孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  中国・中国人への印象が好転 相互理解が生む新たな中台関係

2017-11-25 22:00:16 | 東アジア

(7月、中国広東省東莞で開かれた台湾の学生向け就職説明会。約190人のために広大な会場が準備された【11月20日 産経】)

政治的緊張のなかでの中国への印象好転
中国との関係を重視する国民党・馬英九政権から台湾の独自性を強調する民進党・蔡英文政権への変化にともなって、国際機関・会議からの台湾排除、台湾との国交を持つ数少ない国々の切り崩し等々、中国が台湾に対し強い圧力をかけていることは、連日の報道のとおりです。

最近の台湾関連に記事の見出しを並べただけでも、そのあたりの動きが明らかです。

【中国共産党大会】習近平氏、台湾へ統一攻勢強化へ 中台で際立つ認識格差【10月25日 産経】
<国外退去>台湾人の中国への強制送還急増 海外で拘束【10月30日 毎日】
台湾閣僚、「門前払い」=独で開催のCOP23サミット【11月13日 時事】
断交防げ、苦心の台湾 蔡総統、太平洋の島国歴訪【11月16日 朝日】
習政権、台湾孤立へシフト 札束外交で友好国奪取 独立派への暴力「よくやった」【11月19日 産経】
クリミア併合を研究せよ 台湾支配へハイブリッド戦争【11月20日 産経】
「中国は台湾より絶対的に有利な立場」発言、台湾で反発【11月20日 Record china】

こうした緊張が高まる中で、中国・習近平政権の“台湾進攻”といった物騒な話も囁かれる状況にもなっていることは、10月12日ブログ「中国の“台湾進攻”の可能性は? 今後も続く“一つの中国”をめぐる綱引き」でも取り上げたところです。

また、台湾独自色の強い民進党・蔡英文政権成立の背景に、台湾において“台湾人としてのアイデンティティー”を重視する考え方が主流となっていることがあることも常々指摘されるところです。

こうした政治状況、意識に関する言及からすると、非常に意外な感がしたのが下記記事でした。

****台湾人の中国人への印象が逆転、「良い」が初めて「悪い」上回る****
2017年11月20日、台湾・聯合報は、台湾市民に中国本土市民への印象を尋ねた世論調査で、2010年の調査開始以降初めて「良い」が「悪い」を上回ったと報じた。

聯合報は今月10日から13日に、家庭の電話番号から無作為に選ぶ方式による世論調査を実施、1017人から回答を得た。

中国本土人に対する印象では「良い」が前年の調査から5ポイント増の49%となり、過去最高を記録。逆に「悪い」は8ポイント減って37%で、過去最低となった。

また、中国政府に対する印象でも、これまで3割前後で推移していた「良い」が昨年から9ポイント上昇して40%に。昨年54%だった「悪い」は、9ポイント下がって45%だった。

中国政府の印象(自由回答)では、専制集権的が20%、覇道的が16%で多かったが、一方で「効率が高い」との回答も7%に達した。

中国本土人の印象(自由回答)では、「モラルが低い」との回答が昨年27%から20%にまで減った。
このほか、ネガティブな印象では「乱暴」「高慢」「富をひけらかす」「自分勝手」という回答が、ポジティブな印象では「善良的」「率直で豪快」「情に厚く親切」「同胞としての愛を感じる」といった答えがあったという。


また、本土に行ったことがある台湾人の56%が中国に、49%が中国政府にそれぞれ良い印象を抱いており、行ったことがない人に比べて14〜18ポイント高い結果となった。【11月21日 Record china】
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“自分は中国人ではなく台湾人である”といった“台湾人アイデンティティー”が主流になっているのも事実ですが、細かく見ると、最近では逆に“中国人”という意識が微増傾向にあるようです。

****台湾人のアイデンティティー、「私は中国人」が微増 世論調査****
台湾の与党民主進歩党(民進党)系のシンクタンク、新台湾国策智庫が21日発表した台湾人のアイデンティティーを問う世論調査で、自分は「中国人」と答えた人が10.6%と、1年前に比べ3.7ポイント増えた。「台湾人」と答えた人は0.5ポイント減の83.5%だった。
 
台湾の成功大の蒙志成准教授は「中国が青年交流の強化や、就職・起業支援などの対台湾政策を積極的に進めていることと関係があるのではないか」と指摘した。
 
設問は「中国人」か「台湾人」かの二者択一。2015年3月には「台湾人」と答えた人が90.6%と、過去3年間で最も高かった。【4月21日 産経ニュース】
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依然として8割を超す割合が「台湾人」と意識しているということを重視するか、「中国人」と意識する割合が微増していることを重視するかで、調査の評価は分かれますが・・・。

中国側の積極的・融和的な対台湾政策
観光業へのダメージなど中国に依存した経済状況の動向とか、政治的に緊張が高まる蔡英文政権成立への反動なども影響しているかもしれませんが、上記記事では中国側の積極的・融和的な対台湾政策の成果も指摘されています。

****クリミア併合を研究せよ 台湾支配へハイブリッド戦争****
(中略)
台湾の若者への懐柔も中国の統一工作の重要な一環である。
 
「私は台湾独立派だけど、中国大陸はチャンスが多い。機会があれば中国で就職したい」
台北大学4年の葉依●(21)は、あっけらかんと話した。7月に中国広東省政府と中台の起業家らが共同で開いた、台湾の学生向け就職説明会に参加した。副総統などを務めた野党、中国国民党の蕭万長が団長を務め、大学や高等専門学校20校から学生約190人が広東省東莞を訪れた。
 
2泊3日で高級ホテルに宿泊。東莞の国際展示場では、家電大手ハイアールや大手銀行、航空会社など中国企業約280社が訪問団のためだけにブースを準備した。滞在中の費用は主催者が全額負担した。
 
葉は民主化後の台湾で育ち「天然独(生まれながらの台湾独立派)」を自任していた。台湾人は中国当局や中台統一派が主張するような「中華民族の一員」ではなく、「文化、価値観から生活習慣まで全て異なる、中国人とは別の民族」とまで言い切る。それでも説明会には「心を動かされた」という。
 
北京で企業研修を体験した台湾大学4年の李政軒(21)は「中国にいくことにリスクはあるが、能力さえあれば給料が上がるのが魅力的だ」と語り、真剣に就職を検討しているという。
 
中国とのサービス貿易協定に反対する台湾の学生らが立法院(国会に相当)を占拠した2014年春の「ヒマワリ学生運動」は、中国当局に衝撃を与えた。

学生らを突き動かしたのは、中国一辺倒の国民党・馬英九政権への反発だけでなく、協定で自分たちの就職先が失われるという焦燥感だった。若年世代の反中感情は昨年の政権交代の原動力ともなった。
 
これを受けて共産党は今年3月、対台湾工作の重点を「一代一線(青年世代と末端の民衆)」とする方針を発表。10月の党大会前後には、台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室トップの事実上の更迭を明らかにした。

総書記の習近平は政治報告で、学習、創業、就業、生活の4分野で「大陸同胞と同様の待遇を提供する」と述べ、中国で暮らす台湾住民の「内国民化」を宣言した。
 
台湾のシンクタンク「国家政策研究基金会」の研究員、盧宸緯によると、中国当局は台湾の若者の起業をワンストップで支援する「青年創業基地」を2015年6月から設立し始め、わずか1年間で53カ所まで急増させた。

昨年10月には、台湾人の大学入学基準を現地の学生と同水準に緩和。「一つの中国」を認めることを条件に台湾人向けの奨学金も拡充した。こうした優遇策は「(台湾側に)何かを強制する度合いが小さく、台湾社会への影響が少ない」と盧は指摘する。習政権が「ヒマワリ」から学習した成果だ。
 
台湾人の若者を「吸収」する一方で、中国は台湾への留学生を減らしている。今年度、台湾の大学に留学を申請した中国人学生は以前と比べ約半分の1千人以下に減った。盧はこうした“輸出超過”が続けば「台湾から優秀な人材が流出してしまう」と懸念する。【11月20日 産経】
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なお、中国からの台湾への留学生が減少している(存在すること自体が、中台対立を前提とすると奇異な感もありますが)の背景には、政治的な問題以外に、台湾側の“差別”も指摘されています。

****中国本土の学生が台湾に行きたがらない理由は「差別」―台湾メディア****
2017年8月15日、台湾紙・中国時報電子版は、この1年で台湾に留学する中国本土の学生が減少している背景には、政治的な理由以外に差別の問題があると伝えた。

記事によると、台湾大学で修士課程を学ぶ中国本土の学生は「台湾の学位は以前ほど本土の学生にとって魅力的ではなくなった。学位認定申請や就職活動におけるメリットも年々低下している」と語っている。

台湾の大学が本土の学生を受け入れる際には「三限六不」の原則が適用される。「三限(三つの制限)」とは「本土の名門大学からの派遣の制限、学生数の制限、医学や台湾の安全分野にかかわる学科の制限」であり、「六不(六つのない)」は「加点しない、奨学金を提供しない、学生の募集定員に影響させない、校外でのアルバイトを認めない、卒業後に台湾で就職することを認めない、各種資格試験などの受験資格を与えない」だ。

この原則が台湾と本土の学生間に差別を生んでおり、本土の学生が台湾へ留学したがらない大きな原因になっているという。

記事によると、台湾大学の修士課程に所属する別の本土学生が「卒業しても台湾に残れないのだから、本土の大学院に行けと家族に反対された」と語ったほか、「台湾でレベルが高い法学部に入っても、そこで学んだ法律は本土では役に立たない。それに、校外でアルバイトできないという規定が、台湾で学んだ本土学生の職場における競争力を奪っている」と話す学生もいるという。【8月17日 Record china】
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台湾側の若者は中国本土での経済機会を求め、中国若者は台湾への関心を減らしているという傾向のようです。

情報不足が生む意識の偏り
前出【11月21日 Record china】の記事にある、本土へ旅行経験の有無による意識差も注目されます。

日中関係でも、反日感情が根強いなかで実際に日本に旅行してみたら考えが変わった・・・といった類の記事はよく目にしますが、そのあたりは中台関係においても同様でしょう。

“台湾人アイデンティティー”が偏った意識だとは思いませんが、相手に対する情報不足が影響している部分があれば、そこは是正されるべきでしょう。

やや古い記事ですが、下記のような中国側の不満も。

****台湾留学の大陸学生アンケート、「台湾市民の本土に対する理解不足」への不満が明らかに―中国メディア****
中国新聞社は9月30日、台湾に留学する中国本土の学生がもっとも不満に感じていることが「台湾市民の中国本土に対する理解が不足している点」であることが、最新の調査によって明らかになったと報じた。(中略)

その結果、台湾市民による中国本土への理解は2.83、メディアの専門性は2.93、国際意識は3.46、異文化の受け入れ度は3.92で、「中国本土への理解」が最も低い数字となった。

調査を実施した台湾・政治大学教育学部の周祝瑛教授は「本土の学生は、台湾のメディアや市民が本土に対して時代遅れのステレオタイプ的印象を持っている。例えば教師が『本土にはタクシーや高層ビルがあるのか、トイレにはドアがあるのか』といった事を聞いたりして、本土の学生を困らせる」、「多くの学生が台湾のテレビについて当初は『開放的で面白い』という印象を持つが、やがて『国際時事に関する内容が不足している』ことに気づく」説明している。(後略)【2015年10月1日 Focus-Asia】
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新たな中台関係に向けて
昨今の中国当局による台湾への観光客抑制は周知のところです。
留学とまでいかなくても、短期間の観光でも実際に自分の目で耳で見聞きすれば、相手への印象は大きく変わります。

中国が中台統一を実現させたいと思うのであれば、政治的圧力を強めるよりは、就業・留学・観光などの相互交流の機会を広めることの方が有効だと思われます。

もちろん意識変化は短時間では起きませんが、数十年かけて機が熟するのを待つ鷹揚な姿勢で臨んでいれば、相互理解の深化とともに、中台間の新たな関係も見えてくるのでは・・・とも思われます。

なんだかんだ言っても“血は水よりも・・・”ということもありますし、経済依存関係、圧倒的な国際政治における影響力などもありますので、落ち着くところに落ち着く・・・ということも。

“落ち着くところ”が具体的にどういう関係なのかはわかりませんが。

当然ながら台湾・蔡英文総統も、いたずらに中国との対立を望んでいる訳でもないようです。

****台湾・蔡総統、中台を「もう一歩改善。現在は変化のチャンス」 関係停滞の打開に意欲****
台湾の蔡英文総統は26日、台北市内で演説し、中国共産党の習近平指導部が2期目に入ったことを受け、「両岸(中台)関係をもう一歩、改善したい。現在はまさに変化のチャンスだ」と述べて、中台関係の停滞打開に意欲を示した。
 
習近平総書記(国家主席)が24日に閉幕した党大会で新たな対台湾方針を発表して以降、蔡氏の発言は初めて。
 
蔡氏は「新たな思考」で「両岸関係の突破」に向けて知恵を絞るよう改めて習氏に呼びかけた。また、「敵対関係と戦争の恐怖を永遠に取り除く」ことを提案した。中台の紛争状態を正式に終結させる平和協定の締結に前向きな発言とも受け取れる。【10月26日 産経】
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“蔡総統はまた、両者が「敵対心と戦争への恐れを永久に根絶する」よう取り組んでいくべきだとも話した。”【10月26日 AFP】とも。
産経】

近視眼的には中台が対立して、台湾と日本が関係を強化するというのは、日本にとって好都合かもしれませんが、長期的には、日本・台湾・中国を含めた東アジアにおける相互理解に基づいた関係が構築されることが、日本にとって経済的にも、安全保障面でも望ましいことでしょう。

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