新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
―Ohne Hast, aber ohne Rast.
Augustrait






 何から何までチープな作りの本作は、製作費と収益率のギャップの大きさでギネスブックに認定されていた。記録を抜き去ったのは、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999)である。本作のキャストで眼を引くメル・ギブソン(Mel Gibson)は当時、演劇学校の一学生に過ぎず、オーディションの前日にバーで派手に殴り合いの喧嘩をやらかした。翌日に着ていく服は替えがなく、ぼろぼろの出で立ちで会場に現れた。それを逆に面白がったジョージ・ミラー(George Miller)が、尖ったギブソンをマックス役に起用することにした。今見返してみても、脚本に優れた点があるわけではなく、オーストラリアの田舎町と荒野が近未来に見えるわけでもない。音楽を担当したのは、クイーンのブライアン・メイ(Brian Harold May)かと思えば、同姓同名の別人。B級どころか、下手すればC級レベルの映画と評価されても仕方がない。ところが、思わぬヒットを生み出した。それはなぜなのか。

 近未来の治安は、徒党を組む暴走族に蹂躙されていた。政府は暴走族専門の特殊警察「M.F.P」を設立。黒皮の上下服を着込み、完全武装した警官マックスは、警官を殺害しパトカーを強奪したナイトライダーを追跡する。マックスをかわし切れなかったナイトライダーは、工事現場に突っ込んで爆死。彼の仲間と頭領トーカッターのグループ「アウトライダー」は、復讐のためマックスの同僚グースを血祭りにあげる。警官業を続けることの自信を喪失したマックスは、上司に辞表を提出して妻子と叔母の牧場へ向かう。しかし、そこでもアウトライダーの襲撃に遭い、最愛の息子をマックスは失った。元警官となった彼は、アウトライダーへの復讐を開始する…。


(C) Kennedy Miller Productions,Crossroads,Mad Max Films 1979

 マックスと暴走族の間に渦巻く暴力と復讐の連鎖を描いているが、テロリズム批判のメッセージはそれほど篭められていない。これは一つには時代の違いである。政治的な主張をこの手のアクション映画に織り交ぜること自体、まだ一般化されていなかった。次に、映画の「格」の問題がある。先述のように、大きな注目を集める映画ではそもそもなかった。低予算映画なのである。暴走族の面子は、演技経験のほぼ皆無な「ホンモノ」の走り屋だった。ボスのトーカッター役に至っては、バイクの免許すら持っておらず、撮影時には「初心者」だったのである。笑ってしまうような可愛らしい話だ。

 たった一つだけ、切り詰められた予算を大幅に割いた道具があった。マックスの乗車するV8インターセプター、トーカッターらが乗るカワサキZ-1000、ホンダ・CBなど、走行速度を凶器とするマシンとそれら車輌の改造である。1974年式フォードXB GTハードトップ クーペ5.8L 351ci V8 300hp GTの改造車の造形は、マニア垂涎の的となった。後に「マックス・ターン」と和製英語で呼ばれるようになった走行テクニック、後輪のパワースライドでアスファルトにドーナツ状の痕を残すことは一部で流行もした。目には目を、歯には歯を。それだけの復讐劇である脚本をあえていじらず、大道具に映画の生命線を賭けて奏功した。これも映画の魅せ方の一つなのだろう。撮影途中、過激なカーアクションのスタントに失敗した役者3人が重傷を負い、2人が死亡したという噂が流れた。しかし、元撮影スタッフのインタビューによれば、そのような事実はないという。


(C) Kennedy Miller Productions,Crossroads,Mad Max Films 1979

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原題: MAD MAX
監督: ジョージ・ミラー
製作: バイロン・ケネディ
脚本: ジェームズ・マッカウスランド ジョージ・ミラー
撮影: デヴィッド・エグビー
音楽: ブライアン・メイ
出演: メル・ギブソン ジョアンヌ・サミュエル スティーヴ・ビズレー ヒュー・キース・バーン ティム・バーンズ
□94分/オーストラリア/1979年
(C) Kennedy Miller Productions,Crossroads,Mad Max Films 1979




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