孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア・イラク・レバノンで拡大するアルカイダ系ISILの勢力

2014-01-06 22:46:53 | 中東情勢

(アサド政権による空爆を受けたシリア北部アレッポの反体制派が掌握する地区で、子どもを抱えて歩く女性(2013年12月15日撮影)。【12月16日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3005162?pid=12821491

対立軸に変化も?】
シリア、イラク、更にレバノンで、アルカーイダ系の武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が活動を活発化させており、シリアでは他の反体制派勢力との武力衝突が拡大、イラクでは宗派対立の象徴的都市であったファルージャをISILが制圧する事態となっています。

****アルカーイダ系組織、勢力拡大 シリア反体制派と内紛 イラク中部の要衝掌握****
シリア内戦に反体制派として参戦している国際テロ組織アルカーイダ系の武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」と、他の反体制派勢力の対立が深まり、戦闘が激化している。

一方でISILは4日までに、政治混乱が続くイラクで中部の要衝ファルージャを掌握した。シリアとイラクにまたがって活動するISILの存在は地域の不安定要因となっている。
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「われわれの名誉と富、土地を守るためにISILと戦う」。シリア反体制派に属するイスラム系武装組織のひとつ「ムジャヒディン軍」は3日、声明を出しISILに宣戦布告した。

ISILは、「自由シリア軍」「イスラム戦線」などの主だった反体制派武装組織と、シリア北部のアレッポ周辺やイドリブ県でしばしば交戦している。3、4両日の戦闘では少なくとも36人が死亡した。

ISILにはイラクやアフガニスタンで戦闘経験がある者が多く、シリア内戦では2012年の初めごろから多くの戦闘員を吸収、勢力を広げてきた。支配地域内に厳格なシャリーア(イスラム法)を適用し、違反者を厳罰に処するなどの強権支配を敷くほか、他部隊の戦闘員の誘拐なども行っているとされる。

ISILに反対する勢力には、アルカーイダが唱える「ジハード(聖戦)」思想に共鳴する者も少なくないとみられるが、現時点では各組織とも「ISILは(シリアでの)革命を乗っ取ろうとしている」と口をそろえて非難する。自らの支配地域の利権が脅かされるとの恐怖があるためだ。

これに対し、ISILは4日、自分たちへの攻撃を停止しなければ、支配地域にアサド政権側の軍部隊を引き入れると声明で脅迫した。反体制派の内紛は、本来の目的である「政権打倒」を見失う混乱状態に陥っている。

一方、ISILは元来の活動拠点であるイラクでも昨年末以降、イスラム教シーア派主導のマリキ政権とスンニ派との対立に乗じる形で、中部ファルージャやラマディで武装闘争を激化。両市では今月に入り、治安部隊との戦闘などで100人以上が死亡したとみられ、ISILは4日までに、協力関係にある部族とともにファルージャのほぼ全域を掌握した。

ファルージャはイラク戦争後の04年、スンニ派勢力が駐留米軍に激しく抵抗した都市で、同じスンニ派のISILには浸透しやすい地盤があったとみられる。

ファルージャはイラクとシリアを結ぶ街道上の要衝に位置しており、混乱が長期化すればISILにとって両国間の往来や補給がやりやすくなり、勢力強化や両国の情勢の複雑化につながる恐れが強い。【1月6日 産経】
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ISILが“自分たちへの攻撃を停止しなければ、支配地域にアサド政権側の軍部隊を引き入れる”と脅迫するのに対し、反体制派側からは“ISILはアサド大統領よりもひどい悪事を働いている”との批判があり、アサド政権をさておいての抗争となりつつあります。

****シリア内戦、反体制派3派が連合してISILと激しい戦闘****
シリアの反体制活動家らは4日、一部の反体制派組織が連合して国際テロ組織アルカイダ系イスラム武装組織「イラク・レバント(地中海東岸地域)のイスラム国(ISIL)」の戦闘員を拘束したり殺害したりする新たな「革命」に乗り出したと語った。反体制活動家らは、ISILはバッシャール・アサドシリア大統領よりもひどい悪事を働いているとしている。

北部アレッポ県と北西部イドリブ県では、「イスラム戦線」や「シリア革命派戦線」など、反体制派の中でも勢力の強い3派が連合してISILと2日前から激しい戦闘を繰り広げているという。反体制派の主要組織である「国民連合」はこの戦闘を全面的に支持すると表明した。

シリア人権監視団によると、ISILの構成員や支持者がイドリブ県で3日以降に少なくとも36人殺害され、イドリブ県とアレッポ県で 100人以上が反体制派に拘束されたという。(中略)

アサド政権と戦うためシリアに入ったイスラム武装組織は、当初、反体制派に歓迎されていたが、ISILが他の反体制派組織を支配下に置こうとして内紛が起き、さらには活動家、他の反体制派組織、一般市民に対して組織ぐるみで暴力を加えるようになったため、ISILとその他の反体制派組織の関係は悪化していた。【1月5日 AFP】
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アルカイダ本家の指導者ザワヒリ容疑者は、ISILに対し、昨年11月までに活動地域をイラク国内に限るよう指示していますが、ISILはその後もシリアで活動を続けています。

イラク・レバノンの混乱も拡大
一方イラクでは、ISILの攻勢によって、かねてより言われている宗派対立の再燃がいよいよ現実のものとなりつつあります。

****イラクのファルージャ、武装勢力ISILが掌握 新たに65人死亡****
イラク治安当局者は4日、国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「イラク・レバント(地中海東岸地域)のイスラム国(ISIL)」がイラク西部アンバル州のファルージャを掌握したと明らかにした。

治安当局によると、4日のアンバル州での戦いで、兵士8人、政府と同盟関係にある部族民2人、ISILの戦闘員55人の計65人が死亡した。

首都バグダッドの西に位置するアンバル州では、州都ラマディとファルージャの一部が数日前から武装勢力に掌握されており、2003年に米軍主導の多国籍軍が進攻した後の、両市が武装勢力の拠点になっていた数年間をほうふつとさせる状況になっている。

アンバル州の治安当局高官はAFPの取材に対し、「ファルージャはISILの支配下にある」と述べたが、同市郊外は地元警察が掌握しているという。

ファルージャにいるAFP記者も、通りには治安部隊やイスラム教スンニ派の部族による反アルカイダの治安組織「覚醒評議会(サフワ、Sahwa)」の姿は見えないとして、ISILが同市を掌握したようだと話している。

イラク地上部隊のアリ・ガイダン・マジード司令官によると、戦闘に加わっているのは、治安部隊とその同盟関係にある部族、ISIL、反政府勢力「部族軍事評議会」の3集団だという。

イラクのヌーリ・マリキ首相は4日、アンバル州から武装集団を排除する決意を示した。【1月5日 AFP】
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レバノンでは、ベイルート南部で2日、多数が死傷した自動車爆弾テロがありましたが、ISILが犯行声明を出したと発表しています。

レバノンでは、シリア内戦の影響を受ける形で、ISILなどのスンニ派勢力とシリアでアサド政権を支援しているヒズボラとの対立が深まっています。

****ベイルートのヒズボラ拠点近くで爆発 4人死亡****
レバノンの首都ベイルート南部の住宅地で2日、自動車爆弾が爆発し、少なくとも4人が死亡、77人が負傷した。レバノン国営通信が明らかにした。

爆発があったハレト・フレイト地区はイスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点として知られる。
現地の治安状況に詳しい情報筋によると、自動車爆弾はヒズボラが使用する建物から50メートルほどの距離にあるレストラン近くで爆発したという。今のところ犯行声明は出ていない(1月4日に、上記のようにISILが犯行声明を発表)。

レバノンでは先月27日にもベイルート中心部で自動車爆弾が爆発し、6人が死亡、数十人が負傷した。死者の中には、ヒズボラやシリア政府に批判的だったレバノンのモハメド・シャタハ元財務相も含まれていた。

また昨年7月と8月にもベイルートの同じエリアで自動車爆弾が爆発し、数十人が死亡、数百人が負傷しており、さらに11月には今回の爆発があった場所から程近いイラン大使館前で自爆テロがあり、24人が死亡、約150人が負傷した。

ヒズボラはレバノンを拠点としているが、イランの支援を受けており、装備ではレバノン陸軍を上回っている。
ヒズボラは依然としてレバノン国内で幅広い支持を得ているが、シリア内戦でアサド大統領率いる政府軍を支援していることに対し批判の声が上がっており、レバノン国内でも緊張が高まっている。【1月3日 CNN】
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シリア和平国際会議の行方は?】
アルカイダ系ISILによってシリア・イラク・レバノンの情勢はますます混沌としてきていますが、シリア内戦で反体制派をこれまで支援してきた国にも、イスラム過激派台頭を懸念する立場から、アサド政権存続を容認する苔が出始めています。

****シリア情勢:米欧でアサド政権存続論****
シリア内戦を巡り、米欧ではイスラム過激派の台頭を懸念し、アサド政権の存続やむなしとの考えが出ている。

ロイター通信は18日、米欧の一部が反体制派主要組織「シリア国民連合」幹部にアサド政権の存続を容認する姿勢を示唆したと報道。こうした姿勢に反体制派組織は不信感を強めており、来年1月にスイスで開かれる予定の国際和平会議のボイコットも辞さない構えだ。

 ◇イスラム過激派を警戒
「最も良い選択肢はアサド政権の勝利かもしれない」。AFP通信によると、米中央情報局(CIA)のヘイデン元長官が12日、米国での講演で指摘した。ヘイデン氏は、イスラム教スンニ派とシーア派の過激派同士の抗争激化▽シリアの分裂−−などが予想されると分析し、そうした結論を導いた。

米欧はこれまで「アサド政権が存続する選択肢はない」との立場を明示し、反体制派への軍事支援の強化に再三言及してきた。

だが「イスラム過激派の手に渡る恐れがある」として、反体制派が求める高性能兵器を供与していない。
8月にダマスカス郊外で化学兵器が使用された際も、米仏などは政権側への軍事攻撃を直前で回避。アサド政権に化学兵器を全廃させる妥協案を受け入れ「政権の存在を容認する行為だ」と反体制派を失望させた。

ロイター通信の報道によると、米欧側は現時点で政権が崩壊すれば、イスラム過激派が台頭し混乱が拡大するのを懸念したという。

国民連合はアサド大統領の退陣を和平会議への参加条件に挙げており、複数のメンバーは毎日新聞の取材に「報道は単なるうわさだと考えているが、事実であれば、会議に参加しない」と述べた。

反体制派内では今春以降、国際テロ組織アルカイダが影響力を拡大。また、国民連合と協力してきたイスラム武装勢力も「イスラム戦線」を新たに結成し、国民連合とは一線を画す動きを強めている。

今月上旬にはイスラム戦線がトルコとの国境付近で、国民連合傘下の「自由シリア軍」の武器庫を襲撃する事件も発生。米国はトルコ経由の反体制派支援を見合わせている。(後略)【12月19日 毎日】
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アサド政権、欧米が支持する反体制派「国民連合」、イスラム過激派の「イスラム戦線」など、アルカイダ系ISIL・・・・と、大きく分けても四者が争い、更に「国民連合」や「イスラム戦線」も各勢力の集合体ということで一枚岩ではない混乱状況ですが、ある意味では、アルカイダ系ISILをこれ以上野放しにできないという点では、アサド政権、反体制派の多く、欧米支援国などの間での共通点ができたと言えなくもありません。

シリア内戦による死者は、2011年3月からで13万人を超え、昨年1年間だけで7万3455人(市民の死者は2万2436人で、うち子供が3673人)に上っています。

1月22日からスイスで予定されているシリア和平国際会議が、この悲劇の歯止めになることが期待されていますが、国連とアラブ連盟のブラヒミ共同特別代表によれば、“シリア政府は和平会議に参加する代表団を決定したと通知してきた。反体制派主要組織「シリア国民連合」も他の反体制派グループと連絡を取り、できるだけ早く派遣団を結成する意向を伝えてきているという。中東の衛星テレビ・アルジャジーラによると、アサド政権側と反体制派の代表団はそれぞれ9人になる見通し。”【12月21日 毎日】とのことです。

また、アサド政権を支持するイランの参加にアメリカが難色を示し、国連やロシアとの調整がついていなかった問題についても、アメリカ側に軟化の動きがみられます。

****シリア:和平会議にイランが非公式参加へ 米国務長官示唆****
中東歴訪中のケリー米国務長官は5日、今月22日からスイスで開催予定のシリア和平国際会議に、イランが非公式に参加することを認める考えを示唆した。訪問先のエルサレムでの記者会見で語った。

イランの会議参加について、米国が非公式な形にせよ容認する姿勢を見せたのは初めて。
ケリー長官は会見で、イランが非公式に会議に参加する可能性について「あり得るかもしれない」と明言。イランの参加を認めるべきかは「(会議の調整役の)潘基文(バンキムン)国連事務総長が決めるべきことだ」と付け加えた。

ただ、ケリー長官は会議への公式参加の条件として、シリア反体制派が参加する「移行政府」の樹立を柱とする2012年6月の「ジュネーブ合意」の受け入れをイランに求める考えを改めて強調した。

会議にはアサド政権と反体制派に加え、国連安保理常任理事国5カ国やシリア周辺国など30カ国と3地域機構が参加する見通し。
国連とロシアはアサド政権の後ろ盾であるイランの参加を求めてきたが、米国は「シリアに軍事要員を送り込んでいる唯一の国」(米政府高官)とイランを批判し、参加に反対してきた。【1月6日 毎日】
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まだ開催できるかさえ流動的な情勢であり、アサド政権側とこれを否定する反体制派の溝の深さは言うまでもないところですが、アルカイダ系ISILの勢力拡大阻止という観点からでもなんらかの妥協が図られ、情勢の転換点となることが望まれます。
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