孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ラッカ奪還作戦の一方で、強まるシリア政府軍の攻勢 IS後の主導権獲得へ

2017-06-30 22:27:59 | 中東情勢
2017年6月28日現在の勢力図


2017年5月末の勢力図

【6月28日 青山弘之氏 Newsweek「米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者」に」】

ラッカ奪還は時間の問題 増大する民間人犠牲者
「イスラム国(IS)」が“首都”とするシリア・ラッカについては、アメリカなど有志連合が支援するクルド人勢力を主体とする部隊が完全に包囲して補給路も絶ち、奪還は時間の問題ともなっています。

ラッカ市内に残るIS戦闘員は3000人程度とみられていますが、10万人以上の民間人が取り残されているとも言われ、「人間の盾」として利用されることで犠牲者の増大も懸念されています。

****ラッカ奪還作戦、10万人の民間人身動き取れず 国連****
国連(UN)の人権高等弁務官は28日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が「首都」と位置付けるシリア北部ラッカ(Raqa)で10万人もの民間人が身動きの取れない状況になっているとして警鐘を鳴らした。同市内では米軍支援部隊がIS掃討作戦を進めている。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の調査によると、ラッカ市内での空爆および地上攻撃により、6月1日以降に少なくとも173人の民間人が死亡。しかし、この数字は控えめな見積もりで、実際の犠牲者の数はもっと多い可能性があるという。
 
OHCHRは声明で、ラッカでは「空爆や地上からの攻撃が激化し、最大で10万人の民間人が身動きの取れない状況にある」と説明。ISが避難を阻止しているとみられ、民間人が避難しようとしても、地雷や銃撃で死亡する危険があると述べている。
 
ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は声明で、「ラッカではこの3週間、爆撃が激化し、ISIL(ISの別称)の残虐行為とそれを打破しようとする激烈な戦闘のはざまで住民は恐怖に震え、避難先を求めて混乱のさなかにあると伝えられている」と報告した上で、同市内でIS掃討作戦に参加している国際部隊を含めたすべての勢力に対し、作戦の見直しと、「民間人の犠牲を避けるためにあらゆる適切な予防措置を講じるとともに、国際法を徹底的に順守」するよう求めている。
 
クルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」は数か月にわたってラッカ包囲作戦を進めてきた後、6月6日に同市内に進攻し、これまでに4分の1を制圧している。【6月29日 AFP】
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アメリカなど有志連合による空爆も激しさを増しており、“シリア人権監視団によりますと、今月23日までの1か月間で空爆に巻き込まれて死亡した人は470人余りと、3年前に統計を取り始めて以来、最も多くなったということで、ISへの攻勢が強まるなか、犠牲となる市民がさらに増えることが懸念されています。”【6月28日 NHK】とも。

民間人犠牲を減らすために空爆を緩めると、今度はISの抵抗でクルド人などの攻撃部隊の犠牲が増大する・・・ということでしょう。

“戦争なので犠牲者もやむを得ない”と言えばそれまでですが、すでに包囲も完成していますので、時間をかけながら、なるべく犠牲者が少なく済む作戦でことを進めてもらいたいところです。

攻勢を強めるシリア政府軍 ラッカ奪還後のIS掃討の主導権を
“時間の問題”となっているIS崩壊後のシリア情勢については、6月20日ブログ「シリア ラッカ奪還で本格化するポストISの“グレート・ゲーム”最後の勝利者は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170620でアメリカ、ロシア、イラン、トルコなど関係国の動向などを含めて取り上げたところです。

ここのところの傾向としては、アメリカ支援のクルド人勢力によるラッカ奪還作戦が本格化するなかで、ロシア・イランの支援を受けるアサド政権政府軍が支配領域を拡大する動きが顕著に見られます。

冒頭に示した5月末と6月28日時点の勢力図を見比べると、ほんのひと月ほどで赤紫色の政府軍支配エリアが大きく拡大していることがわかります。

シリア軍と「外国人シーア派民兵」(イラン革命防衛隊が支援するイラク人からなるヌジャバー運動、アフガニスタン人(ハザラ人)からなるファーティミーユーン旅団、そしてレバノンのヒズブッラーの武装部隊など)は、IS及びアメリカが支援する反政府勢力を掃討して南東部イラク国境方面に侵攻しました。

これに対し、タンフ国境通行所付近を拠点とするアメリカは、“「自衛権」を発動するとして、6月6日にシリア軍と「外国人シーア派民兵」の車列や拠点を空爆、8日と20日にも「外国人シーア派民兵」が使用する無人航空機を撃墜し、同地に接近しないよう警告”【6月28日 青山弘之氏 Newsweek「米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者」に」】しました。

しかし、シリア政府軍等はイラク国境に到達し、更にユーフラテス川流域に向けて進軍しています。

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シリア軍と「外国人シーア派民兵」は10日、タンフ国境通行所を迂回して国境に到達(中略)。

また18日には、イラン革命防衛隊の支援を受けるイラクの人民動員(ハシュド・シャアビー)隊がイラク軍とともに国境に到達し、シリア軍と「外国人シーア派民兵」と対面、両国を結ぶ街道が再開した。

さらに、シリア軍と「外国人シーア派民兵」は、国境沿いをユーフラテス川流域に向けて進軍、戦略的要衝T2(第2石油輸送ステーション)から12キロの地点にまで到達した。”【同上】
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更に、政府軍はロシア・ヒズボラの支援で北部のIS拠点・マスカナ市を攻略、中部でもスフナ市に迫っています。

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シリア民主軍と有志連合がラッカ市解放に向けて戦力を集中させるなか、シリア軍は、ロシア軍とヒズブッラーの精鋭部隊の支援を受け、ユーフラテス川西岸を南下し、6月4日にアレッポ県東部のイスラーム国最後の拠点マスカナ市を陥落させ、また8日にはラッカ県内に進軍し、イスラーム国の支配下にあった村・農場を次々と制圧していった。

同時に、タドムル市(ヒムス県)とダイル・ザウル市を結ぶ幹線道路に沿って東進し、スフナ市(ヒムス県)に迫った。【同上】
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この政府軍攻勢の過程で、6月18日には、ラッカ市南西部に位置する交通の要衝ラサーファ交差点一帯でISと戦う地上部隊を航空支援していたシリア軍戦闘機をアメリカ軍戦闘機が撃墜する“衝突”も起きています。

ラッカを追われたISは今後は東部ダイル・ザウル県のダイル・ザウル市、マヤーディーン市、ブーカマール市などを拠点とすると思われます。

シリア政府軍は、上記のような支配アリア拡大によって、南東部反政府勢力をタンフ国境通行所周辺に、また、シリアでの有志連合の戦いを地上で支え得る唯一の「協力部隊」であるクルド人勢力をラッカ周辺にくぎ付けにする形で、東部ダイル・ザウル県に点在するIS拠点への最終決戦の主導権を握る態勢を固めつつあります。

ラッカ攻略後のクルド人勢力の関心は、東部に拠点を移したIS追撃よりは、クルド人勢力を敵視するトルコにどのように対処するか、できればトルコが反政府勢力を支援して押さえているエリアを奪って、飛び地状態にある北西部アフリーン市と支配エリアをつなぎたい、最終的にはクルド人自治地域を確立したい・・・・というところに向くのではないでしょうか。

そうしたこともあって、おそらく東部ダイル・ザウル県周辺のIS支配エリア(灰色部分)は、今後、政府軍支配エリア(赤紫色)に変わっていくことが予想されます。

南部でも政府軍と反政府勢力の戦闘が続く
緑色の反政府勢力が残っているのは、上記でも触れた南東部の米軍が支援するタンフ国境通行所周辺、北部のアレッポから撤退した反政府勢力が移動したイドリブ周辺と、もう一つが南部のイスラエル・ヨルダン国境に近いエリアです。

その南部でも政府軍の攻勢が続いています。その衝突はゴラン高原を占領するイスラエルをも巻き込んだ形になっています。

****シリア南西部での戦い(クネイトラとダラア****
シリアのクネイトラ方面で政府軍と同盟の民兵が反政府軍と激しい戦闘を続けていて、その飛来弾がイスラエル占領地に落下し、イスラエルが確か4回にわたって、政府軍陣地を砲撃したことは何度か報告しましたが、どうやら反政府軍と政府軍、革命防衛隊、ヒズボッラーの戦いは、このクネイトラと、それに近いダラアで激しく続いているようで、アラビア語メディアは、双方の戦場で、政府軍側は大きな損失を被ったと報じています。

(反政府軍の損失は不明ですが、航空優勢で・・というか独占し…大火力を有する政府軍との戦いで当然反政府軍も大きな損失をこうむっているかと想像します)(後略)【6月30日 「中東の窓」】
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この南部地域で政府軍と戦っている反政府勢力は、アルカイダ系旧ヌスラ戦線のようです。

イスラエル軍はイスラエル領内に撃ち込まれた発射体について、シリア内戦で発射された砲弾が誤ってイスラエル側に飛来したとの見方を示しており【6月25日 ロイターより】、報復の砲撃・空爆は行っていますが、それ以上の関与を拡大する意図もないようです。

米軍はIS後のシリアには深入りせず
ラッカ奪還後のシリア勢力図がどうなるかは、アメリカの意向にも大きく左右されますが、米軍幹部からは、ISさえ潰せれば、あとはアサド政権支配となってもかまわない旨の発言も出ているようです。

****シリア東部はアサドとイランのものにすればいい・・・・米中央軍****
<有志連合を率いる米中央軍から重大発表。ISISさえやっつければ土地はアサドのもの。米軍は速やかに撤退する──戦後復興はまたしないらしい>

ISIS(自称イスラム国)掃討作戦を進める有志連合の米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐は先週、アメリカのシリア政策に関する重大発表を行った。

彼はイラクとの国境に面したシリア東部の町アブカマル(冒頭地図では“ブーカマール”と表記されているイラク国境沿いの町)に言及し、次のように語った。

アブカマルでISISと戦う意欲と能力がバシャル・アサド大統領とシリア政府軍にあるのなら、歓迎する。有志連合の目的は土地を争奪することではない。

我々の使命はISISを撲滅することだ。もしアサド政権が我らと協調し、アブカマルやデリゾールなどの町でこの使命を果たしてくれるなら、我々が同じ地域に出ていく理由はなくなる。

この発言の重大性は見過ごせない。アサド政権とそれを支援するイランは、シリア東部のどこでも好きな土地を取ってよい、と言っているのだから。(中略)

米中央軍にとっては、ラッカでISISを掃討することがすべてなのだ。ISISが二度と復活しない環境を整えることは、たぶん他の誰かの仕事だと思っている。

軍司令部が本能的に自らの任務を限定したがるのは理解できる。だが米中央軍の司令官たちは、2003年のイラク戦争や2011年のリビア内戦の後、復興安定化計画を欠いたために起きた混乱をあまりによく知っている。

米中央軍は、2017年のシリアは当時のイラクやリビアとは違うと考えているようだ。米軍は対ISIS掃討作戦の地上戦の「パートナー」であるクルド人主体の反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援しているだけなので、内戦後のシリアを統治する責任はSDFにあるという考え方だ。

もしイスラム教スンニ派が大半を占めるシリア東部を統治するのが、クルド人やアラブ人の外国人部隊には無理というなら、アサド政権やイランがまとめて支配すればよい、という考えなのかもしれない。

反政府勢力と協力し、シリア東部に持続可能な非アサド政権を作ってテロの再燃を防ぎ和平協議を取り持つのは、「我々の仕事ではない」と、米中央軍は言っている。(後略)【6月28日 Newsweek】
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この米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐の発言が、どこまでアメリカ・トランプ政権内でオーソライズされたものなのかは知りませんが、もともとシリアに深入りしたくないトランプ大統領の本音に近いもののようにも思えます。

シリア政府軍の攻勢と、アメリカの上記のような考えからすれば、現在のIS支配地域(灰色)は早晩政府軍支配に変わるでしょうし、緑色の反政府勢力支配地域もやがては赤紫色に・・・と思われます。

クルド人勢力とトルコの対立をアメリカがどのように調整するつもりかはわかりません。
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