孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  対米強硬姿勢をアピールするカルザイ大統領 治安維持の前面に出るアフガニスタン治安部隊

2013-03-02 23:36:00 | アフガン・パキスタン

(冬の寒さが厳しいアフガニスタン・カブール 難民支援団体による薪の配布 “flickr” By Danish Refugee Council http://www.flickr.com/photos/danishrefugeecouncil/8517364269/in/photostream/)

カルザイ大統領:対米強硬姿勢を出し、国民の支持を維持する狙い
14年末に外国部隊が撤退することになっているアフガニスタンに関しては、2月22日ブログ「アフガニスタン 米軍、今後1年間で約半分に縮小 15年以降の国際部隊については方針決定遅れる」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130222)で、オバマ米大統領が一般教書演説で、約6万6000人の駐留米軍を今年末までに3万4000人削減することを表明したこと、その一方で、米軍兵士の刑事訴追免責を巡る問題などもあって、15年以降のアフガニスタン国軍の教育・訓練を担当する国際部隊の編成作業が遅滞していることを取り上げました。

14年末、15年以降を見据えた動きが活発化するなかで、アフガニスタン・カルザイ大統領の側は、アメリカなど外国勢力へ厳しい姿勢を見せています。

前回ブログでも取り上げたように、民間人が犠牲となる誤爆が多発していることを理由に、カルザイ大統領は2月16日、タリバンの掃討作戦に従事するアフガン治安部隊に対し、後方支援として国際治安支援部隊(ISAF)に空爆を要請することを禁じる考えを表明しています。

カルザイ大統領は更に、24日、米軍特殊部隊傘下の民兵による「人権侵害」を理由に、中部地域からの米軍特殊部隊の退去を決定しています。

****アフガン大統領:中部から米特殊部隊を退去 2週間以内に****
アフガニスタンのカルザイ大統領は24日、イスラム原理主義の武装勢力「タリバン」との戦闘が続く中部マイダンワルダック州に駐留する米軍特殊部隊を2週間以内に退去させることを決めた。

ファイジ大統領報道官によると、米特殊部隊が武装勢力掃討作戦を実施した後に多数の住民が行方不明になるなどの「人権侵害」が相次いでいるため。米軍側が退去に応じなければ、カルザイ政権と米国との関係が再び悪化する恐れがある。

ファイジ報道官によると、行方不明になった住民のうち学生1人は頭部を切断された遺体で見つかった。米特殊部隊の傘下で動いているアフガン人民兵が住民の誘拐や拷問を繰り返している疑いが強い。
アフガン政府は、米軍側に殺害などに関わった疑いのある民兵の身柄引き渡しを要求したが、応じないため米特殊部隊の「追放」を決めたという。アフガン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍は「駐留米軍は指摘を重く受け止め、調査する」と発表した。

カルザイ大統領は今月17日、アフガン国軍に対し、駐留米軍に空爆支援を要請するのを禁じる措置を決めたばかり。14年には駐留外国軍からの治安権限移譲が完了し、カルザイ大統領も任期満了で退任する予定だが、これを前にカルザイ氏は対米強硬姿勢を出し、国民の支持を維持する狙いとみられる。【2月25日 毎日】
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カルザイ大統領の主張に対し、アメリカ側は困惑の様子です。

****カルザイ大統領の米軍部隊退去要求は「唐突」、米当局者****
2013年02月26日 11:36 発信地:ワシントンD.C./米国
ハミド・カルザイ・アフガニスタン大統領による、同国ワルダク州からの米特殊部隊の退去要求について、米当局者は25日、この要求が軍司令部にとって「唐突」なものだったことを明らかにした。

ワルダク州は首都カブールの南西に位置し、旧支配勢力タリバンの活動の温床にもなっている重要州だ。カルザイ大統領の対応について米当局者らは、その真意を測りかねるとした。

カルザイ大統領は24日発表の声明で、米軍の特殊部隊と行動していたアフガニスタン人らがワルダク州で拷問や殺人を行い、地元住民の反発を招いているため、2週間以内に同部隊を撤退させるよう要求していた。

米国防総省は、北大西洋条約機構(NATO)が主導する国際治安支援部隊(ISAF)の隊員とアフガニスタン当局からなる特別委員会が、カルザイ大統領が主張する事案について調査を行っていると発表。
国防総省のジョージ・リトル報道官は、米軍の特殊部隊がワルダク州から撤退するかとの記者からの質問に対し、「議論の結論を推測するには時期尚早」とだけコメントした。【2月26日 AFP】
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アフガニスタンでは2014年4月に次期大統領選挙が実施される予定で、カルザイ大統領自身は3選禁止の憲法規定により出馬しませんが、大統領の一連の対米強硬姿勢は、国民の間で根強い反米感情を利用する形で、次期政権に向けた自身の影響力保持を狙っているとも見られています。

アメリカ:治安維持をよりアフガン軍に任せることで、リスクや負担軽減
一方、パネッタ米国防長官は、15年以降の国際部隊規模を大幅に縮小すること、及び、アフガニスタン軍の規模を18年まで維持するを考えを示しています。

****アフガニスタン:国際部隊を大幅縮小へ…NATO会議****
パネッタ米国防長官は22日に閉幕した北大西洋条約機構(NATO)の国防相会議で、NATO軍が14年に撤退した後、アフガニスタンに展開する国際部隊の規模を従来の見通しに比べ大幅に縮小する素案を示した。一方で国際部隊の撤退に併せて拡大しているアフガン軍の規模を18年まで維持する意向も示した。
国際部隊の役割を大幅に縮小、アフガン軍を治安維持の前面に押し出す方向性が打ち出された。

パネッタ長官は、大統領の決定が下されていない素案として、国際部隊全体の規模を見通しの半分程度の8000〜1万2000人にする案を示した。カブールだけでなく、地方の拠点都市にも展開する。従来の見通しでは2万人規模で、半分を米国が担う案が有力だった。

同時に長官は、現在35万2000人規模まで拡大しているアフガン軍を18年まで維持する案を示した。従来の見通しでは、17年ごろをめどに23万人規模に縮小する案が有力視されていた。長官はアフガン軍の規模の維持は、米国など外国軍の駐留を「柔軟に縮小できる投資になる」と説明した。

治安維持をよりアフガン軍に任せることで、米国など外国軍の駐留リスクや政治的負担を減らす狙いがある。
拡大したアフガン軍の維持には従来の見通しより年約20億ドル(約1870億円)以上の追加費用がかかる。米国をはじめ各国は財政難で、費用分担が深刻な議論になりそうだ。【2月23日 毎日】
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国際部隊の規模については、アメリカ国内においても、財政難から駐留規模を抑えたいオバマ大統領サイドと、治安の混乱を憂慮し規模を大きくしたい軍部の意見対立があるとも報じられています。
アメリカ国務省と駐留米軍の足並みの乱れについては、下記のような報道もあります。

****アフガンで亀裂露呈 米軍と国務省が真っ向衝突****
2014末のアフガニスタン撤退完了まで治安に責任を持つ駐留米軍と、15年以降を見据えアフガン政府に対する影響力確保を図る米国務省の間に亀裂が現れるようになってきた。

駐留米軍は1月、アフガンの大手航空会社カムエアが隣国タジキスタンに麻薬を運んでいる証拠を握り「ブラックリスト企業指定」を行った。しかし、国務省の圧力を受けて2月には撤回に追い込まれたために米軍の怒りが収まらない。

カムエアは、カルザイ大統領が外遊時にも利用する航空会社だが、ブラックリスト指定の影響は大きい。各国航空当局がカムエア機の忌避に動き、激怒したアフガン政府が国務省にねじ込んだという。

米・アフガン両国は1月にホワイトハウスで行われたオバマ・カルザイ首脳会談で、米軍撤退加速化で合意したばかり。
「間の悪さというものを分かっていない」と国務省の米軍批判がマスコミにリークされ、軍は外堀を埋められた。
「犯罪を見逃して健全な二国間関係が築けるのか」という米軍の正論は、撤退と負担軽減を急ぎたいオバマ政権の思惑にかき消された。【選択 3月号】
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タリバン:攻撃対象を治安維持を引き継ぐアフガニスタンの軍や警察にシフト
“撤退と負担軽減を急ぎたいオバマ政権の思惑”ということで、アフガニスタン軍が前面に押し出す構えですが、タリバン側も攻撃の対象を治安維持の主体となるアフガニスタン治安部隊にシフトさせてきているとのことです。

****タリバンが警察検問所を襲撃、16人殺害 アフガニスタン****
アフガニスタン東部ガズニ州で27日未明、アフガン地方警察(ALP)の検問所が旧支配勢力タリバンの襲撃を受け、少なくとも16人が死亡した。さらに同日朝には首都カブールでも軍のバスがタリバンにより爆破され、負傷者が出ている。
同国ではこのところ、北大西洋条約機構(NATO)軍ではなく、自国の治安当局を標的とした襲撃が増加している。

ガズニ州で起きた襲撃の詳細ははっきりしていない。アフガン地方警察は犠牲者の内訳を、警察官10人と同州アンダル地区で反タリバン運動に参加した「地元村民5、6人」としている。「毒物を盛られた後、銃で撃たれた」との初期情報もあるが、真偽のほどは捜査班の最終報告を待つ必要があるとした。
一方、州職員2人が匿名を条件に語ったところによると、殺害されたのは警察官16人。タリバンによって毒を盛られた後に銃撃され、武器を奪われたという。

また首都カブールの警察当局によると、同市では27日早朝、軍用バスが自爆攻撃を受け、国防省の職員6人と一般市民4人が負傷した。

西側諸国の当局者らは、攻撃の対象が来年撤退する予定のNATO軍から、その後の治安維持を引き継ぐアフガニスタンの軍や警察にシフトしているとみている。【2月28日 AFP】
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“現地からの報道によると、襲撃を受けた検問所では地元住民を招いて宴会が開かれていた。警察官になりすまして潜入したタリバンのメンバーが、宴会に出された食事に睡眠薬とみられる薬物を入れ、参加者が眠ったところを見計らって仲間の武装集団を招き入れたという。”【2月28日 毎日】とも報じられています。

アフガニスタン治安部隊に関しては、かねてよりタリバン内通者が多く含まれているとの指摘もあります。
治安部隊内部に潜入して駐留外国兵やアフガニスタン兵らを殺害する、いわゆる「インサイダー攻撃」の激化に耐えて、治安維持の主体となりうるのか・・・どうでしょうか?

また、14年の次期大統領選挙を巡って政権の一体性に綻びがでれば、各地・各民族の軍閥が争ったかつての内戦のような事態も懸念されます。そしてアメリカには、そうした混乱の収拾に乗り出す意思も資金もありません。

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