新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
― Ohne Hast, aber ohne Rast.
Augustrait




図書館の機能を問い直す


図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」


 本書は、週刊経済誌記者である著者が提起する「図書館利用のコツ」と「図書館のあり方」の実践的説明の書である。前半部は、資料そのものにアプローチする技法が主になり、後半部は全国に存在する図書館の特色と紹介、それに合わせた利用術が効果的に示される。生き馬の目を抜くような取材現場を渡り歩いているだけに、資料を探す行為から無駄を排除することにも重点を置いているのが特徴的だ。


§検索力と技術力
 人は何気なく目にし、耳にしていることでも、無意識的に情報を選択していることはよく知られる通りである。補聴器は生活音すべてを同等に拾い上げるために、利用者に精神的疲労をもたらす。騒々しいパーティーの場でも、自分に関係する話題であればいち早く察知することができる(カクテル・パーティー効果)。これらを、資料を探すときのわれわれに置き換えてみると、「あいまいに」図書棚を眺める、ということに尽きる。
 専門家が「ブラウジング」と呼ぶこの方法で、思わぬ資料に遭遇することもあるし、それが有益であることも少なくない。必ずしもキーワードが表題に含まれていなくとも、同ジャンルの棚を眺め、手に取ることで有意な情報に触れられるからである。ここにインターネットでのワード検索の限界がある。

 これに関連して、筆者が感心しきりに紹介するのが、国立情報学研究所のWebcat plusである。従来の単語の一致で検索するシステムとは異なり、単語の集合や自然文で検索することが可能で、単語の近接性から関連語をスコア化して検索できるのが画期的ということである。評者も、実際に調べたい事柄を自然文で検索してみたところ、確かにキーワードと直接的関係にない名称の関連文献が示された。ただし、その精度は入力する文章の内容にかなり影響を受けることも判明した。
 たとえば、図書館のことを調べようと”図書館を使い倒す!!ネットではできない資料探しの技とコツ”という一文で検索してみよう。すると、「図書館」「ネット」「資料」「技」「コツ」といった単語の近接性がサーチされるのだが、「ネット」&「技」+「コツ」の語がデータベースの中にキーワードとして多く存在し、「図書館」&「資料」のキーワード数を上回っている場合、ネット関連の解説書の説明文が高得点化され、検索結果の上位に表示されることになる。調べたいのは図書館のことなので、この結果は無駄である。
 知りたい情報に近い結果にアクセスしたいのなら、この場合「ネット」や「コツ」などの単語を除外し、図書館情報に接近しやすい単語を残して検索語とする必要がある。このように、文章の検索力といっても事前のスクリーニングは必要であり、その作業ができるのは人間しかいないのである。

http://www.watch.impress.co.jp
《Webcat plus》


§未来の図書館?
 筆者は、現存するデータベースの質・量ともに図書館以上のものはなく、書籍のデジタル化もその例外ではないとしている。
 <ネットが浸透して最新の情報はウェブなどで発表されるようになったと言っても、ストックされた情報がデジタルで流通されるまでには時間がかかるからだ。過去の情報があまねくデジタル化されることなど、ありえないだろう>*1

 けれども、アメリカの大学などでは書籍のデジタル化の取り組みに本腰を入れている。スタンフォード大、マサチューセッツ工科大(MIT)、テキサス大などがGoogleと提携し、デジタル化を進めている*2。たとえば、蔵書800万冊を超えるスタンフォード大の目標は、全書籍のデジタル化であるという。科学、科学技術、医学関係のジャーナルの75%がすでにデジタル化されているアメリカの現状からは、大学図書館を問わず、これからは社会科学や人文科学においてもデジタル化がなされていくと考えるのが自然である。

 ただし、手に取り、書き込み、栞を挟み、場所を選ばず好きなページを自在に開閉できる本の特性は、どのような時代であっても不変であると思う。2600年前に文字を記した粘土板の蓄積から始まった図書館は、「社会的記憶装置」としての意義が薄れることなく、その知の記憶・移転機能は連綿と続いていくことだろう。

図書館に訊け! (ちくま新書)
筑摩書房

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▽『図書館を使い倒す!!』千野信浩
-- 新潮社, 2005年
© Nobuhiro Chino 2005
*1 本書/p.4
*2 How to Digitize Eight Million Books参照




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