孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  米軍が都市部から撤退 今後の治安は?

2009-06-30 21:15:54 | 国際情勢

(6月21日 バグダッド メロン片手に“civil improvement projects”の進行状況をチェックする米兵
“civil improvement projects”というのはよくわかりませんが、市場・道路舗装・下水道などの改善を含むものだそうです。
7月以降は、こうした光景もなくなるのでしょう。
“flickr”より By larryzou@
http://www.flickr.com/photos/httpblogsinacomcnhomeofbeijingpeople/3655693771/)

【一つの節目】
今日6月30日、イラク駐留米軍の戦闘部隊が都市部からの撤退を完了させて都市周辺の基地に移り、今後は武装勢力の掃討作戦やパトロールなどはイラク側の軍・警察が責任を持つことになります。
ただ、一部の米軍部隊がイラク治安部隊の訓練などを目的に都市部に残るほか、イラク側の要請があった場合に治安活動に協力することになっています。

イラク駐留米軍のオディエルノ司令官が28日明らかにしたところによると、都市部からの撤退は8カ月間かけて徐々に行われ、「最後の部隊がここ数週間で引き揚げた」とのことで、都市部撤退は30日の期限を待たずに前倒しで完了したようです。【6月29日 毎日】
なお、アメリカ側は一部の前線基地での残留をイラク政府に打診したようですが、残留はイラクの主権拡大を国民にアピールしたいマリキ首相の政治的基盤を弱めると最終的に判断したとのことです。【6月29日 時事】

いずれにしても、11年末までの米軍完全撤退を盛り込んだイラン・アメリカの間の地位協定に基づく措置で、米軍は出口戦略の一つの節目を迎えたと言えます。
現在のイラク駐留米軍は約13万1000人。
撤退のスケジュールは以下のようになっています。

(1) 今年6月末までにイラクの都市部から戦闘部隊を撤収、郊外の基地に再配置
(2) 9月末までに1万2千人の戦闘部隊をイラクから撤収
(3) 10年8月末までにイラクでの戦闘任務を終了
(4) イラク治安部隊の訓練などにあたる残存部隊も含めて、11年末までにイラクから完全撤退
オバマ政権は、イラクから撤退する一方で、アルカイダとの戦いの「主戦場」と位置づけるアフガニスタンへ兵力をシフトしていく方針です。

多くのイラク国民は、この主権回復の節目を歓迎しています。
****「米兵いない。うれしくて」バグダッド市民、撤収祝う****
米軍がイラクの都市部からの撤収を完了したのを受け、バグダッド中心部のザウラ公園で29日夜、政府と市共催の祝賀行事が開かれた。多くの市民が、サッカーの応援などに使われる人気曲「勝利のバグダッド」に合わせて踊り、6年余にわたった「占領」からの解放を祝った。
06~07年ごろの激しい宗派対立でバグダッドの街は宗派ごとの住み分けが進んだが、最近の治安改善を受け、ザウラ公園は宗派を問わず市民らが集う場所となっている。
イスラム教シーア派の医師ムハンマド・アドナンさん(33)は「朝起きて、米兵がいないと思うと、うれしくてたまらない。テロで傷ついた患者がこれ以上、病院に運ばれてこないよう願っている」。スンニ派のアフマド・アブドゥルカドルさん(42)は「米軍のイラク占領が完全に終わってほしい。シーア派主導の政府には、スンニ派らとの国民融和に努めてほしい」と話した。【6月30日 朝日】
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【相次いだテロ事件】
もちろん、周知のように、米軍都市部撤退に併せて揺さぶりをかけるような大規模テロ事件が相次いでおきており、イラク軍・警察の治安維持能力については大きな懸念があります。

10日には、シーア派地域の南部ナーシリヤ近郊の市場で爆弾テロがあり、19人が死亡。
12日には、バグダッド西部のモスクで銃撃や爆弾攻撃があり、スンニ派最大会派「イラク合意戦線」代表のハリス・ウバイディ議員ら5人が死亡、12人が負傷。
20日には、イラク北部の産油拠点キルクーク南郊タザで、大量の爆弾を仕掛けたトラックがシーア派のモスク近くで爆発し、82人が死亡、200人以上が負傷。一度の爆弾テロによる死者としては、昨年3月、首都バグダッドで起きた、死者68人を出した爆弾テロを上回る最悪の事件となりました。
22日には、バグダッド西郊のスンニ派居住区のアブグレイブ、バグダッド郊外のシーア派地区サドル・シティ、ディヤラ州の州都バクバ、バグダッド北東部のシャアブ、バグダッドの商業施設が集まるカラダ地区、北部の都市モスルで爆弾攻撃・銃撃が相次ぎ、合計で31人が死亡、96人が負傷。攻撃対象は軍・警察・民間人など様々です。
24日には、バグダッドのシーア派地区サドル・シティの市場で、荷車に仕掛けられていた爆弾が爆発、少なくとも72人が死亡、127人が負傷。この地区の治安権限は20日、米軍からイラク側に移譲されたばかりでした。
25日にも、バグダッドのバスターミナルでの爆発で2人が死亡。

4月に急増したテロ事件は5月には一旦収まりを見せ、5月の民間人の死者数は、2003年のイラク戦争開始以降最少の134人でした。
バグダッドやイラク北部で爆弾攻撃が相次いだ4月の290人からすると半分以下の数字です。
6月末の都市部からの米軍撤退をにらんでテロが増加するのでは・・・という懸念が6月当初ありましたが、こうした5月の実績を踏まえて、ボラニ内相は「テロリストの攻撃は限られており、治安部隊で対応できる」と述べていました。【6月1日 ロイター】
しかし、結果は上記のとおりで、6月は宗派対立の再燃を狙ったとみられるテロが相次ぎました。
20日以降の1週間だけで約200人が犠牲になっています。
市民の間では、イラク治安部隊の能力への懸念も聞かれるそうで、巻き込まれることを恐れ「外出を控えよう」と話し合う住民もいるとか。【6月28日 毎日】

【望まれるマリキ首相の政治手腕】
オバマ大統領は、こうした一連のテロについては“一時的なもの”と表明しています。
これまでも“節目”にはテロ活動が増加しており、恐らくオバマ大統領の言うように“一時的なもの”なのでしょう。
流れとしては、イラク全体で治安改善の方向にありますので、何よりも平和で穏やかな暮らしを手にした大多数のイラク国民が、その平和の大切さを実感していることかと思います。
そうした中で、テロ活動を行うアルカイダ等の活動は多くの支持・協力を得ることは困難で、テロは散発的なものとなるでしょう。また、テロがあったからといって、すぐに宗派対立再燃・武力衝突ということにはならないかと思います。

ただ、そのあたりはマリキ首相の今後の政治次第という面もあります。
最近“自信を深めた”マリキ首相は、強引な政治手法も目立つようになっているとの批判もあります。
宗派間の対立、クルド問題などでバランスがとれた政治運営を期待したいものです。
“マリキ首相は27日、「我々は今や、治安を維持できるようになった」と強調したが、同時に武装勢力に対抗するには国内の統一も必要だと発言。宗派間や民族間の対立による紛争の再燃を避けるよう国民に呼びかけた。”【6月28日 毎日】
まさに、そのように願います。


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