『四日のあやめ』(山本 周五郎著/新潮文庫)
いちばん好きな作家・山本周五郎の一作品。
その中でもお気に入りの1冊。
これでもう3~4回目かな。中の1~2編はそれ以上
読んでいると思う。
この文庫と『さぶ』『樅ノ木は残った』で決定
付けられました。
9編の短編集ですがそのうち5編が特にお薦め。
他の4編も普通にお薦めです。
「ゆだん大敵」
武士の道はなんぞやをテーマにそれまでの
概念に縛られない周五郎独自の着眼点で描かれている。
これを読むと自分は駄目だな~と思ってしまう・・・。
「契りきぬ」
娼婦のおなつが仲間との賭けで一人の武士を
恋に落とそうとし、その過程で本当に愛情が芽生え
一子までなしたが、そもそもの愛情の始まりが
不純であったがゆえに、すべてを受け入れてくれた
武士の前から姿を消してしまうという物語。
「はたし状」
1人の女を巡って2人の男の友情が壊れかけていく様と
その再生がテーマ。こう書くと安っぽい物語に感じてしまいますが
二人の友情を壊す男も含めた心情が巧みに描かれています。
表題作「四日のあやめ」
夫婦の絆がテーマ。
喧嘩助太刀ご法度の中、剣の名手である夫に助太刀の頼みを
知らせなかったことで、これまでの夫の立場・世評が悪いほうへと
向かっていく。
そんな妻の行為への憤りを感じながらもそれよりも大きな愛情で
妻を包んでいく。周五郎独特の世界観が現れている。
この主人公夫婦を、東山紀之、木村佳乃の本当の夫婦での
映画が観てみたい。我ながらいい配役だと思うのですが・・・。
「榎物語」
庄屋の娘・おさわとそこで働く下男・国吉の愛する思いが
人々に邪魔をされ、国吉は家を追い出される。
江戸で立派になって帰ってくると言い残して分かれた二人。
おさわの家が山津波で流され一人だけ助かったおさわは
家にあって国吉と会っていた榎の大木(山津波で唯一流されなかった)
の元で茶店を始め、国吉が帰ってくるのを待つ。
おさわのお店にお手伝いに来ていたおすげはたった4回しか
会ったことのない男を笠をかぶったうしろ姿を一目見ただけで
彼だとわかり再会を果たす。
一方でおさわは実は国吉と目の前で再会をしながら
両人とも全く気がつかずに別れてしまっていた。
この二組の描写が人間の不思議さを強調しているようで
不思議な余韻が残る作品です。
これも映画で観てみたい。
この配役はパッとは思い浮かばなかった。
おさわは上戸彩がぴったりかなと思いつつ、CMで写った
瀧本美織もいいかなと思った。
国吉はなお難しかった。伊藤淳史(チビノリダー)か
えなりくんなんかも面白いかな。えなりくんは『渡る世間は~』
のイメージが強すぎるのが玉に瑕ですよね。
あくまでも個人的な感想です!