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「原発危機の経済学」 齊藤 誠

原発関連の本を読むのは初めてです。原発関連の情報はテレビやネットから断続的には取っていました。

しかしすべての情報に確信を持てないままの自分がいるのも確かです。ネットでは誰それはトンデモ博士だ、御用学者だ。それを言っている人間も同じ事を言われていたり。誰の発言を信じていいものだか混乱してしまいます。確かに明らかにこの人はトンデモというか、科学者として、人間としてどうなのかというのをリアルタイムで目撃したこともあり、ますます不信になっています。

今こそ情報のリテラシーの必要性を痛感するときはありません。前述のようにネットでの発信、発言は自由であり個人の気持ちのままに流すところがあります。ですから長い時間を掛けて発言を追っかけ真偽を見極めなければならないでしょう。

それに比べて書籍は出版されるまで様々な経緯と人々を通り、校正編集されるのであまりに無責任な発言はできないでしょう(もちろん出版社等によっては無責任なところもありますが)。そんな幾ばくかの安心感と、書評で「原発関連の本の中では骨太な内容」と評されていたので読んでみました。

著者は社会科学者であり経済学者でもあります。その様な視点から原発の仕組みに始まり放射性廃棄物の処理、投資家の責任、収益プロジェクト、風評被害や子供たちの被曝リスクに対する考え方まで記されています。

とてもじゃないですがこのようなセンシティブな内容を、自分なんかが軽々しく要約できないので、気になったところを引用しながら紹介したいと思います。

まず第一章は原子炉の仕組みの解説です。このては嫌というほど震災直後はワイドショーなどで散々聞いたので、イメージしやすい部分でした。その中で

「液体金属の中で核分裂をするプルトニウムの挙動が正確には理解されていない」

「今、原子炉に注入されている水の量は、通常のうちの運転で冷却に必要な海水の38000分の1にすぎない」

「政府が耐用年数を40年から50年に延長を容認したため、東電は廃炉になるべきものの廃炉を躊躇させるような不自然な経営環境になってしまった」何故アメリカは老朽原子炉の延長に方針変更したのかが疑問に残ります。

「日本の原発のベントにはフィルターが無い」それも意思決定に影響を与えた

「原発危機のキーワードは古さ」

第三章は原発推進派と反原発の技術者による、対照的な立場ではあるが、原発技術に真正面から向き合っていたというところでは、それほどはなれていない距離を持った、優秀な技術者の熱く責任感のある言葉が重く響いてきて、逆にどれほど政府や東電が軽かったかが浮き彫りになります。

「核分裂による膨大な熱エネルギーなどの負荷は尋常ならざるものである」

「原子炉の老朽化は、時間経過と設計不備にある」

「原発技術は完全ではない」

「自然に真っ向から逆らったシステムの典型的な原発の安全への懸念の解消は、皮肉だが自然法則に十分に依拠したシステムなのか」

「科学者や技術者が多くの犠牲を伴いつつ必死で築いてきた、人類の知恵といってよい先端の原発技術が見殺しにされてしまう。日本の稚拙な政治と経営が人類の知恵を台無しにし、深刻な電力不足という負の遺産をもたらす」

「東電の株主が通常の投資物件と同じような眼差しを福島第一原発にも向けていなかったのも責任の一端がある」

「原発技術の採用に「割り切り」は必要だが、「それっきり」ではいけない」

「覚悟も準備もできていない経営者に対して、ノーを突きつけるのは政府ではなく投資家たちである。それが市場経済の掟である」

「原発の運転期間40年と考えると、現在12基がオーバーしている」

「民間でどうにかできること(軽水炉発電の維持)、民間で本来やるべきこと(損害賠償の支払)国家でないとやれないこと(フクシマ再生プロジェクト)、国家が電力会社とともにやらざるをえないこと(再処理・高速増殖炉からの撤退)は国家が担当する。」

「福島第一原発が立地する土地を何らかの形で再生する負担を、国家が引き受ければ、今般の原発危機で東電が被った損失のかなりの部分を東電のバランスシートから取り除くことが出来る。」

「原発について日本は、米仏をはじめとした利害を持つ国際社会から共同のパートナーとして受け入れられるのではなく、国際基準からみて原発の運営や管理が"特殊な"国として、見捨てられつつある。」

「再処理・高速増殖炉事業から撤退し、軽水炉発電事業だけにすれば、火力発電事業と大きく変わらないコストパフォーマンスを維持できる」

「人体に影響を及ぼさない」と言っていた政府が「安全基準を超えたから」と出荷制限をかけたことによって、論理的破綻が起こり、合理的な市民は「安全ではない」と判断した

「放射能汚染は人体に影響を及ぼさない」と繰り返し言うのではなく、◯◯程度の放射能汚染は、△△のような知恵を絞れば、あなたの行動に及ぼす悪影響を最小に留めることができる。しかし、それでも、あなたの手元には、☓☓のリスクが残る」と真摯に市民に語りかけるべきだろう

「子供たちに対する低放射線量被曝などの公共政策におけるリスクマネジメントの2つの判断基準
1.あるリスクを引き下げた時に、他のリスクを著しく高めることはないか
2.あるリスクを削減する措置の費用対効果が、他のリスクを削減する措置の費用対効果に比べて著しく劣っていないか
以上を鑑み、行政レベルの基準を子供たちに押し付ける必要はない」

「子供の被曝リスクに過敏になっているのは、子供たちが日常直面している数多くの、もっと差し迫ったリスクに対して常日頃から関心を払って来なかった大人たちのツケではないか」

読めば読むほど人類はとてつもないものを作ってしまったんだな、そして今もこれからも私たちはこの怪物と付き合っていかなければならないというのが現実。

最後に筆者が引用した芥川龍之介の関東大震災に寄せた文章はとても力強く、危機に向き合う勇気を与えてくれます。

「原発危機の経済学」 齊藤 誠

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