新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:岩波書店]
 長野県臼田町…予防医学や巡回診療に数々の業績を残し,国際農村医学会の主催地ともなった佐久病院がそこにある.戦前の学生運動の挫折後,初心を忘れず農村に入り,敗戦後院長となった著者が,戦後民主主義を身をもって実践しつつ築き上げたこの病院の苦闘の歴史から,医療とは何か,人間の生き方の問題等多くの示唆が得られよう――.

 マルクス主義に傾倒したが,戦前の学生運動に挫折した若月俊一は,共産党の入党直前に転向.東京帝国大学分院外科に入局し,戦中は衛生部の一兵卒となった.労働災害の研究活動が治安維持法に抵触したとして,検挙された経験もある.産業組合の病院として発足して間もない佐久総合病院に赴任したのは,1945年のことである.
‘都会育ちの弁舌の徒であるインテリゲンチャが,ロマンチックな革命的情熱をふりまわして,がんこで古い因習にかたまっている農民の中に入っていく.だが,思いもかけない個人的事件や,恋愛や,そういったものが実践の中にはあとからあとからでてきて,-農民の意識を改革するどころか,かえって自分の身をほろぼすもとになるのである.実践とはしばしばそういうものだ’*1
 「農民とともに」というスローガンを掲げ,予防・健康増進活動から専門医療までを包括的に実践していくプライマリ・ヘルスケアの実践,また「農村医科大学構想」の活動を展開した.保健医療の需要と供給は,ともに医療提供体制の整う場に生じる.したがって,サービスの質を担保し,安全管理をインフラに組み込むことが必須となる.「囲炉裏」の火の不経済と呼吸器系疾患減少のための「改良かまど」の普及は,佐久地方の極寒を乗り切る暖房機能の弱体化という面もあった.

 農村の貧困と労働の過酷さに注目するだけでは,民衆の生活様式と一体化した医療改革は望めない.脊椎カリエスの外科手術,回虫の駆除,農器具による外傷の予防など,予防医学と先駆的な啓発活動の成果.高度経済成長期に発展した佐久発祥の農村医学は,今日ではどれほど有用性を保っているだろうか.
‘私ども農協厚生連病院は,かつての「組合病院」であり,今から半世紀近くも前, 昭和の初年,今日の農協の前身である産業組合の諸先輩による農村医療組合運動の中から自主的に設立されたものである.当時の無医村的環境と,高い医療費(当時はまだ国民健康保険ができていなかった)に苦しんでいた農民の窮状を打破すべく,農民自身が立上がってできたものである.かくて「組合病院」が全国的にでき,またそのような運動の中から今日の国民健康保険制度自身も誕生したという歴史的事実を忘れてはなるまい’*2
信州に上医あり―若月俊一と佐久病院 (岩波新書)
南木 佳士
岩波書店

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原題: 村で病気とたたかう
著者: 若月俊一

ISBN: 4004150132
  • 『村で病気とたたかう』若月俊一
    --岩波書店,1971, , 232p, 18cm
    (C) 1971 若月俊一

    *1 本書
    *2 本書




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