孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  イラン・サウジアラビアの宗派間代理戦争の様相 対岸ジブチには自衛隊拠点

2015-03-27 23:05:21 | 中東情勢

“安倍政権は現在、海外派遣を個別の時限立法でなく恒久法で行うことを目指している。ジブチの海賊対処拠点は、それを先取りするかのように事実上の「期限なき海外派遣拠点」となっている。”【2月25日 毎日】

イランの支援を受け、南部へ攻勢をかけるザイド派武装勢力フーシ
中東アラビア半島の先端に位置するイエメンにおいて、実権を掌握しつつある反政府勢力フーシ(イスラム教シーア派の一派であるザイド派)、これを支援するシーア派の地域大国イラン、イランと核開発問題で交渉しながらシリア・イラクにおける対IS関与を一定に黙認しているアメリカ、イランのイエメン、シリア・イラクでの影響力拡大を警戒するスンニ派地域大国のサウジアラビア・・・といった関係については、3月3日ブログ「イエメン・イラクで影響を強めるイラン 核開発問題交渉ではサウジアラビアなどの反発も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150303)でも取り上げました。

イエメンでは「アラブの春」の一連の動きのなかで、2011年サレハ前大統領が退陣し、ハディ副大統領が2012年2月の暫定大統領選挙で当選し、大統領に就任しました。

しかし、その後も混乱はおさまらず、当初新体制作りに参加したザイド派武装勢力がハディ大統領と対立し、武力闘争を再開。ザイド派武装勢力はシーア派国家イランの支援を受けているとされています。

1月下旬に北部を基盤とするザイド派武装勢力フーシが首都サヌアを制圧し、ハディ大統領(スンニ派)を軟禁状態におき、2月6日にはクーデターを宣言して支配体制の構築を進めています。

軟禁状態で一旦は辞意を表明したハディ大統領ですが、首都サヌアを脱出し、出身地の南部アデンで2月21日に辞意を撤回する意向を表明・・・・といったところが、前回ブログの頃までの話です。

周知のように、事態はその後急展開しています。

3月19日、イエメン南部アデンで所属不明の戦闘機がハディ大統領の大統領宮殿を狙った攻撃を行いました。
おそらくザイド派に加わった空軍ではないでしょうか。

****モスクで自爆テロ、142人死亡=「イスラム国」犯行認める―イエメン****
イエメンの首都サヌアで20日、モスク(イスラム礼拝所)2カ所で自爆テロがあり、AFP通信によると、142人が死亡した。過激派組織「イスラム国」が犯行を認めた。

モスクではイスラム教シーア派系ザイド派の戦闘員が、イスラム教の金曜礼拝に参加していたもようだ。(後略)【3月21日 時事】
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もともとイエメンは、北部の反政府ザイド派、南部の分離独立派、そしてアルカイダ系イスラム過激派という三つの問題を抱えている国でしたが混乱に乗じる形で、従来からのアルカイダ系「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)に加えて、ISも勢力拡大を狙っていることも考えられます。

アルカイダ系武装勢力への掃討作戦を行ってきた米軍も、この混乱に巻き込まれるのを嫌い完全撤退しました。

****イエメンの米軍部隊ゼロに 特殊部隊含む100人撤退 対テロ無人機攻撃に影響も****
米国務省のラスキー報道部長は21日、連続自爆テロが発生したイエメンから米軍要員の撤退を完了させたと発表した。

AP通信によると、撤退したのはイエメン南部にあるアナド空軍基地に駐留していた特殊部隊を含む米軍部隊約100人。今後、現地の国際テロ組織アルカーイダ系武装勢力に対する無人機攻撃に影響が出るのは確実だ。(後略)【3月22日 産経】
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イランを除く国際社会は、南部アデンに逃れたハディ大統領を支持しています。
イエメン担当のベノマール国連事務総長特別顧問は、ザイド派(シーア派)とスンニ派の宗派対立や南北分断、イスラム過激派への懸念が急激に高まっていると指摘、事態の政治的決着を急がなければ「さらなる暴力的な衝突と(国家)崩壊に陥る」と強い危機感を示しています。

****安保理、イエメン大統領の正統性確認=国連総長顧問、「国家分裂」を警告****
国連安全保障理事会は22日、イエメン情勢で緊急会合を開き、1月に首都サヌアを制圧したイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力を非難し、ハディ大統領の正統性を支持する議長声明を全会一致で採択した。(後略)【3月23日 時事】 
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ベノマール国連事務総長特別顧問は、「内戦の瀬戸際に立っている」と危機感を表明しています。また、「イラクやリビア、シリアのようなシナリオを招きかねない」と警告し、すべての当事者に対し、戦闘行為を自制し対話により解決策を模索するよう求めています。

しかし、ザイド派武装勢力フーシは攻勢を強めています。

****イエメン民兵、南部要衝の空港を掌握 国民に動員呼び掛け****
イエメンのイスラム教シーア派の民兵組織「フーシ」は22日、同国南部の要衝タイズの空港を掌握した。(中略)

フーシの指導者アブドゥルマリク・フーシ氏はテレビ放映で「イエメンの偉大な国民」に対し、南部でISなどのイスラム過激派に対する戦闘に加わるよう呼び掛けるとともに、ハディ大統領を「米国に導かれた悪魔の勢力の操り人形」と批判。国連(UN)が仲介している、イエメンの各対立勢力による対話への参加拒否も辞さない構えを見せた。

イエメンでは、イランからの支援を受けているとされるフーシが支配する北部と、ハディ大統領の支持勢力が支配する南部との分断が深刻化している。フーシが空港を掌握したタイズは、アデンの北180キロ、同市とサヌアとの中間に位置し、ハディ大統領が逃れたアデンへの戦略的入口とされている。【3月23日 AFP】
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****大統領標的に空爆か=ザイド派が南部へ攻勢―イエメン****
イエメンからの報道によると、南部アデンにあるハディ大統領の滞在先の敷地一帯が25日、所属不明の軍用機による空爆を受けた。

2月上旬の事実上のクーデターで首都サヌアを奪取したイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力が、大統領を標的に攻撃を加えた可能性が高い。

大統領は空爆を前に安全な場所に避難したとされ、無事とみられる。空爆を受け、アデンの空港は操業停止を余儀なくされた。【3月25日 時事】
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なお、ザイド派フーシには、政権を追われたサレハ前大統領の勢力も加担していると見られています。

サウジアラビアが介入 湾岸諸国とともに空爆
イランからの支援を受けるザイド派フーシの攻勢に、スンニ派サウジアラビアがついに介入し、25日、湾岸諸国とともに空爆を実施しました。

サウジアラビアには、イエメン国境に近い南部にシーア派系の住民を抱えており、イエメンの混乱が国内に波及する恐れがあるという国内事情もあります。

これによりイエメンの混乱は、シーア派イランとスンニ派サウジアラビアの代理戦争の様相が明確になってきました。また、サウジアラビア側は広範なスンニ派諸国連合を形成しています。

****サウジ、イエメンに軍事介入=米が後方支援―湾岸5カ国「ハディ大統領守る****
サウジアラビアは26日、イスラム教シーア派系ザイド派武装勢力が攻勢を強めるイエメンに対し軍事介入を開始した。

アルジュベール駐米大使が米時間25日、在ワシントンの主要メディアに対し、サウジ軍が米東部時間同日午後7時(日本時間26日午前8時)に空爆を始めたと発表した。

AFP通信によると、イエメン軍筋は、ザイド派が掌握する基地、空港、首都サヌアの大統領府施設が空爆されたと語った。

ザイド派に対し劣勢のイエメンのハディ大統領は、サウジなどに軍事介入を要請していた。ザイド派の攻勢が続けば大統領が海外亡命を余儀なくされると関係国の危機感は強かった。

サウジ、カタール、クウェート、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)の湾岸5カ国は26日、共同で「ハディ大統領を守る」と宣言。エジプトは湾岸諸国の軍事作戦を後方支援する方針を示した。アルジュベール大使は「10カ国連合のメンバーとして空爆を行っている」と語った。

ザイド派は2月上旬、サヌアを掌握、事実上のクーデターで政権を奪った。背後でイランの暗躍も疑われ、米欧やアラブ諸国は容認していない。アルジュベール大使は「軍事作戦はイエメンの正統な(ハディ)政権を守るものだ」と主張した。

米国家安全保障会議(NSC)のミーハン報道官も米時間25日、声明を出し、サウジなどと緊密に事前調整を行っていたと述べた上で「軍事作戦への後方支援や情報提供を行う」と表明した。ただ、米軍は作戦に参加しない。ザイド派を強く非難し「軍事行動を即時停止し(政権側との)政治交渉に戻るよう促す」と要求した。

イエメンからの報道によると、ザイド派と協調する軍部隊は25日、サヌアを追われたハディ大統領が拠点とする南部アデンの空港を制圧。ザイド派寄りの空軍とみられる部隊も、アデンにある大統領の滞在先一帯に空爆を加えた。【3月25日 時事】
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“サウジ主導の連合軍にはアラブ首長国連邦(UAE)やヨルダンなどスンニ派主導の10カ国が参加。フーシ側は徹底抗戦の構えで、後ろ盾とみられるシーア派国家イランは同日、軍事介入を非難した。イエメン情勢は国内の権力闘争の枠を超え、周辺国を巻き込んだスンニ、シーア両派による宗派間抗争の様相を急速に深めている。”【3月26日 毎日】

‟衛星テレビ局アルアラビアによると、サウジは戦闘機100機、アラブ首長国連邦(UAE)は30機、クウェート、バーレーン、カタール、ヨルダン、モロッコ、スーダンは各3~10機を投入。エジプトとパキスタンも戦艦の配備など準備を進めている。サウジは同国南部やイエメン領空での民間機を含む飛行の禁止を宣言。地上部隊15万人も待機しているという。”【3月27日 朝日】

スンニ派諸国ないでは、エジプトのムスリム同胞団を巡って意見の対立がありますが、イランが影響力を強めるイエメンに関しては広範な合意が成立したようです。

****<サウジアラビア>スンニ派連合軍 新国王の根回し外交成果****
イエメンのイスラム教シーア派武装組織フーシに対する軍事作戦を始めたサウジアラビアに対し、サウジ王家と同じイスラム教スンニ派が支配的な国からは支持表明が相次いだ。

サルマン国王は今年1月の即位以来、スンニ派諸国の首脳と精力的に会談。シーア派国家イランやイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の脅威を挙げて、スンニ派の団結を訴える「根回し」の成果が出た格好だ。

「サウジアラビアの介入を支持する。状況の進展によっては、物資援助も検討する」。トルコのエルドアン大統領は26日、フランスのテレビ局とのインタビューで、サウジ支持を表明。さらにイランがフーシを後援しているとして「イランは(イエメンから)撤退しなければならない」と強い調子で非難した。トルコはイランと良好な外交関係を築いており、名指しでの批判は異例だ。

さらにサウジのようなスンニ派の君主制国家だけでなく、地域大国のエジプトやパキスタンも軍事作戦への協力を表明し、フーシに対する「スンニ派連合軍」が構築された。

各国の素早い反応の裏には、サウジの周到な準備がうかがえる。サルマン国王は即位後の2カ月間で、ペルシャ湾岸諸国やエジプト、トルコ、パキスタン、アフガニスタンなどの首脳とハイペースで会談を重ねてきた。その間、イエメンではフーシが権力奪取を進めており、各国から軍事介入への同意を得ていた可能性がある。

2011年の民主化要求運動「アラブの春」以降、スンニ派諸国には大きな溝が生じていた。各国で台頭するイスラム組織ムスリム同胞団について、「体制への脅威」とみなすサウジやアラブ首長国連邦(UAE)と、「新興のパートナー」とみるカタールやトルコの間で意見の隔たりが生まれたのだ。13年7月にエジプトの軍事クーデターで同胞団主体の政権が倒れると、対立が深刻化した。

この対立は今も尾を引いており、エルドアン大統領は3月2日にサルマン国王と会談した後、トルコ紙ヒュリエトに「対エジプト関係が唯一の不一致点だった」と意見の相違を認めた。しかしイエメン情勢を巡っては、「共通の脅威」であるシーア派の影響力拡大を前に対立が棚上げされた。【3月27日 毎日】
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サウジアラビアは空爆によってイエメン上空の制空権を掌握した模様で、15万人を国境周辺に準備しているとも言われる地上作戦については「現時点で計画はない」と表明しています。

また、南部アデンから脱出したハディ大統領は、サウジアラビアの首都リヤドを経由し、28日からのアラブ連盟首脳会議に出席するため、開催地のエジプト東部シャルムエルシェイクに向かうと報じられています。

イエメンではサウジアラビアを支持するアメリカとイランの微妙な関係
アメリカはイエメンにおけるサウジアラビアの行動を支持していますが、サウジアラビアが敵対するイランとの関係は微妙・複雑です。

イランとの核開発問題の交渉は大詰めの山場を迎えており、イランとの関係悪化は避けたいところです。

なお、アメリカが黙認するなかでイランが支援して展開されていたイラクの要衝ティクリート奪還作戦については、イランの支援を受けるシーア派民兵やイランの革命防衛隊は関与を停止し、代ってアメリカが主導する有志連合が空爆を開始したと発表されています。

****シーア派民兵、参加せず=イラク要衝奪還戦―米軍高官****
有志連合による過激派組織「イスラム国」掃討作戦を統括する米中央軍のオースティン司令官は26日、イラク北部の要衝ティクリート奪還作戦について、イランの支援を受けるイスラム教シーア派民兵やイランの革命防衛隊は関与を停止したと語った。上院軍事委員会で証言した。

司令官は、ティクリートでの有志連合の空爆に関し、イラク政府軍が奪還戦を主導することが実施の条件だったと表明。「(イラン革命防衛隊幹部は)もはや現地にいない」と述べ、シーア派民兵も現在、奪還戦に加わっていないと指摘した。

米国は同組織掃討に当たり、イランとの軍事面での連携を否定。ティクリートの住民の大半はイスラム教スンニ派で、奪還戦へのシーア派民兵の参加により、宗派間抗争が激化するとの懸念が高まっていた。【3月27日 時事】
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対岸ジブチで活動する自衛隊
イエメンの混乱は、国家崩壊によってイスラム過激派の温床となることや、地域の不安定化で原油価格が上昇すること、また海上輸送にも影響が出る可能性があるという点で、日本を含む世界全体に影響があります。

イエメン南西部とアフリカ大陸を隔てるバブルマンデブ海峡は海運の要衝で、日本から欧州やアフリカに輸出される工業製品の大半がここを通ります。【3月27日 朝日より】

そういう事情もあって、イエメン対岸のジブチには日本の自衛隊が設けたソマリア海賊対処拠点があります。イエメンが面するアデン湾も活動範囲です。

そのジブチの自衛隊は、他国との連携を深めていると報じられています。

****ジブチ自衛隊、他国と緊密 海賊対策拠点、広がる活動・訓練****
自衛隊がアフリカ東部・ジブチに設けた海賊対処拠点が、仏軍やイタリア軍など、米軍以外の国々とも軍事交流を深める「最前線」になっている。

5月には訓練以外で初めて、多国籍部隊の司令官に自衛官を送る。テロ事件での邦人救出や多国籍軍への支援強化といった海外任務の拡大を先取りするような動きもある。(中略)

自衛隊がジブチに拠点を置いて、ソマリア沖アデン湾での海賊対処に乗り出したのは2009年。以来、海自の護衛艦2隻と哨戒機2機が商船や客船を警護したり、不審船を監視したりしてきた。

当初は自衛隊単独での活動だったが、第2次安倍政権下の13年からは米英を中心とする多国籍部隊「CTF151」(本部・バーレーン)に参加。海域や時間帯を分担して、国際航路の警戒にあたる。(中略)

現地では新たな訓練にも取り組む。
北大西洋条約機構(NATO)軍との間では昨年9月、初の共同訓練をアデン湾で実施。自衛隊からは護衛艦と哨戒機が、NATO軍からはデンマーク海軍艦が参加し、通信や船舶への立ち入り検査の訓練をした。イタリア、独、トルコ、オランダの各国海軍ともその後、訓練を続けている。

10月には、仏軍の訓練に自衛官8人を参加させた。自然災害との前提ではあるが、仏国民を国外に脱出させるとの想定。担当者は「オブザーバーとして参加した」として多くを説明しなかったが、安全保障法制の論議で焦点になっている邦人救出に接した内容だ。

一方、CTFへの自衛官派遣には、多国間の作戦をまとめ上げるという従来の自衛隊になかったノウハウを得る狙いがあるという。

今月3日に計画の詳細を発表した防衛省幹部は「司令官は海賊対処に関する連絡調整が役割。各国の部隊がそれぞれの責任で行う活動を指揮する立場になく、集団的自衛権の行使ではない」と強調した。【2月6日 朝日】
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現在、国際紛争時に他国を後方支援するための自衛隊派遣の恒久法が議論されていますが、国連安保理が支持するハディ前大統領を支援するための軍事行動を行うスンニ派連合軍(アメリカも支持)の後方支援(燃料・弾薬輸送)にジブチから自衛隊も参加する・・・・というケースもカバーされるのでしょうか。
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