孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  黒人への警官発砲事件で再び問われる差別問題

2015-03-04 22:37:42 | アメリカ

(事件現場で死を悼む射殺されたホームレスのそばに住んでいた男性 【3月4日 The Huffington Post】)

Black Lives Matter
アメリカでは昨年来、警官による黒人に対する過剰な対応が議論となる事件が相次いでいますが、3月1日、ロサンゼルスで同様事件が起き注目を集めています。

****LA 警察が黒人男性に発砲し死亡させる****
アメリカで警察による容疑者への対応が過剰だという反発が強まるなか、西海岸、ロサンゼルスで複数の警察官が、強盗の疑いで拘束しようとした黒人男性に発砲して死亡させ、対応に行き過ぎがなかったか議論を呼んでいます。

ロサンゼルス中心部で、1日昼ごろ、警察官が、ホームレスの黒人男性を強盗の疑いで拘束しようとしたところ、もみあいになり、抵抗を続ける男性に発砲して男性は死亡しました。

近くにいた人が一部始終を撮影した映像では、複数の警察官と男性がもみ合うなか、連続して5発の発砲音が聞こえ、男性が倒れたあと、「丸腰だったのに」などと叫ぶ人の声が記録されています。

警察は、3人の警察官が発砲したことを認めたうえで、「男性が警察官の銃を奪おうとしたため撃った」として、対応に問題はなかったと説明しています。

一方、地元の人権団体などは警察の対応に行き過ぎがあった可能性があるとして、一連の対応が適切だったか検証するよう求めています。

アメリカでは、去年、警察官が容疑者などを死亡させるケースが相次いで黒人社会を中心に反発が強まり、大統領の指示で信頼を構築する方策を検討する特別委員会が設置されていただけに、今回の警察の対応に行き過ぎがなかったか、メディアが大きく報じるなど注目が集まっています。【3月3日 NHK】
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事件の一部始終を撮影した動画がネットで確認できます。
【3月2日 Iran Japanese Radio】http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/52589-%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E8%AD%A6%E5%AE%98%E3%81%8C%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%82%92%E5%B0%84%E6%AE%BA など。

問題の黒人男性を4人ほどの警官が取り押さえようとしていますが、激しい揉みあい状態のため、小さな画面では警察側が主張しているように“男性が警察官の銃を奪おうとした”のかどうかは確認できません。

同様に、“映像を撮影した人は「男性の手は銃に届いていなかった」と証言”【3月3日 時事】についても確認できません。

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米国では、昨年黒人男性を死亡させた白人警官が相次いで不起訴になり、各地で抗議デモが発生。同市警は1月、警官が7千個の小型カメラを装着する制度を導入した。

今回関与した警官3人のうち2人が小型カメラを装着し、状況を録画していたが、同市警は「いまは調査中のため公開しない」と話している。”【3月3日 朝日】
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調査結果が待たれますが、3月1日夜、ロサンゼルスのダウンタウンでは市警に抗議して「黒人の命だって大切だ(Black Lives Matter)」のスローガンを掲げるデモが行われました。

司法省調査:ファーガソン警察署では公民権の侵害が日常的に行われていた
一連の発端となった昨年8月に起きたミズーリ州ファーガソンでの事件については、黒人に対する警官による公民権の侵害が日常的に行われていたことが司法省の調査で明らかにされています。

*****<米司法省>黒人青年射殺の警察署「公民権侵害、日常的*****
米中西部ミズーリ州ファーガソンで昨年8月、丸腰の黒人青年が白人警官(事件後に辞職)に射殺された事件で、警官が所属するファーガソン警察署では、人種的偏見に基づき黒人を逮捕するなど、公民権の侵害が日常的に行われていたことが司法省の調査で分かった。米メディアが3日、一斉に報じた。同省が報告書にまとめ近く発表する。

ファーガソンでは事件後、黒人住民らが抗議行動を起こし、全米に広がった。住民らは事件に限らず「不公平な司法システムが横行している」と主張していたが、それが裏付けられた形となった。

司法省は2012~14年の同署の活動を調査。ファーガソンは人口の67%を黒人が占めるが▽不審視し、車を停車させるケースの85%▽逮捕するケースの93%▽実力行使するケースの88%--は黒人が対象になっていた。また、住民が警察犬にかまれた14件のすべてが黒人だった。

車を止められた後、黒人の運転手が所持品検査をされる割合は白人の2倍近いが、実際に薬物などの違法所持が見つかるのは逆に26%も低かった。また、軽微な違反行為を問われる割合も黒人が圧倒的に多かった。

警官や裁判所職員が、人種的偏見に満ちた電子メールをやりとりしていたことも判明。黒人のオバマ大統領をばかにするものや、黒人女性が中絶すれば犯罪減少につながるという内容まであったという。【3月4日 毎日】
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南部の黒人リンチの歴史
アメリカにおける人種差別の問題は今さらの感があります。差別を表に出すことは厳しく抑制されていますが、各人の心の内側に根強く残存していることが間違いありません。

一方で、なんだかんだの問題をはらみつつも、“ひとつのアメリカ”といった社会的一体感が維持されている点では、民族対立がごく普通の出来事として見られる世界にあっては、非常にうまくいっている社会・・・と言っていいのかもしれません。

いつも思うのですが、私が子供の頃のアメリカは、まだ“白人専用”といった表示が許される社会でした。
キング牧師などによるワシントン大行進が行われたのが1963年、ジョンソン大統領のもとで人種や宗教、性、出身国による差別を禁止する公民権法が成立したのが1964年のことです。

いまだ半世紀しか経過していない現在にあって、差別が残存しているというのはやむを得ないことにも思えますが、人種を隔てる垣根をこれから更に取り除いていくことはなかなか容易なことではないようにも思われます。

歴史を遡れば、リンカーン大統領が南北戦争中に敵対する南部連合が支配する地域の奴隷たちの解放を命じた「奴隷解放宣言」を行ったのが1862年のことです。

当然ながら、ひとつの法律で社会がすぐに変わることはありません。
その後も、アメリカ南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたことが明らかになっています。

****黒人リンチで4000人犠牲、米南部の「蛮行」 新調査で明らかに****
米国の人種差別に基づく暴力の歴史に関する新たな調査で、米南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたことが明らかになった。

73年間にわたり1週間に平均1人以上が殺されていた計算になる。

調査を行ったアラバマ州の人権団体「公正な裁きのイニシアチブ」は、現代の人種差別や刑事司法における問題は、米国の暴力の過去に根差すものだと指摘している。

同団体の創設者ブライアン・スティーブンソン氏はAFPに対し「ドイツならばホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)の遺産に向き合うことを強いられるが、米国では逆だ。われわれは自分たちで真実と和解に取り組もうとせず、この遺産が引き起こしている結果に真剣に対処しようとしたことがない」と語った。

同団体が数年かけて行った調査の結果、1877~1950年に南部12州で私刑によって殺害された人数が、従来の調査結果よりも700人多い3959人であることが分かった。うち大半は1880~1940年の間に発生していた。

■「ピクニックしながらリンチを観賞」
またスティーブンソン氏によれば、私刑のうち20%は、驚くことに、選挙で選ばれた役人を含む数百人、または数千人の白人が見守る「公開行事」だった。

「観衆」はピクニックをし、レモネードやウイスキーを飲みながら、犠牲者が拷問され、体の一部を切断されるのを眺め、遺体の各部が「手土産」として配られることもあったという。

例えば1904年にはミシシッピ州ダッズビルで、黒人男性ルーサー・ホルバートが、白人の地主を殺害したとして、妻とされる黒人女性と一緒に数百人の前でリンチされた。

2人は木に縛り付けられて指を切断され、暴漢たちはその指を配った。ホルバートは耳も切り落とされ、頭蓋骨が砕けるまで殴打された。さらに暴漢たちは大きなコルク栓抜きで2人の体に穴を開け、肉の塊を取り出したという。

「公正な裁きのイニシアチブ」によれば、犠牲者のうち数百人が、投票をしようとしたり、黒人の地位向上を訴えたりしたこと、さらには歩道で脇に寄らなかった、白人の女性にぶつかった、といったもっと些細な規則違反を理由に殺された。

一方で同時代、黒人をリンチで殺害したかどで有罪となった白人は一人もいない。

「多くの人はこの時代について知識がない。100年足らず前の米国社会で人々がこうした蛮行に走っていたことを想像するのは、非常におぞましいことだ」とスティーブンソン氏は述べている。

一方、南部で常態化していた脅威から逃げるために、1910~1970年の間に600万人近いアフリカ系米国人が米北部や西部の都会のゲットーに流入した。

■現在も黒人に偏る死刑判決
米国では現在も、逮捕、有罪、投獄、死刑の対象となるのは黒人に偏っている。米人口に黒人が占める割合は13%でしかないにもかかわらず、1976年以降、米国で刑が執行された死刑囚の34%が黒人で、現在収監されている死刑囚も42%近くが黒人だ。

スティーブンソン氏は過去のリンチと、現在の米国の刑事司法制度の問題、そして警官の手で殺されている人の中で圧倒的に黒人が多いこととの関連性を指摘。

「リンチが死刑になり、投獄になっている。悪者扱い、犯罪者扱いが有色人種に偏っているのだ」と語る。

最近の米国で、武器を持たない黒人男性が、警官に殺害される事件が相次ぎ、そうした状況への抗議デモで「黒人の命は軽くない(Black Lives Matter)」というスローガンが叫ばれているが、問題の根は同じ歴史にあるとスティーブンソン氏は言う。

「米国人による米国人に対するテロリズムが広く実行されていた時代があったことを、多くの米国人は分かっていないと思う」【2月12日 AFP】
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変えられる社会
人種に限らず、民族・性別その他に関し、異質なものを排除・忌避・攻撃しようという差別は古今東西にわたって存在し、それは自分自身を含め、人間という生き物にとって不可避なもののようにも思えます。

ただ、少しでもそれを克服していこうとする努力が求められ、そのことが人間性の証であるようにも思います。

黒人への「リンチ」の実態はおぞましいものがありますが、当時からわずか100年前後しかたっていません。
当時に比べれば、差別の在り様も大きく変化しました。

日本も百数十年前は、まだちょんまげを結っていた時代です。

100年あれば社会は信じられないぐらいに変わるとも言えます。そうであれば100年後の世界は現在の差別が信じられないような世界になっている・・・・と期待したいものです。

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