新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
―Ohne Hast, aber ohne Rast.
Augustrait



地に響き亘る 苦い慟哭


オペラ座の怪人 通常版


 ガストン・ルルー(Gaston Leroux;1868-1927)による同名の原作は世界各国で戯曲化され、世界中で最も親しまれている舞台の一つといってもいいだろう。
 今回の映画化にあたり、ジョエル・シューマカー(Joel Schumacher;1939- )は、アンドリュー・ロイド=ウェバーの舞台音楽を踏襲し、ミュージカルという手法を採用した。さらに怪人とクリスティーヌ、ラウルといった登場人物の官能性を如何なく表現するために、セクシーさを優先させて配役を決めたという。

 舞台に忠実でありたい願いと、観客にアピールしたい点を強調する姿勢は間違っているとは思わない。だが、驚くべきことにシューマカーはロイド=ウェバーに映画化の企画を持ちかけられた際、主要登場人物は全員若さと美しさ、セクシーさを備えていなければならない、と絶対条件を課した。次いで歌唱力を重視することにしたという。
 完成後は、怪人(ジェラルド・バトラー)とクリスティーヌ(エイミー・ロッサム)の官能性に大満足し、特に怪人のセクシーさと素晴らしいルックスを絶賛する。愛を拒絶され、苦悩する怪人に誰もが共感するはずだと監督は胸を張る。

 ちょっと待て、といいたい。ヒロインはともかく、怪人にそこまでの風貌をまとわせる必要があったのだろうか。シューマカーの言質をとるなら、怪人に性的魅力をそこまで要求するからには、性的魅力によって最大限に表現されるものを映画の中軸に置かねばならない。

 怪人は醜い顔を生まれながらに持ち、母にさえ疎まれながら、オペラ座に匿われて棲みついた歴史を持つ。人間全般への限りない不信と、華やかなオペラ座の地中深くにひっそりと潜む彼の宿命は、人間界に対する憧憬、妬み、絶望、怒り等の負の感情を一身に背負うことだ。それでも音楽の天使としてクリスティーヌに全存在を賭し、激しく求愛せずにはいられない。それは彼が怪人としての宿命を持つ以前に、人間としての宿命からは逃れられないからではないのか。

 その怪人の姿に、人は恐怖と気高さを感じ、自らの内面に重ね合わせることで彼に共感し、それが深い感動を呼ぶはずだ。
 だが、ひとたび怪人が二枚目を気取り、洗練された立ち居振る舞いをみせると、たちまち共感性は薄らいでゆく。なお頂けないことに、この映画ではオペラ・マスクに隠された部位を露にしても、怪人はスマートで甘いマスクの印象が抜けない。

 オペラ座に潜む怪人は、どれほど怒り、哀しみ、嘆いたとしても、「なんてセクシー」と観客がうっとりするようではいけないのである。それは怪人物ではない。かわいそうなハンサム青年が喚き散らしているだけである。
 怪人と同じように悲惨な境遇に置かれた実在の人物を描いた作品、デビッド・リンチ(David Lynch;1946- )の「エレファント・マン」に比べると、あれだけ特異な容貌を持ちながら、人間を愛そうと努力したエレファントマンの恨み言が聞こえてきそうである。

 シューマカーは、映画において美しさを最大限追求する姿勢を見せている。なるほどそれは美術や音楽において成功を収めている。だが見映えを重んじるあまり、色褪せてしまう美しさもあると知るべきだ。それは観る者の心の琴線に触れる機会を意図せずして、失わせることにも通じるのだから。

オペラ座の怪人 【サイレント】 [DVD] FRT-302
フジデン

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Title:THE PHANTOM OF THE OPERA
Director:Joel Schumacher
Cast:
 Gerard Butler
 Emmy Rossum
 Patrick Wilson
 Miranda Richardson
 Minnie Driver
▽140分 / アメリカ=イギリス / 2004年
(C) Odyssey Entertainment, Warner Bros. Pictures, Really Useful Films
Scion Films, Joel Schumacher Productions 2004




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