オータムリーフの部屋

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仕事がなくなる世界

2016-03-16 | 社会
20年以内に、日本の労働人口の49%の仕事が、機械に置き換えられる。人工知能やロボットによって、仕事がなくなる懸念が世界的に高まっている。ITを通じてホテルの代わりに一般住宅に泊まれる“民泊”や、一般ドライバーと移動したい人とを結ぶ配車サービスはもはや当たり前だ。タクシー利用者はスマホを使ってサービス会社に配車を依頼する。すると、最短距離にいる登録ドライバーのスマホに利用者の位置と目的地の情報が送信される。受信した登録ドライバーは速やかに利用者を拾い、目的地へ運ぶ。経費がかからないので、運賃は安く、利用者にもドライバーにも好評だ。サービス会社に必要なのは開発部門と営業部門だけだから、配車、経理、総務、整備部門は不要で、新たに失業者を生むことになった。アメリカではタクシー会社が倒産している。こうした事態にどう対応すればいいのか。欧米では、様々な取り組みが始まっている。スウェーデンの福祉施設では、限られた仕事を賃金を落とさずにシェアする試みを開始。アメリカやスイスでは、全ての国民に毎月一定額を支給する最低生活保障(ベーシックインカム)の導入の検討が始まっている。“働かざる者食うべからず”といった常識が通用しなくなるかもしれない社会で、私たちはどう生きていくのか。最前線のルポから考える。(クロ-ズアップ現代)
 
今までは生産性の向上が新たな仕事を生み出し、経済成長につながると信じられていた。米国では2000年まで労働生産性が上がるに比例して雇用数も上がっていった。しかし、2000年から現在にかけて、労働生産性が上がっても雇用は横ばいで、企業家と労働者の所得格差は広がっていく。確かに今までの技術革新では、自動化による大量生産のために失業した人たちは新たなサービス業やIT産業などが受け皿になっていた。しかし、それらの受け皿は人工知能やロボットが担うようになる。それどころか、ITによる合理化で知的労働の域まで浸食され、ホワイトカラ-の仕事まで奪われ始めている。
 
配車や民泊などのオンデマンドサービスは日本もオリンピック開催年へ向けて、規制改革をして取り入れようとしている。日本でも、5年後10年後にますます仕事がなくなるだろう。それは必然的変化で、従来型の企業では経営トップですら安泰とは言えない。生産の自動化や人工知能によって失われる仕事の人口比率は後進国ほど大きくなる。
イギリス-35% 米国-47% 日本-49% ナイジェリア-65% アルゼンチン-65% 南アフリカ-67% インド-69% タイ-72% 中国-77%。
 
今後20年間に人工知能やロボットが担うようになる職種は単純労働だけではない。事務、物流、警備、広告、調理、農業、清掃、建設、通訳、秘書などもいずれなくなる職種だ。
広告業界でもインターネットの発達で、TVCM、新聞・雑誌広告、車内広告、街頭ポスターなどはシェアを落とし、ビックデーターを活用して需要者を特定し、需要者個々が求める広告をピンポイントで無駄なく発信するようになっている。ホームページ制作の優秀な人工知能が生まれている。それはビックデーターなどを活用した内容とデザインで、従来の一般制作者よりはるかに洗練されたものだ。大多数のウエブデザイナーは10年以内に全て淘汰される運命にある。物流も、アマゾンなどが開発中のドローン配送だけでなく、自動運転のトラックによる配送システムの構築はすぐそこまでやってきている。農業ではすでに無人の野菜工場で、無農薬で衛生的で栄養豊富な野菜が水耕栽培されている。エネルギーコストが下がれば、狭い日本での食料の完全自給も実現する。
 
今、政治家や企業家たちの間で人手不足対策として移民促進が言われている。しかし、10年20年後の技術革新を思うと、それは未来に大きな禍根を残すことになる。少子化も地球の未来を見据えたら、結構な傾向と言える。超格差社会で弱者を増やすのはもうやめた方がいい。
 
嬉しいのは、強欲な資本家や企業家ばかりではないということだ。ヨ-ロッパでは未来への軟着陸への模索が始まっている。25歳未満の失業率20パーセント以上のスウェーデンでは、ある自動車整備工場が、収入を減らすことなく8時間労働を6時間労働に短縮することに成功した。労働量の軽減によって作業効率が高まった効果だ。その工場では新たに労働者を雇い、収入を減らさずにワ-クシェアリングによって雇用者数を増やすことにも成功した。しかし、競争に負けた企業も存在するはずで、雇用全体から見たら、決して解決策とはならないだろう。技術革新によって雇用が失われ続けるという新たなうねりが始まりつつある。
 
一般企業では、効率をあげれば必ず失業者を生む。ますます省力化が進み、低賃金の派遣労働者やパ-トの比率が高くなるだろう。なんのために働くのか?労働の対価が金、という発想を変えない限り、ロボットと人間の競争が激化し、やがて人間は競争に負ける。それらの矛盾を根底から変える方法として、アメリカやスイスでは全ての国民に毎月一定額を支給する最低生活保障=ベーシックインカム導入の検討が始まっている。だが、その巨大な財源を得るのは難しく、6月に行われるスイスでの国民投票で採択される可能性は小さい。誰も働かなくなるという考えも根強く、国民のコンセンサスを得るのも難しい。
しかし、多くの仕事が失われる20年後を考えれば、ベーシックインカムを導入し、国民は消費するだけで社会に貢献していると言う考え方をしなければ、社会は成り立たなくなる。
 
20代で就職したとき、賃金のために働いていると言う意識はなかった。自分の能力を向上させるのが一番の目的で、そのためにはつまらない仕事はしたくなかった。つまらない査定で従業員を競争させる管理のやり方に反発を感じた。労働の対価は自分の能力の向上だったし、同僚の評価だった。最低の賃金は保証されるべきだと思ったし、人の嫌がる仕事にこそ高い賃金を与えるべきだとも思った。鉄腕アトムのような漫画を見ても、未来社会ではロボットが単純労働をこなしている。人間は芸術的なワ-クやボランティア、やりたい仕事を無償でこなし、社会に貢献すればよいと思っていた。そんな理想社会も今の社会の地平線上に見えているような気がしていた。「自分が、本当は何をしたいのか?」を模索している若者達もたくさんいた。理想社会の到来は約束されているように思えた。
 
それがどうだろう。現代は金が金を産む時代になってしまった。資本が資本を産む、金を動かすだけで莫大な利潤が転がり込む。不労所得で巨万の富を築けるシステムが出来上がり、教育の機会均等も失われ、中間層が消え、一億総貧困社会が見えてくる。均等に与えられる機会を活かし、勤勉と努力によって勝ち取るアメリカンドリ-ムはもはや絵に描いた餅ですらない。
アメリカでも時代を経るに連れて格差の拡大、および固定化が進んでおり、これを不満に思った市民による「ウォール街を占拠せよ」などの大規模な抗議活動が起こった。また、オタワ大学の調査によると、子の世代が親の世代の階層から抜け出せないまま同じ階層にとどまる確率は、主要先進国の中ではイギリスとイタリアが最も高く、次いでアメリカとなっており、アメリカンドリームの実現は、実際には日本やドイツ、オーストラリアよりも難しいとされている。
 
 
国のトップの公職を目指す人物が暴言をまき散らす事態は低俗な米国でさえ、かっては想像できなかった。不謹慎な言葉遣い、人種差別、ニューヨークの不動産開発で財をなした人物が国民の保護者を気取るアホらしさ。しかし、トランプは原因ではなく結果であり、政治的混乱、政治家の無能力の具現化だ。トランプ氏は、メキシコ人を国外追放し、イスラム教徒の入国を禁止することを望んでいる。しかし、このようなナショナリズムの萌芽はヨ-ロッパでも起きている。フランスでは国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が、イスラム嫌いと国家資本主義の綱領を掲げている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が強い国家を目指す独裁者なのは誰でも知っている。東欧諸国だけではなく、ドイツですら、ネオナチの台頭が懸念される。英国では、欧州連合(EU)からの離脱を目指す運動にポピュリストの傾向が見て取れる。トランプ氏はバリケードを作ることで米国を再び偉大な国にすると公約しているが、ボリス・ジョンソン・ロンドン市長は、英国のEU離脱を実現させれば英国が国境の「支配権を取り戻せる」と主張している。トランプ現象は明日のヨ-ロッパである。
 
世界金融危機から8年経った今も、先進国の労働者はまだ賃金の伸び悩みや財政緊縮プログラム、雇用機会の縮小に直面している。 欧州では、シリアその他の紛争地域から大量の移民が流入している。
混乱をもたらした張本人である銀行家、政治家、官僚が無傷でのうのうとしているのに、気づかないのか、また気づいても諦観が支配するのか、人々の不満は自分より弱者に向けられる。ポピュリストによる処方箋が手っ取り早く自分たちの苦境を救ってくれると思い込んでしまう。重要なポイントは、政策の議論を悪口雑言と偏見にすり替えてしまうことである。自分より弱者を締め出すことで、自分たちの少ない分け前を増やそうとする。こんな小手先の閉鎖主義で自分たちの国が強くなり、国民が豊かになれると思うのは妄想でしかない。
 
 労働に対する考え方、人間の価値が根本から問い直されなければ社会はますます荒廃する。大多数の人間は能力的にロボットにはもはやかなわない。囲碁で人工知能が勝ち越したのは象徴的だ。人間の生きる意味とは何だろう。人間の価値とは何だろう。人間の尊厳を無条件に認め、人権を尊重する----これが大前提だろう。
「人の価値とはその人が得たものではなく、その人が与えたもので測られる」 アルバート・アインシュタイン の名言が虚しく響く。

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