孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民増加に揺れる欧州  イギリス:移民規制強化をEUに求める、実現できなければ・・・離脱?

2014-12-09 23:27:48 | 難民・移民

(反EUキャンペーン・バスを間にした英国独立党支持者 “flickr”より By Euro Realist Newsletter https://www.flickr.com/photos/33119465@N03/3498165397/in/photolist-6ouLvB-ctpdJU-6k81Gv-cyT8XU-nzxYBq-kM1rKF-kJaRLL-ctpKLw-p8XMyC-cttbTj-czy5fJ-cyTbY1-cyTbhy-oR9E6X-nfRKKc-nBHsaP-ctpgWw-ctpeu9-npLGGg-ctp6i5)

キャメロン首相:交渉が不調に終われば「あらゆる可能性を排除しない」】
イギリスでは、EUからの離脱と移民受け入れの凍結を主張する英国独立党(UKIP)が急速に支持を拡大しており、UKIPの人気上昇に危機感を抱く保守党議員は政府への圧力を強め、キャメロン首相は昨年1月、2015年総選挙で勝利した場合、2017年半ばまでにEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約しました。

こうしたEU離脱・反移民の流れのなかで、イギリスが次第に抜き差しならないところへ流されていく危険も見えてきています。
(10月25日ブログ「イギリス EU追徴にキャメロン首相激怒 国内で支持を急速に拡大する反EU・反移民政党」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141025

保守党は2010年に「移民の純増数を年間10万人未満に減らす」と公約しましたが、実際には経済が好調なイギリスへのEU内外からの移民が増加し、過去最高を記録しています。

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2014年6月までの1年間に英国が前年比43%増という移住者の純流入を記録したというニュースは、(EU離脱をめぐる)この火に油を注ぐだろう。
直近12カ月間で26万人の純流入という数字は、暦年ベースの過去の記録をすべて上回っている。
これは純流入数を10万人以下に減らすという政府の公約を馬鹿げたものに見せる。【11月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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シェンゲン協定によって、EU域内では移動が自由であり、移民希望者は容易に英国に入国できます。

“EU諸国から英国への移民は270万人で、人口の4.3%を占めている。また就業率は78.8%だ。ただ、最低限の社会保障を受給している移民は40万人だという(スペインのエル•パイス紙)。【12月8日 NewSphere】”

移民の増加は、学校や病院などへの需要増加や社会保障費の増加という負担を招くことが、EU離脱を求める声を大きくさせています。

キャメロン首相も政治的にこうした声を無視できませんので、EUへ移民規制強化を強く求め、実現できない場合は離脱も・・・と迫っています。

****英首相 移民規制強化でEUに対応迫る****
イギリスのキャメロン首相は28日、EU=ヨーロッパ連合の国々からの移民を規制するための新たな方針を表明し、この問題でEUとの交渉が不調に終わればイギリスのEU離脱にもつながりかねないとしてEUに対応を迫りました。

イギリスのキャメロン首相は28日、来年5月の議会選挙の争点になっている移民政策について演説し、近年、景気低迷が続くEU域内の国々から経済が好調なイギリスへの移民が急増し、学校や病院などで問題が生じていると指摘しました。

そのうえで、移民の規制強化に向けて6か月間就職できない人は出国することや、当初の4年間は税の控除や子どもへの手当などの支援を受けられないようにする方針を明らかにしました。

ただ、これには「人の移動の自由」を掲げるEU条約の見直しを含めEUとの交渉が必要で、キャメロン首相はEUの改革やイギリスとの関係の見直しに向けて交渉に臨むとしています。

イギリスではEUに懐疑的な勢力が勢いを増すなか、キャメロン首相は来年5月の議会選挙で勝利すれば2017年にEU離脱の賛否を問う国民投票を行う考えを表明しており、その前にEUとの交渉に道筋をつけたうえで国民に信を問いたい考えです。

ただ、交渉が不調に終われば「あらゆる可能性を排除しない」と述べてEU離脱の可能性にも触れており、EUに対応を迫りました。【11月29日 NHK】
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キャメロン首相は個人的にはEU離脱を望んでいないとされますが、EUの譲歩を勝ち取ることで、国民の理解を得たい・・・というところでしょう。

ただ、「人の移動の自由」はEUの基本理念にかかわるものであり、イギリスの“わがまま”が考慮される余地があるのか・・・。
EU内には、“出て行きたければ、どうぞ”という冷やかな見方もあるようです。

将来に対する恐ろしいほどの自信のなさ
仮にEU域内からの移民をEU離脱で制限できても、それを上回るEU域外からの移民があります。

そもそも、EU域内からの移民がイギリスにとって負担になっているという見方自体が合理性を欠いており、移民抑制の観点からEU離脱というイギリスにとって死活的に重要な問題を論じることの誤り・愚かさを指摘する向きもあります。

****移民への不安は英国のEU脱退の理由にならない****
英国が人の移動の自由という欧州連合(EU)の原則を理由にEUから脱退することは筋が通るのか? 答えは「ノー」だ。

確かに、英国のEU加盟が大きな問題であるように、移民も大きな問題である。だが、移民問題がEU加盟の議論を左右することがあってはならない。そうするには、どちらも重要すぎる問題だ。

だが、英国のデビッド・キャメロン首相は他のEU加盟国との議論で、ますます自身を窮地に追い込んでいる。

これはもっぱら、選挙での英国独立党(UKIP)の成功に対する与党・保守党のヒステリーの結果だ。
また、キャメロン氏率いる保守党内に、EUから脱退するための口実なら何でも歓迎する派閥が存在するためでもある。

移動の自由の適用免除求めるキャメロン首相、このままでは「Brexit」か
この入り混じる不安と敵意がキャメロン氏を、EU創設の基盤となった条約の移動の自由の原則の適用免除を求めるという、確保できる見込みのない要求へと駆り立てている。

来年の総選挙の後に首相になれば、キャメロン氏は実施を託されている国民投票でEU脱退に反対票を投じるよう訴える運動を展開せざるを得なくなる。その場合、可能性の高い結果は「Brexit(ブリグジット、英国のEU脱退)」である。(中略)

EUからの移民の多くは、比較的活力のある英国の高雇用経済に引き付けられて働きにやって来る。例えば、最新の国勢調査では、EU域内からの移住者のうち、労働年齢で5~10年間英国に滞在している人の80%が職に就いていた。これに対し、英国で生まれた人の就職率は69%、EU域外で生まれた人のそれは61%だった。

驚くまでもなく、この調査は、若くて活動的なEUからの移民が財政面でも大きな貢献をしていることを示している。

移民は英国経済にプラス
確かに、彼らが国内にとどまれば、この状況は変わるかもしれない。だが、EU脱退の経済的影響に関する欧州改革センター(CER)の調査が示したように、EUからの移民が差し引きで英国に莫大な経済コストを負わせたという見方には、全く根拠がない。

これは、EUからの移民が、すでに英国に住んでいる人たちの経済的幸福に差し引きで大きな貢献をしたという意味ではない。この点については議論の余地がある。証拠を見る限り、移民の恩恵の大部分が移住者自身のものになるからだ。

だが、圧倒的にリベラルな英国文化に適応しながら、多くの言語を話し、多様な文化を提供してくれる、勤勉で意欲的な人々の存在は、間違いなく歓迎されるはずである。

たとえインフラへの追加支出や住宅価格に与える潜在的影響のコストを考慮したとしても、移民がそれだけでEUから脱退する理由になり得るという見方は、将来に対する恐ろしいほどの自信のなさを表している。

恐ろしいほど近くに迫っているように見える「愚かさ」
(中略)EU域内からの移民は、移民問題の支配的要素でもなければ、特に問題があるわけでもない。その逆の方がはるかに真実に近い。この議論で焦点を当てる争点としては、移民は間違った争点なのだ。

同様に、EUにとどまるか否かの決定は、この先ずっと英国の未来を方向付けることになる。

移民への不安という激情がこの議論を動かすことを許すのは愚かなことだ。残念ながら、そのレベルの愚かさが恐ろしいほど近くに迫っているように見える。【11月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「外国人によって自分の国が変えられてしまう」ことへの不安感
移民で揺れるのはイギリスだけでなく、欧州全体に共通した問題です。

スイスはもともとEUにも加盟していない閉鎖的な国ですが、環境保護を理由として移民数を現在の約5分の1程度に大きく制限するという国民投票が行われました。

結果は、投票者の74.1%が反対する大差での否決となっています。

しかし、スイスでは今年2月の国民投票で、イタリアやドイツなどEU各国からの移民制限を僅差で可決しています。

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スイス司法省によると、2012年5月からの1年間にスイスに移住した外国人の数は約15万人。前年同期比で5%の増加だ。

スイスから国外へ移住した外国人の数を差し引くと、約8万2000人の増加となる。これはスイス政府が想定していた移民数の10倍に相当する。スイスの人口約810万人のうち、ほぼ4分の1が外国人である。

スイスに住む外国人の約66%がEU加盟国からの移民だ。最も多いのがイタリア人(約30万人)とドイツ人(約29万人)である。最近ではユーロ危機後の不況に苦しむポルトガル人の移民が増えている。【2月20日 日経ビジネス】
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スイスはEU加盟国ではないものの、2002年にEUとの間で「移住の自由に関する協定」に調印しています。
この協定を破棄することは、これとセットになっている自由貿易に関する他の協定の破棄を意味します。

政府は、国民投票後3年以内の法制化を迫られています。

****移民急増を拒絶したスイス国民投票の衝撃*****
・・・・つまり自由貿易という観点から見れば、今回の国民投票の結果は、スイスにとって「自殺ゴール」だった。

それにもかかわらず、スイスの有権者の過半数は、国粋主義的なポピュリズム政党を支持して、移民の数を減らす道を選んだ。彼らは、経済的なデメリットを十分に理解したうえで、移民規制に「イエス」の票を投じたのだろうか。

筆者は、多くの有権者が(国民投票を主導した)SVP(スイス国民党)の動議に賛成したのは、周辺国との経済的な互恵関係よりも、外国人問題の方を重視したためと考えている。

今回の国民投票が浮き彫りにしたのは、「外国人によって自分の国が変えられてしまう」ことへの不安感がヨーロッパ市民の間で高まっていることだ。

この不安を象徴するのが、ドイツ語のFremdbestimmungという言葉だ。

これは、「自分の生活に大きく影響する事柄を外国人が決めてしまい、自分には決定権がない状態」を意味する。今日のヨーロッパで多くの市民が不安を抱く「外国人」とは、EUの官僚機構のことを指す。(後略)【同上】
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また、スウェーデン議会は12月3日、政府提出の2015年予算案を反対多数で否決しました。これを受けてロベーン首相は議会を解散して来年3月22日に総選挙を実施する方針を明らかにしています。

“予算案の採決では、49議席を持ちカギを握る極右のスウェーデン民主党が、政権の移民に寛容な政策に反発して予算案に反対した。首相は採決を前に中道右派の野党連合と妥協を図ったが不調に終わった。”【12月4日 時事】と、やはり移民絡みの政局です。

移民で人口増加するイギリス 劇的に人口減少する日本
イギリスに話を戻すと、欧州委員会報告書によれば、イギリスは2060年までに920万人の移民純増があり、結果、現在の人口6410万人から8010万人へと増加し、EUで最も人口の多い国になる見込みだそうです。(イギリスは出生率も1.9程度とかなり高い水準にありますが)

****高齢化する欧州には移民の新しい血が必要だ*****
注目すべき欧州委員会の報告書の中身とは?
報告書は、2060年までにEU加盟国に流入する移民の純増数が合計5500万人になると予想している。

ほぼ70%がEU加盟28カ国のうちのわずか4カ国に向かい、イタリアに1550万人、英国に920万人、ドイツに700万人、スペインに650万人流れ込むという。

この予測が正確ならば、移民の政治的影響は英国を超えて大きく広がることになる。考え方がUKIP(英国独立党)に近いイタリアの反移民政党・北部同盟に対する支持は、ポー渓谷以北の牙城を超えて南へ広がっている。

移民排斥運動はドイツやスペインではそれほど目立たないが、オーストリア、フランス、オランダでは政治光景の一部として定着している。(中略)

全体としては、EUの人口は昨年の5億700万人から2060年には5億2300万人に増加すると予想されている。

とりわけ興味深いのは、個々の国の予測だ。英国の人口は6410万人から8010万人へと増加し、EUで最も人口の多い国になる見込みだ。フランスは6570万人から7570万人に増加するが、ドイツは8130万人から7080万人へ減少すると見られている。

英国がEUにとどまり、スコットランドが英国から分離しなければ、英国はEUで最大の相対的影響力を持つことになり、その影響力は例えば、欧州議会での議席数増加につながる。

しかし、この影響力の拡大は、部分的には、英国へやって来る数百万人の移民のおかげなのだ。

高齢化するEU、2060年には65歳以上の人口と生産年齢人口が1対2に
(中略)報告書の最も重要な結論は、欧州社会はあまりに急速に高齢化しているため、たとえ移民の純流入数が多くても、EUは2060年までに、65歳以上の人口と生産年齢人口の比率が現在の1対4ではなく、1対2になってしまうということだと言えるかもしれない。

このように粛然たる推定は、移民の受け入れが政治的選択ではなく、むしろ経済的な必要性であるように見える理由を明確にしている。(後略)【12月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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原則的に移民を受け入れていない日本の人口は、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、現行の1億2700万人が、2060年には、出生率を現行水準の1.35前後に置いた中位推計で8700万人程度に劇的に減少します。
出生率が1.6ぐらいに回復すると仮定した高位推計では9460万人、出生率を1.12程度に仮定した低位推計では8000万人と予測されています。

こうした危機感が麻生財務相の「子どもを産まない方が問題だ」といった発言にもなるのでしょうが、産む産まないは個人の合理的な選択結果であり、出生数を増やしたいなら産まない女性を目の敵にするのではなく、産むことを選択しやすいような社会環境を整備していくことでしょう。

移民の増加は、社会保障関連の負担増だけでなく、現在の欧州で見られるように、イスラム住民の増加にともなって文化的に摩擦を起こしやすいイスラム社会が国内に出現し、「イスラム国」のようなイスラム過激派の温床ともなっている・・・といった治安上の問題も引き起こしやすい問題です。

しかし、移民をそうした世界に追いやっている大きな理由は、移民に否定的な受け入れ側の“outlander(よそ者)”への反感であることも多いのではないでしょうか。

よそ者を嫌悪せずに社会に取り込んでいく受入側の発想次第では、移民増加のリスクを減らすことも可能にも思えます。

いずれにしても、社会全体に活性があれば、多少の問題には対応は可能です。
一方で、過疎地の限界集落に見るように、人口減少地域の立て直しは非常に困難です。
人口減少社会において、日本がいかに成熟した余生を送れるかが課題となりますが、そのためには賢明な知恵が要求されます。

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