孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも

2017-02-27 22:25:32 | 難民・移民

(パプアニューギニア・マヌス島で、立ち並ぶ難民収容施設のテント 【2016年4月27日 AFP】)

トランプ大統領が怒ったオーストラリアからの難民受入合意
今月初め、トランプ米大統領がオーストラリアのターンブル首相との電話会談で、難民問題に関するオバマ前大統領とのアメリカ移住合意に関して怒り出し、途中で電話を切ってしまった・・・という話は、トランプ氏らしい話としてまだ記憶に新しいところです。

****トランプ氏「最悪な電話だ」 豪首相との会談で怒り出す****
「最悪の電話だ」。トランプ米大統領がオーストラリアのターンブル首相との電話会談で難民問題を持ち出され、怒り出したという。ワシントン・ポスト紙などが1日、米当局者の話として伝えた。

電話会談は1月28日で、日独ロ仏の首脳に続いてターンブル氏の順番になった。自身の選挙での勝利を自慢したトランプ氏にターンブル氏は、豪州が収容する難民認定希望者1250人を、米国が受け入れることでオバマ前政権と合意していることを伝えた。

トランプ氏は「その者たちはいらない。次のボストン(マラソン)爆破犯だ」と怒り、1時間の予定の会談は25分で終わったという。
 
トランプ氏は前日、難民の受け入れ一時停止と中東・アフリカ7カ国からの一時入国禁止の大統領令に署名したばかりだった。
 
トランプ氏は1日、ツイッターに「信じられるか? オバマ政権は豪州から数千人の不法移民を受け入れると合意した。なぜだ? このバカな取引を調べる!」とつづった。(後略)【2月2日 朝日】
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さすがに、“スパイサー大統領報道官は記者会見で「合意は前政権が結んだもので大統領は非常に憤慨している」とする一方、トランプ氏はオーストラリアとターンブル首相に敬意を表し、取り決めに基づき手続きを進めると述べた。”【2月3日 ロイター】ということで、難民受入は認めるようです(多分・・・・)。

問題となった合意は昨年11月に発表された、1回限りの臨時措置で、当時からトランプ新大統領の反発は予想されていました。

****密航難民、米で定住へ=臨時措置、トランプ氏反発も―豪****
オーストラリアのターンブル首相は13日、首都キャンベラで記者会見し、豪州を目指し密航してきた難民認定希望の収容者たちを米国で定住させることで米側と合意したと発表した。オバマ現政権との1回限りの合意だが、トランプ次期大統領との調整があったかは不明。
 
豪政府は密航船撲滅に向けて密航難民を拒絶する政策を堅持してきた。1000人を超える密航難民が現在、豪政府が提携する南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアの施設に収容されている。難民認定されても、豪州定住は認めない。
 
こうした政策は、密航船減少に効果を上げ、豪世論の評価は低くない。しかし、国連や人権団体からは「冷酷な難民政策」「収容所の環境が劣悪」と批判を浴びてきた。
 
ターンブル首相は「米国定住は1回だけの措置だ」と述べ、将来の密航者には適用しないと説明。米国では、強硬な移民対策を訴えてきたトランプ氏が次期大統領に選出されたばかりだが、米豪間で既に「合意済みだ」と首相は述べ、大統領交代はこの合意に影響しないと強調した。
 
AFP通信によると、ケリー米国務長官は訪問先のニュージーランドで記者団に対し「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から話があった。人道的に対応していく」と語り、豪州との合意を確認した。

一方、トランプ氏に事前の相談はなかったとみられ、今後反発する可能性がある。【2016年11月13日 時事】
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オバマ前大統領は最後の最後になって、国連のイスラエル非難決議棄権とか、ロシアのサイバー攻撃批判とか、トランプ氏の怒りを買うような措置をいろいろやりましたが、これもそんなトランプ氏への置き土産のひとつです。

“今後反発する可能性がある”とのことでしたが、案の定・・・といったところです。

【“オーストラリア版グアンタナモ” 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求
ところで、自国には入れずナウルやパプアニューギニアの施設に収容するというオーストラリアの密航難民対策については、これまでも何回か取り上げてきました。

2016年4月29日ブログ“難民問題 欧州でも、アフリカ・アジアでも オーストラリアでは「同情している訳にはいかない」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160429

特に、アボット政権以降は、“実際には海軍が出動し、難民船の上陸を力ずくで阻んでいた。粗末な船に乗り込み命懸けで海を渡ってきた人々が正当な政治亡命者であるか否かを確かめることもなく、すべての難民船を出港地(たいていはインドネシア)へ追い返していたのだ”【2015年1月20日 Newsweek】と、更に厳しい対応になっています。

2014年9月には保守派のアボット氏からリベラルを自任し、保護を求める難民への共感を示してきたターンブル氏に首相は変わりましたが、基本的には対応は変わっていないようです。ターンブル首相は「同情している訳にはいかない」とも。

パプアニューギニアなどの難民収容施設は“オーストラリア版グアンタナモ”と呼ばれるほど環境が悪く、国際的批判を浴びていましたが、“パプアニューギニア政府は(2016年4月)27日、同国のマヌス島にオーストラリア政府の資金で運営されていた難民収容施設の閉鎖すると発表した。前日の26日には同国の最高裁判所が、同施設での難民認定申請者の収容は憲法違反との判断を示していた。”ということで、オーストラリア政府は難民受け入れ先を探していました。

オバマ前大統領との合意も、そうした背景があってのものです。(カンボジアに引き受けてもらう・・・という話もありましたが)

ただ、オーストラリアには難民は入れないという頑な姿勢の一方で、アメリカに引き受けてもらうというのは、トランプ大統領が怒るのも無理からぬところです。

こうしたオーストラリアの難民対策は“豪世論の評価は低くない。しかし、国連や人権団体からは「冷酷な難民政策」「収容所の環境が劣悪」と批判を浴びてきた”ということで、イギリスの人権弁護士らが国際刑事裁判所(ICC)に捜査を要求するという話になっています。

****オーストラリアの難民政策は「人道に対する罪」、ICCに告発****
<国外の移民収容所で難民を虐待するオーストラリア政府に関して、イギリスの人権弁護士らがICCに捜査を要求した。先進国が人道犯罪で国際的に裁かれる最初の例になるかもしれない>

米スタンフォード大学ロースクールの国際人権クリニックは先週、著名な人権弁護士が名を連ねる108ページの報告書を国際刑事裁判所(ICC)に提出した。オーストラリア政府と民間請負業者の「人道に対する罪」を告発し、訴追を促すものだ。

ICCではこれまで、主にアフリカや旧ユーゴスラビアのような途上国における大量虐殺や戦争犯罪を審理してきた。オーストラリア政府や企業が訴追されれば、先進国では初の事例となる。

報告書は、オーストラリアの歴代政権が難民や移民に対する人道犯罪を知りながら放置していたと主張する。被害者側にもし「罪」があるとすれば、迫害から逃れてオーストラリアに保護を求めたことだけだ、と──。

欧米では最近、長い苦労の末に勝ち取った国連難民条約の難民保護規定を放棄しようという動きが目立っている。国家ぐるみの難民虐待をICCに提訴するには今が絶好のタイミングだ。ICCにとっても、自分たちは途上国の犯罪だけを扱うのではなく、先進国の犯罪も裁く意志があると示せる重要な機会だ。

わざと非人道的な環境に
今回問われている人道に対する罪のなかには、拷問や強制退去などが含まれる。いずれも、2001年の9.11テロ後にテロ予防策としてオーストラリアが導入した難民抑制策「パシフィック・ソリューソン(太平洋での解決)」に起因している。

オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民の上陸を船が領海に入る手前で阻止している。海上で捕まえて、そのまま南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアのマヌス島にある収容所に移送しているのだ。領海手前ならまだ入国前、難民条約で規定された保護の責任は負わなくてもいい、という論法だ。

海外の収容所は表向きは民営だが、実質的にはオーストラリア政府は管理している。施設の維持費を負担し、運営方針を定め、民間業者と契約して運営させている。人権団体は収容所ではびこる深刻な暴力と虐待を何度も訴えてきた。だがその非人道的な状態を作り出すことこそが、オーストラリア政府の狙いだという。

そしてこの犯罪は、政治信条の右や左とは関係なく続いている。オーストラリアの現在の政権与党は中道右派の自由党だが、難民や移民の扱いに関する基本方針は過去10年変わらず、中道左派の労働党政権下でも継続してきた。

この政策は、オーストラリアの長い歴史の中で定着してきた人種差別とも合致している。「白豪主義」と呼ばれる政策によってオーストラリアは、ヨーロッパ系以外の移民の受け入れを体系的に排除してきた。この政策が公式に廃止されたのは1973年のことだ。

先週ICCに提出された証拠書類は、収容所の元職員の話として、オーストラリア政府がさらなる難民申請を思い止まらせるためにわざと劣悪な施設の環境を放置し、子どもにひどい仕打ちをしたと指摘している。

罪を自覚していた政府は、収容所の惨状から世間の目をそらすため、あらゆる手段に出た。内部告発を刑事罰の対象にして、難民が司法審査を受けにくくする制限も設けた。

オーストラリアがパプアニューギニアのマヌス島とナウルに収容所を置いたのにも理由がある。どちらも長年オーストラリアが搾取してきた島だ。

特にナウルは面積約20平方キロという世界最小国の1つで、国外の勢力に対する備えが脆弱だ。貴重な資源であるリン鉱石の輸出で栄えた時期もあったが、オーストラリアやイギリスなどが手当り次第に掘り尽くした結果、国土は丸裸にされ、不毛の地に変わり果てた。今や収容所の受け入れと引き換えにオーストラリアから受け取る金が、ナウルの最大の収入源だ。

最後の刑事裁判所
子どもに対する暴力や性的虐待はもちろんのこと、収容施設では全体的な生活環境そのものが非人道的だ。

ICC宛ての書類によるとマヌス島の施設では、収容者は熱帯の厳しい暑さで日陰すらない環境なのに、摂取できる飲料水の量が1日500ミリリットルに制限されていた。イラン出身の24歳の男性は皮膚に小さな発疹の症状が出た後、敗血症で死亡した。施設の不衛生な環境と、島内の診療所における不適切な処置が原因だった。

ナウルについても、就寝施設で1つのテントに最大50人もの収容者が押し込められるうえ、場所がちょうどリン鉱石の元採掘現場に当たるため、そこから発生する有害な塵の影響で特に子どもが慢性の呼吸器病を患っていると指摘した。

ICCは当事国の司法制度に訴追能力がないと認められる場合に限り、犯罪行為を裁ける。いわば最後の刑事裁判所だ。オーストラリアがICCで裁かれるのを避けたければ、一番手っ取り早いのは国内の法廷で訴追することだ。

設立から15年間、ICCはアフリカ諸国で起きた戦争犯罪や人道犯罪ばかりを執拗に訴追したとして痛烈な批判を浴びてきた。昨年は2008年のジョージア(グルジア)紛争での戦争犯罪に関する捜査開始を決定するなど、アフリカ一辺倒だった姿勢は変わりつつある。それでもAU(アフリカ連合)は加盟国にICCからの脱退を呼びかけるなど反感は今も消えない。

ICCがナウルとマヌス島での人道に対する罪の訴追に踏み切れば、加害者が先進国でも容赦せず、重大犯罪を起訴する姿勢を示すことができる。欧米諸国が第2次大戦後最悪の難民危機への対応に追われるなか、もし2つの島で起きている犯罪行為に目をつぶれば、オーストラリアの難民虐待を常態化させ、他の国々に悪しき前例を残してしまう。

もしICCが弱い立場の難民に対する犯罪行為の捜査にすら手を付けないなら、何のための国際法廷かと問われても仕方がない。【2月24日 Newsweek】
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オーストラリアだけではない難民問題対応の問題
アボット政権以降の歴代政権が、密航船を追い返しているのか、捕まえてナウルなどの施設に送っているのか、よくわかりませんが、“オーストラリア政府がさらなる難民申請を思い止まらせるためにわざと劣悪な施設の環境を放置し、子どもにひどい仕打ちをした”ということであれば、まさしく「人道に対する罪」にあたるでしょう。

ただ、難民問題に関しては、オーストラリアだけを責める訳にはいきません。

国境に壁を築いて入国できないようにする欧州各国の対応、ロヒンギャ難民を海上で追い払う東南アジア各国の対応・・・オーストラリアの場合は、劣悪だろうがなんだろうが、収容するだけまだまし・・・というようにも考えられます。

リビア沿岸の警備を強化し、難民船が出航できないようにしようという欧州の取り組みも、その後の難民たちはどうなるのか?という点では五十歩百歩です。

日本も難民受入に厳しいことでは定評があります。

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「同情」か「人としての責務」か・・・・難民受入が多くの問題を惹起しやすいものであることは事実です。自分たちの豊かさと暮らしやすさを犠牲にして、どうしてよそ者を受け入れる必要があるのかという主張もわかります。人間だれしも自分のことが最大の関心事ですから。

ただ、“それでいいのか?”という自問も必要でしょう。そのうえで「よそ者は来るな!」と言うのであれば、当然のことのようにではなく、せめて恥ずかしそうに言ってほしいという気はしています。【2016年4月29日ブログから再録】
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しかし、トランプ現象で“自国第一”を叫ぶことが世界の流行りとなった今日、当然のように「よそ者は来るな!」と公言される社会となっています。

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