孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  前政権から一転、中国への傾斜を強めるドゥテルテ大統領 改革への期待感から高支持率

2016-08-24 22:27:37 | 東南アジア

(麻薬密売人の殺害現場を遠巻きに見守るスラム街の住民達(Getty Images)【8月23日 WEDGE Infinity】

国連脱退・中国と新国際組織結成を示唆
フィリピンのドゥテルテ大統領が主導する警察及び“身元不明の武装集団”による麻薬犯罪容疑者の「超法規的」殺害については、これまでも再三取り上げてきたところです。
(8月5日ブログ“フィリピン 麻薬犯罪撲滅に「射殺」を奨励するドゥテルテ大統領 「法の支配」無視では中国と同じ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160805など)

フィリピンの警察幹部は上院議会の公聴会で、麻薬犯罪取り締まりの過程で犯罪関与が疑われる665人を殺害し、自警団も889人を殺害したことを明らかにしています。

こうした「超法規的」殺害に対し、当然ながら国連は国際法で犯罪にあたる疑いがあると指摘しており、人権問題に関する国連特別報告者のアグネス・カラマード氏は実態を調査するため、フィリピンを訪問したいとする考えを明らかにしています。

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・・・・国連はこうした取り締まりが国際法で犯罪にあたる疑いがあると指摘しているが、ドゥテルテ政権の主席法務顧問であるサルバドール・パネロ氏は19日、これに反発し、カラマード氏にフィリピンを訪問して調査してもらいたいと挑んだ。
 
カラマード氏は電子メールでAFPに対し、「このところ高まっている超法規的処刑の疑惑に関して、フィリピン当局やその他の当事者および関係者を制約なく調査できるとすれば、(フィリピン)政府の招きを歓迎する」と述べた。
 
しかし、フィリピンのエルネスト・アベリャ大統領報道官は、パネロ氏の発言を訪問と調査の誘いだと捉えたのは、国連の「代弁者」であるカラマード氏の誤解だとの認識を示し「フィリピンは国内問題の調査を誰にも要請しておらず、国連に対しても求めていない」と明言した。【8月21日 AFP】
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ドゥテルテ大統領は国連のこうした批判的対応にご立腹で、国連脱退をほのめかすような発言を行って波紋を広げているのは周知のところです。

****フィリピン大統領が国連脱退に言及、超法規殺人の自制要求に反発****
フィリピンのドゥテルテ大統領は21日、国連が一連の麻薬犯罪絡みの殺人を止めるよう求めたことに反発し、国連を脱退して中国などの国と新たな組織を設立する可能性があると述べた。

麻薬撲滅を公約に掲げ大統領が当選した5月9日以降、麻薬犯罪の取り締まりを目的とした超法規的殺人がエスカレートし、これまでに麻薬取引の疑いをもたれた900人前後が殺害されている。

ドゥテルテ大統領は殺人に対する政府の関与を否定。19日深夜に地元ダバオで記者会見を開き、殺人は警察の手によるものではないとして、国連の専門家に自らを調査するよう促した。

大統領は、国連当局者らに対し、麻薬関係者ばかりでなく、麻薬によって犠牲となっている罪のない命も数えるよう求め「おそらく国連脱退を決断する必要があるだろう。この愚か者たちの話を聞く必要がなぜあるのか」と語った。

発言の結果について問われると「反響が何だ。そんなものは意に介さない」と一蹴した。【8月22日 ロイター】
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大統領選でも「最初の6カ月間で犯罪者10万人を殺害する」と主張しており、「なぜ国連はわが国の問題に安易に干渉してくるのか。(殺害したのは)たった1000人だ」(17日)などとも発言しているドゥテルテ大統領が何を言おうが今更驚きもしませんし、フィリピンが国連を脱退したいなら勝手にすればいいだけですが(外相など側近は国連脱退を否定して「火消し」に努めていますが)、興味深いのは“中国などの国と新たな組織を設立する可能性”云々という部分です。

南シナ海をめぐってフィリピンと中国は国際仲裁裁判所判決など、その対立が先鋭化していましたが、ドゥテルテ大統領はラモス元大統領を特使として香港に派遣し、中国との関係改善に向けた対話の糸口を模索するなど、中国との協調路線をとる意向であることは周知のところです。

しかし、“中国などの国と新たな組織を設立する可能性”云々というほどに、中国へのめり込んでいるとはいささか驚きました。国連などの人権重視の考え方やアメリカ主導の現在の国際秩序に対する強い拒否感があるようです。

中国との関係については、“「中国に宣戦布告する選択肢はない」と明言。「自分はそれほど馬鹿ではない。戦争は今の政策の選択肢にない」と話した。対中関係について「良好な状態を保つことが、直接対話の環境を整えるだろう」”【8月20日 Record China】とも。

“馬鹿”ではないでしょうが、中国の「法の支配」を無視したやり様に対する拒否感もないようです。
8月5日ブログでも指摘したように、中国とドゥテルテ大統領は、その体質において似かよった部分が多いせいでしょう。

ドゥテルテ大統領は、中国との協議を年内に開始する見通しを明らかににています。

****中国との協議、年内開始=仲裁判決棚上げは「不可能」―比大統領****
フィリピンのドゥテルテ大統領は23日、南シナ海問題で対立する中国との2国間協議について、年内に開始されるとの見通しを明らかにした。大統領はこれまでも、中国との協議に積極的な意向を示してきたが、具体的な時期に触れたのは初めて。マニラのマラカニアン宮殿で記者団の質問に答えた。
 
大統領は中国とパイプを持つとみられるラモス元大統領を対話のための特使に指名。ラモス氏は今月、香港を訪れ、中国全国人民代表大会(全人代)外事委員会の傅瑩主任委員らと会談した。
 
大統領は「ラモス氏はいい仕事をしてくれた」と評価。中国との公式協議が近いかどうか問われると「そうだ。年内だ」と答えた。また、ラオスで9月に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議では、フィリピンが勝訴した仲裁裁判所の判決について、自分から取り上げる考えはないことも示した。【8月23日 時事】 
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ドゥテルテ大統領にとっては、仲裁裁判所判決は中国からできるだけ多くの資金を引き出すための格好の取引材料にすぎないようです。非常に現実的とも言えますが・・・・。

【「多くの国民は彼を救世主だと考えている」】
ドゥテルテ大統領の「超法規的処刑」については、国連も問題視していますし、個人的にも間違った対応だと考えていますが、フィリピン国内にあっては、ドゥテルテ大統領は非常に高い支持を得ています。

****<比大統領>止まらぬ暴言・・・・治安改善で実績、人気衰え知らず****
過激な発言で知られるフィリピンのドゥテルテ大統領(71)の暴言が止まらない。21日には、自身が進める強権的な麻薬犯罪対策を国連に批判されたとして、国連脱退の可能性を表明した。

ヤサイ外相は22日、脱退は否定したものの、国連の批判に「大統領は失望し、いらだっている」と非難した。

政権の強硬姿勢は国際社会から強い批判を浴びているが、治安改善の実績を背景にした、国民からの高い支持が衰える気配はない。(中略)
 
ドゥテルテ政権が強硬姿勢を貫くのは、国民の根強い支持があるからだ。世論調査機関SWSによると、6月下旬の調査では84%がドゥテルテ氏を「強く信頼している」と回答し、選挙前の5月上旬時点の54%から大きく増加。

「ほとんどの公約を実行できる」と考える人も63%に上った。別の機関による7月上旬の調査でも91%が「信頼できる」と回答している。
 
ドゥテルテ氏は20年以上ダバオ市長を務め、治安改善を実現した実績がある。米紙ニューヨーク・タイムズによると、大統領選でも「最初の6カ月間で犯罪者10万人を殺害する」と主張していたという。ドゥテルテ氏当選後の6月は、犯罪件数が前月比13%減の4万6600件に減少したとの統計もある。
 
相次ぐ暴言に加え、外交手腕の危うさを指摘する声もあるが、治安改善という目に見える「実績」が続く限り、支持率が低下する兆しはなさそうだ。【8月22日 毎日】
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ドゥテルテ大統領への高い支持率は、貧困・格差・汚職といったフィリピン社会の抱える課題に関する「何かやってくれるかもしれない」という国民の期待感によってもたらされています。

****フィリピン新政権、“超法規的殺人”でも高支持率の謎****
ドゥテルテ政権発足から7月30日で1カ月が経過した。民間調査機関のパルスアジアがドゥテルテ大統領の信任に関して行った世論調査で、「大統領を信頼している」と答えた国民は91%に上り、歴代大統領で最高を記録した。
 
調査は全国の1200人が対象で、7月2日から8日に行われた。この結果を受けてアンダナー大統領府報道班長は声明を発表し「信任率の高さは、国民の生活をより良く、安全にするため、改善を続ける新政権にとって刺激剤になる」と述べた。
 
しかし、この91%という数字に至った世論調査は、発足直後に行われたためドゥテルテ政権の実績に対する評価というよりは、改革への期待感が影響した可能性がある。貧富の格差や汚職といった従来の問題を解消できなかった歴代政権に対する不満の反動ともいえるだろう。
 
発足直後に信任率が高かったのは今回に限ったことではない。アキノ前政権が10年6月末に発足した直後の世論調査でも、信任率は85%に上った。ところが任期切れ直前は50%前後まで下落した。政権が交代する潮目の時に期待が高まるという傾向があるようだ。

高支持率の裏で行われる“超法規的殺人”
ドゥテルテ政権発足後、最も顕著に取り組んでいるのが、麻薬密売組織の撲滅だ。国家警察によると、政権発足直後の7月1日から8月2日までの1カ月間、違法薬物密売などの疑いで超法規的に殺害された容疑者は約400人に上る。

1日に10人以上が殺害されている計算で、事態を重くみた国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(米ニューヨーク)は、ドゥテルテ政権に抗議するよう国連薬物犯罪事務所(UNODC)などに要請した。
 
このような批判にもかかわらず、8月1日に公表された世論調査でも、1年後の生活が「改善する」と答えた国民は49%に上り、84年の調査開始以来で最高を記録した。同じ質問に関する調査は開始以来、これまでに120回実施されたが、40%を超えたのは全体のおよそ1割に当たる16回だけだった。
 
ドゥテルテ政権が支持されているのは「半年以内に麻薬密売組織を撲滅させる」と選挙前に豪語し、その公約通り有言実行の姿勢を示せたことだ.
これが「何かやってくれるかもしれない」という国民の期待感につながっているとみられる。

フィリピン人のある男性ジャーナリストは「ドゥテルテ氏のやり方には賛同できない部分もあるが、彼の強い政治的意思は評価に値する。犯罪組織にとっては一定の脅威になっているのではないか。実際、多くの国民は彼を救世主だと考えている」と語る。
 
ドゥテルテ大統領は就任後に初めて行った施政方針演説で、違法薬物と汚職の撲滅に取り組む姿勢をあらためて強調した。フィリピン共産党勢力との和平実現を目指す考えも示したが、成長を続けるこの国にとって重要なのはやはり、経済政策だろう。
 
国民が世論調査で「新政権が取り組むべき課題」に挙げたのは、インフレ率の抑制、雇用創出、貧困対策だ。これら生活改善の実感につながる政策が実施できるか否かが、今後の政権運営の鍵を握ることになる。【8月24日 WEDGE】
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国民の期待感はわかりますが、問題を起こす連中は殺してしまえ・・・という姿勢は、今後ドゥテルテ大統領の政治に対する批判者にも向けられる危険があります。やはり、民主的社会にあっては超えてはならない一線を越えていると言うしかないでしょう。

アメリカでトランプ大統領が誕生すれば、似たようなことが起きるのでしょう。
麻薬犯罪者に代えて、不法移民や“テロを起こしそうに見える”イスラム教徒がその標的になるのでしょう。まあ、さすがに“処刑”はないでしょうが。

中国との関係も同様です。アメリカ国内の利害しか関心がなく、中国国内の人権侵害などにも興味がないトランプ大統領ということになると、利害調整の話がつけば、日本を含めた東アジアは中国にまかせる・・・ということにもなるのかも。

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