が定住して次世代が生まれてきた時代では、多文化主義を掲げていました。さまざまな文化の共存を理想とする流れがありました。それが1990年代に入り変わりました。福祉改革により仕事職業を探す努力をしないと生活保護や福祉給付がもらえなくなったのです。

そこで質問に答えるとしたら、「なんらかの形で社会に参加するという意思を見せた人」ということになるでしょうか。そういう努力をする人に恩恵としての福祉を与えるというわけです。

こうした変化の背景には「移民たちは一方的にオランダ社会に依存しているだけではないか」という批判があります。「彼らはトルコ語やアラビア語を話し、集住地区を形成し、オランダ社会に溶けこまないし寄与しない」。福祉政策の変化が彼らの見方にも影響を与え始めました。

求められる労働に参加しない集団が異物に見え始めた?
(水島)かつては住民として何年も住んでいるというだけでよかったのですが、1990年代以降、オランダ社会に対する理解やコミュニケーション能力が求められるようになり、2000年になると試験が行われるようになりました。文化、言語とその背後にある宗教が実は社会のメンバーシップとなる大きな条件になっていったのです。

移民排除の施策は、ヨーロッパ各地で見られるネオナチの動きと関連しているのですか?
(水島)それだけでは言い尽くせないところがこの問題の難しいところです。たんなるゼノフォビア(外国人嫌い)でもない。もちろん背景にあるのでしょうが、1960年代は外国人労働者を歓迎していたように、ゼノフォビアが現れるかどうかは、状況に依存するのであって、直接的に結びついているとは言えません。なぜゼノフォビアが力を持ちえたかを説明しないといけない。

外国人排除や移民批判といえば、オランダの政策転換は、いわゆる排外主義から来る暴力的なものをイメージしがちですが、そういうのでもないのです。いまのオランダの反移民政党制度は、良くも悪くもクリーンなところがありで、だからこそ問題でもあります。

つまり、彼らはデモクラシーを否定するわけではない。彼らの主張はこうです。
「ヨーロッパの培ってきた啓蒙主義的な価値や民主主義、人権を守るべきある。しかし、これを脅かすのがイスラムだ。彼らは政教分離を認めない。男尊女卑で女性にスカーフを強いる。同性愛の権利を認めない。こんなイスラムを認めていいのか」。これにはネオナチに対して「冗談ではない」と反対していた人も頷いてしまう。

これが現在浮上しているヨーロッパのポピュリズムや既成政党の反移民的スタンスの背景にあります。それが怖いところであり手強いところなのは、中道的な政党は既にこういった主張を事実上ほとんど共有しているからです。

移民に際してのテストといい、一見すると普遍的な価値観を軸にしたものだけに反論しにくいですね。
(水島)結局、オランダ以外の国も真似をして導入しています。試験そのものは難しくないけれど、移民の抑制効果が大きいものがありました。

抑制したいということは、すでに労働力は足りているのですか?
(水島)いまなお先進国では、労働力の確保は重要な問題です。しかし、そのために外国人労働者を積極的に受け入れるとすれば、それは先端的な産業やファッション、IT、メディア、アート、建築といった分野に限ってです。つまり多国籍企業や先端産業の労働者の受け入れには積極的です。

けれども、そういった特別な能力をもっていない人との間に明確な選別があります。一定の収入が見込める人は審査を簡素化していますが、それ以外は引き伸ばしています。あきらかな労働市場戦略があります。イスラム世界からの移民は基本的に難しいでしょう。

かつては宗教も言語も問われなかった。いまそれが重視されているとは、産業構造の変換が関係してそうですね。
(水島)工業労働では言語も宗教もほとんど関係なかったけれど、サービス業やケア労働金融といった常にコミュニケーションを取りながら働く形態になると、そこが問題になってきます。コミュニケーション能力があって、しかもヨーロッパの作法をわきまえている必要があるのです。(中略)

いずれにせよコミュニケーションが重要視され始めたのはポスト工業社会の象徴と言えます。(後略)【1月25日 MAMMO.TV】
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手厚い福祉制度に便乗しているように見える移民への反感は、福祉政策の変化、産業構造の変化、“コミュニケーション能力”という必要とされる労働力の変化とも関連しているようです。

なお、極右・自由党の台頭に見られる移民排斥的傾向の一方で、オランダ社会には難民保護への細やかな配慮も存在します。

****オランダ政府、LGBTの難民向けアプリ配信開始****
オランダ政府は、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の難民が、自らの権利や健康状態、身の安全に関する情報を簡単に調べることができる新しい携帯電話用アプリ「レインボー・レフュジーNL」の配信を開始した。
 
イェット・ブッセマーカー教育・文化・科学相は23日の声明で「例えばオランダでは(LGBTに対する)差別について苦情を申し立てることができることを、多くの難民は知らない」と述べた。
 
米アップルの「iTunes(アイチューンズ)」でダウンロードできるこのアプリでは、LGBTの難民の権利、オランダでの難民申請の方法、支援機関の案内、健康状態や身の安全に関する情報を、英語、フランス語、アラビア語、ペルシャ語で調べることが可能だ。(中略)

オランダ議会は昨年3月、LGBTの難民向けの特別な避難施設を提供について可決した。LGBTの難民が殺しの脅迫を受ける、服を燃やされる、ベッドが排せつ物や腐った食べ物で汚されるなどの問題が発生していた。

オランダは世界で初めて同性婚を合法化している。ブッセマーカー教育・文化・科学相は「ここ(オランダ)で罰せられるのは同性愛ではなく、差別だ」と述べた。【1月24日 AFP】
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どんな社会でも多面的構造を持っていますので、ひとつの視点からの単純化には注意する必要があります。
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