孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  ひとつの時代の終わり・・・カストロ完全引退 厳しい改革への道のり

2011-04-22 20:24:50 | 国際情勢

(19日、党大会に出席したジャージ姿のフィデル・カストロ、中央が弟のラウル・カストロ、右女性は61年のピッグス湾事件犠牲者のようです。 “flickr”より By fotoscubahoy http://www.flickr.com/photos/fotos_cuba_hoy/5634761589/

【「フィデルはフィデルだ」】
16日から13年半ぶりに開催されたキューバの第6回党大会で、病気療養中のフィデル・カストロ第1書記(84)が正式に退任することが明らかにされたことが報じられています。

****カストロ氏、公職から完全引退 党トップも退任****
キューバ共産党は党大会最終日の19日に開いた全体会議で、病気療養中のフィデル・カストロ第1書記(84)が退任し、弟のラウル・カストロ第2書記(79、国家評議会議長)が昇格する人事を発表した。党大会は同日閉会した。
フィデル氏は国家元首である国家評議会議長も2008年に退任しており、革命後のキューバを半世紀にわたって率いたカリスマ指導者が、公の職務から完全に退くことになる。

ただ今回の党大会で、革命が生んだ社会主義体制の維持は確認されており、精神的支柱としての存在感が今後も残るのは間違いない。ラウル氏も、これまで同様にフィデル氏の助言を得ながら国家運営を続けていくとみられる。ラウル氏の後任には党序列で2人に次ぐ古参政治局員のホセ・ラモン・マチャド氏(80)が選ばれた。

フィデル氏は党大会初日の全体会議は欠席したが、19日にジャージー姿で出席。会場に姿を見せると、満場の拍手で迎えられ、涙ぐむ代議員もいた。ラウル氏を第1書記に選ぶ人事が発表されると、フィデル氏はひな壇上で左隣のラウル氏に満面の笑みで拍手を送った。
フィデル氏は1956年、チェ・ゲバラとともに革命闘争を始め、59年にバチスタ独裁政権を倒した。61年、米国の後押しを受けたカストロ政権転覆作戦(ピッグス湾事件)が失敗に終わると、ハバナで「社会主義宣言」を発表、冷戦体制を背景に、米国との対決姿勢を決定的にした。
06年7月に腸の緊急手術を受け、評議会議長などの権限を一時的にラウル氏に譲った。昨夏以降、国会など公の場に再び姿を見せ始め、健康の回復を内外に印象づけた。

キューバ共産党は18日の大会で、ラウル氏が提案した経済社会計画を満場一致で承認した。全国民に食糧を配給する制度を廃止し、市場主義や成果主義を部分的に取り入れて社会主義の延命を図る路線が、今後5年間の国家運営の基本と正式に定められたことになる。経済改革の実務責任者であるマリノ・ムリリョ前経済企画相(50)が新たに党政治局員に選ばれ、経済改革を推進するラウル氏の意志を印象づけた。
配給制度やさまざまな補助金で国民を手厚く保護するフィデル氏の「平等主義」路線は国家財政を圧迫し、見直しが不可避だった。この点でも、キューバは「フィデル後」に向けて大きくかじを切ったことになる。【4月20日 朝日】
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すでに弟ラウル氏によって、「平等主義」路線の改革は実施に移されており、今回党大会の人事・決定はこの改革路線の追認ではありますが、アメリカを相手に1歩も引かず、その目と鼻の先で経済制裁に耐えながら社会主義社会を維持してきたカリスマ指導者フィデル・カストロの完全引退となると、ひとつの時代の区切りを感じます。

キューバ・モデルの限界
キューバ経済の行き詰まりは、“キューバは08年のハリケーン被害に加え、主要輸出品のニッケル価格の下落やコーヒーの世界的な消費低迷の影響を受け、対外債務が急増した。62年から全国民に与えてきた配給品からイモ(09年)、たばこ(10年)、せっけん(11年)を削減するほど財政が悪化。09年の平均賃金は月約430ペソ(約1500円)で、物価上昇を考慮した実質賃金は89年の4分の1レベルだ。”【4月16日 毎日】と指摘される状況ですが、ソ連が崩壊し、中国が“赤い資本主義”に邁進するなかで、配給制、平等主義的な賃金体系、医療・教育の無料制度などを最近まで維持してきたことが驚異的でもあります。

行き詰まりを打破するため、昨年9月には、国営部門の労働者の大リストラ計画も発表されていました。
****キューバ、50万人を大リストラ 国営部門圧縮し民営へ****
キューバ政府は13日、国営部門の労働者を50万人以上、約半年かけて削減する方針を打ち出した。非効率な国営部門を大幅圧縮して民営企業を拡大、経済の立て直しを目指す。全公務員の1割超を民間に振り向ける大手術となる。
キューバ唯一の労組であるキューバ労働組合総同盟(CTC)が発表した。公務員のリストラと民営化推進は、ラウル・カストロ国家評議会議長が今年8月の国会演説で方針を示しており、その具体的規模が明らかにされた形だ。

キューバでは労働者の9割近くが国営部門に属し、毎月定額の給与が払われてきた。2008年に就任したカストロ議長は「生産性の向上」を呼びかけてきたが、国が雇用を保障する体制下で労働者の遅刻や早退が常態化しており、生産性向上は成果を上げていない。今回のリストラは議長がやむなく選んだ「ショック療法」と言える。

CTCは声明で「労働者に給与を永久に保障し続ける仕組みはもはや適用不可能だ」と明言した。リストラ対象の具体的な業種は示していないが、「国営部門に残るのは、農業や建設、警察、製造業など、重要度が高く、労働力が常に不足している分野に限る」としている。すでに一部民営化が進んでいる小売業は、国営部門から切り離される可能性が高い。【10年9月14日 朝日】
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また、同時期、フィデル・カストロ氏自身がキューバ・モデルの限界を認める発言をした・・・と、話題にもなりました。
****カストロ前議長、社会主義経済の限界認める発言*****
米月刊誌「アトランティック」は8日、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(84)と行ったインタビューの内容を公表。
前議長はその中で、国家が経済活動を統制するキューバ・モデルは「もううまくいかない」と発言した。
社会主義経済の限界を認めたのは、実弟のラウル・カストロ国家評議会議長が進める資本主義的経済路線を是認する意図もあった可能性があり、注目される。(後略)【10年9月9日 読売】
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ただ、この発言については、フィデル・カストロ氏は直後のハバナ大学での講演で、「(私の意図は)まったく逆だ」と語り、誤訳であることを指摘しています。

18日の大会でラウル氏が提案し、承認された経済社会計画は、公共部門の民間開放、公務員の削減、国の支出削減など、300余りの項目から成り、このうちの多くは既に実施段階にあります。この改革で、国民は50年ぶりに、家や車を売買したり、銀行ローンを組むことが可能になります。

【「平等主義」路線見直し改革は「国民の意思」】
しかし、“ラウル・カストロ国家評議会議長(79)は、閉幕スピーチで、「第1書記の使命は社会主義を擁護し、維持し、発展させていくこと。そして資本主義が返り咲かないようにすることだ」と述べた。さらに経済改革については、「国にまん延する無気力を今こそ打破しなければならない」と強調した。” 【4月20日 AFP】とのことで、中国やベトナムのような資本主義を目指している訳ではないとされています。ただ、「平等主義」路線を見直しに大きく舵を切ったことは間違いありません。

****ラウル氏昇格 「平等主義」見直す****
キューバのラウル・カストロ新第1書記は共産党大会で、兄フィデル氏の「平等主義」路線を見直し、「フィデル後」に向けて大きくかじを切った。

公務員はリストラし、働けば働いただけもうかる仕組み・・・ラウル氏のこの改革方針はしかし、共産党と社会主義イデオロギーを信奉する革命世代には受け入れにくい。09年に開かれるはずだった党大会が延期されたのは、改革を打ち出す環境を整えるのに時間が必要だったことを物語る。
この間、ラウル氏は改革案を国民と討議ずる場を設けるよう指示、全国で聞かれた集会は計16万回に達した。この経過をラウル氏は党大会初日の報告で公表し、「国民の声を反映した改革案」の形を整えた。

人事面では、自身の後任の第2書記に、党創設メンバーの1人のマチヤド氏(80)を起用。政治局員人事でも若手の登用は最小限にとどめた。主導権は革命世代に残しつつ、改革は「国民の意思」だとして実行に移させる。ラウル氏の周到さがうかがえる。

ただ、キューバは中国やベトナムを目指してはいない。キューバ人が「資本主義」と聞いて想起するのは、先進国の繁栄ではなく革命前の搾取の時代だ。
冷戦終結から20年余がたっても、キューバにとって資本主義は戦う敵であることに変わりはない。市場主義に傾きすぎれば、革命の否定につながりかねない。党大会で承認された改革メニューは、少しずつ慎重に実行に移されるだろう。

ただラウル氏も79歳。残された時間は多くはない。来年には南米ベネズエラで大統領選がある。キューバ経済を支えてきたチャベス政権が倒れれば、キューバの経済危機は深刻になる。
党大会では政治改革は議論されなかった。米国を敵視してきたフィデル氏の完全引退が決まったが、政治的自由を求める米国との関係に大きな変化はなさそうだ。(ハバナ=堀内隆)【4月21日 朝日】
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TV報道によれば、価格設定が自由にできる自由市場には商品が溢れており、肉などはこうした市場でないと手に入らないとか、価格は商品によっては公定価格の10倍にもなるとも。一方で、公定価格の市場には商品はまばらで、痛んだ野菜などが置かれています。家庭に配給される食糧はまったく足りない量に過ぎないとも。
すでに平等主義は実態として破綻しているようです。

社会主義を発展させていきながら、資本主義が返り咲かないようにする改革
しかし、ラウル氏が目指す社会主義を擁護しながらの経済改革というのは非常に難しい、自己矛盾とも言えるような路線でもあります。
ソ連崩壊後のロシア経済の混乱のように、部分的な市場経済の導入は“劇薬”でもあり、これまでの秩序を崩壊させる危険があります。時流に乗れる人とそうでない人の間に大きな格差も生じます。これまでの平等主義に慣れてきた人々にとって耐えがたいものもあるでしょう。

人事面での若手の登用は限定的で、“革命から半世紀が過ぎ、現社会主義体制のひずみが限界に達しつつある中で、なお改革の実行を革命の第1世代に頼らざるを得ない現実を映し出した”【4月22日 産経】とも指摘されています。
“米紙ウォールストリート・ジャーナルは「問題は、レーニンやスターリンでありながら同時にゴルバチョフになることは不可能ということだ」と、旧ソ連の指導者を例に、旧世代のこわもての指導者がそのまま残るなかでの変革の試みを茶番と評する専門家の談話を伝えた。”【同上】

当然ながら、今後アメリカがキューバ制裁をどうするのかというアメリカの対応によってもキューバ経済は大きく左右されます。
中国やベトナムとも異なる社会主義を堅持したキューバ・モデルというものがどういうものになるのか、そんなものがはたしてあるのか・・・興味深いところですが、ラウル氏の舵取りは相当に困難なものに思えます。

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