孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  大統領罷免の国民投票を越年し体制延命を画策 マドゥロ政権から距離を置く国際社会

2016-09-22 21:43:35 | ラテンアメリカ

(【9月2日 AFP】)

【「二度と帰ってこれると思うな」との脅迫のもとで、抗議に集結した大群衆
南米・ベネズエラでは反米左派のチャベス路線を継承するマドゥロ大統領のもとで深刻な経済危機が進行しており、食糧・日用品品がスーパーから消えるというモノ不足とインフレーションで市民生活は崩壊の危機に瀕していること、また、野党勢力がマドゥロ大統領の罷免を求める運動を行っているものの、政権側は時間稼ぎで体制延命を狙っていることなどは、これまでも取り上げてきました。
(7月26日ブログ“ベネズエラ  食料配給制度の歪み 迫るデフォルトの危機”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160726など)

9月1日にも、大規模な抗議デモがおこなわれました。

****大統領の退陣求め大規模デモ ベネズエラ、深刻な物不足****
南米ベネズエラの首都カラカスで1日、反米左派のマドゥロ政権の退陣を求める大規模なデモがあった。同国は経済政策の失敗による深刻な物不足や治安悪化に直面している。

参加者は国民投票でマドゥロ大統領の罷免(ひめん)の是非を問うよう求めた。前任の故チャベス前大統領の政権期を通じても最大規模の反政府デモとされ、野党連合の民主統一会議(MUD)は「100万人が集まった」としている。
 
同国では2013年のチャベス氏の死去後、マドゥロ氏が政権を継いだが、無理な価格統制や主要輸出品である原油の価格下落で経済が急速に悪化。商店の前には日常的に行列ができ、病院には薬品がない状態が続いている。昨年12月の総選挙では、野党連合が与党に圧勝。マドゥロ氏は議会と対立を続けてきた。
 
1日のデモでは、国旗を掲げた市民が通りを埋め尽くし、「政府は倒れる」「変革を」と書かれたプラカードを掲げた。報道によると、一部で警察との衝突もあったが、大きな混乱はなかった。国内の他の都市でもデモが行われた。
 
憲法の規定で、国民投票が来年1月10日以降になった場合、マドゥロ氏が罷免されても副大統領が政権を継承する。野党勢力は年内の実施を強く求めるが、マドゥロ氏は「年内の国民投票はない」としている。
 
カラカスの別の場所では1日、大統領支持派のデモもあった。駆けつけたマドゥロ氏は「反政府派のデモは3万5千人を超えない。クーデターの企ては制圧された」と語った。【9月3日 朝日】
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「反政府派のデモは3万5千人を超えない」(マドゥロ大統領)とのことですが、広い通りを人々が埋め尽くす写真を見る限りそんなものではなさそうです。

100万人かどうかはともかく、この大群衆は決して“気楽な抗議”で集まった訳ではなく、「木曜にデモに行くつもりの人は二度と帰ってこれると思うな」と脅迫する政権側の厳しい弾圧のもとで集結した人々です。

また、従来チャベス流の政治を支持してきた人々の間でも政権批判が高まっていることを窺わせるものでした。

****神父からインディオスまで ベネズエラ9.1大規模デモの参加者たち****
・・・・Toma de Caracas(カラカス奪取)のスローガンの元に、多くの人が地方からもカラカスに集まりました。

特に、話題になったのが、レニン・バスティダス神父のカラカス巡礼。
この若い神父はベネズエラの危機的状況を憂い人々に呼びかけ、政府に抗議するためアンソアテギ州のエルティグレからカラカスへ徒歩で巡礼を行いました。熱心なカトリック信者の多いベネズエラでは、神父の巡礼は大きな反響を呼びました。

当初、神父は9月1日の野党派の抗議には反対を表明しており平和を求めると発言していましたが、最終的に、9月1日の平和的なデモに神父自身も参加しました。

そしてインディオスの人々の参加。
チャベス政権下ではインディオスの権利の尊重は常に重要なテーマでした。そのために憲法も変わりましたが、結局のところ憲法上の文面が変わっただけで、実際には経済悪化などの影響をもろに受け、何かと苦しい生活を強いられてきたのがインディオスの人々です。

以前は熱心にチャベスを支持した彼らがカラカスまで徒歩で出向きマドゥロに抗議する姿は、まさに時代の変化を象徴するものでした。

デモ直前の政治的指導者、政治活動家の逮捕
デモ当日が近づくにつれ、政府当局は突如、大胆な弾圧行為に出ます。野党政治家および野党支持者の逮捕、拘束です。(中略)

続いては、2007年の反政府派学生運動の中心的人物で、ここ数年スペインに亡命していたジョン・ゴイコチェアがSEBINにより逮捕(というより実質的な誘拐)されます。(中略)

このようにレオポルド・ロペス率いる「民衆の意志」党員に対する弾圧はエスカレートしており、これまでのチャベス主義政権にはないキューバのような独裁的やり方に、野党派側には動揺が広がりました。
 
締め出される外国メディア
さらに、今回のデモに合わせて海外から取材に来た取材陣が次々と入国を拒否されました。アルジャジーラのクルー、続いてコロンビアのラジオCaracol、アメリカのナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)、フランスの新聞ル・モンドの記者が「入国不適格者」とされ、追い返されたのです。(中略)

デモ参加者に対する脅し
9月1日を控え、防衛省は当日のドローンによる写真撮影を禁止、内務省は暴動鎮圧のための武器の使用許可を発表しました。

政府高官のディオスダド・カベジョはジョン・ゴイコチェアに対する告発に続き、野党メンバーがUCAB(カトリカ・アンドレス・ベジョ大学)に武器を隠し持ちクーデターを起こそうしていると非難、これに対して断固とした姿勢で対処するとの見解を示しました。

内務大臣ネストル・レベロルは「抗議は条件付きの権利であって、絶対的な権利ではない」と発言、カラカス首都区の市長ホルヘ・ロドリゲスは執拗に野党派がクーデターを企画していることを主張、首都区長ダニエル・アポンテは「混乱を起こす集団は治安部隊に鎮圧される」と発言、CLAP(食料配給制度)の代表フレディ・ベルナルは「木曜にデモに行くつもりの人は二度と帰ってこれると思うな」とデモ参加者を脅しました。

このように、ベネズエラ政府高官は「デモに参加する奴は有無を言わせず弾圧するぞ」というメッセージを発信していました。この挑発ともとれるメッセージを見るに、政府当局は反政府派との激しい衝突を望んでいるかのようでした。

急激に独裁色を強めた政府の動きから、ベネズエラ政府にとって9月1日の大規模な抗議運動がどれほど大きな脅威であるかは明らかで、9月1日当日は政府当局によるひどい弾圧が起きるだろうという懸念が高まっていました。(中略)

そんな中、多くのベネズエラ人が「今度のデモは今までとは違う」と肌で感じ、その今までとは違う空気に希望を見出していたのです。(中略)

当日の朝は、デモに参加するために多くの人がカラカスの外からも集まりました。そのため、当局はカラカスに入る道路が次々と封鎖し、抗議に向かう人々が軍などにより足止めをくらいました。それでも、最終的には多くの人が封鎖を乗り越え、徒歩でカラカス入りしました。(中略)

結果的に、これだけの規模のデモにも関わらず、懸念されていた暴力的な衝突や弾圧は見られませんでした。(中略)

ビジャロサでのカセロラソ
さらにデモ以上にベネズエラ中を驚かせ、マドゥロ政府を震撼させたのが、デモの翌日に起きたこの事件。マルガリータ島のビジャロサで、住民が鍋叩きの抗議でマドゥロを追い立て、罵倒を浴びせるビデオの流出です。ビジャロサは従来熱心なチャベス主義者の集まる地域として知られていました。(中略)

9月1日の抗議運動とは何だったのか
今回のデモで明らかになったのは、何よりも圧倒的な数のマドゥロに反対する人々の存在と、以前では考えられないほどに数の減った政府支持者のコントラストです。これはチャベスが政権を取って以来初めてのことでした。

このデモが大統領罷免に続くものであることは前回説明しました。これに加えて、9月1日のデモとビジャロサでの抗議で注目すべきは、ベネズエラ国民全体がマドゥロに退陣を迫る方向に動きつつあるという点です。

これまでの17年間、ベネズエラの政治は常にチャベス主義者(政府派)と野党派(反政府派)の根深い対立を中心に語られてきました。しかし、この与野党の対立という構図に変化が見られ始めています。今なお熱心にチャベスを信奉している人々も、マドゥロ政権に退陣を迫り抗議の声をあげています。

長年、野党派内ではチャベス主義者を自分たちの陣営に取り込まない限り政権奪取は不可能だと言われてきましたが、今回のデモでは、それがいまだかつてないほど現実的に感じられました。【9月16日 野田 香奈子氏 Newsweek】
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しかし、大統領罷免を求める国民投票が来年(1月10日以降)にずれこむと、仮に罷免が成立してしても、大統領が辞めて副大統領に代るだけで体制には変化は生じません。

政権側は、すでに不人気なマドゥロ大統領を見限り、越年の国民投票でガス抜きを行い、体制内の首のすげ替えですまそう・・・という考えと見られています。

大統領罷免については、憲法に規定された、あるいは根拠不明の、何重ものハードルが課せられています。

*****ベネズエラ9月1日大規模デモの意味するもの****
・・・・このデモは単に人が集まったということ以上に、政治的にはテクニカルな意味をもつかなり重要なデモでした。

 1. ベネズエラの憲法では、大統領の任期6年の後半期に罷免が可能である。ただし、任期4年を全うすると大統領が罷免されても新たな大統領選挙は行われず、副大統領が政権を継ぐ。

 2. ベネズエラの憲法では、大統領の罷免には、国民投票で賛成多数になるだけではなく、その賛成票が大統領に当選したときの得票数を上回る必要がある。

 3.  大統領罷免の国民投票の実施には、国民の20%が「罷免のための国民投票を求める」という意志を示した署名が必要である。

 4. ベネズエラの選管CNEはこの手続きを妨害するため、新たに「罷免を求める国民投票実施の手続きを始めるためには、各州の1%の署名が必要」という新たなルールを作った。

 ちなみに、CNEはこの時点で署名に必要な所定の用紙の準備をしぶっており、「署名用の用紙をくれ」というデモも起きていました。

 5. このルールを受け、野党派は当初の各州1%を大幅に超える数の署名を集めた。ところがCNEは、次は指紋認証による署名の本人確認が必要だと発表。

 そそもこのような手続きは憲法に記されておらず、すべてが罷免を遅らせるためのでっち上げだと言われています。

 6. この指紋認証の機械が人里離れた場所(ジャングルの中など)に設置される、カラカスの中心部には設置されないなどの妨害行為もあったが、野党はこの本人確認の難関もクリアした。

 7. これを受け、CNEはついに国民投票がどのように進むかの日程を発表した。ただし、この日程ではマドゥロの罷免は実現しても、政権交代に至らないことが明らかになった。
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こうした政権側の“国民投票潰し”“時間稼ぎ”に対し 9月1日のデモの直接的な目的は、上記2.の国民投票の実施を求める署名集めのゴーサインを選管CNEにすぐにでも出させることにあったとのことです。

“この20%の署名集めの段階で、野党が20%(390万票)を大幅に超える署名、つまりマドゥロが大統領が当選したときの得票数(750万票)を超える署名を集めることができれば、この署名集めは実質的な国民投票の意味を持つからです。こうなると、いくら独裁的な政権とはいえ、マドゥロ政府は政権を維持することはできないと見られています。【同上】”

選管「来年1〜3月期の中頃になる」 政治混乱に拍車
こうした国民の国民投票を求める動きにもかかわらず、政権側は予想されたように年内実施を拒否する方針を示しています。

****国民投票、年内に実施せず=民主的な政権交代困難に―ベネズエラ****
ベネズエラの投票管理当局は21日、マドゥロ大統領の罷免を問う国民投票について、手続きが順調に進んでも実施は「来年1〜3月期の中頃になる」との見通しを示した。野党が求める年内実施は実現せず、民主的な政権交代は困難な情勢となった。
 
投票手続きを急ぐよう求め、デモを繰り返してきた野党の反発は必至。政治混乱に拍車が掛かる可能性もある。【9月22日 時事】
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予想された対応ではありますが、極めて遺憾な流れです。
国民は、政権側のこのような姑息な首のすげ替えだけの体制延命を受け入れなければならないのか・・・・。

そうした延命策に反発した、より過激な抗議行動の可能性もあります。
ただ、政権側は流血も厭わない徹底した弾圧で応じるでしょう。政権の意を受ける民兵組織もあると聞いています。

政治混乱が拡大した場合、軍の動向がカギとなりますが、軍は大半が故チャベス氏に忠実な人物で占められているようです。ただ、軍出身ではないマドゥロ大統領にどこまで忠誠を尽くすか・・・。

距離を置き始めた身内南米、非同盟諸国、そして頼みの中国も
なお、国際社会のマドゥロ大統領への対応も厳しさを増しています。
身内の南米でも孤立化が進んでいます。

****メルコスル加盟国がベネズエラに最終通告、要件順守を要求**** 
南米南部共同市場(メルコスル)の創設国は、ベネズエラが12月1日までに加盟要件を満たさなかった場合、同国の加盟を停止する。ブラジル外務省が13日、明らかにした。

ブラジル外務省は声明で、この決定は、「メルコスルの保全と強化」を目指したものだと述べた。

この最終通告により、ベネズエラはさらに孤立する恐れがある。

ベネズエラは、メルコスルの持ち回り議長国をめぐる争いの中心。議長は半年ごとの持ち回りで、7月からはベネズエラの予定だったが、ウルグアイ以外の全ての加盟国は6月、共同の経済同意や人権保護に関する責務を果たしていないとして、ベネズエラの議長国就任を阻止した。(中略)【9月14日 ロイター】
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17日の非同盟諸国会議も閑散としたものになったようです。各国がベネズエラと距離を置くようになっています。

****首脳の出席わずか、非同盟会議 ベネズエラ政権と距離****
ベネズエラ北部沖合のマルガリタ島で17日、非同盟諸国会議の第17回首脳会議が開幕した。現地からの報道によると、首脳級の出席は約15人にとどまっており、反米左翼マドゥロ大統領罷免のための国民投票を巡って政治的緊張が高まる中、各国がベネズエラの政権と距離を置く姿勢を示したとみられる。

ロイター通信によると、前回2012年のイランでの首脳会議には首脳級約35人が出席しており、今回、国際的な認知をアピールしようとしたマドゥロ政権の思惑は外れた形だ。(後略)【9月18日 共同】
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更に、資金繰りに苦しむベネズエラにとってデフォルトを避けるうえで頼みの綱ともなっている中国も、距離を置き始めたようです。

****中国、肩入れしてきたベネズエラとの関係再考か***
社会・経済情勢や治安面の悪化が背景

中国は過去10年、ベネズエラと戦略的同盟関係を築くことに多くを費やしてきた。世界最大の石油埋蔵量を持つと言われているベネズエラは、毛沢東を称賛していた社会主義者の故ウゴ・チャベス前大統領が率いていた国だ。チャベス氏は中南米に対する米国の影響力に対抗するのが望みだった。
 
中国はベネズエラに対し、約600億ドル(約6兆円)を融資している。だがここ最近は未払いの請求書が積み重なっているうえ、ベネズエラ国内の中国人や中国企業に安全面で頭の痛い問題が増えていることもあり、関係を見直しつつあるように見える。
 
その結果、ベネズエラは中国からの大きな新規投融資を得られない可能性が出てきた。そうなれば、ベネズエラは1100億ドルを超える国債や国営石油企業の社債がデフォルト(債務不履行)に陥る公算が強まる。(中略)

関係者によると、中国からの融資額600億ドルのうち約200億ドルが未返済であり、中国当局はベネズエラ国内の腐敗や開発基金の不正流用を懸念している。

ベネズエラでは食料を巡る暴動や犯罪行為が横行するなど、社会情勢が急激に悪化しつつある。そうした中、中国は次期政権を担う可能性の高い野党から、ベネズエラへの融資が適切に扱われる保証を要求している。(後略)【9月12日 WSJ】
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すでに中国企業は安全面を考慮して従業員をコロンビアやパナマに移動させているとも、また、野党議員が北京に招かれ意見交換を行っているとも。

中国としても先の見えたマドゥロ政権に資金をつぎ込むいわれはないでしょう。中国に見限られるとベネズエラはデフォルトの危機が現実のものになります。

そのとき国内が更に混乱し、どうなるのか・・・?
コメント
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