孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン  バスク、カタルーニャで強まる自立を求める動き

2012-10-22 22:14:04 | 欧州情勢

(9月11日のカタルーニャ州都バルセロナでのデモ 州警察発表で参加者150万人、多くの報道では100万人以上、内閣府発表60万人、けが人・逮捕者はゼロ  100万人というのは、ちょっと想像がつかない規模です。 ただ、目指すところが「独立」なのか、自治権拡大なのか・・・という話はあろうかと思います。 “flickr”より By jibieltr  http://www.flickr.com/photos/79123372@N04/7977930766/

【「暮らしの好転は独立から」】
スペインでは、中央政府の財政危機に加え、不動産ブブルがはじけて巨額の不良債権を抱える銀行と財政赤字が膨らむ地方政府の問題もあって、厳しい経済運営が続いていますが、そうした経済危機が従前から存在する地方の分離独立を求める動きを加速させています。

“深刻な財政危機に陥っているスペインで、国からの分離独立を求める動きが地方で勢いづいている。バスクとカタルーニャ両自治州で近く行われる州議会選では、独立を掲げる地域政党が躍進する見通しだ。財政再建のために痛みを伴う改革を国民に求める政権与党が求心力を失うなか、地域政党の「暮らしの好転は独立から」という訴えが人々を引きつけている”【10月18日 朝日】

ETA:「武装活動の最終的な停止」】
バスクとカタルーニャはともに、イベリア半島の付け根部分に位置していますが、バスクは付け根部分の北部、カタルーニャは付け根部分の南部になります。

バスクは従前より、テロを繰り返した武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)による独立運動がよく知られています。40年以上に及ぶ闘争でテロによる800人以上の犠牲者を出していますが、ETAは昨年10月20日、「武装活動の最終的な停止」を宣言する声明文を発表しています。
これにより、分離独立運動の主軸は武装闘争から政治の場に移っています。

【「スペインの伝統である闘牛などいらない。我々はカタルーニャ人だ」】
カタルーニャについては、その州都、バルセロナの名前の方が、オリンピック開催や建築家ガウディ、あるいはサッカークラブのFCバルセロナなどでよく知られているでしょう。

歴史的には、1137年にアラゴン王国との同君連合が成立。1479年にはカスティーリャとバルセロナ=アラゴンが同君連合となった・・・・等々の経緯、1714年にはスペイン継承戦争でバルセロナ陥落、また、現代に飛ぶと、フランコ将軍によるスペイン内戦時の文化的弾圧などがあったようです。
極東の人間には欧州のそうした細かい話はよくわかりませんが、イングランドに対するスコットランドのように、文化的・言語的には独自のものを持っている地域です。

2006年6月には、自治権の拡大を問う自治憲章改定案への住民投票が行われ、74%の圧倒的多数の賛成で承認されています。この改定案は、独立ではなく地方分権を拡大するものです。

個人的には、バスクだけでなく、カタルーニャにも分離独立の動きがあることを知ったのは、闘牛禁止の件からです。

****カタルーニャは闘牛禁止に…スペイン伝統に背***
スペイン北東部カタルーニャ自治州議会は28日、州内での闘牛開催を2012年から禁ずる条例案を賛成68、反対55の賛成多数で可決した。
1000年以上の伝統を持つ闘牛は、大西洋のスペイン領カナリア諸島では禁止されているが、本土で禁止されるのは今回が初めて。

闘牛の起源はローマ時代にさかのぼり、貴族階級を通じて国民に広まり、スペインの国技と位置づけられたほか、南米などへも広まった。
だが、娯楽の多様化で若者を中心にファン離れが進み、2007年の世論調査では国民の4分の3が「関心がない」と回答。同自治州内の闘牛場は州都バルセロナの1か所にとどまり、年間会員も数百人に落ち込んでいた。
これを「禁止」に追い込んだ主役は動物愛護団体。18万人の署名を集め、条例制定を呼びかけてきた。

さらに、スペインの他の地域とは異なる独自の言語や文化を持つカタルーニャの独立を掲げる有力地域政党・カタルーニャ連合などが、「スペインの伝統である闘牛などいらない。我々はカタルーニャ人だ」と加勢し、条例を可決した。
闘牛の主催団体幹部は、「闘牛を見るも見ないも個人の自由。禁止されれば闘牛産業も打撃を受ける。自由と経済活動への攻撃だ」と反発している。【2010年7月30日】
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【「一国家となることを求める声が、カタルーニャ社会の大きな部分を占めている」】
もともと存在していた独自のアイデンティティーへのこだわり、民族主義を一気に強めたのが、最近の中央政府による緊縮財政への不満・反発でした。こうしたカタルーニャの人々の思いが噴き出したのが、9月11日に行われた100万人とも150万人とも言われる、「独立」あるいは自治権拡大を求める大規模デモでした。

****デモに100万人、自治権拡大求めるカタルーニャの人々****
8世紀のスペイン継承戦争でカタルーニャが陥落した「カタルーニャの日」にあたる11日、同州の州都バルセロナでは、経済危機にあえぐスペインからの「独立」や自治権拡大を求める大規模なデモに100万人以上が参加した。

独自の言語と文化を持つスペイン北東部のカタルーニャ自治州。経済規模はポルトガルよりも大きく、スペイン全体の5分の1を占める。しかし中央政府から搾取されているという長年の不満が、現在4人に1人が失業状態という同国全体の経済危機とそれを受けた緊縮財政に対する反発で、いつになく煽られている。バルセロナでのデモには100万人を超える住民が参加。スペインからの「独立と自由」を求めた。

デモから2日後の13日、スペインの首都マドリードで行われた経済フォーラムに出席したカタルーニャ自治州政府のアルトゥール・マス州首相は、同州の自治権拡大を求める姿勢を鮮明に打ち出した。

マス州首相はフォーラムの中で「北欧から南欧にかけて起きている状況について、スペインとカタルーニャの間には、ある平行線が生じている。カタルーニャとスペインの間には相互に倦怠感が生まれていると思う。カタルーニャは自分たちが可能だと思っている進歩をスペイン国家全体の中で遂げられないことにうんざりしており、スペイン政府も(彼らの要求に対する)カタルーニャの行動にうんざりしていることと思う」と述べた。

そして「独立」という言葉までは用いなかったが、カタルーニャは「移行期」にあり、「カタルーニャ人は自分たちを『国家』とみなすかどうか尋ねられる権利がある。一国家となることを求める声が、カタルーニャ社会の大きな部分を占めている」などと述べ、スペインからの独立を問う住民投票に積極的な姿勢を示唆した。
さらにマス州首相は、20日に予定されているマリアノ・ラホイ首相との会談で、カタルーニャ自治州の「財政的主権」を求めるつもりであることを明かした。【9月17日 AFP】1
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その後も、分離独立を掲げる動きは更に勢いを増しています。

****スペイン2州、独立論に熱 バスクとカタルーニャ****
■急進派政党、支持広げるバスク
「インデペンデンツィア」。1万人を超える聴衆で埋まったバスク州のビルバオ郊外にある見本市会場に、バスク語で「独立」を意味する言葉の連呼が響く。スペイン中央政府を標的にテロを繰り返した武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の元メンバーで服役中の指導者の写真が大画面に映し出され、バスク語の肉声が流れた。

「まず、受刑者の釈放を実現しよう。次に、独立に向けた対話の場を要求しようではないか」。民族衣装に身を包んだ人々はバスクの旗を振りながら、「受刑者を家に戻せ」と声をあげた。
21日投票の州議会選挙を控えて総決起集会を開いたのは、新しい地域政党「ビルドゥ(バスク語で団結)」。ETAが昨年10月に「武装闘争の最終的停止」を一方的に宣言して以来、支持を大きく伸ばしている独立急進派だ。

フランスと国境を接するギプスコア県の議会では、過半数を握るビルドゥ党が先導する形で、バスク語を広める動きが先鋭化。県当局者の記者会見はスペイン語通訳はつけるとはいえ、すべてバスク語で行うことを決めた。また、県が定めた規則に従い、道路工事の応札業者にバスク語の有資格者がいなかったことが判明したとして、入札そのものを無効にした。

県の対応について中央政府は「バスク語の強要は違法の可能性がある」(ガジャルドン法相)との考えを示している。だが県当局は動じず、「マドリード(中央政府)は文化の多様性を認めない。経済覇権を握り続けるため、バスクの自治権を狭めようとしているだけ」(エチェブル・県バスク語部長)と反論する。

ビルドゥ党の集会があった同じ日、ETAに誘拐されて殺された町議の遺族を迎え、国政の与党・国民党が集会を開いた。ビルバオ入りしたラホイ首相は「深刻な経済危機に加え、政治危機を招いてはならない」と地域政党の台頭に焦りをあらわにした。(中略)

ETA問題に詳しいバスコ通信のフロレンシオ・ドミンゲス編集長は「ビルドゥ党はETA系以外の勢力も参加した連合体。テロを予防するために支持する有権者も多いが、ビルドゥ党に押し出され、(第1党の穏健派)バスク民族党も独立の訴えを強める予兆がある」と指摘する。

■住民投票へ動くカタルーニャ
スペイン最大の経済規模を誇る自治州カタルーニャ。国内総生産(GDP)の5分の1を担っている。ここでは、分離独立の是非を住民投票で決めようという動きが広がっている。

バルセロナから北へ車で約1時間。木材や金属の加工業が盛んなサンペラデトレリョーの町役場の玄関先で、カタルーニャを表す赤と黄の横じまに星を組み合わせた「独立旗」がはためく。
「スペイン国旗は用済みだ。役場内に国王の肖像画は1枚もない」。ジョルディ・ファブレガ町長は満面の笑みを浮かべた。
町議会は9月初め、「カタルーニャの独立宣言」を全会一致で採択した。カタルーニャ州議会に対し、国家主権を一方的に宣言し、独立の是非を問う住民投票の実施を促した内容だ。人口約2400人の町が火付け役となった運動は広がり、わずか1カ月足らずで州内約950市町村の1割以上が同調した。

背景には、中央政府に押され、カタルーニャ州政府が進めた緊縮策への不満があった。医療費削減などに反対するデモが各地で相次いだ。追い込まれたマス州首相は9月末、中央政府と徹底抗戦する姿勢を鮮明にし、州議会選を11月25日に前倒しして実施することを表明した。

第1党で独立穏健派のカタルーニャ連合をはじめ地域政党は今、「民主化以降で最大の独立実現のチャンス到来」(リュイス・コロミナス州議)とみる。カタルーニャは本来、経済的に豊かなはずなのに、中央政府に税収を吸い上げられているため、財政が厳しさを増している。それを打開する方策が独立だという主張に、独立に慎重だった人々も共鳴していると考えるからだ。

今月初め、住民投票を実施する権利を国から自治州へ移譲するよう求めた地域政党側の提案が採決にかけられ、2大政党などの圧倒的多数で否決された。それでも、提案者に名を連ねたアルフレッド・ボスク下院議員は「自治権拡大を求める二の矢を放つ」と意気込む。

独立の是非を問う住民投票の実施には国会で憲法を改正する必要があり、ハードルは高い。世論調査によると、「カタルーニャが欧州連合の新しい国家になることを望むか」との質問に「はい」と答えた人は74%にのぼる。地域政党は州議会での先行実施も辞さない構えだ。
     ◇
〈スペインの自治州〉 
スペインではフランコ独裁政権下で中央集権化が進んだが、1970年代後半からの民主化により自治州の権限が拡大。計17の自治州は独自の議会と政府を持ち、中央政府から移譲された税源をもとに、特に医療や教育の分野で独自の政策を展開できる。中央政府は外交や防衛、年金をはじめとする社会保障の分野で権限を持つ。

自治州のなかでもバスクとナバラについては「特別財政制度」があり、州内の各県が所得税や法人税を含む大半の税を徴収する権利を持ち、州警察で治安を担う。一方、輸出産業が盛んなカタルーニャでは、経済危機に伴いバスク並みの徴税権を求める声が高まっている。 【10月18日 朝日】
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バスク州議会選挙で独立急進派が躍進
バスクについては、21日の州議会選挙で、予想されたように分離独立派が躍進、中央政府からの分離独立を目指し、武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の流れも含むビルドゥ連合が第2党となっています。

****首相の地元は与党過半数維持 スペイン州議会選****
スペイン政府が進める財政緊縮策に対する反発が強まるなか、二つの州で21日、州議会選があった。ラホイ首相の出身地、北西部ガリシア州では、与党国民党が単独過半数を保ち、地滑り的な求心力低下は回避した。(中略)

一方、北東部バスク州の議会選(定数75)では、スペインからの分離独立派が躍進した。独立急進派の新党ビルドゥからは、昨年10月に武装闘争の「最終的停止」を宣言した武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)の系列候補も立候補し、21議席を得て第2党になった。穏健派のバスク民族党は前回より3議席減らしたものの、27議席を獲得し第1党となった。改選前まで州議会の与党だったバスク社会党と国民党は、経済危機への対応が遅れたことへの批判から、ともに議席を減らした。【10月22日 朝日】
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バスク州議会で躍進したビルドゥ連合は第1党の穏健派のバスク民族党と連立政権を組む可能性があり、その場合、自治権拡大、独立要求の動きが強まるとの見方があります。【10月22日 毎日より】
同じく独立要求運動が盛り上がりを見せるカタルーニャ州議会選挙も11月に行われます。
スペインは経済危機だけでなく、地域民族主義の高まりという難しい問題も抱える事態となっています。

もっとも、分離独立と自治権拡大・徴税権獲得とは大きな差があります。
両州が今後どのような方向に進むのかは不透明です。

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2 コメント

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Unknown (消印所沢)
2012-10-31 23:31:12
 自作自演説ですが,その可能性は非常に低いと思われますので,念のため.
http://2ch-military.digi2.jp/faq10e06s.html#09513
Unknown (あ)
2012-11-09 08:26:29
お邪魔します。
むしろ、一世紀以上続くスペインの分離独立運動が様変わりしてきているんじゃないかと思います。
これでヨーロッパの経済が回復すれば、もはや、スペインの各種分裂運動は以前のような過激化の様相は見せないんじゃないでしょうか。

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