美しく温かい眼差し

素晴らしい映画とは何なのだろうか、と自然に自分へ問いかけたくなる、そんな映画である。
スウェーデンの「やかまし村」にはわずか3軒の家しかなく、村の子どもたち6人はいつも仲が良い。常に一緒に遊び、大人の手伝いをし、いたずらを叱られたりしながらも、村の大人たちの愛情に包まれて日々を送る。
美しい自然に囲まれたやかまし村には、のどかな時間が流れている。暴力や醜さが何ひとつ出てこない優しい場面の連続は、子どもたちのいきいきと輝く表情や、瑞々しく安心しきった態度を鮮やかに描き出す。
ハルストレム(Lasse Hallstrom;1946- )の確かな描写力には定評がある。登場人物の繊細な心の動きの機微、子どもが子どもであることを強く訴える感受性を見逃さず、場面に散りばめることのできる監督である。その慈しむような視線が一貫していなければ、これほど穏やかな空気を「やかまし村」に吹き込むことはできなかったに違いない。

(C) Svensk Filmindustri 1986
原作『やかまし村の子どもたち』は、スウェーデンの児童文学作家リンドグレーン(Astrid Lindgren;1907-2002)によって生み出された。彼女は1945年、『長靴下のピッピ』を著して評価されたが、その後も、子どもの視点を重視する作品を書き続けた。
リンドグレーンは作家であると同時に、子どもや動物といった弱者の権利の擁護者でもあった。いかなる理由であろうと、弱者に加えられる虐待には反対すると彼女は表明している。
「もし私が、たったひとりでも、だれかの憂鬱な子ども時代を輝かせることができたのだとしたら、私はそれで満足なの(2001.7.15朝日新聞日曜版)」

《アストリッド・リンドグレーン》
sl.wikipedia.org
リンドグレーンを偲び、優秀な児童文学へ注目を集めさせ奨励するという目的で、スウェーデン政府は2003年に「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を創設した。また同賞には、世界規模での子どもの権利を促進する目的もあるという。
対象はリンドグレーンの生前の信念に通ずる人物であり、かつ高い芸術性が認められる作品を発表した児童青少年文学者、挿絵画家、その他児童文学の貢献者に贈られる賞である。
子どもはいつまでも弱い子どもでいるわけではない。いつか自立し、自分の意思で歩き始めるだろう。しかし、そうなるまでには大人の支えが必要だろう。その限りにおいては、子どもを守り続けたいと、またそれが大人の務めであると2人の製作者が考えたのであれば、僭越ながら私も同じ考えということになる。
「やかまし村」はユートピアであることは疑いがない。話の筋も起伏もなく、淡々と村人の日常を綴るフィルムが映画と呼べるかどうかという問いに対しては、作り手の意識や視点を観る者に感じさせるのであれば、それは映画作品と呼べるのではないかと答えたい。その意味では、この映画は紛れもなく素晴らしい映画だった。

(C) Svensk Filmindustri 1986
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Title:ALLA VI BARN I BULLERBYN
Director:Lasse Hallström
Cast:
Anna Sahlin
Henrik Larsson
Linda Bergström
Crispin Dickson Wendenius
Ellen Demérus
▽90分 / スウェーデン / 1986年
(C) Svensk Filmindustri 1986
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