孤帆の遠影碧空に尽き

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温暖化対策  すべての国・地域が削減に参加する初めての枠組み「パリ協定」で合意

2015-12-15 22:07:36 | 環境

(COP21開幕時に握手を交わす米中両首脳(2015年 ロイター/Kevin Lamarque)【12月25日 Newsweek】)

今世紀後半に温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指す
パリで開かれていた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)は12日夜、2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」を採択しました。

日本国内ではあまり温暖化の問題が議論されることはなく、国際的にも温暖化問題での日本の存在感が薄れるなかで、史上初めて、温室効果ガスの排出削減の取り組みに途上国も含む全ての国・地域が参加する枠組みが誕生することになりました。

温暖化対策の国際的な枠組みがまとまるのは、先進国だけに削減を義務付けた京都議定書以来18年ぶりです。

****<COP21>全ての国が温暖化対策に取り組む初ルール成立****
・・・・パリ協定は、世界全体の排出量をできるだけ早く頭打ちにし、今世紀後半に温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指すことを初めて盛り込んだ。条約に加盟する全196カ国・地域が自主的に削減目標を作成し、国連に提出、対策をとり、5年ごとに見直すことを義務付けている。目標達成の義務化は見送られた。(中略)

交渉では、先進国と途上国の対立が続いたが、最大の焦点だった途上国への資金支援は、先進国が拠出する具体的な目標額を協定には盛り込まず、法的拘束力のない別の文書に「年1000億ドル(約12兆3000億円)を下限として新しい数値目標を25年までに設定する」と明記することで決着した。

一方、「産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える」という目標に加え、温暖化の被害を受けやすい島しょ国などに配慮して「1.5度未満」も努力目標に掲げた。

京都議定書で削減義務を負わなかった世界最大の排出国、中国も新枠組みの下、共通のルールで削減対策に取り組む。解振華・中国気候変動特別代表は「中国は国内の状況や能力に応じて、国際的な責任を果たしていく」と述べ、20年以降早期に温室効果ガス排出量を減少に転じさせるため努力する考えを示した。

協定は、批准国が55カ国以上に達し、それらの国の排出量が世界全体の55%以上を占めることを条件に発効する。

日本は、国会の承認を経て批准することになる。丸川珠代環境相は採択後、記者団に「高く評価できる。(パリ協定の仕組みを)日本の目標を引き上げるためにも活用しなければならない」と話した。

 ◇パリ協定骨子
 ・産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える。1.5度未満になるよう努力する
 ・できるだけ早く世界の温室効果ガス排出量を頭打ちにし、今世紀後半に実質ゼロにする
 ・2023年から5年ごとに世界全体の削減状況を検証する
 ・全ての国に削減目標の作成と提出、5年ごとの見直しを義務付ける
 ・温暖化被害軽減のための世界全体の目標を設定する
 ・先進国に途上国支援の資金拠出を義務付けるが、他の国も自発的に拠出することを勧める
 ・先進国は現在の約束よりも多い額を途上国に拠出する(目標額は盛り込まず)(後略)【12月14日 毎日】
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【「shallと「should」の違い
肝心の削減目標の達成が義務化されていないことから、実効性に疑問もありますが、透明性のある報告や検証、5年ごとの目標の見直しなどが義務付けられており、“世界が見ているなかで5年ごとに点検する。さぼることは難しいだろう。”【12月15日 朝日】ということで、国際的評価を重視する日本などにとっては無視できないものになるでしょう。

目標達成を義務化しないことにこだわったのは、温暖化問題を国際的にリードするポジションにつきたいアメリカの意向があります。

アメリカ・オバマ大統領は、温暖化対策に懐疑的な野党・共和党議員が多数を占める議会上院の同意が必要とならないように合意の法的拘束力をできるだけ少なくするよう腐心、議会を通さず大統領権限で協定を締結する道を探りました。

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閣僚らで埋まった会議場が、4年間の交渉で練り上げてきた協定の採択を待っていたとき、議長のファビウス仏外相と米国のケリー国務長官が最後の仕上げに入っていた。

「この表現が変わらなければ、オバマ大統領と米国はこの協定を支持することはできない」。ケリー氏は協定の最終合意案の条文の修正を迫っていた。

2007年に中国に抜かれるまで最大排出国だった米国は、1997年採択の京都議定書に加わろうとした政府が、議会上院に批准を阻まれた歴史がある。

最終案では、先進国が温室効果ガスを総量で削減することを「shall(しなければならない)」と義務づける表現になっていた。これを「should(すべきだ)」と義務を負わない単語への切り替えを求めた。途上国は反発したが、当初案では「should」になっていたとして「単純なミス」(ファビウス氏)だと修正を認めた。

たった1語の違いだが、削減義務など新たな負担が加われば、野党・共和党が多数を占める議会上院の同意が必要になる。新枠組みから再び米国が離脱へ向かう道が、ぎりぎりで回避された。【12月15日 朝日】
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ただ、オバマ大統領の目論見どおりに進むかは不透明です。
“ただ、早くも共和党から反発があがっている。上院トップのマコネル院内総務は声明で「シャンパンを開ける前に達成不可能な協定であることを思い出すべきだ」と批判。オバマ氏が締結に踏み切った場合、関連予算を認めないなど妨害も辞さない構えをみせる。”【12月15日 朝日】

アメリカ・中国が交渉を主導
今回合意には、アメリカとともに中国も積極的に関与する姿勢を示しました。

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交渉を主導したのは米中の2大排出国だった。

中国・外務省の交渉官は取材に「あらゆる国が発展したい。政府がそれを望むのを止めることはできない」と話し、協定が発展の足かせになることを強くけん制。

米国も、連邦議会上下両院で温暖化対策に消極的な野党・共和党が多数を占め、議会に諮らず批准できる緩い内容を探った。各国は「米中が入らなければ協定が成り立たない」(国連関係者)と配慮することになった。【12月14日 毎日】
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中国が温暖化対策に前向き姿勢を示したのは、中国国内における石炭を多量使用する現在の産業構造の転換が迫られていることや、PM2.5に象徴される環境問題が深刻化していることなどの国内事情と温暖化対策のベクトルの向きが一致したことがありますが、従来の、欧米に対抗する途上国リーダーとして影響力拡大だけに腐心していた対応から、一応“責任ある大国”としての姿勢に転換したものとして評価できるでしょう。

****オバマ大統領が習主席に謝意、COP21「パリ協定」採択への貢献評価****
対中関係もオバマ流のつかず離れずの手法で

オバマ米大統領は13日夜に中国の習近平国家主席と電話会談し、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)での「パリ協定」採択で中国が重要な役割を果たしたことに謝意を表明した。米ホワイトハウスが14日、声明を発表した。

両首脳は米中の交渉担当チームを緊密に連携させたことが歴史的な合意につながったとの認識を示した、としている。

その上で「オバマ大統領は気候変動問題への対応で、米中が引き続き協力していくことの重要性を強調した」とした。【12月15日 Newsweek】
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もちろん、米中は南シナ海の問題では対立を続けていますし、今日も、台湾へのフリゲート艦売却をめぐる問題での中国のアメリカ批判なども報じられています。
経済をめぐる綱引きもありますし、サイバー攻撃に関する問題もあります。

そうした問題が多い中では、温暖化対策は米中が歩調を揃えられる数少ない問題でもあって、緊張関係が過熱しなように、ことさらに温暖化問題での協力関係をアピールしている・・・という感もあります。

議長国フランス・議長ファビウス外相の手腕も
今回合意が成立した背景として、議長国フランス・ファビウス外相の役割が高く評価されています。
“政治的”駆け引きには定評のあるフランス外交の面目躍如といったところでしょうか。

****議長国の仏、さえた手腕 水面下の会合、論点共有 COP21****
「パリ協定」を採択した国連気候変動会議(COP21)では、激しい外交が展開された。米国の後ろ盾を得た議長国フランスの巧みな舞台回しが功を奏し、先進国と途上国との対立の溝が埋まった。日本は合意に向けた最終局面でも存在感を示せなかった。

「ローラン、すごい仕事をやったな。君のリーダーシップにみんな感謝している」。パリ協定の採択を受けケリー米国務長官は、議長を務めたファビウス仏外相の手腕をたたえた。

フランスにとって世界の関心が集まるCOP21は、欧州連合(EU)の大国としての力量を内外に示す勝負の場だった。非公式の閣僚級会合を重ね、論点をまとめた会合メモを共有した。実務者でつくる作業部会とは別に、政治合意の機運を高めるためでもあった。

COP21の本番では、首脳が最終局面でぶつかったCOP15の反省から、首脳級会合を初日に設定。パリ同時多発テロでフランスへ連帯感が高まっていたことも手伝い、150カ国の首脳級が顔をそろえ交渉を前進させる推進力となった。

また、閣僚級の分科会のとりまとめ役を、交渉を阻む立場を取ってきたボリビアなどに担わせ、全員参加の雰囲気を醸成した。ある閣僚は「フランスは忍耐強く各国の主張を聞きつつ、議長国として譲れない線もはっきり示した」と話す。

そして、12日昼の最終局面でオランド仏大統領がファビウス外相と並んで登壇し、「最後の決断の時が来た」と鼓舞。どの国にもパリ協定の最終文書案を提示しないまま、合意へとなだれ込む機運を盛り上げた。【12月15日 朝日】
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【「先進国」対「途上国」の対立を超えて
また、今回の会議では、従来の「先進国」対「途上国」の対立を超えて、深刻な被害が目前に迫る太平洋の島国のアピールも目立ちました。

****1.5度」記載⇔「補償」弱める****
12日、パリ協定の採択を控えた会議場に欧州連合(EU)や米国、マーシャル諸島などの閣僚らが腕を組んで姿を現すと、会場から拍手がわき起こった。有志国からなる「野心連合」のメンバーたち。採択への流れを作った「主役」だ。

協定をより積極的な内容にしようと、マーシャル諸島のデブルム外相が発起人となって集まった。加盟国は100カ国以上に増えたという。

デブルム氏によると、結成の動きは約2年前。海面上昇の被害に直面する島国は、排出が急増する中国やインドにも、先進国と同等の取り組みを求めたいのが本音だ。ただ、交渉では同じ途上国グループに属し、自説を通しにくかった。

そこで従来の対立構図を崩そうと、まずEUに接近した。気温上昇を1.5度未満に抑える目標設定などで連携を確認。さらに、強硬な姿勢を続けるインドなどに圧力をかけたい米国が、交渉が煮詰まった9日に電撃的に参加を表明した。

1.5度目標の記載をのむ代わりに、一部の島国が強く求めた温暖化被害の救済策で米議会が嫌う「責任」「補償」の表現を弱めるよう折り合いを付け、合意への流れを確実にした。

デブルム氏は、朝日新聞の取材に「小国で影響力がなくても、声を届けたいと思った。国民の命を守るために野心的な枠組みが必要だ」と話した。【12月15日 朝日】
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存在感が薄い日本
こうした動きに日本はついていけなかったようです。

“日本は、COP21交渉の最終局面でも蚊帳の外だった。島国やEUが主導した野心連合に米国が参加を決定。日本の交渉官は「そんな話は知らない。誘われてもいない」と寝耳に水の様子。日本が連合に加わったのは、協定採択の直前だった。”【12月15日 朝日】

日本の場合は、目標達成のためには原発再稼働を前提としており、先行きは不透明です。
そうした国内事情から、国際的にイシアティブを撮れるような状況にもありません。

****日本、実効性に課題 目標は原発再稼働前提****
日本は、2030年度の温室効果ガス排出量を「13年度比26%減」とする削減目標を掲げ、「50年には80%減らす」という長期目標も閣議決定している。

パリ協定採択を受け、政府は温暖化対策の実行計画づくりを本格化させる。来年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に間に合わせたい考えだが実効性のあるものができるか課題も多い。

「26%」の削減目標は、総電力量の2割超を原発でまかなう電源構成が前提だ。だが、法律で原則40年とされる運転期間の延長をかなりの数の原発で実現できないと難しく、再稼働すら不透明な現状ではハードルはかなり高い。

政府は、再生可能エネルギーと省エネの推進も掲げ、「エネルギー・環境イノベーション戦略」を来春にまとめる方針だ。

一方、目標の達成は企業や電力会社の自主性に委ねている。二酸化炭素の排出量の多い石炭火力計画が持ち上がり、環境相が「是認できない」と注文をつけ続ける事態となっている。

世界では、企業に二酸化炭素の排出上限を定め過不足分を売買させる排出量取引の導入や、炭素税を強化する動きがある。日本政府はこれまで「企業の負担になる」と消極的な姿勢だ。【12月15日 朝日】
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世界的に見ると、温暖化対策はエネルギー関連投資を拡大させるものとしてとらえられています。

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・・・1997年のCOP3で採択された京都議定書は、世界が科学の声を聞き入れ、温暖化を招いた先進国が率先し、欲望を抑える「痛みを分かち合う」制度と受け止められていた。経済活動で増える排出量を抑えるのが、政府の役割と考えられていた。

今回のパリ協定は、違う文脈でとらえられている。米ホワイトハウスは、ただちに「合意は、ここ数年のエネルギー関連の投資を相当拡大することになるだろう」との声明を発表。欧米の経済界からは歓迎のツイートが相次いだ。

風力発電は18年前の50倍に、太陽光発電は原発の設備容量の半分までに成長した。爆発的な普及に伴ってコストは急激に下がり、途上国でも火力発電を下回るようになってきた。

低炭素経済への移行は、温暖化対策に後ろ向きとみられた新興国でも進む。中国は世界一の自然エネルギー大国であり、インドも22年までに風力を6千万キロワット、太陽光を1億キロワットにする計画を掲げる。

多くの国で経済成長と二酸化炭素(CO2)排出は連動しなくなり始めた。昨年、世界経済は3%成長したのに、CO2排出量は横ばいだった。今年の排出量は下がると見られている。【12月15日 朝日】
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不安定な自然エネルギーに頼りすぎることの危険性やコスト問題はいつも言われる話ではありますが、「できない理由」を並べるよりは、「どうしたら可能になるか」という方向での議論を進めるべきでしょう。

採択はスタートラインに過ぎない
なお、今回合意が本当に生かされるかは今後の各国の努力次第です。

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・・・・一方、深刻な被害が目前に迫る太平洋の島国や、最貧国からは批判の声も出ている。最貧国の環境NGOのメンバーは「削減に向けた義務が担保されていない。悪い合意で、悲しい日だ」と痛烈に批判した。

今世紀後半に世界全体の排出量を「実質ゼロ」にするという踏み込んだ目標が盛り込まれた意味は大きいが、全ての国が深刻な温暖化の影響を防ぐ自覚を持って具体的に行動しなければ、協定は「骨抜き」となってしまうだろう。

採択はスタートラインに過ぎず、全てはこれからの各国の取り組みにかかっている。【12月15日 朝日】
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