小さな町の大きな挑戦 ～ 岩手県住田町の気骨 ～

岩手県南部を流れる「　気仙川　」の中流に、住田町（すみたちょう）という静かな街があります。


アユ釣りや渓流釣りの好ポイントに近く、数軒のオトリ屋や釣り宿などもある旧宿場町です。

先日四国でお世話になった「　釣り神様　」の皆さんと出会ったのも、この街にある小さな旅館でした。


この住田町、街道とは反対の気仙川の右岸側に、きれいな木造の住宅群を見ることができます。

発災後、わずか１か月で建設された「　仮設住宅　」です。


古くから津波の暴威に翻弄されてきた三陸地方では、遠野など内陸の都市が自らの宿命として、いざというとき沿岸都市の支援にあたってきました。

住田町もそんな支援基地のひとつでした。


ＮＨＫの「　震災証言記録　東日本大震災　」で、そんな住田町がいち早く仮設住宅の建設に取り組んだ、こころ熱くなる挑戦について紹介されていました。


「　隣町の窮状を放ってはおけない。　大船渡と陸前高田は、同じ気仙地域の住田町が護る！　」被災した両市への緊急支援に誰よりも早く立ち上がったのは、住田町の多田欣一町長でした。

「　すぐに仮設住宅を建設しろ　」「　プレハブの長屋ではだめだ、木造の戸建てでないとだめだ　」

町長は、一定期間の居住を余儀なくされる被災者のこころに寄り添った仮設住宅の建設を担当者に指示しますが、ここで「　法律　」が行方を阻みます。


「　町の負担で仮設をすぐに建てたい　」

住田町の申し出は、「　災害救助法では仮設住宅の建設は国か都道府県が行うことになっている　」と、すげなく県から却下されます。

それでも町長は諦めず、建築基準法に例外規定があるのを見つけ、渋る県からなんとか許可を引き出し、地震発生からたった１か月で、プライバシーに配慮がなされた木のぬくもりのある仮設住宅を建設するのです。


わたしが初めて目にしたのは地震があった年の９月でしたが、木目新しい、立派な住宅だったので、まさかそれが仮設住宅だとは思いませんでした。


さぞかし高くついただろうと思いましたが、プレハブ仮設の約半分のコストで建てられたということでした。

林業から木材加工まで、地域の資源を最大限有効活用してきた、これまでの町の施策が活かされたのです。


それでも総額３億近い費用は、町にとって大きな負担でした。

「　議会を通していては時間がかかる…　」

町長は町会議員が集まる議員控室で「　町長裁量で、町の準備金を使って仮設を建てたい　」皆に話しました。

反対する議員はひとりもいなかったそうです。


町が一丸となって取り組む被災地支援…　　　町民は皆この気骨ある政治判断を誇りに思ったことでしょう。

４期１６年務められた多田町長は、ことし勇退されたそうですが、４年前の町長選挙が無投票で信任されたことからも、町民の気持ちを推し量ることができますね。


困っている人にあたたかい手を差し伸べ、自らを顧みず他を思いやる、勁くやさしいこころ…

これこそ日本人が本来持っている「　大和ごころ　」なのではないでしょうか。

為政者ならずとも、日本人皆のからだに沁み込ませたい資質だと、あらためて思いました。


役目を終えた仮設住宅は、３万円で払い下げられ、全国各地から応募が殺到しているそうです。


来週からの東北釣行、ことしは気仙川でも竿を出そうかな…

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