孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ユネスコの「政治利用」

2016-10-16 22:03:58 | 国際情勢

(ユダヤ教では「神殿の丘」と呼ばれ、イスラム教では「ハラム・アッシャリーフ」などと呼ばれる聖地【10月15日 CNN】)

エルサレムの聖地に関する決議案で、イスラエルがユネスコとの協力関係を停止
国連など国際機関が外交戦の舞台となることは当然と言えば当然のことではありますが、行き過ぎた泥試合や報復合戦になると国際機関の機能マヒにも至ります。

****イスラエル、ユネスコとの協力関係を停止 聖地への言及で****
イスラエルは15日までに、国連教育科学文化機関(ユネスコ)がまとめたエルサレムの聖地に関する決議案がユダヤ教とのつながりを無視しているとして、ユネスコとの協力関係を停止した。

ユネスコ執行委員会の下部組織は13日、この決議案を仏パリで採択していた。

決議案では、キリスト教とユダヤ教、イスラム教の各一神教にとってのエルサレムの重要性を指摘しているものの、キリスト教徒やユダヤ教徒にとってなぜエルサレムが重要なのかに関しては言及がない。

ユダヤ教で「神殿の丘」として知られる最も重要な聖地については、「ハラム・アッシャリーフ」というイスラム名だけで呼んでいた。

この決議案はエジプトなどのアラブ諸国により提案されたもので、エルサレムやヨルダン川西岸、ガザ地区におけるイスラエルの行動に対しおおむね批判的な内容となっており、イスラエルと米国が激しく非難した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルと神殿の丘を結びつけない記述は中国と万里の長城を結びつけないようなものだと指摘。「今回のばかげた決議により、ユネスコにわずかに残されていた正統性は失われた」と強く批判した。

ベネット教育相は決議後、ユネスコとの間の全ての専門的な活動を停止すると発表した。
米国務省のトナー報道官も、政治的な動きだとして一連の決議を批判した。ユネスコは4月にも同様の決議を採択し、イスラエルなどから激しい批判を浴びていた。

一方、パレスチナ自治政府の外務当局は決議を称賛。声明で「パレスチナは引き続き、国連組織も含めた利用可能なすべての法的、外交的手段を通じてパレスチナ人の権利を擁護していく」とした。

ユネスコのイリナ・ボコバ事務局長はイスラエルの批判を受け、自身も決議案を快く思っていないとの声明を発表。「エルサレムの普遍的な価値とユネスコの世界遺産への登録理由は統合にある。それは対話への訴えであり、対立を意味しない」と述べた。

ベネット教育相はボコバ氏の声明を歓迎した上で、言葉だけでなく行動が必要だとの認識を示した。

決議案は18日に行われるユネスコ執行委員会で採決にかけられる。全会一致で可決した場合は採択され、そうでない場合は継続審議となる。【10月15日 CNN】
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パレスチナ自治政府の正式加盟でアメリカは分担金支払いを停止
そもそも2011年にユネスコへのパレスチナ自治政府の正式加盟が認められたこと自体が、パレスチナ側の“政治的”勝利であり、イスラエル側にとっては大きな痛手となっています。

もちろん、パレスチナ側からすれば、イスラエルが和平交渉に応じる姿勢をみせないから、ユネスコ加盟などの外交戦を行っているのであり、おおもとの原因はイスラエル側にあるという話になります。

イスラエルの立場を支持してパレスチナ自治政府のユネスコ加盟に反対したアメリカは、ユネスコ分担金の支払いを停止しています。

もっとも、数で決まる国際機関の場においては、イスラエル・アメリカは多勢に無勢という形になりつつあります。(2011年11月1日ブログ“パレスチナ ユネスコに正式加盟 アメリカは反発するも外交的には孤立”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111101

****パレスチナUNESCO加盟が持つ意味****
(2011年)九月、国連加盟申請を行って、国連総会会場のやんやの喝采(イスラエルと米国は除くが)を浴びたパレスチナ自治政府のアッバース議長だが、米国の拒否権など国連正式加盟には障害が大きいことを承知しつつ、着々と周りを固めている。

その皮切りが、UNESCOへの正式加盟決定だ。10月始めにUNESCO執行委員会がパレスチナ正式加盟を勧告、10月31日に賛成107、反対14、棄権52で採択された。
 
パレスチナ自治政府の狙いは、西岸にあるイエス・キリストの生誕地などをパレスチナの名のもとに世界遺産に登録して、土地と施設への主権を明らかにすることにある。

と同時に、国連本体への加盟が難しいとなれば、よりハードルの低い周辺機関への加盟を取り付けて国際社会での承認を既成事実化したいところ。

パレスチナがUNESCOへの正式加盟を最初に求めたのは1989年だったが、当時は勧告すらしてもらえなかった。これまで棄権してきたフランスが賛成に回り、反対が確実な米国を脇目に英国が棄権に留まるなど、今やパレスチナ容認派の形勢が従来より強いことは確かだ。
 
これに対して、米国はUNESCOへの供出金を停止し、圧力をかけている。資金難に悩む国際機関としては打撃だが、中国やBRICSはパレスチナ支持だ。

ただでさえ唯一の超大国としての米国の影響力の低下が指摘されるなかで、米国が支援を引いても新興国が国際機関を支えていける、ということになると、米国にとってはあまりよろしくないのではないか。

次に加盟承認するのはWHOあたりかとも囁かれているが、下部機関であっても次々にパレスチナ加盟を認めていけば、少なくとも対国連協調を打ち出してきたオバマ政権は、それらを全て敵にまわすわけにもいかない。また、国際刑事裁判所がパレスチナ加盟を承認すれば、そこでのイスラエル非難の動きは激しくなるだろう。
 
パレスチナが国際機関の周辺から堀を埋めようとしているのに対して、イスラエルや米政権は判で押したように「本来の中東和平交渉を損ねる」と批判している。

だが、そもそも和平交渉がまともに実行されていればこんなことにはならなかったはずだ。米、ロシア、EU、国連という、和平を主導すべきカルテットが、これまで何か実りあることを実現できただろうか? パレスチナ側にしてみれば、「交渉に戻れ」といわれても交渉に戻れないほどダメにしてきたのは誰だ、といいたいところだろう。
 
そんななかで、イスラエルのパレスチナへの「報復」はわかりやすい。世界遺産化で守ろうとしているパレスチナの地に、どんどん入植を進める。ガザを空爆してパレスチナ側の反撃を誘発、パレスチナの「暴力的」イメージを国際社会に呼び覚ます。

同時に、アッバース議長率いるファタハと対立するハマースに、囚人の交換釈放を持ちかける。国際社会のパレスチナ支持など意に介さず、まず第一に考えることは、イスラエル国内での人気確保だ。
 
イスラエルにせよ米国にせよ、国内の選挙第一、外交は二の次、という国しか主導権を発揮していない和平交渉のありかた自体が、問題なのである。【2011年11月05日 酒井啓子氏 Newsweek】
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なお、アメリカが分担金支払いを停止したのは、1990年代に制定された法律により、国際的に独立が承認されていない団体について正式加盟を認める国連機関への分担金拠出が禁じられているという法律上の背景があります。

【「南京大虐殺」文書の記憶遺産登録に抗議して日本政府は分担金支払いを留保
ユネスコに関しては、中国主導で「南京大虐殺」文書が記憶遺産に登録されたこと、韓国主導で中国、オランダなどの団体も共同で旧日本軍の従軍慰安婦問題の関連資料の記憶遺産登録が6月に申請されていることなど、日本側からすれば“政治利用”が問題視されています。

****日本政府はおとなしすぎた。このあたりで・・・」 ユネスコ分担金保留で「南京文書」記憶遺産に無言の圧力****
日本政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対する分担金拠出を留保しているのは、日中間に見解の相違がある「南京大虐殺」の文書を一方的に「世界の記憶(記憶遺産)」に登録したことへの無言の抗議といえる。また、日本政府が求める登録制度の是正に向けて圧力をかける狙いもある。
 
「私どもが全く知らない中で、さまざまなことが決められていった」
菅義偉官房長官は14日の記者会見で、ユネスコで昨年、「南京大虐殺」文書がずさんな審査を経て登録された経緯に言及し、強い不快感を示した。
  
記憶遺産をめぐっては、政府・与党内に「登録手続きの透明性や客観性、中立性が確保されていない」との批判が根強く、日本政府はユネスコに対して制度改善を求めている。13日の自民党部会でも、出席議員から「制度改善が進む兆しがなければ、分担金の支払いを停止すべきだ」など、より踏み込んだ措置を取るよう訴える声が上がった。
 
ユネスコには今年、日中韓などの民間団体が慰安婦問題の関連資料の登録を申請しており、年明けに審査が始まる。日本政府は審査過程で関係国に意見を聞くことなど制度改善を求めているが、受け入れられるかは不透明だ。政府関係者は「登録を回避するため、あらゆる手を尽くす」と強調する。
 
外務省によると、ユネスコ分担金の支払いは加盟国に義務付けられている。日本の分担比率は9・6%に上る。ただ、22%を占める1位の米国がパレスチナの加盟に反発し、分担金の拠出を凍結しており、日本が実質的なトップとなっている。

別の政府関係者は「今まで日本はおとなしすぎたが、このあたりで意気込みを見せることも大切だ。10月まで分担金を払っていないことで一定のメッセージを発している」と指摘する。
 
だが、日米両国が分担金拠出を凍結、留保し続ければ、中国がその分を肩代わりし、ユネスコでの発言権を強める可能性がある。

松浦晃一郎・前ユネスコ事務局長は「プレッシャーをかけるならメンバー国の中国や韓国だ。日本は分担金を払って、言いたいことがあれば堂々と主張すべきだ」と指摘する。菅氏や岸田文雄外相が、分担金を支払う時期について「総合的に判断する」と述べるにとどめているのには、そうした事情がありそうだ。
 
ただ、「南京大虐殺」文書の記憶遺産登録を許してしまった外務省幹部は、中国や韓国に日本人の尊厳もカネもむしり取られることに強い警戒感を示す。
 
「分担金を支払った上に慰安婦関連資料の登録も許すことだけは避けなければいけない」【10月14日 産経ニュース】
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例年5月ごろまでに支払っているユネスコの分担金38億円余りをまだ支払わず圧力をかけているということのようですが、そのくらいの金額なら中国が大喜びで肩代わりするのではないでしょうか。(制度的にそうしたことが許容されるのかどうかは知りませんが)

結果、カネも出さない日本の発言権はますます低下し、中国・韓国のペースで物事が進んでいく・・・といったことにならないよう願います。

また、もともと“数の力”が重視される国連などに批判的で、国連なしでも影響力を行使できるパワーを有するアメリカと、国連のような国際協調の場を外交の足場とする日本では、基本的戦略も異なります。

【「シベリア抑留資料」ではロシアが日本の“政治利用”を批判
記憶遺産に登録された「南京大虐殺」資料は、“旧日本軍が南京を占領した当時の様子を旧日本軍の兵士が撮影したという写真や、中国人女性がつづった日記のほか、戦後の、いわゆる東京裁判や蒋介石率いる国民党政府が旧日本軍関係者を裁いた南京軍事法廷に関する資料などが含まれています。この南京軍事法廷に関する資料は、犠牲者の数について30万人以上だと記しています。”【2015年10月22日 NHK】

「南京大虐殺」に関しては犠牲者数など多くの問題で日中間の見解の相違がありますが、そうした問題について、一方的に自国の主張に沿った資料を登録することで、自国主張の正当化を図ろうとする“政治利用”だという批判になります。

もっとも、「南京大虐殺」資料と同時に登録が認められた、日本が申請した「シベリア抑留資料」については、ロシアが「日本によるユネスコの政治利用」として強く反発しています。

また、2015年7月に世界遺産に登録された明治日本の産業革命遺産をめぐっては、韓国政府が「朝鮮半島出身者が強制的に徴用された場所が含まれている」として登録に反対し、両国の外交問題に発展したことも記憶に新しいところです。

****シベリア抑留資料「記憶遺産」登録は「ユネスコ政治利用」 ロシア高官が非難****
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に日本が申請したシベリア抑留関連の資料が登録されたことを受け、ロシア政府のユネスコ委員会のグレゴリー・オルジョニキゼ書記は「中国が『南京大虐殺文書』で行ったようなユネスコの政治利用だ」などと日本側の対応を非難した。2015年10月14日、ロシア国営のRIAノーボスチ通信が伝えた。

オルジョニキゼ氏は、「政治問題を国連機関に持ち込むことには反対する」として、日本側に登録の申請を行わないように働きかけていたという。こういった戦争関連の書類を申請することは「パンドラの箱を開けること」で、「日本はその箱を開けてしまった」と述べた。

記憶遺産への登録が決まった南京事件については「中国人にとって悲劇だったことは理解する」としながらも、
「同様の出来事は多くの国々で起きており、二国間で解決されるべき」だとして中国側の対応にも否定的だ。【2015年10月15日  J-CASTニュース】
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いつも言うように、相手国には相手国の主張・立場があります。自国の“正義”を振りかざすだけでは問題は泥沼化します。

求められる制度改革と本来の趣旨の再確認
それはともかく、記憶遺産に関しては、“日本外務省によると、記憶遺産の現行の審査基準では、資料の保全や管理の必要性だけが検討対象で、歴史的に正しいかどうかは判断材料にはならない。”【2015年10月10日 日経】という“緩さ”があり、そのことが多くの“政治利用”にもつながるようです。

****政治問題化するユネスコ遺産****
出石 直 解説委員 / 名越 章浩 解説委員
(中略)
【審査制度にも問題】
(名越)記憶遺産の審査の仕組みにも問題があったと思います。
記憶遺産は、ユネスコが取り組んでいる「世界遺産」「無形文化遺産」とならぶ、「遺産事業」の1つです。
 
富士山や法隆寺など、建造物や自然などを対象に保護するのが世界遺産、和食や能楽など形のない文化を対象とするのが無形文化遺産。

これに対し、文書や、楽譜、絵画などの記録史料をデジタル化してアーカイブするのが「世界記憶遺産」です。
 
この3つは「3大遺産事業」とも呼ばれますが、記憶遺産の場合は、条約に基づいて締約国に保護の義務が課せられている世界遺産や無形文化遺産とは違って、ユネスコのひとつの事業に過ぎず、審査の手続きも厳格ではありません。

国際諮問委員会が申請書類を審査し、登録へのGOサインを出せば、ユネスコの事務局長が追認するだけです。
しかも諮問委員会のメンバーには記録保存の専門家はいても近現代史の専門家はいません。
公平な審査ができる体制になっていなかったわけです。(中略)  

【政治問題化するユネスコ遺産】
(名越) 審査が厳格でない記憶遺産が抱えてきた課題が、ここにきて一気に露呈した格好ですが、
出石さん、ユネスコの遺産事業をめぐっては、記憶遺産に限らず、このところ、政治問題化することが目立っていますね。
(中略)
こうした問題の背景には、ユネスコの世界遺産や記憶遺産などへの登録に向けた競争があります。

世界遺産の事業が始まった40年以上前は、いわば地味な存在でしたが、次第に注目が集まり、経済効果も大きくなって、登録競争が過熱していきました。

注目度が増せば増すほど、それを利用して、特定の国を批判したり、外交交渉を有利にしたりする道具にするケースも出てきました。

「政治間題になると、本来の文化的、学術的な議論は関係なくなり、相手が反対するからそれに対抗する。そのために、ユネスコ内でもロビー活動が不可欠となり、公平な審査を妨げるようになっている」と指摘する関係者もいます。

(出石) 制度改革に向けた動きはすでに始まっています。
ユネスコ代表部の佐藤大使は、現在、パリのユネスコ本部で行われている執行委員会で、審査のプロセスを加盟国に周知するなど透明性を確保するための制度改革が必要だと提言しました。

文化と政治、これはとても難しい問題です。
政治的対立を呼ぶ可能性があるものについては登録を控えるべきとの意見もあります。

ただこれでは、原爆ドームやアウシュビッツ収容所跡のような世界遺産は、今後は登録されなくなってしまいます。政治的な意味合いがあるかどうかではなく、政治的に悪用されないようにすることが重要だと思います。
 
具体的な例を2つ挙げます。
2013年に記憶遺産に登録された慶長遣欧使節関係資料は、日本とスペインとの共同申請でした。

江戸時代に日本と朝鮮との交流に貢献した朝鮮通信使を日本と韓国が共同で記憶遺産に申請しようという動きも進められています。
 
政治対立を煽るのではなく、相互理解や友好親善に資するのであれば、ユネスコ遺産の政治利用も許されるのではないでしょうか。

(名越)その通りだと思います。
そのためには、ユネスコ憲章の原点に立ち戻るべきではないでしょうか。
戦後、宣言されたユネスコ憲章の前文には、「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とあります。
 
政治的な対立をなくすためにも、心の中に平和のとりでを築く。そのためには、文化をはじめ、教育や科学が必要だという理念でユネスコは生まれたはずです。

その原点に立ち戻る必要があることを、来月3日からのユネスコ総会で、日本が先頭に立って、世界に呼びかけてほしいと思います。【2015年10月22日 NHK】
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現実問題としては難しいところです。

審査プロセスの透明性は必要ですが、ユネスコの国際諮問委員会等で対立する双方がやりあっても結論はでないでしょうから、登録に際しては、関係国から反対意見があったこと、ユネスコとして資料の正当性を認めた訳ではないことを明記することが最低限必要でしょう。
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