孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  シャリフ元首相返り咲き 対軍部、インド、アメリカでは慎重姿勢

2013-05-17 21:49:14 | アフガン・パキスタン

(3回目の首相に向けて、返り咲きを確実にしたシャリフ元首相 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/8735200268/)

選挙による文民政権の交代
パキスタンでは11日、建国以来初めて文民政権が任期を満了し、選挙による政権交代が実現するかが注目された総選挙が行われました。
パキスタンはアメリカのアフガニスタン戦略において要となる国であり、また核保有国として対インド関係が注目される国です。

5月4日ブログ“パキスタン 「パキスタンのタリバン運動(TTP)」による選挙妨害テロが続発”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130504)で取り上げたように、選挙戦は比較的世俗主義的な傾向が強いザルダリ大統領が率いる人民党、南部カラチを地盤とする統一民族運動(MQM)、北西部中心のアワミ民族党(ANP)の連立与党3党に対するTTPの激しい妨害テロのもとで行われました。

与党・人民党は、TTPによる選挙妨害に加え、物価高騰などの経済問題、汚職・腐敗に対する批判、民間人犠牲が多く出ている米軍の対イスラム過激派作戦に追随してきたことへの批判などで、当初から苦戦が予想されており、シャリフ元首相率いる最大野党「イスラム教徒連盟シャリフ派」、クリケットの元ナショナルチーム・キャプテンから政治家に転じたイムラン・カーン氏が率いる「正義運動」の躍進、政権交代が予想されていました。

ほぼそうした予想通り、「イスラム教徒連盟シャリフ派」が単独過半数は難しいものの大きく議席を増やし、シャリフ元首相による政権交代が実現する展開となっています。

*****単独過半数は困難=シャリフ派、無所属吸収も―パキスタン総選挙*****
パキスタン国民議会(下院、定数342)選挙で、選管当局が14日発表した暫定集計結果によると、小選挙区272議席のうち257議席が確定し、シャリフ元首相率いるパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)が122議席を確保した。政権樹立には比例代表70議席を含めて過半数172議席が必要。シャリフ氏は単独過半数を目指していたが、達成は困難な情勢だ。

ただ、PML―Nの圧勝により、シャリフ氏を首相とする新政権の誕生は間違いない。6月初めまでには新議会が招集され、首相が選出されるとみられている。【5月14日 時事】 
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パキスタンでは、小選挙区制の272議席に加え、女性・非イスラム枠の70議席が比例代表制で各党に配分されることになります。
選挙直後の報道では、カーン氏が率いる野党「正義運動」は34議席、ザルダリ大統領の与党・人民党は33議席を獲得する見通しとされています。

“「政治腐敗一掃」を訴えたカーン氏の「正義のための運動」は、議席ゼロからの大躍進だが、シャリフ氏に大きく引き離された。首相時代に経済を安定させたシャリフ氏の実績に、より大きな期待が寄せられた。与党・人民党は、過去5年間の失政で国内経済を事実上破綻させ、有権者に見放された。”【5月12日 毎日】

なお、カーン氏は選挙運動終盤の遊説中に、支持者の前にせりあがるフォークリフトから転落して脊髄骨折で入院する事故に見舞われています。

【「この国には変化が必要」】
武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が予告通りに投票所や政党事務所を狙ったテロ攻撃を仕掛ける中、地域によっては“命がけの投票”ともなりましたが、中央選管によると、投票率は60%で、前回44%を大きく上回ったそうです。

今回の選挙では、腐敗した既成政治に不満を抱く若者層、これまでイスラム社会のなかで社会進出が制限されてきた女性層の動向が注目されました。

若者層の既成政治批判票は「正義運動」に流れるのではないかとも見られていましたが、シャリフ氏の実績への期待の方が勝った結果は先述のとおりです。

****立ち上がる女性、権利向上訴え=投票禁止の地域も発覚―パキスタン****
11日投開票のパキスタン総選挙では、多くの女性が政党の集会や投票所に足を運んだ。同国では、女性が教育を受ける権利を訴えたマララ・ユスフザイさん(15)がイスラム武装勢力に銃撃された事件が記憶に新しい。最近では、女性の投票を禁じる選挙区が存在することも発覚。しかし、女性たちはテロに臆することなく、権利向上を訴え続けている。

「マララは特別な1人ではない」と語るのは、首都イスラマバードに住む学生ナターシャ・ヤサリオ・ザヒドさん(21)。野党パキスタン正義運動(PTI)の集会に友人らと参加、「テロを怖がっていては前に進めない。女性一人ひとりが主張し続け、当たり前の権利を享受できる社会をつくらなければならない」と訴えた。
友人の学生アイシャ・ジャミールさん(23)も「より良い未来」を求めて集会に参加した。「この国には変化が必要。そのために私が声を上げる」と力を込めた。【5月11日 時事】 
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しかし、“ペシャワルでは、有権者が多数詰めかけた男性用投票所とは対照的に、女性用は警備要員のほかは、ほとんど人影がない。主婦のラハットさん(54)は「女性が外に出ることを嫌うTTPのテロが怖いから投票に行けない」と自宅で話した。”【5月12日 朝日】という現実の壁もまだ厚く存在しています。

これまでのところは慎重姿勢のシャリフ元首相
軍事クーデターで首相の座を追われ、14年ぶりに驚異の返り咲きを果たすことになるシャリフ元首相については、下記のような紹介もあります。
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首相就任が濃厚となったシャリフ氏は、ラホールの裕福な事業家の出身。90年の首相就任後、国営企業の民営化や税制改革に努めたが、後に自らを「イスラム教徒の首長」と呼ばせる法案を議会で通そうとするなどワンマンぶりを強めた。「党を私物化している」との批判も強く、縁故主義や腐敗体質を改善できるかが課題だ。軍との確執が99年の軍事クーデターを招いた経緯から、今後の政権運営では、軍との関係修復も問われる。【5月12日 毎日】
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これまでのところ、シャリフ元首相は選挙勝利後、慎重で現実主義的な姿勢を見せています。

****軍部に協力呼びかけ パキスタン総選挙で勝利のシャリフ氏****
パキスタン総選挙で勝利したナワズ・シャリフ元首相は13日、東部ラホール郊外で朝日新聞など外国メディアと会見した。
自身の政権を転覆させた1999年の軍事クーデターについて「ムシャラフ前大統領以外の軍部に責任はない」と述べ、現在の軍部と協力関係を築きたい考えを示した。

シャリフ氏は「今回の選挙が軍の傘なしに行われたことは非常に重要だ」と指摘し、過去に繰り返されたクーデターや軍部の介入がなかった点を評価。
99年のクーデターは「ムシャラフ氏の独断だった。軍部は私の政権を倒すことに同意していなかったと思う」と述べ、同氏の訴追と現在の軍部との関係を切り離したい意向をにじませた。そのうえで「国が直面する膨大な問題に対処するため、共に働かなければならない」と軍部に協力を呼びかけた。

対米関係悪化の要因となっている武装勢力に対する米国の無人機爆撃については「国家主権への挑戦で、非常に深刻に受け止めている」と懸念を表明。一方で、「米軍のアフガニスタンからの撤退には全面的に協力する」と強調。反政府武装組織パキスタン・タリバーン運動との和解交渉については「就任してからの状況次第だ」と言葉を濁した。

次期政権の構成については「私たちは自ら政権を発足しうる立場にある」と述べ、無所属候補などを取り込みながら、ほぼ単独で政権を発足させることに自信を見せた。【5月14日 朝日】
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パキスタンとは宿敵の関係にあるインドに対しても、関係改善を呼びかける姿勢を見せています。

****印首相を宣誓式に初招待=元首相、関係改善に意欲―総選挙勝利で会見・パキスタン****
パキスタン国民議会選挙で圧勝し、今後5年間政権を担うことになった中道右派パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)を率いるシャリフ元首相は13日、隣国インドについて「(首相就任の)宣誓式にはシン首相を招待したい」と述べ、関係改善に意欲を示した。

パキスタンがインド首相を宣誓式に招くのは初めてで、実現すれば「歴史的なこと」(外交筋)となる。東部ラホール郊外の別邸で行われた非公式の会見で海外メディアに語った。(後略)【5月13日 時事】 
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注目されるアメリカとの関係については、パキスタン・アメリカ双方とも慎重な姿勢が目立ちます。
“バラク・オバマ米大統領は、米国はパキスタンと「対等なパートナーとして」連携していく用意があると述べ、新政権樹立を歓迎。シャリフ元首相はその数時間後に行われた会見で、米軍と北大西洋条約機構(NATO)の部隊のアフガニスタン撤退に対する「全面協力」を約束した”【5月14日 AFP】

選挙中は、対テロ戦での米国への協力を見直す考えを示唆したシャリフ元首相ですが、“パキスタンは米国の巨額の軍事・経済支援に頼っているほか、経済立て直しのため国際通貨基金(IMF)への支援要請は待ったなしの状態にある”【5月13日 産経】という現状では、アメリカの協力を必要としており、強硬な反米姿勢はとらないのではないかとも予想されています。

****パキスタン:シャリフ氏、現実路線か 対米関係****
パキスタン総選挙の下院選で勝利したナワズ・シャリフ元首相は、無人機空爆による武装勢力暗殺作戦など米国の「対テロ戦争」を批判してきた人物だ。

ただ、経済が事実上破綻しているパキスタンは、米国による巨額な財政支援を必要としており、シャリフ氏が政権を握れば、対米関係では現実路線を取らざるを得ないとの見方が出ている。

オバマ米大統領は12日、「選挙後に発足する政権を対等なパートナーとして今後も協力関係を続けたい」との声明を発表した。
米国にとって「対テロ戦争」の最前線の国であり、イスラム圏でただ一つの核保有国として慎重な対応を迫られる国でもある。「対等なパートナー」の言葉に米側の気遣いがうかがえる。

パキスタンの国内治安情勢は、2001年開戦のアフガニスタン戦争にムシャラフ大統領(当時)が協力して以来、悪化の一途をたどった。アフガン側から旧支配勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダがパキスタンに流入。「パキスタン・タリバン運動」などパキスタン人の武装勢力を育てる結果となった。

対米追随の当局や、一般住民を狙ったテロ攻撃が繰り返され、今年4月から今月11日の総選挙までの1カ月だけでも約150人が死亡した。
反米感情の要因の一つは、米中央情報局(CIA)がアフガン国境付近で繰り返している無人機空爆だ。空爆で多数の民間人が犠牲になっているためだが、ムシャラフ政権が容認し、今回の選挙で敗北した人民党政権も事実上黙認していた。

しかし、11年1月、シャリフ氏の支持基盤がある東部ラホールで、CIA契約職員の米国人がパキスタン人の若者2人を射殺する事件があり「死刑」を訴える声が全国に広がった。野党党首のシャリフ氏もこうした世論を無視はできなかった。

ただ、北西部ペシャワルの政治・治安問題アナリスト、ラヒムラ・ユスフザイ氏は「シャリフ氏は現実的に物事を考える指導者だ。ほかの野党党首が『無人機撃墜』を訴える中、そこまで過激な発言はしていない。対米政策も慎重に構築していくだろう」と話した。【5月14日 毎日】
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イスラム過激派との関係は、「就任してからの状況次第」】
対米関係と並んで注目されるのが、TTPなどのイスラム過激派との関係です。
これは、アメリカとの関係とも連動します。
シャリフ元首相は、掃討ではなく対話による解決を主張してきました。

****パキスタン総選挙 真の勝利者は・・・タリバン****
無人機攻撃へのいら立ち
今回の選挙は、絶大な人気を得たカーンと、国内最大の人目を抱えるパンジャブ州を基盤として根強い支持を維持してきたシャリフによる事実上の一騎討ちだった。カーンは先週、遊説中にフォークリフトから落下して脊椎を骨折する事故に見舞われたが、タリバン寄りのシャリフやカーンが、イスラム過激派からテロの標的になることはな
かった。

2人のどちらが勝利しても、イスラム過激派勢力には都合がいい。どちらかが次期首相になると目されているが、アメリカの言うなりにタリバン掃討作戦などを実施したPPP主導の政権より、過激派にとって断然好ましいからだ。

今回の選挙で鍵を握ったのは、対テロ戦争としてパキスタンでも無人機攻撃を行うアメリカにいら立つ若い世代だ。カーンが絶大な人気を得る理由の1つは、彼が対テロ戦争や、アメリカからの財政支援に反対する姿勢を鮮明にし、有権者の58%を占める若い世代を引き付けているからだ。
カーンはこれまで、一度としてタリバン勢力を批判する
発言をしたことがない。

シヤリフもタリバン勢力には同情的だ。掃討ではなく歩み寄りの姿勢を見せ、対話による解決を主張してきた。敵対する政治家らからは、シヤリフが世俗的で親米な政党への選挙妨害をタリバンに実行させているという指摘まで出るほどだ。

結局のところ、次期政権はこれまでの親米路線から距離を置き、イスラム過激派に同情的な姿勢を見せることになるだろう。
テロ行為でシヤリフとカーンを「援護射撃」したイスラム過激派勢力は、笑いが止まらないに違いない。【5月21日号 Newsweek日本版】
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先述のようにアメリカからの軍事・財政支援が不可欠な状況がありますので、あからさまな反米・親TTPとはならないでしょうが、TTPなどイスラム過激派に対する姿勢はこれまでとは違ってくることが予想されます。
どの程度の違いか・・・というのが肝心なところですが、それは今後のシャリフ“新”首相の政治運営を見ないとなんともわかりません。
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