孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マレーシア  多民族国家にあって、外国人労働者が「第2位の人口構成群」へ

2016-06-21 22:49:34 | 東南アジア

(クアラルンプールで3D(Dirty, Dangerous and Demanding)労働(日本で言う3K労働)に従事する外国人労働者 “flickr”より By Yeow )

中国系住民が約4分の1を占めることもあって、微妙な中国との関係
マレーシアは多民族国家として、その人口構成比はマレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%と言われてきました。

もちろん民族間の軋轢がなかった訳ではありませんが、民族間で内戦状態に陥る国があちこちで見受けられるなかにあっては、比較的“穏やかな”状態にもあって、多民族共存の一つのモデルともされてきました。

もっとも、マレーシア政府がこれまで採用してきた、経済的に劣後しているマレー系を優遇して、その地位を引き上げようとする「ブミプトラ政策」については批判も高まっており、見直しが迫られている・・・といった話はこれまでも取り上げてきたところで、今回はパスします。
(2015年9月17日ブログ「マレーシア 汚職疑惑の首相へ高まる批判 民族間の対立に飛び火する不安も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150917など)

南シナ海問題では、従来は経済的つながりの強い中国への批判は抑制的・控えめなものでしたが、最近では厳しい対応も見られるように変化しているとも言われています。
ただ、中国系住民が約4分の1を占めることから、微妙な問題もあります。

****マレーシア、南シナ海めぐり対中国戦略を見直しへ****
・・・・だがマレーシアの場合、中国との「特別な関係」を掲げ、また貿易と投資への依存度が高いため、従来、この地域での中国の活動に対する対応は、西側諸国の外交関係者から「控えめ」と表現される程度のものだった。(中略)

ところが3月に多数の中国漁船が、領有権が争われている南沙(スプラトリー)諸島の南方にあり、豊かな漁場の広がる南ルコニア礁付近に侵入した際には、マレーシアは海軍艦艇を派遣し、中国大使を召喚して説明を求めるという異例の動きを見せた。

中国外務省は、「関連の水域」において自国の漁船が通常の漁業活動を行っていただけであるとして、事態を重要視しなかった。
 
わずか数週間後、マレーシアはミリ市の南にあるビントゥル付近に海軍の前進基地を設ける計画を発表した。(中略)

限られたオプション
MMEA(マレーシア海上法令執行庁)当局者の説明する事件について、中国外務省は、中国・マレーシア両国は対話と協議を通じた海事紛争の処理について「高いレベルのコンセンサス」を共有している、と述べている。 
同省の華春瑩報道官は、「この件については引き続きマレーシアと緊密な連絡を取る予定だ」としている。

マレーシア政府がさらに強硬な姿勢を取ることに及び腰なのは、マレーシアが中国に大きく依存していることからある程度説明できるかもしれない。
 
中国はマレーシアにとって最大の輸出先であり、マレーシアはASEAN10カ国のなかで中国からの財・サービスの輸入が最も多い。
 
また複数の中国国有企業は昨年、マレーシアの政府系投資ファンド1MDBから数十億ドル相当の資産を購入している。1MDBは債務超過に苦しんでおり、ナジブ首相にとって大きな悩みの種になっていた。
 
マレーシアの国内問題への中国の影響力も、マレー人が多数を占める国家にとって常に懸念事項となっている。マレーシアの中国系住民は人口の約4分の1を数える。
 
昨年9月、中国・マレーシア両国の外交関係に緊張が走った。マレー系住民によるデモに先立って駐マレーシア中国大使が首都クアラルンプールにあるチャイナタウンを訪れ、「中国系住民の権利に影響するような行動に対しては、中国政府は遠慮なく批判させてもらう」と警告したのである。
 
大使は召喚され、発言について説明を求められたが、中国外務省は大使を擁護している。(後略)【6月6日 Newsweek】
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外国人労働者が中国系系人口をも超え、「第2位の人口構成群」へ
対中国関係を含め、マレーシアの政策の根幹にある民族間の人構成比に変化が見られ、中国系住民が減少傾向にあるとのことです。

****マレーシアの中国系住民、現在の24%から2040年に18%へ****
2016年6月18日、中国新聞網によると、マレーシアの華人団体・馬華公会(MCA)の廖中莱総会長は、マレーシアの総人口に占める中国系住民の割合が、現在の24%から40年には18%に減少する見込みだと明らかにした。

廖会長は16日夜、中華総商会クアラ・カンサー支部のパーティーで挨拶し、マレーシアの中国系住民減少の背景には、出生率の低下や海外への移住増があるとした上で、MCAはイスラム法のより厳格な適用に断固反対すると述べ、中国系コミュニティーからイスラム政党を排除し、今後マレーシアが原理主義国家になることに反対するよう呼び掛けた。

マレーシア国民は、主にマレー系、中国系、インド系の3つの主要民族で構成されている。人口3000万人のうち約24%を中国系が占めているが、マレーシアでは、全マレーシア・イスラーム党(PAS)がイスラム法の改正案を国会に提出するなど、宗教的な保守化の動きが出ており、中国系を含む現地の非ムスリム住民の間に不安と反発が広がっている。【6月21日 RecordChina】
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しかし、外国人労働者の存在も考慮にいれると、すでに人口構成比で第2位を占めるのは中国系ではなく外国人労働者になっているとのことです。

****ついに労働者の過半が外国人になったマレーシア****
中華系人口をも超え、一大勢力に
・・・・ASEAN(東南アジア諸国連合)の優等生で1人当たりGDP(国内総生産)で(ブルネイを除く)シンガポールに次ぐ新興国マレーシアには、母国の4倍から5倍もの高額な給与が得られることから、周辺国からの出稼ぎ労働者が後を絶たない。

マレーシアの総労働人口約1400万人のうち(2014年)、正規の合法的出稼ぎ労働者は約200万人と言われる。非正規の違法労働者はその2倍以上の450万人近くまで膨れ上がっていると推定され、外国人労働者の数は春節を祝う約700万人の中華系マレーシア人の数に相当する勢いだ。

数年前までは「4人から5人に1人」だったのが、今では実に、「ほぼ2人に1人」が、外国人労働者が占めるまでになっており、すでにマレーシアは世界で最も外国人労働者の占める比率が高い国の1つになっている。

また、さらに驚くべきことに、マレーシア政府は今後3年間で、(ムスリム人の)バングラデッシュ人労働者を「合法的に150万人」、受け入れることを決めた。

これにより、多民族国家の人口構成比(マレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%)が1957年の英国からの独立以来、60年ぶりに修正されるという歴史的事態に陥る。結果、外国人労働者総数は約800万人になり、中華系マレーシア人の人口をはるかに超え、マレーシアで「第2位の人口構成群」に躍り出る。(後略)【2月15日 末永 恵氏】
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非正規ルートの違法労働者が多いのは、雇う側からすると、安くて簡単に雇えるというメリットがあるからですが、そうした違法労働者の存在は警官の賄賂・不正の温床ともなっているそうです。

****アジアで最高の初期費用****
マレーシアでは、正規で雇用主が支払う新規のメイド雇用に関する初期費用がアジアで最も高額で、現在、1万5000リンギ(約42万円)から1万8000リンギ(約51万円)にもなる。ところが、非正規ルートのメイドだと約1万リンギ(28万円)ほどで済む。

さらに、正規ルートだと新規雇用申請から最短で雇用するまでに通常で3か月から4か月かかるが、非正規なら「数日から1週間」(業界関係者)で済むなどの事情が大きく影響している。(中略)

警察官に見つかって脅され、月給の2倍近い3000リンギを取られた人もいるという。違法労働者は警察官の汚職や賄賂の格好の温床になっており、違法業者と公的機関が裏で手を結んでいるとも指摘されている。病巣はマレーシア社会の構造的な問題にもなっており、傷口は相当深い。【同上】
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なぜ、大量の外国人労働者を雇用しても社会が維持できるのか
マレーシアの外国人労働者が増加した背景には、工業化の進展によって労働力不足に陥ったことがあります。
結果的にマレーシアは世界でも最も外国人労働者比率が高い国の一つとなっていますが、その功罪は、今後の日本にとっての参考事例ともなると思われます。

****マレーシアの外国人労働者****
・・・・
3.マレーシアにおける外国人労働者
マレーシアは人口が土地面積や経済活動に対して過少であったため、1980年代後半に本格的な工業化が進展すると、瞬く間に労働力不足に陥った。

これを受けて、1992年にマレーシア政府は、それまでプランテーションや建設現場、家事労働などに認められていた外国人労働者を製造業やサービス業にも広げ、本格的な外国人労働者の導入を進める。

これ以降、マレーシアでは失業者数を外国人労働者数が大きく上回る状況が続く。これは、労働市場に参加しているマレーシア人が全員職を得たとしても、外国人労働者がいなければ労働需要を満たしきれないことを意味し、「超完全雇用」とでも言うべき状況である。 

周辺国との賃金格差を主因とした外国人労働者の流入、産業界の労働力不足という需給両要因で外国人労働者が増加を続ける一方で、マレーシア政府は総数に歯止めをかけたい意向を持っている。

これまで、マレーシア政府は外国人労働者の雇用に掛かる税金を頻繁に引き上げ、定期的に新規雇用の停止と再開、違法労働者の恩赦、合法化と送還を繰り返して現在に至っている。

直近では、2011年10月から2014年1月まで違法労働者の恩赦・合法化プログラム(通称6Pプログラム)が実施され、130万人が申請、うち50万人が合法化され、33万人が国外退去となった。

2013年9月末の時点で、合法的な外国人労働者数は211万人に達し、部門別の内訳は製造業が73.3万人で最も多く、以下、表1(省略 2位は建設業42.5万人、3位はプランテーション34.7万人、4位がサービス業25.1万人)のようになっている。また、国籍別では、インドネシア人が(93.5万人)と最も多く、表2(省略 2位ネパール35.9万人、3位がバングラデシュ31.9万人、4位がミャンマー17.4万人)がのようになっている7。

4.なぜ、大量の外国人労働者を雇用しても社会が維持できるのか
このように、マレーシアは、人口の比率に対して外国人労働者の比率が世界でも最も高い国の一つとなっている。外国人労働者への依存について、産業高度化の観点からの懸念が表明され、治安悪化や社会的軋轢といった観点からの批判もある。

しかし、もし日本にマレーシアと同じ比率の外国人労働者がいたと仮定すれば、合法740万人、非合法870万人の合計1500万人以上となり、とても正常な社会運営を維持できるとは思えない。

マレーシアの場合、外国人労働者のプレゼンスの巨大さとくらべれば、問題は「相対的に」小さいものに留まっていると言える。その要因としては、以下のようなものが挙げられる。

a) 外国人労働者は雇用のミスマッチを埋める
第一の理由は、雇用を巡ってマレーシア人と外国人が競合することが少ないためである。マレーシアは1990年代初頭には既に完全雇用の状態にあり、外国人が雇用されているのは、マレーシア人が働きたがらない、いわゆる3D(Dirty, Dangerous and Demanding)労働である。外国人労働者の39.8%が単純労働と呼ばれる職種に就いている一方、この職種のマレーシア人は全体の8.1%に過ぎない。

JETROの投資コスト比較によれば、バングラデシュ・ダッカの製造業ワーカーの賃金は86米ドル、クアラルンプールは429米ドルとなっており、約5倍の差がある。もし、労働者の権利が十分に保証されるのであれば、自国民に人気のない職種を、母国との賃金格差によって埋めてくれる外国人労働者の存在は、お互いにとってプラスとなる。

b) 多民族・多宗教の国家の懐の深さ
マレーシアにおける外国人労働者の最大の送出国はインドネシアである。インドネシアとマレーシアは地理的に近いだけでなく、言語も極めて近く、問題なくコミュニケーションが取れる。さらに、イスラム教徒が多数を占め、宗教的にも共通性が高い。したがって、インドネシアの外国人労働者は言語・宗教など多くの面で違和感少なくマレーシアで働くことができる。

マレーシアは古くから交易の中心地であり、イギリス植民地時代にも「外国人」を受け入れてきた。その結果、マレーシアは多民族、多宗教、多言語の国家となり、マレー語(インドネシア語)、中国語、タミール語、英語のどれかができれば生活できる。

また、イスラム教徒にとっては非イスラム教国に比べて不自由が少なく、その他の宗教であってもそれを信奉することは禁じられていない。

マレーシアという国家の成り立ちが、外国人労働者との軋轢を小さくしている面は少なからずある。マレーシアにおいては、外国人労働者の犯罪率は、マレーシア人よりも低いという研究もあり、これは、滞在期間中めいっぱい働くことで十分に稼ぐ方が、国外退去のリスクをおかして犯罪を行うよりもリターンがあると考えれば、不思議ではない。

このようなマレーシアの「懐の深さ」は歴史的に醸成されたものであり、容易に真似できるものではない。

c) 外国人労働者は「移民」ではない
マレーシアにおける外国人労働者は、有期での帰国を前提に受け入れられており、移民とは明確に区別される。

非熟練外国人労働者の受け入れは18歳から45歳に限られ、家族を同伴することはできない。非熟練の外国人労働者の労働許可は1年毎に更新され、最大で5年までとなっている。

マレーシア政府は10年の有効期間を持ち更新可能な長期滞在ビザプログラムMalaysia My Second Home(MM2H)を実施しているが、過去最高を記録した2013年でも認可は3675件にとどまる。

MM2Hの資格には、一定以上の預金残高(50歳以上の場合は35万リンギ以上、50歳以下の場合は50万リンギ以上)と月収1万リンギ以上が必要とされ、これはマレーシアでは所得水準の最上位10%に相当する。

すなわち、マレーシア政府は外国人労働者を主に単純労働の担い手として割り切っており、大量の移民を受け入れる意向は全くない。

おわりに
外国人労働者の増加に伴う社会的・経済的問題には、1)労働市場で競合する自国労働者の所得へのマイナスの影響、2)教育、医療、社会保障など公的支出への負担増、3)犯罪率の増加、社会的・文化的な摩擦などの影響などがある。マレーシアの場合、外国人労働者を有期の単純労働力に限定し、家族の帯同を認めないことで、1)と2)を小さくし、歴史的な経緯から、3)についても比較的小さいものにとどまっている。

一方で、本論では触れなかったが、外国人労働者の人権について問題提起をしておきたい。

マレーシアでも、業者による外国人労働者の搾取やメイドに対する虐待などを中心に外国人労働者の人権問題が生じている。

米国は、2014年6月発表の人身取引レポートでマレーシアを最低のカテゴリーにダウングレードした。特に大量の非合法労働者が雇用主やエージェントに対して弱い立場におかれ、賃金の支払いを拒否されたりパスポートを取り上げられて労働を強いられたりしている点が問題視されている。

マレーシアの場合、外国人労働者の多数は問題なく働いている一方、あまりに大量の受け入れを行っているため、行政の事務や監督が追いついていないように思われる。

外国人労働者については圧倒的に「買い手市場」であるが、それに甘んじて高圧的な態度が許されると政府・雇用主・エージェントが考えているとすれば、問題は大きい。

外国人労働者や移民政策について議論するとき、それを、単なる労働力の需給ギャップを埋めるための「数字」として捉えることは適切でない。

一人の労働者が外国人として一定期間働くとき、受け入れ国は、「この国で働けて良かった」という経験を提供できるだろうか。この点が満たされなければ、外国人労働者や移民政策は、送出国・受入国双方にとって長期的にプラスにならない。【2014年7月 熊谷 聡氏 JETRO】
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マレーシアの事例が“優れている”とか言うつもりはありませんし、もともと「多民族・多宗教の国家」であったこと、イスラム教という共通文化、言語的類似性など、マレーシアと日本とは異なる面も大きいとは思われますが、
“そうであるなら日本にあってはどうすれば外国人労働者を受け入れられる条件を作り出すことができるのか?”
“どうすれば「この国で働けて良かった」という経験を提供できるのか?”
という問題、そして日本モデルを考えるうえでの参考にはなるかと思います。

もちろん、これまで同様に国を閉ざして、結果的に“終わってしまった”極東の小国として埋没していく・・・という道もありますが、どうしてそういう選択をするのか、個人的には全く理解できません。

外国人を受け入れることに伴う問題は多々ありますが、問題を難しくしているのは・・・・止めておきましょう。「それを言っちゃおしまいよ」ということで。

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