財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

旅するマーメイドの神話一周年!

2011-03-20 22:26:44 | 私が作家・芸術家・芸人
 アヴァンです! これまで読んでいただいた方々、本当にありがとうございます。昨日が一周年記念日でした。実は、うっかりして自分でも忘れていたのですが(苦笑)。

 これまでいろいろありました。最初は、第一部ナオミ篇だけの予定だったのが第二部マクミラ篇を始めたり、おもいがけず各種ブログサイトランキングでもランクインさせていただいたり・・・・・・ まだ第二部の執筆は終わっていないのですが、ようやく終わりが見えてきました。今は、第一部前半と後半の主要キャラクターたちのイメージソングのYouTube画像をアップしているので、ほとんど毎日アップさせていただいておりますが、今週前半のイメージソング集が終わって、来週には後半のイメージソング集が終わります。第二部主要キャラクターのイメージソングもすでにピックアップしてありますので、折を見てまたYouTube画像をアップしていこうと思っています。

 初心に返って、今日は「マーメイド・サーガ第一部(序章)」を再度、アップしておきます。もし途中からお読みになっている方がいらしたら、是非、最初からまた読んでいただけるとうれしいです。第二部の最後までがんばります。どうか請うご期待!



天上の神々の心にもこうした怒りが宿りうるものなのであろうか?
――ウェルギリウス「アイネーイス」第1巻第11行

なんじ逆境に屈せず、さらに勇敢に進むべし。            ――同書第6巻95行

アオルノスへ下りゆかんこといと易し、プルトンが門は夜も昼も開かれてあり。されどその歩みを返し、上界の大気に戻りきたらんこと、これぞ苦業、これぞ至難の業なり。
――同書第6巻第126行

この不幸なる男は、他のものを狙いし武器にうち倒され、天を仰ぎ、いまわの際に甘美なるアルゴスを思い出す。                   ――同書第10巻第781行


プロローグ

 わたしの名はナオミ。
 かつては、深い海の底に住むマーメイドだった。今では、外見は人間と変わらない。両足の指が6本ずつあること以外・・・・・・どのようないきさつから、わたしが人間界に暮らすようになったのかは、さだかではない。
アンデルセンの童話では、人魚姫はうつくしい声とひきかえに悪い魔女から尾ビレを足に変える毒薬をもらう。わたしは、なんとひきかえに人の姿になることをゆるされたのだろうか。
 マーが「海」メイドが「女」を意味するように、マーメイドの仲間はすべて女だった気がする。海主ネプチュヌス宮殿の男たちは、すべて上半身は獅子、下半身が魚というマーライオンの姿をしていた。
だがマーメイドもマーライオンも真の姿だったのか、今では遠い昔に見た夢のようで確信がない。彼らは、霊体のような存在で、わたしには霊体こそすべての生物の本来の姿で、肉を持った姿は仮の存在のような気がしてならない。
 人は海を「生命の源」と呼ぶが、海は同時にすべてが流れ着く墓場でもある。潮の流れに乗ってやってくる書物、工芸品、建築物、金銀財宝、写真、はては動物や人の死骸まで。いつもおばあさまと一緒だったことを覚えているが、たかだか百年ほどの命しか持たぬ人間には計り知れない知識をたくわえていたし、占いで未来を見通せた。
 人間界について思念を交わすと、きまって最後にこう言った。
(かわいそうな娘だよ。お前は、いつか人間界に出ていく星の下に生まれついている。だけど、どこへいってもやっかいごとに引き寄せられていく)
そう、わたしはトラブルに引き寄せられる星の下に生まれたマーメイド。

 ある日、わたしは伝えた。
(それほんと?)その時、おばあさまが伝えてくれたことは、今でもはっきり憶えている数少ない記憶のひとつだ。
(本当じゃとも。自分の運命がおそろしいかえ?)
(ちっとも)
(ほう、どうしてだね?)
(だってナオミがやっかいごとにひきつけられていくんでしょ。それなら、困っているみんなを助けてあげるの)
(やさしい娘だね、ナオミは。せめてお前がどこへいっても、教え導くものと助けてくれる仲間に恵まれるように魔法をかけてあげよう。おぼえておいで。もしお前が人間界でくらすことになって、あいつらが5本しか指がないと知っても、6本目を切ってしまおうなんて考えないことだよ。これはあぶない目に遭ったとき助けてくれる、幸運の指なんだ)

 わたしには、昔に人間界に飛び出していったおねえさまがいたらしい。
 最初ピンナップガールとしてもてはやされたが、6本目の指を切り落としてからは、不幸な女優として一生を送った、と聞かされた記憶がある。
 おばあさまのおかげで、人間界に来てから、教え導く存在と仲間には不自由したことがない。でもそこまでしてくれたのなら、なぜ愛し合う人にも不自由しないようにしてくれなかったのか?

 肉体を持ってからは人並みに年を取るようになったが、わたしがそれまで生きてきた歳月を正確に記すことはむずかしい。海の底では、時の経つのがこの世界とは比較にならぬほどゆっくりだからだ。日本という国には浦島太郎という昔話があるそうだが、人間の60年ほどがマーメイドの1年にあたるらしい。
 マーメイドの頃のことは、つまらないことを憶えているかと思えば、肝心なことはなにも思い出せなかったりする。過去の記憶が突然よみがえってくることもあるが・・・・・
 わたしたちはいかにして生まれ、どこに海主ネプチュヌスの城があったのか? わたしたちは海の底でなんのために生きていたのか?
 こうした疑問にも、記憶が戻れば、いつかお話ししてみたい。万が一、そうしたことがあればの話だが。
 これからわたしが人間界で経験した物語のうちのいくつかを、皆さんにお話したい。
 さあ、今宵の物語を始めよう。


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