ひとつの『しあわせ』の風景、秋の夕暮れの空の下にて。
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事故から一年が過ぎた頃の秋。
晴れた秋の夕暮れ空。涼しい風が心地よく、橙色の空が気分を落ち着かせてくれる。そんな夕暮れ時に、僕と瑞穂は二階のバルコニーにいた。
瑞穂はバルコニーにある白い背もたれ付き椅子に座って昼寝をするのが好きで、この日も僕をあたり前のように引き連れてバルコニーに出る。そして、普段と同じように椅子に座っては、静かに寝息をたて始めたのだった。
隣りの椅子に腰掛けた僕は、橙色の空を見上げる。
「……」
一昨日。今日の二日前――瑞穂の家族が事故に遭って一年目、つまり瑞穂の両親の一回忌であった。それは、瑞穂の家族が住んでいた家で静かに行われた。瑞穂が僕の家に引き取られて以降、瑞穂の親族がその家の家賃支払いを継続しているので、中はほぼ一年前の状態のままだという。
――もしも、瑞穂の視力が回復する事があるならば。
僕自身、瑞穂の視力が回復する事は二度とないと思っている。だが、そんな親族の想いから、瑞穂の家はほとんどその当時のままとなっているのだ。時々、うちの母親や親族の人がやってきては中を簡単に掃除しているらしい。今年の夏のお盆には瑞穂を引き取っている水野家と檜山家の親族が集まったりもした。瑞穂の両親の仏壇は、その家に置かれている。週に一度、僕と瑞穂は家に訪れては手を合わせている。
「……」
「わっ」
椅子で寝ていた瑞穂が短く悲鳴をあげた。その要因は、瑞穂の右手の甲にスズメくらいの大きさの鳥がとまったせいらしい。人間のもとに自ら寄ってくる鳥なんて初めて見た。
瑞穂にも自分の右手に小さな鳥がとまっているのを認識できたようだ。もう片方の手でそな鳥の身体を撫で始める。鳥はその行為を素直に受け止めていた。
「逃げないのかな?」
僕がその鳥を見ながら呟くと、
「一昨日にも飛んできた鳥だからね」
撫でる手を止めずに、瑞穂が言った。
「その鳥がアスカ?」
「そう」
「でも、一羽しかいないけど」
「それっ」
掛け声とともに、瑞穂は手の甲にいた鳥を空に飛ばせてあげた。飛んでいく鳥を目で追っていくと、遅れてやってきたもう一羽のアスカと合流したのだ。二羽は再び一緒になると、橙色の空の向こうに姿を消した。
「せっかちなアスカなのよ。でも、ここで相棒のアスカを待ってあげているんだと思う」
「よく分かるね」
「うん…」
その後、僕と瑞穂は二羽のアスカが飛び去っていった軌跡をしばらく眺めていた。
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キミの世界の中の僕は失われても、僕の世界にいるキミは失われない。
前編 終