孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベーシックインカム  「人は何のために働くのか?」 フィンランドで試験的導入開始

2017-01-17 22:23:23 | 欧州情勢

(【2014年8月20日 THE PAGE】)

貧困の削減だけのためのものではなく、むしろ生き方、働き方に関わる問題
最低限所得保障の一種として“ベーシックインカム(basic income)”というアイデアがあります。
政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するという制度です。

生存権保証のための現金給付政策は、生活保護や失業保険の一部扶助、医療扶助、子育て養育給付など、いろいろな制度がありますが、必要な者に必要な資金が的確に渡らない、行政上の巨大な組織が必要となる、失業者の場合、働くと給付を打ち切られてしまうため働く意欲が疎外される、受給者のプライドを傷つけることがある等々・・・多くの非効率性、無駄、不合理な面もあります。

そこで、すべての現金給付を一本化し、一律に一定額を渡す・・・もらった者は、働いてもいいし、働かなくてもいいし、ボランティアに励んでもいい、起業するのもいい・・・という制度です。

一見、夢のような制度にも思えますが、社会保障制度の簡素化することで、無駄を省き、小さな政府が実現できるメリットがあります。金額的に抑えれば、財政負担もそれほど大きくならないのかも。

デメリットとしては、労働意欲の低下(働かなくても一定額がもらえますから)、金額によっては財源負担が重くなる、また在住外国人に対しても同様に支給した場合移民が殺到し財政破綻する可能性がある・・・などが挙げられます。

ベーシックインカムは貧困の削減だけのためのものではなく、むしろ生き方、働き方に関わる問題だとの指摘があります。

「現在の経済のしくみでは、一部の特権的な人びとはともかく、多くの人は食べるために働かなくてはならない。仕事とは、本来、共同体のため、他の人のため、社会のためであるはずなのに、それが自分と家族が何とか生きのびるためになってしまっている。

ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」。(昨年スイスでベーシックインカム導入の国民投票に向けて署名活動を推進した中心人物)

今後、AI、ロボットによる無人化などによって、必要な労働量が減り、“失業率”が世界的に高まる可能性が高いとも考えられています。

そういう状況でのセーフティネットの在り方として議論すべき課題とも言われています。

現在、このベーシックインカムを導入している国はありませんが、昨年スイスで国民投票が行われ、結果的には否決されています。

これについては、2016年5月18日ブログ“スイス ベーシック・インカム(最低所得保障)制度の導入を求める国民投票実施”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160518で取り上げました。

スイスの計画は、成人に対して毎月2,500スイスフラン(約28万円)、子供は625フラン(約7万円)が無条件で国から支給される・・・・というものでした。随分な金額に思えますが、スイスの物価水準を考えると都市部ではやっと暮らせる程度だとの指摘もあるようです。

そのときは、働き方・生き方を考え直すというベーシックインカムの主旨には「なるほど・・・」とは思いつつも、日本的感覚からすると金額的にかなりの額になること、一方で、スイスは移民に対し厳しい世論がある国であることから、“飢えや貧困で苦しむ国が多数あるなかで、28万円を一律保障しようという国もある。世の中というのは不公平なものだ・・・”という思いが先に立ち、“その一部でいいから、世界の飢えや貧困で苦しむ人々、住む場所を奪われた難民に与えることで、スイス国民だけでなく、全世界の人々の「幸せ」が向上するのではないか・・・”と、やっかみ半分の、ベーシックインカム以上に非現実的な感想を抱いたところです。

長引く経済不況と失業率の上昇から、社会保障制度の見直しは多くの欧米諸国にとって喫緊の問題
賛否両論あるベーシックインカムですが、北欧フィンランドが今年1月から“無作為に選出された2000人の失業者に対して月に560ユーロ(日本円にして約6万8000円)を支払う”という形で2年間の「実験」を始めています。

****ベーシックインカム、フィンランドが試験導入。国家レベルで初****
<1月1日、フィンランドがベーシック・インカム制度を導入した。2000人の失業者に対して月に560€(日本円にして約6万8000円)を支払うというもので、国家レベルでははじめて。現代の社会福祉のあらたな可能性としてにわかに脚光を集めている>

2017年1月1日、フィンランドが国家レベルでは欧州ではじめて試験的なベーシックインカムの導入を開始した。このプロジェクトでは、1月から2018年12月まで、無作為に選出された2000人の失業者に対して月に560€(日本円にして約6万8000円)を支払うというもの。2年間の実験で、ベーシックインカムの導入が失業率の低下に影響をもたらすのかを調べるのだという。

近年、ヨーロッパを中心にベーシックインカムの導入の是非がたびたび議論されてきた。

ヨーロッパ諸国の社会保障においては、その制度があまりに複雑で多層的であるため、社会保障を受けている失業者がその恩恵を受けられなくなってしまうという不安から、低収入あるいは短期の仕事に就きたがらなくなってしまうという問題が起こっていた。

ベーシックインカムとは「政府による、無条件の最低限生活保障の定期的な支給」であるため、就業による支給打ち切りの心配がない。よって、たとえ低収入の仕事であっても失業者は気軽に次の仕事に就くことができるため、失業率が低減する、というのが大枠の論理だ。

さらに、ベーシックインカムを導入することによって、今まで複雑だった社会保障制度がシンプルになり、よりフェアで効率的な所得分配ができるとも言われる。

たとえば、アメリカでは社会保障としてフードスタンプ、医療補助、現金補助が用意されているが、フードスタンプよりも車の修理代のほうが必要な人もいるように、複雑化した社会保障の支給は「被支給者にとって必要と考えられるもの」と「被支給者が本当に必要なもの」のミスマッチを起こしてしまう。

ベーシックインカムの導入によって被支給者は自分が本当に必要なものを考え、選択することができる、というのも大きな利点だ。

このように、現代の社会福祉国家の問題を解決するあらたな可能性となりうるベーシックインカムだが、このフィンランドでの導入決定が行われるまでは国家レベルでの導入は議論の末に見送られてきた。

たとえば、スイスでは2016年6月に国民投票によってベーシックインカム導入が否決されている。懐疑派の意見としては、財源確保の不確実性や労働意欲の低減、医療手当などのほかの公的扶助の削減による福祉水準の低下、などがあげられている。

それでも、長引く経済不況と失業率の上昇から、社会保障制度の見直しは多くの欧米諸国にとって喫緊の問題だ。現状、地域レベルでは、カナダのオンタリオ、カリフォルニアのオークランド、スコットランドのグラスゴー、オランダのユトレヒトなどでベーシックインカムの実験的な導入が計画または議論されている。

さらに欧州議会では、ロボットの導入による失業率向上の予測から、加盟国にベーシックインカム導入の可能性を検討することを勧告するレポートが発表され、来月本会議で決議されることになっている。

人工知能によって近い将来に単純労働がロボットに代替されることが盛んに議論される今日、ベーシックインカムの是非の議論もますます活発化しそうだ。【1月17日 Newsweek】
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「ひとは何のために働くのか? お金が保証されていても働くのか?」という壮大な実験(もっとも、フィンランドの物価からすれば、今回の7万円弱という金額だけで生活するのは無理で、ベーシックインカムを受給しつつ働くことが前提となっています。)は、昨年末から非常に注目されていました。

****ベーシック・インカムは有効? 結果は2017年に判明****
生きるために働かなくてもよくなったとき、人生は幸福になり、より生産的に過ごすようになるのだろうか? by

2017年、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)がいいアイデアなのか判明するかもしれない。

UBIの考え方はとてもシンプルだ。政府は無償で国民にカネを与える。従来の給付金とは異なり、受給者の経済状況とは無関係だ。

UBIの賛同者によれば、条件なしの給付制度は、貧困を減らす効果がある。また、可処分時間が少なく、なんとか暮らしている人が、劣悪な労働環境から脱する機会や教育の機会を得やすくなるという。自動化によって多くの仕事が失われる中、普遍的な所得がより一層重要になるという人もいる。

問題は、人々が自由に使えるお金を手にすると、幸福で、健康的で、創造的で、生産的になるのか、あるいはテレビを見たりビールを飲んだりするのか、まだわからないことだ。しかし、答えはまもなく明らかになる。(中略)

カリフォルニア州オークランドでも同様の構想が始まろうとしている。ワイ・コンビネーターは毎月2000ドルを100世帯に支払う。

この実験を発表したブログ記事で、ワイ・コンビネーターのサム・アルトマン社長は「無条件の収入です。収入を受け取る人は何をしてもいいのです。ボランティア活動をしてもいいし、仕事をするのもしないのも自由です。他の国にも移住できます。ベーシック・インカムが自由を促すことに期待していますし、人々が自由をどのように体験するのかを知りたいのです」と説明した。

アムステルダムやカナダでも近いうちに、同様の実験が始まろうとしている。

しかし、MIT Technology Reviewが今年初めにベーシック・インカムを検討した際、このアイデアに潜む問題点をいくつか指摘した。

まず、ベーシック・インカムが前提にしている経済上の仮定に問題がある。自動化の台頭により大量の仕事が失われるが、自動化が経済の効率を高めることで、社会全体には共有可能な豊富な富が生み出されると仮定している。
しかし、それほどの富を生み出す自動化は当面実現しないだろう。

また、金銭を無償で与えることで人々を労働から遠ざけてしまえば、受給者は変化する労働市場で生き残るための訓練を受けないで済む口実を得てしまう。さらに、ベーシック・インカムは非常に費用のかかる施策だ。

とはいえ、ベーシック・インカムがいいアイデアかどうかを実際に明らかにする唯一の方法はデータだ。ベーシック・インカムの熱烈な支持者であるアルトマン社長でさえ、ベーシック・インカムが上手くいくかどうかという根本的な疑問に、実験結果が答えてくれることを期待しているという。

「人々は心から幸せになれるでしょうか。単に、意味や満足感のために、こんなにも仕事に依存しているのでしょうか。私にははっきりとはわからないのです」と、アルトマン社長は今週のビジネス・インサイダーのインタビューで熟慮中だと述べた。

ベーシック・インカムの実験では証明すべきことが数多くある。しかし、来年の今頃には、無償でカネを支給することが合理的なのか、より深く理解できるようになるだろう。【2016年12月20日 MIT Technology Review】
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日本 効率化される官僚組織の抵抗 金額水準によっては野党・労組も反対
日本では、堀江貴文氏がベーシックインカムに賛同しています。

****生活保護とは違い「プライドの崩壊を防ぐことができる」とホリエモンは評価****
ベーシックインカムがあれば嫌な仕事も辞めやすくなる?
以前からベーシックインカムの導入を提唱していた堀江貴文氏も、今回の報道に対し「生活保護などを受けることによるプライドの崩壊を防ぐ」とツイート。

確かに、困窮した人だけが受給する生活保護に比べ、誰もが受給するベーシックインカムであれば、プライドが傷つくことはない。変に卑屈にならずに社会復帰を目指すことができそうだ。

しかし堀江氏は、フィンランドのような制度を日本で導入しようとしても、政治家や官僚の反対を受ける可能性が高いとし、「そうならないようにどうやってガラガラポンさせるかを次の東京都議選で実験してみようと画策中」と書いている。

ネット上でも、ベーシックインカム導入で嫌な仕事を辞めやすくなれば、「ブラックは激減するんじゃないか」と期待する声が上がる。また「フィンランド行ってくる」といったコメントも相次いでいた。

全ての人の生活を保障するベーシックインカムは確かに理想的な制度かもしれない。しかし昨年スイスでもベーシックインカムの導入が国民投票で否決されたばかり。

日本でも導入を望む声があるが、実現までには時間がかかりそうだ。【1月4日 BLOGOS】
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日本における政治家・官僚の反対・抵抗については、以下のようにも。

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スイスの国民投票でも、ベーシックインカムの長所として、行政の効率化が訴えられていたが、問題は効率化される側の抵抗だ。

例えば、年金がベーシックインカムに置き換わると、年金に関連する役所や役所の外郭団体の人員は、大いに削減可能だ。しかし、そこで不要とされた人が、潔く引退して、ベーシックインカムをもらうことで満足する、というようなことは考えにくい。

権限やOBの就職先が減ることに対して、直接・間接両方の方法で陰に陽に抵抗するだろう。 

このときの抵抗する側の真剣さと、そもそも日本の社会システムの枢要な部分が政治家やビジネスマンによってではなく、官僚によって動かされていることを思うと、ベーシックインカムが短期間で実現に向けて動き出すとは想像しにくい。【2016年6月8日 山崎 元氏】
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そこで、山崎氏は、どんなに短くても10年、現実的には20年くらい、移行プロセスに時間をかける形を提唱しています。

政治家・官僚だけでなく、金額的に低い水準だと、野党・労働組合も反対するでしょう。
金額を上げると、今度は財政的に・・・。
低すぎて「使い物にならない手当」と、高すぎて「採用するには費用が高すぎる手当」の中間に、うまい方策があるのか?

一定額を支給するけど、どう使うかは自分で決めて。その結果どうなっても自己責任で・・・と、ある意味、突き放したような制度にもなりえます。社会主義・共産主義ではなく、新自由主義の発想でしょう。

フィンランドでは、このプログラムがうまく行けば、フィンランド人の成人全員に対象が拡大される可能性もあるとのことです。
一律現金支給が失業者の就業行動にどのように影響するのか?先ずは、フィンランドの「実験」に注目です。

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