孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  ミズーリ州黒人少年射殺事件で長引く混乱 

2014-08-19 23:37:06 | アメリカ

(1963年8月28日、「ワシントン大行進」の一環として集まった25万人近い人々に「夢」を訴えるキング牧師 “flickr”より By Black History Album https://www.flickr.com/photos/blackheritage/5357899010/in/photolist-9asCH9-8D2La-fE4nZy-oqQULZ-71Y6BT-d9kyyu-jnUuxT-fDV7oq-bdKMtF-iJUXLx-5h2pdS-frHsbT-6rzz87-bpxfJr-aqv5MQ-xKP5e-4ncpuZ-fDomEq-fDPgGU-fDJr7o-5TGR9T-9x6GZP-rnNn5-5TBmJN-fE3Qzy-aVvvna-5TNAME-fv3JAX-5TsJNq-6PSkPY-4CK5Av-fAVJ6j-i3tFmN-614BG3-f3q4th-4mZ1ex-fDACV4-drTwJQ-agE1ia-5zYHoZ-6WZNxb-ngMCwc-6XSE4Y-fDwuwS-5TKydS-5VGfp4-73Tjwd-b7jbLM-fDw1FL-5TY6CA)

警察の調整不足や対応のまずさが事態の悪化を招く
アメリカ中西部ミズーリ州のセントルイス郊外ファーガソンで9日、武器を持っていなかった18歳の黒人の少年が白人警察官に射殺された事件に関して、人種的差別として反発するデモ隊と警官隊との衝突が続いています。

警察側は少年(後述の防犯カメラ映像で見ると、とても“少年”という感じではありませんが)が銃を奪おうとし、警官も負傷したと主張していますが、少年は無抵抗で両手を挙げていたとの目撃証言もあります。

14日から白人主体で重武装の郡警察を任務から外し、地元出身の黒人が指揮する州警察の高速道路パトロール隊を治安維持に投入したことで、抗議行動は一時沈静化したようにも見えました。

しかし15日、被害者少年がコンビニで葉巻を強盗している場面とされる防犯カメラ映像を警察が発表したことで、警察は問題をすり替えようとしている、射殺を正当化しようとしいる・・・・として再び抗議行動が再燃しました。

“防犯カメラの映像の公開について、連邦捜査当局は市民の反発を恐れ反対したが、地元警察が公開に踏み切った。”【8月17日 毎日】
当初、射殺した白人警官の氏名を警察が公表しなかったことも住民の批判を強めました。
“米メディアは、警察の調整不足や対応のまずさが事態の悪化を招いていると指摘している。”【同上】とも指摘されています。

【「過剰な力の行使は許されない」】
15日夜から16日未明にかけて店舗に対する略奪など暴力行為が再燃し、ミズーリ州のニクソン知事は16日、ファーガソンに非常事態を宣言、夜間外出禁止令を発令しました。
更に、ニクソン知事は州兵を動員することも公表しています。

****黒人青年射殺:ミズーリ州兵を投入…混乱拡大で知事命令*****
米中西部ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警官による黒人青年射殺事件で、抗議のデモ隊と警察は17日夜も衝突し、混乱が拡大した。

ニクソン州知事は18日未明、治安回復と住民保護のため、州兵を投入する行政命令に署名したと発表した。
知事は16日にファーガソンに非常事態を宣言し、午前0〜5時の夜間外出禁止令も発令していた。

知事は声明で、「平和的な抗議の夜が、組織的で、拡大する暴力的な犯罪行為により台無しになった」と非難。
暴徒たちの多くが地域や同州以外からのデモ参加者で、「ファーガソンの住民や商売を危険にさらしている」と指摘した。

州兵は、米軍の一員として国外の戦場に派遣されるほか、国内の大規模災害や暴動の際の治安維持に当たる。最近では1992年のロサンゼルス暴動や、2005年のハリケーン「カトリーナ」の際に出動した。
今回はデモ対応に当たっている州警察を支援する。

警察側の説明によると、17日夜、ショッピングセンターにある警察隊の指揮所に数百人のデモ集団が近づき、火炎瓶を投げた。別のハンバーガーショップもデモ集団に襲撃され、警官隊に向けた発砲もあった。

警察は催涙弾やゴム弾で対処し、デモ参加側の3人が負傷し、7〜8人が逮捕された。夜間外出禁止の開始時間の18日午前0時までには事態は沈静化したが、州兵投入へのデモ抗議参加者の反発が予想され、混乱がさらに拡大する可能性もある。

一方、米メディアによると、9日に白人警官に射殺されたマイケル・ブラウンさん(18)の遺体に関し、遺族の依頼を受けた専門家が17日、「少なくとも6発の銃撃を受け、うち2発は頭部を撃った」という内容の検視結果を明らかにした。【8月18日 毎日】
****************

「少なくとも6発の銃撃を受け、うち2発は頭部を撃った」という“射殺”の状況(いずれも正面から撃たれていたとのことです)が、更に住民側の警察批判を高めることも懸念されています。

オバマ大統領は、住民に冷静になることを呼びかけるとともに、州当局に対しては「過剰な力の行使は許されない」とクギを刺しています。(だったら、パレスチナ・ガザ地区へのイスラエルの攻撃も・・・という話は、横道にそれすぎるのでやめておきます。)

****黒人青年射殺:米大統領、強硬策にクギ 州兵投入巡り****
オバマ米大統領は18日、白人警官による黒人青年射殺事件で騒乱が続く中西部ミズーリ州ファーガソンに、ホルダー司法長官を20日に派遣すると発表した。射殺事件の捜査状況の把握などが目的。

現地からの報道によるとファーガソンには18日、ニクソン州知事が治安回復のため投入を命じた州兵が展開した。

オバマ大統領はファーガソンの状況について「集会、報道の自由は厳重に守られるべきだ。警察による過剰な力の行使は許されない」と発言し、当局による強硬策にクギを刺した。

警察側はデモ隊などに催涙弾やゴム弾を使用し負傷者が出ているほか、取材記者も複数拘束されている。

オバマ氏は州兵の治安出動についてニクソン州知事と話し、「限定的かつ適切」な範囲での運用を求めたと述べた。

ニクソン知事は18日の声明で州兵の役割は「警察の支援にとどめる」と説明。2日前に出した夜間外出禁止令を解除すると発表した。

9日に発生したマイケル・ブラウンさん(18)射殺事件は、司法省と連邦捜査局(FBI)も人種差別などの疑いで捜査中だ。ホルダー長官は18日、同省もブラウンさんの遺体の司法解剖を実施したことを明らかにした。

また、ホルダー長官は今回の事件に関し「機微な情報が選択的に流されている」と述べ強い懸念を示した。

ファーガソンでは地元警察幹部が、発砲した警官の氏名を数日間公表せず、ブラウンさんとされる男が事件前に強盗を働いている映像と合わせて発表したため、遺族らから情報操作の批判を受けた経緯がある。【8月19日 毎日】
******************

18日段階では、騒ぎは収束していません。
******************
18日夜も抗議デモは続き、一部の参加者と警察が衝突しました。

現場では、デモの参加者の一部が銃を発砲したり警察に向かって火炎瓶や石などを投げつけたのに対し、警察は催涙ガスなどを使って応戦し、一時、騒然となりました。

警察は記者会見で、衝突の中で男性2人が何者かに銃で撃たれてけがをしたと発表したほか、退去命令に従わなかったなどとして31人を逮捕したことを明らかにしました。【8月19日 NHK】
*****************

【「9・11後遺症」としての「警察の軍隊化」】
事件がこじれた背景に人種間の緊張があることは言うまでもないことです。
*****************
事件が起きた町ファーガソンは人口約2万1000人の63%が黒人だが、地元警察職員の9割以上が白人だ。

ロイター通信が伝えた2013年の州司法長官報告によると、黒人住民の逮捕率は白人の2倍。

黒人は差別されているという意識が強く、ノールズ町長は米メディアに「黒人住民、とりわけ若者は法執行機関を嫌い、自分たちも好かれているとは思っていない」と述べた。【8月15日 時事】
*****************

市議6人のうち5人が白人で、“交通違反の疑いで警察に呼び止められるケースの86%は黒人で、その93%はそのまま逮捕されるとの統計もある”【8月19日 毎日】とも。

63%が黒人という住民構成のなかで、どうして警察や市議の大部分が白人という「白人支配」とも見える構造が続いているのか・・・そこらが不思議でもあります。

今さらながらのそうした根本的な人種問題のほか、「警察の軍隊化」も指摘されています。

****米国:黒人抗議デモ拡大 背景に「警察の軍隊化****
米中西部ミズーリ州セントルイス近郊ファーガソンの警官による黒人少年射殺事件で、黒人らの抗議デモが拡大したことについて米メディアは、重装備の警官隊がデモに過剰対応したことも要因と指摘している。

2001年9月の米同時多発テロ以降、連邦政府の支援で警察が軍隊並みに武装化されてきたことが背景にあり、今回の事態は「9・11後遺症」とも言えそうだ。

「昨夜は一人の逮捕者もいなかった」。15日、事件現場近くで記者会見した州警察高速道路パトロール隊のジョンソン隊長が強調した。州知事の指名で、14日夜からデモ対応の責任者となった地元出身の黒人警官だ。デモ参加者と一緒に歩き、市民からは抱擁と歓声で受け入れられた。

地元警察のそれまでのデモ対応は、装甲車が出動し、防護服でガスマスクをした警官隊が攻撃用ライフルで参加者を威嚇。火炎瓶攻撃には、催眠ガスやゴム弾で反撃し、市民の一層の反発を招いた。

米メディアによると、こうした装備の購入には政府機関からの助成金が使われている。国土安全保障省だけでも03〜12年、テロ対策の装備費や訓練費として、セントルイス地域の警察など法執行機関に8000万ドル(約82億円)以上を支給した。

また国防総省は1990年代から、余った軍備品を警察などに提供していたが、アフガニスタン戦争(01年〜)、イラク戦争(03〜11年)を受け、その規模も拡大。

地方の警察に対しては「めったに起きないテロの脅威をはるかにしのぐ規模で、装備や資金が投入されてきた」(ニューヨーク・タイムズ紙)のが実態だ。

AP通信によると、今回の事件を受け、ジョンソン下院議員(民主)は「(街の)目抜き通りの軍事化は、市民を安全にするどころか、おびえさせるだけだ」と述べ、米軍から地方警察への軍備品供給を制限する連邦法案の提出を検討していることを明らかにした。(後略)【8月16日 時事】
*******************

オバマ大統領も14日、「警察に対する暴力は許されないが、治安当局による過剰な実力行使も正当化されない」と発言しています。

また、2016年の大統領選への立候補が取り沙汰されている共和党のランド・ポール上院議員も“米誌タイムへの寄稿で、「警察には治安を守るという正当な役割があるが、警察と軍の対応は違ったものであるべきだ。ファーガソンで見られた状況は警察行動というより戦争のようだ」と述べ、連邦政府は地方警察の「ミニ軍隊」化を後押ししてしまったと指摘した。「それは大半の米国民が考える警察という概念をはるかに超えてしまっている」”【8月16日 AFP】と現状を批判しています。

関係を悪化させている警察の利益至上主義
一方、事件が起きた背景には、予算確保のため罰金徴収ばかりを重視する警察組織の問題があるとの指摘も話題になっているそうです。

****黒人射殺事件を引き起こした「利益追求型」警察****
・・・・そんななか、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された元ミズーリ州上院議員でニュースクール大学教授のジェフ・スミスの論説が話題となっている。

彼は、ファーガソンでの衝突を引き起こした原因の1つは警察の利益至上主義だと主張。ささいなことで地域の黒人住民を逮捕したり違反切符を切ったり、嫌がらせをするのは、それによって予算を確保することができるからだと論じた。

これはどういうことなのか。スミスの論説を見てみよう。

「セントルイス郡には90の地方自治体があり、ほとんどが個別の市役所と警察隊を持つ。
その多くは収入を交通違反切符などの罰金に頼っている。
セントルイスの非営利団体ベター・トゥゲザーによれば、ファーガソンの場合は収入の4分の1近くをこうした罰金で賄っており、周辺の町ではこの割合が2分の1に達するところもあるという。
交通違反の取り締まりに収入を頼っている自治体では、少しでも多くの罰金を集めなければならないとの圧力がかかる。
シカモアヒルズという町の場合、80メートルほどしか管轄内を走っていない高速道路にレーダーガンを備えた警官を配備している。」

ある都市圏を何十もの小さな地方自治体に分割すると、それぞれが互いの行政サービスを真似るようになり、結果としてかかるコストが跳ね上がる。

かといって小さな自治体が、自らの警察署や消防署の運営費を確保するために税金を上げることは難しい。裕福な世帯ほど、簡単に近隣の自治体に引っ越せてしまうからだ。

こうなると結果は明白。どんどん違反切符を切ることで自ら予算を確保する警察の誕生だ。そこにアメリカの警察機関における素晴らしき人種的力学が働き、黒人住民ばかりが道路で止められたり職務質問されたりといった事態が起きる。

ファーガソンでは黒人より白人の運転手を止めたときの方が、違法な物品を発見する割合が高いにも関わらず、だ。

警官に射殺された黒人青年マイケル・ブラウンは事件当時、スピード違反で職務質問を受けたわけではない。
だが地域住民と、本来は彼らを守るために報酬を得ている警官たちとの関係が毒されているという意味でこの問題は注目に値する。

ある意味でこれは「資産没収制度」の1つと見ることができる。
犯罪に関わる資産を州政府や連邦政府が没収することを可能にするものだが、「営利目的型」警察を生み出すとの批判も多い。

司法省がより多くの罰金の徴収が期待できる麻薬犯罪の取り締まりに力を注ぎたがるのと同じように、地方の警察署には交通違反の取り締まりを強化する動機がある。

ニューヨーク・タイムズ紙でスミスは問題の解決法として、細かく分断されている自治体と中心都市であるセントルイス市の再統合を提唱している。

そうすればファーガソンの黒人社会により強い政治力と、警察からより良い待遇を受けるよう要求する力を与えることができるというのだ。

ファーガソンの住民は3分の2が黒人だが、役人や警官はほとんどが白人に占められている。黒人の住民たちは若く、貧しく、多くが一時的に滞在する労働者なので、選挙で黒人候補に票を集めるのが難しいのが原因だ。

一方でセントルイス市では、黒人住民たちはより団結した組織を形成し、より強い影響力を持っている。

ファーガソンの事件によって浮き彫りになった問題は多いが、利益を優先する警察機関の問題もここに加えられるべきだろう。【8月19日 Newsweek】
******************

キング牧師の夢は・・・・
今後については、“ロイター通信によると、セントルイス郡検事局スポークスマンは射殺事件が週内にも大陪審に送られる可能性があると明らかにした。大陪審が白人警官を起訴するかどうかを判断する”【8月19日 時事】とのことで、結果次第ではまた一荒れありそうな雰囲気です。

「私には夢がある。私の四人の幼い子ども達が、いつの日か肌の色ではなく人格そのものによって評価される国に住めるようになるという夢です。・・・将来いつの日か、幼い黒人の少年少女たちが、幼い白人の少年少女たちと兄弟姉妹として手に手を取ることができるようになるという夢です。」というキング牧師の夢は容易には実現しません。

法律的には平等が保証されていても、人の心の中はまた別の話です。
異質なものを拒絶する感情に加え、経済的・社会的な多くの要素が絡み合って、人種間の緊張は今も大きな問題として残り、おそらく当分消えることもないでしょう。

政治・社会的には、そうした緊張をなるべき緩和するように働きかけることが肝要で、緊張を煽るようなことは慎むべきでしょう。

個人的には、人種のるつぼであり移民社会であるアメリカ社会に人種間の緊張があるのは当然のこととして、それにもかかわらずアメリカというアイデンティティが維持されていることの方が驚異的に思われます。
コメント (1)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする