新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
― Ohne Hast, aber ohne Rast.
Augustrait





[提供:ギャガ=ヒューマックス]
 失敗作が続く映画監督,ヴィクター・タランスキー.新作の主演女優,ニコラが降板し,元妻でプロデューサーのエレインにクビを言い渡される.そんな彼に,死期を前にした謎の男ハンクが,希望通りの女優を作るコンピューター・ソフトを残す.半年後,タランスキーはCG女優“シモーヌ”を作り上げた.シモーヌの人気はたちまち膨らみ,マスコミはその素性に興味津々.タランスキーは必死でシモーヌの秘密を守ろうとするが,次第に,その人気を操作しきれなくなっていく….

 人間の営みの大部分も,いずれは人工物のメカトロニクスが代替することになる,という前衛的メッセージ.社会的には瀕死の映画監督ヴィクター/アル・パチーノ(Alfredo James “Al” Pacino)が,CGの人造女優“シモーヌ”に翻弄される滑稽さ.「虚都」ハリウッドが常に盲信と熱狂に飢えているから,そのような狂乱が起こるのだという寓話.生きた血肉と臓腑をもった人間に対しオルターナティブな存在シモーヌは,所詮二進法に支配された集合体.ところが一旦,彼女が世間に肯定され,好評を博するようになると,現実に世論を形成するほどの「実体」が与えられてしまう.

 幸いにも,シモーヌには「自我」に目覚め創造主に復讐をするほど精密なAIが搭載されていなかった.しかしシモーヌの社会的アイデンティティはひとり歩きをはじめ,管轄に限界を感じたヴィクターはシモーヌの抹殺を図る.有名女優「殺害」の容疑をかけられたヴィクターが,実はシモーヌが人権主体をもたぬ「非存在物」であったかを,今度は必死で社会へ説明する羽目に陥る皮肉.シモーヌの創造者であるITエンジニアはすでに他界しているが,その人物はヴィクターの短篇映画の崇拝者だった.精密に造型された「嘘」は,人間の創造性と共感性にインスパイアされた「成果」だったということだろう.その原則は,人間の感性を欺く技術がいかに発達しようとも,根底から覆されるものではない.巨大モニターの前で呆れ果て,右往左往するパチーノの力演が,その印象を強める.

 シモーヌの評価を貶めるため,彼女の主演映画「私は豚」での下品極まるキャラ作りでも,上映会ではスタンディング・オベーション.予想を裏切る一層の高評に,げっそりと憔悴するヴィクターがいい.本作製作時のCG水準は,現在と比較にならない.しかし,微笑みはオードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn),演技力はジョディ・フォスター(Jodie Foster),プロポーションはキャメロン・ディアス(Cameron Michelle Diaz),オーラはジュリア・ロバーツ(Julia Roberts).そんな女優は誰もイメージできるものではなく,その体現を視覚化しなければならなかった“シモーヌ”は,永遠の「不完全美」の申し子.シモーヌのモデリングにされたレイチェル・ロバーツ(Rachel Roberts)にとっての気の毒銭になっていなければよいが.

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・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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原題: S1M0NE
監督: アンドリュー・ニコル

製作: アンドリュー・ニコル
製作総指揮: ブラッドリー・クランプ マイケル・デ・ルカ リン・ハリス
脚本: アンドリュー・ニコル
撮影: エドワード・ラックマン デレク・グローヴァー
編集: ポール・ルベル
音楽: カーター・バーウェル サミュエル・バーバー
出演: アル・パチーノ レイチェル・ロバーツ   ウィノナ・ライダー  キャサリン・キーナー   エヴァン・レイチェル・ウッド
  • 117分/アメリカ/2002年
    (C) 2002 New Line Cinema




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