孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  厳しい地方農村の生活と農民工の現状 “若者のナショナリズムは高まってはいない

2017-02-10 22:33:05 | 中国

(2020年までにGDPを倍増させることを計画している習近平政権は、大都市に集中する農民工を内陸部中小都市へ移動させ、周辺農村からも農民を呼び込み、中小都市活性化・新たな都市消費者創出を図る「新型都市化計画」を進めています。
そのため今大都市では、農民工を中小都市へ強制移住させるべく、再開発を理由に農民工居住区が次々と取り壊されています。【2016年10月30日 NHK「巨龍中国 1億大移動 流転する農民工」】
力づくでも1億人を移住させて社会・経済の大改革を実現するという、“中国らしい”壮大な国家プロジェクトです。突然住み慣れた場所から追われる貧困農民工にとっては、たまったものではありませんが。)

都市・農村格差が生む農民工の厳しい現状
中国における都市部と農村の格差は昔から指摘されているところで、中国の抱える大きな問題のひとつです。
日本を訪れた中国人観光客が驚くことのひとつに、日本の農村の生活水準が都市部に劣っていないことがあげられています。(もちろん、日本の農村が抱える深刻な問題は多々あり、別に現状をよしとする話にはなりませんが)

春節の“民族大移動”は、都市部で生活する若者に、故郷である農村の貧しさ・厳しさを改めて実感させることにもなります。

****中国の都市と農村の生活ギャップ、ネットに掲載するのが大流行****
2017年2月3日、参考消息網によると、春節(旧正月)連休を迎えた中国では、都市部に暮らす若者たちが里帰りし、昔ながらの生活が続く実家の様子を写真に撮り、ネットに掲載して「都市と農村生活のギャップ」を強調するのが流行している。

都市部に住む若者たちは、田舎へ帰って木を切り倒したり、屋外で洗面器を使う様子をネットに掲載している。親せきたちが今も昔ながらの生活を送る様子を伝えつつ、自分もきれいに着飾った「帰省前」と、厚い上着を着込んだ「帰省後」の写真を並べてアップする。

これらの風潮は一部の有名人が始め、一般の人たちにも広まった。ネットに上がる写真を見た若者たちが、中国の都市部と農村生活のギャップについて討論もしている。

一部の若者が「実家には暖房がなく、鼻も目も凍った」と書いたり、両親が使う「骨董のような」台所用品を写した写真に、ネット上では驚きの声が広がっている。

ギャップの大きい都市と農村の写真に、一部の人々は「解脱感を感じる」と書き込んでいる。また、ある人は「帰省後の方がより幸せに見える」、「帰省後は本当の自分を出せているようだ」などと書いている。

世界銀行は「30年には中国の人口の7割が都市部で生活する」と予測している。【2月4日 Record China】
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こうした都市の農村の格差、端的に言えば“農村部には充分な収入を得る機会が存在しないこと”は、農村から都市への“人の流れ”を生みます。中国版出稼ぎ労働者である“農民工”と呼ばれる、中国経済発展を支えた労働力です。

都市で働く“農民工”については、かねてより、その労働条件の劣悪さだけでなく、中国独自の都市と農村を隔てる戸籍制度がもたらす弊害や、故郷に残してきた“留守児童”の問題などが多く指摘されてきました。

最近は、中国経済の全体的減速や、沿岸都市部だけでなく内陸部で雇用機会が増大したことなどを受けて、“農民工”も減少したのでは・・・と思っていたのですが、そうでもないようです。

****増え続ける出稼ぎ労働者、労働環境は依然として劣悪―中国****
2017年1月26日、中国メディア・数読によると、中国では農村から都市への出稼ぎ労働者は増え続けているが、その労働環境は依然として劣悪だという。

毎年、旧正月(春節)になると、中国では発達した沿岸部から、西側の内陸部へと多くの人が帰省する“大移動”が起きるが、その大部分は農村から出稼ぎに来ていた“農民工”と呼ばれる人々。中国国家統計局の調べでは、2002年の時点では1億470万人の農民工がいたとされるが、15年には1億6880万人にまで膨れ上がっている。

出身地は四川省や河南省、安徽省、湖南省、江西省など。広東省や浙江省、上海市や北京市などで、製造業や建設業に従事し、中国の経済成長の大きな原動力となった。産業構造の改革にあっても重要な人的資源であり続けている。

しかし、1億人を超える農民工たちの生活や労働環境は劣悪なままで、以前と比べれば多少は改善された部分もないではないが、他の社会層と比べると労働内容も保障もひどい状態が続いていると記事は指摘する。

15年の出稼ぎ労働者たちの出稼ぎ期間は1年のうち10カ月を超え、毎月の労働日数も25日以上で、1日も休みがない月も珍しくはないという。

労働中に事故が起きても泣き寝入りするしかないケースが多いほか、労働者の60.3%は労働契約を結んだ経験すらなく、報酬の未払いもたびたびニュースとなっている。

記事は、「出稼ぎ労働者の生活や労働環境は劣悪なのに、その数は毎年増え続けている。彼らにとっては耕作地を抜け出すことだけが、より良い生活を追い求める唯一の手段かもしれないのに」と伝えている。【2月1日 Record China】
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中国経済の減速で賃金の伸びは抑えられていますが、今後は生産拠点が中国からより人件費の安い周辺国へ移動する流れのなかで、就業機会も狭まる可能性があります。

****中国の出稼ぎ「農民工」苦境に、大都市での生活厳しく****
2/4 00:30
2017年2月1日、英紙デイリー・メールによると、中国では約2億8000万人が農村から都市部へ「農民工」として出稼ぎに出ている。子供を故郷に残してより高い賃金、より厳しい仕事を求める親たちも多い。中国では都市部と農村を分ける戸籍制度が厳格なため、故郷で祖父母や親せきと暮らす「留守児童」は約6000万人を超える。参考消息網が伝えた。

親は明るい未来を描くものの、見通しは暗いのが現実だ。16年の中国の経済成長率は年間6.7%に減速し、前年に比べて0.2ポイント低下。過去25年で最低となった。中国政府の統計によると、農民工の平均月給は約3000元(約5万円)。賃金は伸び悩んでおり、11年の伸び率は年間21%だったが、15年には7.2%まで縮小した。米ブルームバーグ通信によると、農民工の賃金は16年、さらに減少するとみられる。

一方、中国の人件費上昇にともない、工場の多くがより賃金の安いベトナムやカンボジアへ生産拠点を移している。中国の沿岸部では物価が上昇しており、農民工は故郷へ帰るかどうかの選択を迫られている。【2月4日 Record China】
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農村の嫁不足が生む周辺国女性の拉致
長年の「一人っ子政策」のもたらした歪で、中国では男女の人口差が大きく、特に農村部では深刻な“嫁不足”状態にあります。

そのため、周辺国ベトナムやミャンマーなどから女性を詐欺同然に連れてきて、暴力的に“嫁”として働かせるという犯罪行為も横行しています。

****中国当局、嫁として農家に売られたベトナム人女性32人を救出****
中国当局は9日、同国の貧困地帯で警察が捜索を行い、嫁として農家に売られていたベトナム人女性32人を救出したと発表した。
 
中国南西部の雲南省の警察当局はソーシャルメディアで声明を発表し、観光や就労を口実に女性らを勧誘して同省に送っていたとされる組織の75人を逮捕したと明らかにした。
 
中国中央テレビ(CCTV)の報道によると、雲南省に送られた被害女性らは大人数の「捕らわれの共同体」として人里離れた山間部で隔離され、その後中国の中部と東部の6省に売られていたという。
 
逃走を試みたある被害者はリポーターに対し「男2人が私を捕らえ、鉄パイプで殴ってきた」と明かし、「嫁になることを拒否すると男たちは脅してきた」と語った。
 
中国中央テレビによると救出されたベトナム人女性32人は本国に送還される。中国では男女の人口差が大きく、特に地方では男性が妻を見つけることが困難となっており、女性の人身売買が深刻な問題になっている。【2月10日 AFP】
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厳しい農村部での生活ですが、日本でも都市からの“田舎暮らし”を求めての農村部への回帰が一部に見られるように、中国でも都市から環境の良い地方への移動という現象もないことはないようです。
ただ、全体の流れの中で言えば、そういう現象は富裕層に許された贅沢でしょう。

****スモッグから逃れたい」北京市民、雲南省深南部で住宅購入急増****
2017年2月1日、参考消息網によると、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストはこのほど、深刻なスモッグ被害が生じている北京市民の間で、ミャンマーやラオスとの国境に近い雲南省深南部の西双版納(シーサンパンナ)で住宅を購入する人が増えていると報じた。

ある不動産業者は「昨年12月と今年1月に2度も大規模スモッグに見舞われたことで、問い合わせや購入が急増している」と話す。その7割が北京市民で、多くが「今すぐ欲しい」という人たちだ。

ミャンマーとラオスに接する西双版納タイ族自治州は、自然豊かな熱帯雨林の中にあり、街路樹もヤシ科のシュロが並び、常に新鮮で清潔な空気が期待できる。連日のスモッグに加え、寒さ厳しい中国北部に暮らす人にはこの上ない避難場所として注目されている。

同自治州の首府、景洪市で、昨年下半期に販売された住宅は7578戸。取引が成立した面積は上半期と比べ52%増加している。同市の不動産情報を扱うサイトによると、相場価格は1平方メートル当たり4928元(8万円)だ。

北京から来たという2歳の子供連れの女性は「ここで両親のために住宅を購入したが、スモッグからの避難場所に最適だと分かった」とし、さらに購入を検討しているという。女性は「健康でなければ、お金を稼いでも意味がない」と話している。【2月4日 Record China】
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西双版納(シーサンパンナ)は南国情緒あふれた観光地で、私でも住みたいぐらいです。
まあ、これは地方への移動というより、金持ちがリゾート地に別荘を買うようなものでしょう。

【“愛国教育で高められたナショナリズム”という“常識のウソ”?】
話は全く変わりますが、中国社会関連で、最近目にした一番興味深かった記事は、下記の“若者のナショナリズム”に関するものです。

反日運動の背景に、愛国教育で高められたナショナリズムがある・・・といったことがよく指摘されますが、これも”常識のウソ”の類かもしれません。

*****中国の若者のナショナリズムは高まっていない──論文****
中国指導部は国民のナショナリズムが自らに向くのを防ぐため、強硬な対外姿勢を取る傾向がある。南シナ海で領有権を主張したり、日本の歴史問題を執拗に追及したりするのもそのせいだというのが、欧米メディアの通説になっている。

実際、高齢化する「毛沢東主義者」もいれば「怒れる若者」(中国語で「憤青」)もいる。中国政府の「防火長城(グレート・ファイヤーウォール)」をすり抜けて、フェイスブックやツイッターに国家主義的な投稿をする「ピンク色の若者」(中国語で「小粉紅」)と呼ばれる若い女性たちもいる。

だが月初に安全保障研究の専門誌「インターナショナル・セキュリティ」に掲載された米ハーバード大学のアラステア・イアン・ジョンストン教授(政治学)による最新の論文は、中国で国家主義的傾向が強まっているという報道は、いくつかの重要な点で的外れの可能性があると指摘した。

ジョンストンは1998年から北京の名門国立大学である北京大学の研究者と共同で、外交政策を含めた様々なテーマに関して、北京の住民を対象にした意識調査を行ってきた。その結果集まった「北京エリア調査」と称する珍しいデータを頼りに、ジョンストンと共同研究者らは北京市民の意識の変遷をたどり、回答者の年齢など多数の異なるカテゴリーに基づく分析を実現した。

高齢層とは正反対の意識
2002年以降の調査では、回答者の国家主義的傾向を探るための質問も加わった。そのなかで、次の意見に同意するか否か、また同意する度合いも尋ねた。

1)たとえ世界中のどの国を選べたとしても、自分は中国人でありたい
2)一般に、中国はほとんどの国より良い国だ
3)たとえ政府が間違っていても、国民の誰もが政府を支持するべきだ

論文は結論として、北京市民の間に国家主義的傾向の高まりはみられないとした。むしろ1)と3)の質問に対し「大いにそう思う」と回答した割合が2002年から15年にかけて激減した。

しかし中国のほうが「他の国より良い」かどうか尋ねた2)の質問に対しては、「大いにそう思う」と答えた割合が微増した。調査開始以来、北京では個人所得もインフラも著しく改善したのだから、それは理解できる。

この結果からは、単に国家主義的な感情が下火になっただけでなく、中国の少なくとも都市部の若者たちは上の世代よりも国家主義的ではないことがはっきりした。

1978年以降に生まれた世代では、2002年以降のどの調査でも、国家主義色の強い意見に同意すると答えた割合が上の世代より圧倒的に少なかった。最も目を見張るのは、2015年の時点で、「政府が間違っていても国民は政府を支持すべき」という意見に強く賛同した若年層の割合は、高齢層の半分になっていたことだ。

時の経過とともに若者が一層国家主義的になったということもなかった。少なくとも北京の若年層にはその傾向が認められなかった。より自由な風土で、遠く離れた南方の沿岸部にある広州などの巨大都市圏と比べるとかなり政府寄りと見なされてきた首都にとっては、驚くべき発見だ。

確かに、北京五輪が開催された2009年の調査では、国家主義的な傾向が一気に上昇し、若者の70%以上がどの国よりも中国籍を保持したいと回答(2007年は約50%)、若者の60%以上が中国は他のほとんどの国より良いと答えた(2007年は30%強)。
だが五輪効果は一時的な現象に過ぎなかったようだ。2015年時点で、国家主義的な意見に強く同意する若者はせいぜい4人に1人と、2009年から一気に降下し、2007年の水準よりも低くなった。

北京市民の対日感情と対米感情の変化についても追跡した。中国では、長年の敵である日本はいまだに広く悪者扱いされ、アメリカは地政学的なライバルの位置づけだ。調査で日本とアメリカを肯定や否定する感情の強さを探ったうえで、日米両国の国民と中国人の間にどれほど大きな違いがあると感じているかを数値化した。

調査期間中、2001年には米軍の偵察機と中国軍の戦闘機が空中接触して中国軍機が墜落し、2012年には中国が領有権を主張する尖閣諸島を日本が国有化するなど、反米や反日感情を煽る政治的な衝突が起きた。

それにも関わらず、質問への回答は概ね安定していた。日米両国に対して強く否定的な見方をし、中国との相違点が極めて大きいとした回答者の割合は、2000年からほとんど変わらなかった。

強硬なのは政治エリートか
中国事情に詳しい読者なら、比較的教育水準が高く豊かな生活を送る北京市民の感情は、あれほど巨大で多様な中国全体の国民感情を反映し得ないと気が付くだろう。

ジョンストンの論文はその限界を認める一方、2008年に非常に似た方法を用いて別の学術機関が行った中国全土を対象にした調査でも、今回発表した北京とほぼ一致する結果が出たと指摘する。

これらの調査結果は、重要な政治的意味を持つ。中国が習近平国家主席の指導の下でより強硬な外交政策に舵を切ったのは、国内で高まる国家主義に呼応したからではないのかもしれない。

論文は、中国の政治エリート層における国家主義的傾向のレベルなどが外交方針の転換の要因になった可能性を、より体系的に研究するよう促した。

アメリカにすれば、執拗に反米を掲げる中国人の若者が増えるのを懸念する必要はないという話かもしれない。いずれにせよ、未来の中国の指導者は、習やその後継者よりも明らかに国家主義的傾向が弱い世代から生まれる可能性がある。【2月8日 Newsweek】
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上記調査が中国社会の“真実”を指摘するものであれば、習近平主席がどう言ったとか、中国軍部の増強がどうだといった話より、日中関係にとって長期的には遥かに重要な問題かも。

上記調査が“真実”を指摘したものであることを、また、近年の日本へ観光客増大が日本への誤ったイメージを変革してくれることを期待します。
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