Augustrait
■「フォロウィング」クリストファー・ノーラン
「メメント」(2000)は、確かにリワインド・フィルムの傑作だった。しかし、鬼才クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)は、インディーズの長編デビュー作で、無比な倒置法のプレゼンスを見せていた。超低予算の頸木を逆手に取るような、モダンな香りとノワールの傑作性。これには、どこか同じ流れを汲むスティーブン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)が後に、ノーランと共作を買って出たことも頷ける。
作家志望のビルは、創作のヒントを得るために、行きがかりの人物の後を尾ける行為を繰り返していた。ある日、いつものように1人の若い男を尾行すると、その男コッブは、あっさりとビルの所行を見破った。しかし、コッブもまた、赤の他人の生活に異常な興味を抱いていた。彼は住居に不法侵入し、住人の秘密を垣間見ることで、興奮を得ていたのである。知的で合理的なコッブとその異常な趣味に、ビルは興味を持った…。
(C) Next Wave Films 1998
「メメント」の原点であるという、至極当然な感想はさておき、本作は、イギリスの知的階層の隙のなさと、容赦なさを存分に描いている。“フォロウィング”とは、「引き続いて起きる」「随行者」「崇拝者」――これらすべての意味を篭めたタイトルなのだろうが、コッブはスマートな物腰で、容認発音(received pronunciation)と呼ばれるクイーンズ・イングリッシュを話す。コッブの言語スキルは、イギリス国民の3%程度しか持ち合わせていない「特権」である。コッブの知性に魅せられ、小説の題材を絞り取ろうとしたビルは、あまりに大きな代償をわが身で払うことになる。社会的にも、知的にもエスタブリッシュメントには太刀打ちできないことを、コックニー・イングリッシュの使い手は思い知らされる。それを「社会勉強」と片付けるには、あまりにむごい仕打ちだ。
ノーランは、平日はビデオ制作会社の社員として勤務し、毎週土曜日にだけ、本作の撮影をじわじわと進めた。監督・脚本・制作・撮影・編集を一手に担い、長回しのテイクを編集で繋ぎ、作品を完成させた。長編デビューとなった本作は、70分という短い映画である。しかし、完成には20週以上を費やした。省略法を意識した作品性とは逆に、口コミで評判が拡大し、イギリスと北米を中心に、劇場公開を各国に拡めた。
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Title: FOLLOWING
Director: Christopher Nolan
Cast:
Jeremy Theobald
Alex Haw
Lucy Russell
John Nolan
Dick Bradsell
▽70分 / イギリス / 1998年
(C) Next Wave Films 1998