孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス・サルコジ政権  ロマ規制強化、不法滞在ロマをルーマニアへ送還

2010-08-19 23:23:29 | 世相

(フランスの「ロマ」キャンプ “flickr”より By Council of Europe
http://www.flickr.com/photos/councilofeurope/4497227708/)

【先進国を悩ます移民問題】
欧米各国やオーストラリアでは今、移民対策が大きな論議をよんでいます。
アメリカでは、ヒスパニック系不法移民の増大に対するアリゾナ州独自の移民法にオバマ大統領が反対の姿勢を示しています。
オーストラリアの新政権ギラード首相は、ラッド前首相の移民受け入れ積極策から移民制限へ方針転換を図ろうとしています。
アメリカにしてもオーストラリアにしても、もともとが「移民の国」ですが、最近の世論は移民増加に批判的な方向に向かっているように見えます。
欧州の場合は、北アフリカやトルコからのイスラム系移民、EU拡大に伴う中・東欧からの移民などが増加して問題・軋轢を起こしています。

最近の移民問題の先鋭化は、単に移民の増大というだけでなく、経済危機の中で受け入れ国側の社会に余裕がなくなっていることも影響しているように見えます。

【サルコジ大統領:「フランスは過去50年、移民を安易に受け入れすぎた」】
なかでもフランスは、従来から北アフリカ系移民の若者らによる暴動や、パリなど都市郊外の移民居住地域での治安悪化などが社会問題化していますが、最近論議の中心になっているのがロマの存在です。
ロマはインドが起源とされる流浪の民族で、欧州には推定で1000万人以上が在住。ルーマニアなど中・東欧を中心に定住する一方、移動を続ける人もいます。欧州では非定住者やロマらはジプシーなどと呼ばれ差別を受けています。

****フランス:サルコジ政権が「ロマ」規制強化 人権団体反発*****
フランスのサルコジ政権が、国内を放浪する民族ロマや「非定住者」への圧力を強めている。一部の非定住者が今月、暴動を起こしたのがきっかけで、仏政府は28日、ロマらの違法キャンプを撤去するなどの方針を決めた。だが長い間、差別されてきた人々への強権発動は、国際社会や人権団体から大きな反発を招いている。

仏中部の町で18日、非定住者50人が、警察署や商店を襲撃したり、駐車車両を燃やす暴動が発生した。その数日前、近くを車で通行中の非定住者の男性(22)が警察の検問を無視して逃走、警官に射殺されており、暴動はこれに対する報復とみられている。
サルコジ大統領は28日、緊急の閣僚会議を招集し、▽ロマを中心とした300カ所の違法キャンプの撤去▽国外から来たロマが罪を犯した場合、即時の強制送還▽非定住者の納税状況の調査--などの方針を決めた。
大統領府は、ロマをより簡易に国外追放できる法案を年内にも提出する方針も示している。

仏は暴動後に開かれた欧州連合(EU)外相会議で、「ロマ問題の解決でEUは協力すべきだ」と主張した。だが60万人と多くのロマを抱えるルーマニアは、「ロマを犯罪集団として扱うべきではない」と反発。欧州の人権組織「欧州会議」(47カ国)の幹部も、「仏は非定住者と市民を平等に扱うべきだ」と指摘している。
一方、仏の人権団体「人権連盟」のサロンクール副会長は毎日新聞に「今回の仏の措置は、暴動を口実にした非定住者やロマの摘発で、差別だ」と批判している。
フランスの非定住者は一般的には、キャンピングカーで国内各地を移り住む元遊牧民など約40万人を指し、国外から来たロマ2万人とは区別される。今回、暴動を起こしたのは非定住者で、仏の人権団体は、政府の対応を「非定住者とロマを混同している」とも批判している。【7月30日 毎日】
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サルコジ大統領は「フランスは過去50年、移民を安易に受け入れすぎた」と演説、少数民族ロマや移動生活者が法を犯した場合の即刻本国強制送還に加え、警官や憲兵など治安要員を襲撃した外国出身者の国籍を剥奪(はくだつ)する方針も表明しています。また、フランスで生まれた外国籍の未成年者が、犯罪歴があっても18歳になれば自動的にフランス国籍を取得できる現行制度を見直す考えも示しています。
フランスの世論調査では、国民の8割がこの方針を容認しています。
一方、人権団体などからは「外国人や移民への憎悪をあおっている」「12年の大統領選に向けた右派票獲得を狙った政策」などの批判が出ています。
なお、多くのロマが暮らすルーマニアはフランスの方針に反対していますが、ルーマニア国内では少数民族ロマが差別されているという実態もあります。

【国連差別撤廃委員会「ナチスまがいの政策」 仏政府「治安安定こそ人権の基本だ」】
こうしたなか、6日、フランス当局は国内を放浪する外国籍のロマやフランス国籍の非定住者が住む違法キャンプ300カ所の撤去を開始、滞在許可などを持たないロマ約50人に国外退去命令が出されました。

****フランス:移民政策に強い批判 国連委「ナチスまがいだ」*****
国内を放浪するロマ族や「非定住者」の違法キャンプの撤去や、移民出身の犯罪者に対する「国籍はく奪」などの政策を打ち出したフランスのサルコジ政権に対し、国内外から「外国人や移民の排斥だ」との強い批判が出ている。国連の差別撤廃委員会では「ナチスまがいの政策」との異例の強い意見が出た。15日には、ロマ族などが高速道路を車両で一時封鎖しサルコジ政権に抗議した。

仏では7月、アラブ系の移民や、国内を放浪する「非定住者」が、警官に発砲したり商店を略奪する暴動が起きた。これに対しサルコジ大統領は(1)違法キャンプ撤去(2)移民出身者が警官を殺害した場合の国籍はく奪--などの方針を表明。仏政府幹部はイスラム教に基づく「一夫多妻主義」を実践する移民の国籍はく奪も示唆した。

だが、仏の状況を審議する国連差別撤廃委では先週、多くの委員が「人種や出身による差別の強化だ」と批判。「仏政府幹部には差別撤廃の意欲がない」「国是の平等・博愛の精神を取り戻すべきだ」との意見も出た。同委は27日にも仏に関する報告書を出すが、厳しい内容になるのは必至だ。
これに加え仏では「国籍はく奪はテロや内乱罪で適用される重罪で、そぐわない。移民出身者だけを差別するのも違法だ」(パリ大学教授)などの批判が噴出。野党第1党の社会党は「移民排斥を訴え、極右票を取り込もうとする政治的宣伝だ」とも指摘した。

これらに対し、仏政府は「治安安定こそ人権の基本だ」(ルルーシュ欧州問題担当相=閣外相)として譲らず、ロマ族のキャンプ撤去を続けている。国連の批判には、大統領の支持政党の国民運動連合(UMP)幹部が「差別撤廃委の委員らの多くは(アフリカなど)人権を尊重しない国の出身だ」と挑発的な態度を示した。
一方、報道によると、15日朝、ボルドー(西部)付近の違法キャンプを追放されたロマ族など約250台のキャンピングカーなどが、高速道路の橋の上で約9時間、封鎖を実行。警察が催涙ガスの使用などを警告したため、封鎖は解除された。
支援団体によると、当局が満足なキャンプ地を提供しないことなどへの抗議で、付近の高速は大渋滞した。【8月16日 毎日】
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(「ボルドーのアキテーヌ橋の上で抗議したのは「旅の人々」(les gens de voyages)と呼ばれるフランス国籍をもつ人々で、ロマではない」とのご指摘をmasaotobitaさんからいただきました)

【「同意に基づく送還であり、強制措置ではない」】
世論の支持もあって、サルコジ政権は方針を貫く構えで、不法滞在ロマのルーマニアへの送還を始めています。
****仏に不法滞在のロマ人93人、ルーマニアへ送還*****
フランス政府は19日、仏国内に不法滞在していたルーマニア出身のロマ人93人を定期航空便で同国へ送還した。サルコジ政権が7月末に不法滞在中のロマ人のキャンプ撤去に乗り出して以来、ロマ人を本国送還するのはこれが初めて。
仏政府は今後、約700人のロマ人をルーマニアとブルガリアへ送還する方針。オルトフー内相は、「同意に基づく送還であり、強制措置ではない」と強調した。
だが、欧州連合(EU)の執行機関やルーマニア政府は18日、仏政府の対応に相次いで懸念を表明。ロマ人の処遇が外交問題に発展する可能性もある。【8月19日 読売】
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「同意に基づく送還であり、強制措置ではない」と言っていますが、フランス国内に残った場合は不法滞在で厳しい罰則が加えられるという状況下での“同意”でしょう。

ルーマニアのロマは、政府の公式な統計では40万人とされていますが、実際にはその数は最大250万人、総人口の約11%占めているとも言われています。
ルーマニアにおけるロマに対する差別、彼らの社会的地位の低さの結果として、彼らは自分自身をルーマニア人、ハンガリー人と称したり、それぞれの地域において多数を占める民族と同化することによって「ジプシー」という烙印を押されるのをまぬがれようとしています。伝統的な生活様式で暮らしているロマの人々は、ルーマニア国内で100万人、総人口の4.6%と言われています。【Romania Japan より】
ルーマニアがフランスからの送還に反対しているのは、厄介者をこれ以上引き受けたくない・・・というのが本音ではないでしょうか。

フランスの野党や人権団体は、ロマの送還措置について、「外国人、移民の排斥」と反発。与党内からもナチスの「ユダヤ人狩り」を連想させるとの批判が出ているとも報じられています。

【日本もこれから直面する問題】
移民問題の難しさはこれまでも何回も取り上げたところです。
現在移民をほとんど受け入れていない日本も、少子高齢化・人口減少という流れのなかで、今後“移民”を検討する時期が来るのではないかとも思われます。
“移民排斥”といった差別的風潮を社会に生まないためには、受け入れに際して、安易な労働力補充といった考えではなく、その社会・文化に与える影響をいかに緩和できるか、共存・統合に向けたどのような対策が可能か、真剣な議論・対応が必要になります。


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2 コメント

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ボルドーの橋の上でデモをしたのはロマではないです。 (masaotobita)
2010-08-23 03:25:49
はじめまして、

情報源が英語からなのでしょうか。同じような情報をよそでも見ました。

>一方、報道によると、15日朝、ボルドー(西部)付近の違法キャンプを追放されたロマ族など約250台のキャンピングカーなどが、高速道路の橋の上で約9時間、封鎖を実行。警察が催涙ガスの使用などを警告したため、封鎖は解除された。

これはロマではないですね、ボルドーのアキテーヌ橋の上で抗議したのは「旅の人々」(les gens de voyages)と呼ばれるフランス国籍をもつ人々でボルドーに来る前日にピレネーバスクに近いボルドーの南200キロにあるバイヨンヌ付近から機動隊に排斥されてアキテーヌ県の県庁所在地のあるボルドーに抗議にやってきた。フランスは機動隊を出すのはプレフェ(県知事)だからです。彼らは自分たちはロムではない。いっしょにするなと言っている。フランスの身分証明書をもったフランス人なのだと言っているわけです。

この「旅の人々」と「ロム」(Romsをロマと日本ではいっているようですが )との二つをここでも混同して書いているようです。

以下の記事を参照願います。

15日朝にピレネー・アトランティック地方のバイヨンヌに近いダングレ(d’Anglet)の町を機動隊によって撤去させられた250台のキャラバンと自家用車の「旅の人々」はボルドー北部の国際展示会場のあるボルドー・ラック付近のジュール・ラドメーグ通り(cours Jules-Ladoumègue)に移動場所を決めた。ここは彼等の習慣で使われている場所だという。しかしアキテーヌ県知事(知事は政府から任命)がこの受け入れを拒絶し機動隊によって再び退去がなされた。代わりに展示会場のパーキング場が提供されたが、「旅の人々」はそこは子供にとって安全でなく、水や電気もないとして提案を拒絶した。

ご確認ください。

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gens du voyage (レリオア)
2010-09-09 01:19:24
こんにちは。
詳細な情報ありがとうございます。
若干、語彙の補足をさせてください。

フランスで英語の「ジプシー」に相当する言葉がTsiganeです。
Tsiganeは他称でありネガティブなニュアンスがあるので、これを別のよりニュートラルな言葉に置き換えて用いられるようになったのが「旅の人々」を表すgens du voyageです。
このなかにロマ(フランスではロム)、マヌーシュ、カレ(ジタン)という人々が含まれます。
gens du voyageのなかでも、ロマはマイノリティです。
しかし、世界的に見るとロマが「ジプシー」と呼ばれてきた集団のなかで多数派であること、バルカン諸国からのロマが西側に多く流入してきていることから、最近の問題は「ロマの問題」として取り上げられているのです。
でもこの問題は、ロマをはじめとして「ジプシー」と呼ばれてきた人々をとりまく状況、そしてご指摘のとおり、彼らや移民をめぐるわれわれの問題ですよね。
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