Augustrait




人間はどこまで動物か―新しい人間像のために (1961年) (岩波新書)









 進化論は,人間もまた動物であり,サルから進化したものであると説く.だが,人間とサルとの距離がどのくらいあるものなのかについては,必ずしも明らかではない.世界的な動物学者が,この問題を広範な比較研究によって説き明かし,さらに社会学,心理学,人類学の成果をとり入れて,新しい人間学を打ち立てようとした画期的著作――.

 座「発達心理学」を履修した学生は,必ずアドルフ・ポルトマン(Adolf Portmann)の著した本書を学ぶ.おそらく,導入しか触れることはなくとも,「人間は他の哺乳類と比べ,1年ほど早産である」という言葉だけは暗記させられるだろう.


 ポルトマンは,哺乳類と人間の行動比較から,人間の特殊性を指摘した.本書は,「生まれたての人間(新生児)」「生後第1年」「人間の存在様式」「子宮外の幼少期」「生後第1年以後の発育」「老衰」という章立てで構成される.動物から見れば異常な早産で生まれる人間は,それがこの種族には通常の「繁殖プロセス」であるという.


 人間の赤ん坊は,あまりにか弱すぎる.保護者の庇護になければ,生命は3日ともたないであろう.妊娠期間が21ヶ月ほどで,外界に送り出される新生児の発達は望ましいレベルに達する.しかし,11ヶ月早く生まれてくるわれわれは,ただちに強力な保護を必要とする.このことをポルトマンは「生理的早産」と呼んだ.


 動物と同じように,人間の発達も環境に規定されるという説を,哲学者と宗教学者は痛烈に批判した.ポルトマンは,それらに対して理念を訴える力強い「断章」として本書を著し,新しい人間学の夜明けに期待したのである.果たして,動物と人間の「距離」は,ゲノム解析とは違う次元でどう論じられるべきなのか.古くて新しいテーマが扱われた書である.



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Title: BIOLOGISCHE FRAGMENTE ZU EINER LEHRE VOM MENSCHEN

Author: Adolf Portmann

ISBN: 9784004161219

© 1961 岩波書店