孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット 弾圧と焼身自殺の悪循環 現実味を増すダライ・ラマの後継者問題

2017-08-13 20:55:47 | 中国

(ポタラ宮の前を行く漢民族の新郎新婦【2016年1月4日 Newsweek「抑圧と発展の20年、変わりゆくチベット」】)

焼身は2009年以降150人目で、死者数は128人
チベットでは、中国政府の圧制への抗議として焼身自殺が続いています。
ただ、ひと頃の“連日のように”というようなペースではないようにも思えますが、そこらの事情はよく知りません。

****<インド>亡命チベット人150人デモ行進 中国圧政に抗議****
チベット人に対する中国の圧政に抗議して焼身行為をはかるチベット人が相次ぎ、亡命チベット人の非政府組織・チベット青年会議が29日、インドの首都ニューデリーでデモ行進した。

亡命チベット人ら約150人が焼身の犠牲者を表すひつぎを担いで国連事務所まで行進し、国連でチベット問題を協議するよう訴えた。
 
青年会議によると、中国青海省で今月19日、チベット僧の男性(22)が焼身をはかり死亡。焼身は2009年以降150人目で、死者数は128人となった。

青年会議のテンジン・ジグメ総裁(38)は「これほど焼身が続くのは世界でも前例がない。国際社会はチベット問題を話し合ってほしい」と話した。
 
インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府は、中国のチベット自治区ではダライ・ラマ14世の写真の所持が禁じられるなどチベット人に自由が認められていないと主張。中国に「高度の自治」を求めているが、中国側は対話には応じていない。【5月29日 毎日】
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開発の陰に覆い隠す抑圧
中国政府は厳しい取締りと併せて経済開発を進める「アメとムチ」を続けており、実際、経済的変化も起きているようです。

ただ、経済開発の恩恵が移住してきた漢民族や、一部の者に限定され、ひろくチベット住民全体に行き渡っていないのでは・・・との指摘もあります。

****抑圧と発展の20年、変わりゆくチベット****
漢民族による経済開発が進む中で、多くのチベット人が社会の隅に追いやられると感じている

私がチベット自治区を初めて訪れたのは97年。15年5月に再訪し、その変化を写真に収めた。

かつてのチベットでは、中国政府に禁じられていたものの、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(インドに亡命中)の肖像をよく見掛けた。

一方で、中国国旗や指導者の写真はほとんど飾られていなかった。それが今や区都ラサの至る所、特に観光地や寺院・僧院には中国国旗がはためいている。
 
経済発展の続く中国から多くの漢民族がチベットに押し寄せ、小さな農村は高層ビルの街へと変わっていく。こうした開発はチベットに繁栄をもたらすと、中国政府は言う。
 
しかし多くのチベット人が、開発により自分たちは社会の隅に追いやられると嘆く。新たな労働市場で求められるのは中国語。彼らの多くは中国語があまり話せず、仕事も見つからない。

08年のチベット騒乱後、中国はチベットへの政治的、社会的、軍事的な締め付けを強化。これに抗議するチベット人の焼身自殺は09年以降、150件近く起きている。中国側はそんな事実を否定し、開発の陰に覆い隠そうとしているかのようだ。【2016年1月4日 Newsweek】
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“中国語があまり話せず、仕事も見つからない”ということであれば、中国語教育が重要になります。

もとより、チベットが独立ではなく“高度の自治”ということで中国国内にとどまり続けるのであれば、中国当局・漢民族とのコミュニケーションを可能とする中国語は必要不可欠です。

(世界中で“独立”を容認する国家は少なく、イングランド独立の住民投票をキャメロン政権が認めたのも“楽勝”できるという誤認があったからです。欧州でもスペインではカタルーニャの住民投票を認めていません。
ましてや、中国で“独立”ということになれば、手段を択ばない弾圧の対象となりますので、“高度の自治”という目標設定は現実問題としてやむを得ないものでしょう)

中国当局も、チベットにおける中国語教育に力を入れるとのことです。

****新疆とチベットに教師大量派遣=「中国化」を推進****
中国政府は新疆ウイグル自治区とチベット自治区に、国内各地から教師1万人を派遣する計画に着手した。

教育水準の向上が目的としているが、漢民族支配への反発が根強い両自治区で中国語を普及させることで「中国化」をさらに進める狙いがありそうだ。
 
20日付の中国英字紙グローバル・タイムズ(環球時報英語版)によると、両自治区では現在、内地から派遣された約1500人の教師が働いているが、計画の第1弾として近く4000人を増員する。

教師は、小中学校でウイグル語やチベット語などと中国語を同時に教える「双語(バイリンガル)教育」を担うことになる。
 
同紙は、新疆ウイグル自治区にかつて派遣された教師の話として「異なる少数民族が意思疎通するためにも双語教育は不可欠。若い生徒は過激主義者の誘いに乗りやすいが、(中国語が分かれば)テロの本質を理解するための情報にアクセスできるようになる」と強調した。【6月20日 時事】 
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方向性としては間違っていないと思いますが、問題は“どういう意図”で行うのか・・・ということです。
文化的独自性を尊重した共存のためではなく、単に「中国化」を進めて、民族的抵抗を封じ込めるため・・・・ということであれば、民族・文化の圧殺という批判も向けられるでしょう。

【「安定教」にしがみつき弾圧を強める中国指導部
これまでの、そして現在の中国当局のチベットにおける対応を見るにつけ、あまり期待することはできません。

****焼身しか策がないチベット人の悲劇****
<安定を何より重視する中国が圧政を強めるなか、焼身自殺しか抗議手段がない人々がさらに弾圧される悪循環>

(中略)天安門事件が起きた89年以来、中国政府は一貫して「安定は全てを圧倒する(穏定圧倒一切)」を最重要視してきた。

その目標は独裁的な統治を正統化すること。つまり上からの政治・文化統制と下からの経済成長を結び付け、「一党独裁国家への大衆からの支持」を理論的に生み出すことだ。

この安定重視策は政治的、文化的、法的、精神的な抵抗勢力となりそうな全てを標的とし、敵(特にチベットにいる者)を「カルト集団」に仕立てあげる。

ただその政策自体が、国家によるカルトだとみることもできる。つまり反証や反対を拒み、無条件で受け入れられる全体主義信仰だ。

この狂信が、漢族もチベット族も含めたチベットの人々を、怒りと苦痛の悪循環に封じ込めている。

今や人々は、(150人目の焼身自殺者)ロサルと同じような過激な手段に訴えるしかない。(中略)なぜこんなことが起きるのか? これからチベットと中国はどうなるのか?

かつて焼身自殺は、公の場で抗議をする手段として効果的なものだった。ベトナム人仏教僧ティック・クアン・ドックの例を思い出すといい。ベトナム戦争中の63年、当時の南ベトナム政権の仏教徒弾圧に抗議し、大勢の前で焼身自殺をした映像は世界に衝撃を与えた。

しかしチベットでは焼身抗議が8年も続いており、今やほとんど波紋を呼ばない。

チベット人は「単純」で「粗野」で、ダライ・ラマという「封建的な奴隷所有者」を崇拝しており、中国の寛大さからどれほど恩恵を受けているのか分かっていない――これが一般的な中国人の見方だ。

つまり、焼身自殺をする人は「粗野」で「非理性的」な心をカルト勢力に操られ、だまされていると見なされる。(中略)

抗議の芽からつぶされ
だが、自殺の現実はもっと複雑だ。それは中国によるチベット支配と同じだけ長く続いてきた、抗議行動の一部である。

50年代の東チベットで中国が進めた「民主改革」に対する蜂起、80年代後半の文化的・政治的支配への大規模抗議、北京五輪前の08年3月から数カ月間、チベット高原に広がった暴動――。

08年の抗議は中国政府の容赦ない弾圧を受け、その後はチベットの警察国家化が進められた。中国人民解放軍がチベットの通りを徒歩や装甲車で回り、全てがビデオカメラで撮影された。検問所は人々の行き先を管理し、特にチベット人を狙って監視。国外のジャーナリストや研究者がチベットに入ってこうした動きを監視したり、報道したりすることは禁じられた。

最も狡猾なのは、世帯レベルで監視を行うシステムだ。社会福祉制度に関連付けて各都市を「地区」に分割し、リアルタイムのデータを集める。それを治安当局者が分析し、不穏な動きの兆候があるかどうかを調べる。

その結果は非常に満足のいくものだったため、同じような問題を抱える新疆ウイグル自治区にもこの制度が導入された。

全てを監視し、追跡するというチベットの治安強化は集団的な抵抗運動を事実上、不可能にした。大規模な抗議に発展する前にその芽はつぶされる。

誰かがチベット独立やダライ・ラマの帰国を支持するスローガンを叫んでも、その声を聞かれる前に本人は姿を消すことになる。

これらは全て、中国が目標とする安定強化の証しに思えるだろう。しかし焼身自殺という抗議行動を生んだのが、まさにこの「安定」だ。

チベット人作家であるツェリン・オーセルは近著『チベットは燃えている』で、焼身自殺は計画なしに自分1人ですぐに実行できるし、止めるのはほぼ不可能だと書いている。

と同時に、抵抗のメッセージをはっきり伝えることができる。あらゆるものが禁じられるなか、何かを主張するには最も印象的な手法だ。

過熱するプロパガンダ
中国政府の安定維持に対する信仰に近いこだわりのせいで、チベットでは焼身自殺以外の抗議活動はもはや不可能なのが現実だ。

一方で、宗教的な弾圧やチベット人の2級市民扱い、格差の拡大といった人々を抗議活動に追いやる要因は変わっていない。焼身自殺は今や、大義のための自己犠牲の1つの形として、文化的・宗教的な重要性を帯びるまでになっている。

地元当局者には、焼身自殺を食い止めよという強いプレッシャーがかけられている。だがこの「安定教」の熱心な信者である彼らにとって、さらなる抑圧以外に採るべき道はない。

焼身自殺した人々の家族は逮捕され、遺体は警察から返還されず、時にはその出身地の町や村まで連帯責任を負わされ、政府の補助金打ち切りという罰を受ける。

市民への監視は強化され、焼身自殺があったことを外国に知らせれば起訴の対象だ。宗教学の御用学者たちは、焼身自殺は自己犠牲という古くからの尊い伝統ではなく、仏教の教えの冒瀆だと非難している。

政府のプロパガンダは過熱している。焼身自殺をするのは精神的に不安定な者だと断じ、こうした抗議運動を画策しているのは「ダライ・ラマ一派」で、焼身自殺の実行者に金銭的な援助をしていると非難。インドに亡命中の僧侶たちを「人々の心を操っている」「腐敗している」と攻撃したりもしている。

08年の騒乱以降、抗議活動への締め付けが強化され、チベット人にとって声を上げる唯一の手段が焼身自殺となったわけだが、そのことがさらなる弾圧を招き、また新たな焼身自殺を生むという悪循環が起きている。

残されたのは、8年たってもチベットを取り巻く情勢が十分に改善されないなか、150人もの人々が焼身自殺で命を落とし、その終わりは見えないという残酷な事実だけだ。

13年に習近平(シー・チーピン)国家主席が就任した際には、中国政府のチベット政策にも新たな展開があるのではと期待された。だが、習も根っからの安定教の信者だったらしい。市民社会の萌芽は弾圧の対象となり、政治的活動への締め付けはさらに強まっている。

中国の指導者たちはさまざまな政策のコストと恩恵を慎重に吟味する現実主義者だと言われることが多い。だが、チベット政策に関しては安定教への信仰心が先に立ち、うまくいくはずのない対処法を「これぞ最終的な解決策」と信じてしがみついている。

確かに中国とチベットの歴史的関係や今日の中国のチベット政策の影響についてはさまざまな考え方がある。それでも人々が自らに火を放つ事例が後を絶たないなか、何らかの変化が必要である事実から目を背けることは不可能だ。

だが中国指導部が安定教にしがみついている限り、新たな展開は期待できそうにない。【8月1日 Newsweek】
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ダライ・ラマ 女性も含めた生前の後継者選定も
こうしたチベット情勢のカギを握るのがダライ・ラマ14世ですが、高齢のダライ・ラマにとって健康問題が大きな問題となっています。

****ダライ・ラマ、「極度の疲労」によりボツワナ訪問を中止****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(82)が、「極度の疲労」を理由に今週予定されていたボツワナ訪問を中止した。
 
11日夜に発表された公式声明によると、ダライ・ラマは高齢により体が休養を必要としており、医師からも今後の数週間は長旅を控えるよう言われたという。またボツワナ大統領らに宛てた書簡のなかで「極度の疲労」のために訪問を中止することを「心の底から残念に思う」と述べている。
 
インドで亡命生活を送るダライ・ラマは、ボツワナの首都ハボローネで17日から3日間の日程で開かれる会議で演説することになっていた。
 
しかし中国政府はダライ・ラマのボツワナ訪問を前に、同師の訪問を受け入れたボツワナに対する怒りを表明。中国外務省の陸慷報道局長は先月、チベット問題では中国の主権に「心から敬意を払い、正しい判断を下す」ようボツワナ政府に求めていた。
 
中国はアフリカ各国にとって主要投資国であり最大の貿易相手国でもある。ボツワナでも道路網の開発や発電所、橋、学校の建設などを支援している。【8月13日 AFP】
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今回決定が“疲労”によるものなのか、中国政府のボツワナへの圧力の結果なのかは知りません。

いずれにしても、“ダライ・ラマの死後”どうなるのか?という問題が、次第に現実味を強めていることは間違いありません。(中国政府は彼の死を待ち望んでいることでしょう)

ダライ・ラマの後継者を従来方法(死後の「転生霊童」)で決めるということになると、パンチェン・ラマのときがそうであったように、中国政府の介入を招き、当局に都合のいい人物が選ばれることにもなりかねません。

ダライ・ラマ14世は、女性も対象とした生前の選定を可能とする改革にも言及しています。

****ダライ・ラマ、生前の後継者決定を示唆 中国による選定懸念****
インドに亡命したチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(82)が9日、ニューデリーで講演し、「転生霊童」(生まれ変わり)と呼ばれる少年を探し出す伝統的な後継者選びのやり方を改め、自らの死去前に後継者を決める可能性を示唆した。
 
自身の死去後、中国政府が都合の良い後継者を選んでチベット統治に利用する懸念を踏まえた発言とみられる。今後、高僧らによる議論を始めるとし、女性が後継者になることもあり得ると述べた。
 
チベット仏教では、すべての生き物は輪廻(りんね)転生するという考えに基づき、ダライ・ラマら「活仏」が死去した後、生まれ変わりの少年を探して後継者にする伝統がある。

ダライ・ラマは講演で「死の前に後継者を選ぶ方が安定的だ。かつては後継をめぐる争いもあった」と述べ、生前に後継者を決める可能性に言及した。
 
さらに、「(自身が)90歳前後になる時に大事なことを決めたい」とし、「この1、2年でそのための準備的な会議を開いていく」と話した。
 
後継者については「女性も当然あり得る。女性は仏に帰依するのに適している」とも語った。
 
活仏であるパンチェン・ラマ10世が1989年に死去した後、中国当局が現在のパンチェン・ラマ11世を転生者と認定し、体制側に取り込んだ経緯がある。一方、ダライ・ラマ14世が転生者として選んだ少年の消息は途絶えたままになっている。【8月11日 朝日】
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宗教指導者が伝統の改革を主張し、宗教を嫌う共産党政府が宗教的伝統維持を主張するという、奇妙なねじれが生まれています。


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