孤帆の遠影碧空に尽き

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中国  「愛国不買運動」への批判 習近平政権の言論弾圧と「無謬性」 洪水被災地市長の「日本式謝罪」

2016-07-25 22:08:09 | 中国

(23日、中国河北省では今月18日から21日にかけて続いた豪雨により洪水や土砂崩れが発生している。被害が集中したケイ台市の董暁宇市長は、市民の生命や財産を守れなかったとして謝罪し、応急措置の能力が足りなかった関係幹部を停職処分にしたと発表した。【7月24日 Record China】
日本では見慣れた謝罪の光景ですが、過ちを犯すことははないという「党・指導者の無謬性」にこだわる中国にあっては異例のこととか。)

【「愛国不買運動」に批判的なネット世論やメディア
南シナ海を巡る仲裁裁判所の判決を受けて、中国国内ではケンタッキーフライドチキンなどで「日米韓比の製品ボイコット」を訴える現象が起きていることが報じられていましたが、現在・今後の状況はどうなのでしょうか?

よくわかりませんが、当初からこうした「愛国不買運動」に対してはネット上では批判的な声が多くあがっていました。

****日米韓比の製品ボイコット!」中国各地で運動も、ネットでは批判****
・・・・こうした運動は中国版ツイッター・微博(ウェイボー)でも大きく取り上げられているが、多くのネットユーザーは批判的な見方をしているようだ。

財経網の微博アカウントが伝えた記事には1万件余りのコメントが寄せられており、「いいね」が多いコメントは
「ボイコットすべきは日米韓の製品ではなく愚か者」
「ケンタッキーがなくなったらどこで用を足せばいいんだ?(中国では店舗が多い)」
「明らかにある組織の差し金。黒幕をつかまえて裁け。ちょっとでも常識がある人なら、どこかの国の製品をボイコットするなんていうことが愚かな行為だとわかっているだろう」などとなっている。

このほか、
「最近、愛国精神病が流行しているようだ」
「この程度とはね。大国としての今後が思いやられる」
「愛国主義の皮を被った知能レベルの低いやつらだ」
「中で働いているのはみんな中国人なのにね」「騒ぐ前に自分たちのスマホをまず破壊しなさい」といった批判コメントや、
「メディアはなぜ裏で糸を引いている者について報じない?」
「中国共産主義青年団はこの責任を取れるのか?」といったコメントも出るなど、批判が多数を占めている。なお、官製メディアも自制を呼びかける記事を掲載している。【7月20日 Record china】
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こうした「愛国不買運動」の発起人の一人が、米アップル社のスマートフォン、iPhone 6を使用してネット上で呼び掛けを行っていたとして嘲笑の対象にもなりました。

****中国「KFCボイコット」発起人、iPhoneユーザーと暴露される****
・・・・(仏RFI)記事によると、ボイコット活動の発起人の一人とされるのが、中国社会科学院国家文化安全・イデオロギー建設研究センター副主任という肩書を持つ朱継東(ジュウ・ジードン)氏。

朱氏は、同センターの中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」公式アカウントの「中の人」とされているが、このほど「ケンタッキーボイコット」などを呼び掛ける書き込みがiPhone 6を使用して投稿されたものであることを、めざといネット民によって暴露された。

ネット上には「米国製スマホでケンタッキーボイコットを呼び掛ける。朱先生はどんな気分なんだ」などの声が上がっている。【7月20日 Record china】
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共産党機関紙・人民日報も「このような『愛国行為』は、逆に社会や国家に害をもたらす」とする評論を掲載して、不買運動の拡大を警戒しています。

ただ、KFCやiPhoneへ抗議する群集のなかには多くの私服警察官もいるとのことで、当局としてはっきりと抗議行動を抑制することも行っていないようにも見えます。火の粉が自分たちに降りかかるのが怖いのでしょうが。一定に“ガス抜き”に役立つ程度には容認するという姿勢でしょうか。

****3千人がスマホ専売店囲み「米製品排斥」・・・・中国****
香港フェニックステレビのニュースサイトによると、江蘇省徐州市で19日夜、約3000人が米アップルのスマートフォン「iPhone」などの専売店を取り囲み、「米国製品排斥」などを叫ぶ騒ぎが起きた。
 
南シナ海の仲裁裁判判決を巡り、中国政府が米国や日本に批判の矛先を向ける中、中国国内で数千人規模の抗議活動が確認されたのは初めて。
 
騒ぎは、同店に近いケンタッキー・フライド・チキン店前で始まり、首謀者が「アップルの携帯電話を追い出せ」と拡声機で叫んだ後、数十人が店内に押し入った。破壊行為はなかった。群衆には100人以上の私服警察官が交じっていたといい、当局の監視下で行われたとみられる。【7月21日 読売】
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大手ニュースポータルサイト「捜狐」などでは、もっと踏み込んだ抗議運動批判の論調も見られます。

****日本製品ボイコットは愚かなこと・・・「道理」を忘れるな=中国報道****
中国では今なお日本製品のボイコットを呼びかける声が根強く存在する。だが、中国メディアの捜狐はこのほど、日本製品ボイコットは中国人にとって良いことではないと指摘し、その理由について説明する記事を掲載した。

記事は、古代中国の思想家である孟子の思想が記された滕文公章句(とうぶんこうしょうく)という書には「通功易事(つうこうえきじ)」という言葉があると説明。

これは交換を通じて、交換者の双方が自らの状況を改善することができるという考えを含んでいると指摘し、「市場における交換は一方だけが勝者なのではなく、双方どちらも勝者である」と記事は強調した。

続けて、「多くの中国人はこの道理を忘れている」と指摘する一方、中国の一部の地域では「破壊した日系車を戦果として認識する風潮すら存在する」と批判したうえで、「中国で製造された日系車には中国メーカーの部品も数多く使われている」と指摘。従って「日系車を破壊することは、中国製品を破壊することでもある」と論じた。(後略)【7月21日 Searchina】
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****愛国無罪は誤り!愛国とは中国人にとって利益になる行為だ=中国報道****
オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海問題で中国の領有権に関する主張を退けたことで、一部地域では米国製品の不買運動や抗議活動が発生した。そんななか、中国メディアの捜狐は「真の愛国心を持っているならば、米国製品をたくさん買うべき」と論じる記事を掲載した。

中国では「愛国」という名のもとならば、常軌を逸した行動でも許されるといった風潮がある。だが記事は「愛国」とは、中国の土地を愛することや中国政府を愛することではなく、「中国人民を愛すること」であると指摘。さらに、愛国主義に基づく行為は中国人に対して行われることであると同時に、「大多数の中国人にとって利益になる行為を指す」と定義した。

そして愛国は「盲目的な行動ではなく、知識が必要となる」と述べている。つまり日本製、米国製という理由だけで破壊や不買を行うことは、大局的な視野に立って見た場合は中国にとって弊害でしかないという意味だ。

それでは、なぜ米国製品を買うべきなのだろうか。
まず第一に、米中貿易は双方にとって利益であること、第二に、競争は企業の成長に必要であることだという。第三に、経済が一体化しており、米国企業の製品であっても、日本の技術を用いて中国で組み立てられていたりと、現在のグローバル社会では多くの国が相互に関わりあっているため、米国製品を購入することは中国企業の利益にもつながると論じた。

さらに記事は、中国で米国製品が売れれば、米国企業の対中投資も増えるとの見方を示した。中国は積極的に日本や米国からの投資を受け入れて発展してきた経緯があり、今後の発展のためにも海外からの企業投資は不可欠だ。愛国主義の名のもとで見られる中国国内における短絡的かつ誤った行為に対して、冷静になるよう警告する内容と言えるだろう。【7月25日 Searchina】
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言論の自由を封殺する習近平政権
こうした冷静な論調が展開されていることは心強いことですが、一方で、習近平政権は政府批判につながりやすい自由な言論の統制を進めており、上記「捜狐」も対象に含まれています。

****中国、複数のニュースサイトを閉鎖 「独立した報道」を問題視*****
中国当局は、独立した報道を行いデリケートな問題になり得るテーマに関する記事を発表したとして、複数のオンラインニュースサイトを閉鎖した。
 
25日付の国営・新京報によれば、大手ニュースポータルサイトの「新浪微博(Sina Weibo)」や「捜狐(Sohu)」、「網易(NetEase)」、「鳳凰(iFeng)」などが、自由な論調で知られる政治・社会関連のニュースサイトやソーシャル・ネットワーク上のアカウントを閉鎖した。

これに先立ち中国のインターネット規制当局は、こうしたサイトが「法律や規制を違反した活動を多数行っている」として厳しく非難していた。
 
新京報は、これらのサイトが「独自に収集し編集した大量のニュース報道をアップロードして公開」しており、「特に下劣な影響」を与えていると批判する、ある高官の談話を匿名で引用している。またサイトには罰金が科されているとしているが、詳細には触れていない。
 
中国では、民間のニュースサイトのジャーナリストらに取材が許可されているのはスポーツと娯楽行事のみで、政治や社会に関するよりデリケートなニュースについては、新華社(Xinhua)通信など国営メディアが発表した報道を使うことが義務付けられている。
 
しかし、ハイテク時代を反映して独自取材による報道が増え、ホットな話題が毎日変化する中、商業的な利益を追う一部サイトは、独自の取材チームや調査報道のためのチームをつくっている。【7月25日 AFP】
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不買運動への批判なども「法律や規制を違反した活動」に含まれるのかどうかは知りませんが、いずれにしても自由な議論が抑圧されることで、冷静さを欠いた抗議行動や、当局が後ろで糸を操るような活動の歯止めがなくなることが懸念されます。

【「党・指導者の無謬性」へのこだわり
日本政府を含めて、どこの政府もジャーナリズムから批判されることを嫌いますが、一方で、多くの民主的な国にあっては、そういう批判が民主主義にとって必要不可欠なものであるとの認識はあります。(多分・・・)

しかし、「党・指導者の無謬性」にこだわる中国共産党にあっては事情が異なります。

****裁定が出ても中国が一歩も引くわけにはいかない理由****
「無謬性」の虜となった習近平
・・・・問題は、中国はいかなる裁定が出されようとも、南シナ海問題で一歩も引かない姿勢を貫く意思を明確にしていたことである。

そこまで中国が決意した背景は何なのか。
それは「党・指導者の無謬性」へのこだわりであり、ひいては習近平主席を「常に正しい判断をする指導者」であることを確保するためであったと言っていいだろう。

「無謬性」にこだわり過ぎて政策が硬直化
(中略)中国では、現在に至るも「無謬性」の神話が生きている。毛沢東は死後、文化大革命の責任を問われたものの、1981年の歴史決議で「功績第一、誤り第二」の結論となった。鄧小平に関しては、1997年に死去して今年で19年になるが、依然として1989年の天安門事件の責任さえ正式に問われてはいない。

では習近平の場合はどうか。「中華民族の偉大な復興」を「中国の夢」であるとする習近平主席は、東南アジアの「小国」に蚕食された南シナ海、とりわけ南沙諸島を「取り戻す」ことが自らに課せられた歴史的使命であるとともに、東アジア地域秩序を形成する盟主としての中国の地位確立にとってもきわめて重要な事業であると位置づけた。

そのために、これまで台湾やチベットなど「分離独立」の気配のある地域に限って使っていた「核心的利益」という修辞を南シナ海にも援用し、「領土主権に関わる問題について一切譲歩しない」姿勢を明確にしてきた。

つまり習近平政権は、南シナ海の領有をめぐる紛議に関して「退路を断つ」政策を強行してきたのである。南シナ海での中国の政策が「正しいもの」だとする「無謬性」へのこだわりが政策を硬直化させ、状況の変化に対し柔軟な軌道修正をする余裕を失わせてしまったと言える。(後略)【7月25日 阿部純一氏  JB Press】
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人間は過ちを犯す存在であることは子供でわかる道理であり、どうして「党・指導者の無謬性」などという荒唐無稽な論理が出てくるのか不思議ですが、それが中国の現実であり、周辺国にとっては厄介の種でもあります。
【異例の「日本式謝罪」を行った洪水被災地市長】
そうした「過ちを認めない」中国にあって、珍しく「日本式謝罪」を行った地方政府が話題になっています。

豪雨による洪水被害で多くの犠牲者を出した河北省ケイ台市の董暁宇(ドン・シャオユー)市長です。
「日本式謝罪」とは、会見の場で幹部が深々と頭を下げる例の謝罪です。

****中国河北省の洪水で市長が異例の“日本式謝罪”国内で広がる反****
豪雨による洪水被害で25人が死亡、13人が行方不明となった河北省●台市(●は「刑の右がおおざと」)の董暁宇市長ら市幹部は23日夜、記者会見を開き、対応に不手際があったとして謝罪した。中国メディアが報じた。中国の現職の行政幹部が謝罪するのは極めて異例だ。
 
「人民の生命と財産の安全を守ることができず、深い自責の念とやましさを感じている」。董氏はこう謝罪した後、6人の市幹部とともに深く頭を下げた。
 
中国共産党による一党統治は、過ちを犯さない「無謬性」が前提だ。昨年、多数の犠牲者を出した天津の爆発事故や広東省深●(=土へんに川)市の土砂崩れでも後に担当者の責任が追及されたものの、現職の市幹部が謝罪する場面はなかった。
 
中国のネット上では、董氏の謝罪への反響が広がっている。「役人の大きな進歩だ」と評価する意見のほか、「謝罪だけでなく行動も『日本式』にしてほしい」と注文をつける声も相次いだ。
 
大きな被害が出た同市大賢村の住民の多くは、ダムの水の放流が洪水を招いたにもかかわらず事前に何の連絡もしなかった「人災」と認識している。市側は洪水の原因は人為的なものではないと否定したが、不満の高まりを受けて謝罪に追い込まれた格好だ。
 
董氏は会見で、市側の落ち度として豪雨に対する予測が甘かったことや災害対応が遅れたこと、被害統計も不正確だったことなどを挙げた。市側は担当者の責任を追及する姿勢も示しており、董氏自身もその対象となる可能性がある。【7月24日 産経】
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権力の腐敗を進める言論弾圧
住民の怒りが噴出しているのは、単に洪水被害で多くが犠牲になったということだけでなく、深夜住民に知らせることなく川の上流にあるダムの放流を決定したことが洪水被害の原因だったという声があるためです。

董暁宇市長が住民に謝罪したことは大きな進歩です。ただ、ダム放流については上記記事では定かではありませんが、認めていないように思われます。

****中国河北省で豪雨、当局「川氾濫」と説明 105人死亡、104人不明 「天災ではなく人災だ」 子供含む遺体写真出回る****
中国北部の河北省で豪雨による洪水があり、同省民政庁の発表では23日までに105人が死亡、104人が行方不明になったほか、約750万人が家を流されるなどの被害が出た。このうち南部の●台(けいたい ●は「刑の右がおおざと」)市では20日深夜、大賢村など複数の村で洪水により25人が死亡、13人が不明となった。
 
地元政府は近くの河川の決壊が原因だと発表したが、村民たちは、川の上流にあるダムの放流を当局が決定したにもかかわらず、通知が不十分だったため避難できなかったと主張している。

インターネット上には、「これは天災ではなく人災だ」といった書き込みが殺到し、子供を含む多数の遺体の写真が出回っている。

地元政府は、村民らが北京に陳情に行かないように多くの警察官を動員し、周辺の高速道路も一時閉鎖された。【7月23日 産経ニュース】
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そうした住民の怒りのなかにあって、“住民の避難所となった病院には、「政府の救援に感謝します」と書かれた赤い横断幕が掲げられていた。”【7月23日 産経ニュ―ス】とも。

陳情防止のための道路封鎖にしても、政府救援を称賛する横断幕にしても、おぞましい権力の実態です。

言論統制を強化する習近平国家主席は、自由な議論が広がり、党・政府の失政への批判が高まることで、自分が「日本式謝罪」に追い込まれる、あるいは中南海の権力闘争で足をすくわれることを警戒しているのでしょうが、それは党・権力を内側から腐らせ、やがては巨木の倒壊につながることにもなります。

倒れるのは勝手ですが、それまでの間に国内・国外の蒙る迷惑・被害が甚大です。

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