オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

虹色のチョ-ク

2017-08-12 | 読書
「彼らこそ、この会社に必要なんです」と言い切る大山社長。
神奈川県川崎市にあるチョーク製造会社・日本理化学工業株式会社は、昭和12年に小さな町工場からスタートした。昭和36年に二人の少女を雇い入れたことをきっかけに、障がい者雇用に力を注ぎ、「日本でいちばん大切にしたい会社」として全国から注目を集め続けている。現在も社員83名のうち、62名が知的障がい者。一人一人の能力に合った仕事を作ることで、彼らが製造ラインの主戦力となり、社員のほとんどは定年まで勤め上げる。彼らの作るダストレスチョークは業界シェア1位を誇る。今でこそ福祉と経営の両面で注目を浴びるが、ここに辿り着くまでには数々の苦悩と葛藤があった。
本書は、日本理化学工業の会長や社長、働く社員、さらには、普段語られることの少ない障がい者のご家族へのインタビューを通して、「働く幸せ」を伝える。
 
ニュース番組の特集で知った本に興味を感じ、読んでみた。障碍者雇用に成功した会社は働く者に幸せを与える会社だった。
知的障害者の雇用が始まったのは先代大山会長の代だった。養護学校の先生の訪問を受け、障碍者の雇用を最初に頼まれたとき、「知的障碍者にできる仕事はない」と薄情な応対だった。3度目の訪問で先生の言葉に心が動き、2週間の期限で2人の障碍者を受け入れることになった。「就職先がないと、親元を離れ、一生施設で暮らすことになります。働くという経験のないまま、生涯を終えることになります。一度でもいいから、働くという経験をさせたいのです。」
2人は予想外に熱心に働き、健常者のサポ-トもあって、正規雇用されることになる。しかし、会長は「福祉施設にいた方が楽で幸せで守られている。労働は彼女たちにとって苦役だと思っていたので、彼女たちが仕事上のミスで叱責され、来なくていいと言われても、会社で働きたいと泣き出す姿を見て不思議だった。障害者を働かさせているという状況に後ろめたささえ感じていた」という。
その気持ちが大きく変わったのは、禅僧の言葉だった。「物や金をもらうことが人としての幸せではない。人に愛されること、褒められること、人の役に立つこと、人に必要とされること。施設や家庭では愛されることはできても後の三つの幸せは働くことで得られるのですよ。」
大山会長の挑戦はここから始まる。健常者の援助や指導があればこそ可能だった障害者の雇用。面倒を見るもの、見てもらうものの軋轢と不満が高まっていった。健常者と障碍者の忘年会を別々に行っていたこともあった。とりあえず、お世話手当なるものを支給して、不満を抑えることにしたが、主従関係を放置していたのでは、健常者にも障碍者にも幸せを感じてもらえないと感じ始める。
 
一番福祉行政が進んでいた美唄市に工場を建設しようと決めた大山会長は世界一の工場にしたいとアメリカの工場を視察することを思い立った。しかし、アメリカの工場は知的障碍者の雇用はなく、しかも公的な援助の下で成り立つ民間ではありえない工場だった。アメリカの真似では経営が成り立たないことを知った大山会長の独創的な改革がここから始まる。
障害者が理解できる仕事の段取りを緻密に考え実践していくことになる。駅からの道の信号機を守って通勤できることに着目して、色合わせによる作業の工夫を発端に障害者が第一線の労働者たる方法を確立し、最低賃金を払い続けることを可能にした。人の幸せのために投げたものがブ-メランのように自分の幸せとなって戻ってきているという。
 
大山康弘会長は「全ての国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」(憲法17条)を「皆働社会」と呼び、その実現を人生の目的とし、会社を実現させている。
「人間の幸せはものに不自由しない幸せと心が満たされる幸せ、その二つが必要なのです。」
 
2009年、大山会長は渋沢栄一賞を受賞した。その授賞理由がちょっとオカシイ。大山会長ものけぞったという。
「重度の知的障碍者を施設が請け負った場合、職員や医者の人件費を含めると40年間で一人に2億円かかるという。定年まで働くなど、40年間働いた人は5人に上り、10億円の税金を節約した貢献を認められた」と言う。???しかし、税金削減を目的に障害者を雇用することを奨励すると、ロクなことにはならないだろうと感じた。
 
真剣で妥協を許さない真摯な働く姿勢。そして笑顔。仕事が喜びというのは理想である。働くことは健常者にさえ苦役であると思える現代。知的障碍者の雇用で健常者にも幸せを実現させた日本理化学工業の功績は大きい。人と触れあうことで改革と変革は確実に拡がっていく。
障害者は就職してもその力を発揮することは難しく、雇用側にもスキルが必要であることを知った。健常者側の意識の変革がまず必要だろう。仕事をする者の笑顔に勝る功績はないことを感じさせてくれた本である。そして、実は私たち健常者の方が心に差別と言う「障がい」を持っていると言う気づきもあった。
人間には、役割はあっても、優劣などない。終身雇用の会社が当たり前だった1970年代の職場は和気あいあいとして、トラブルもあったけど、笑顔と安心に満たされた職場だった・・・・・。

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